30位 ヴィンス・ステイプルズ『FM!』

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カルフォルニア出身のラッパーはこのカラッとしたコレクションで地元の荒涼とした部分に焦点を当てている。ヴィンス・ステイプルズはハードボイルドなものも多いが(“Don’t Get Chipped”で彼はギャングによる暴力を牽制している)、サウンドにおいては概ね青空が広がっている。『FM!』は最も暗い時代におけるサマー・アルバムである。レトロなタイトルとグリーン・デイの『ドゥーキー』を彷彿とさせるアートワークからも分かるように、ロサンゼルスを滑走中にカーステレオを爆音でかけ、アメリカン・ドリームの産物を冷静に品定めするようなアルバムだ。曲中や曲間に挟まれたスキットやラジオ広告を真似たサウンド、そして被害妄想的なリリック(「あいつが裏切り者だったんだ/警察の側についてやがった(“No Bleedin”)」)との組み合わせが、このアルバムにより一層の落ち着きのなさをもたらしている。

29位 トロイ・シヴァン『ブルーム』

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トロイ・シヴァンは、クィアとして大人になることについて吐露したこのセカンド・アルバムで、歌えるユーチューバーから正真正銘のポップスターへと変貌した。このアルバムには、セックス(シンセサイザーの荒波に乗ってボトミング(受けて)の歓びを称える好色なタイトルトラック)だって、向精神薬の1発目の吸引と同じくらいのエクスタシーをもたらす“My My My”だって、それから愛(アリアナ・グランデが参加した屋内用のダンサブルなトラック“Dance To This”)だって入っている。それでもなおこのアルバムで傑出しているのは、鋭い目で隅々まで観察されたように綴られる、彼の正直なリリックだ。飾り気のない“Seventeen”で歌われているのは、グラインダー(同性愛者向け出会い系アプリ)を通じて経験したアイデンティティの形成についてだ。トロイ・シヴァンはその中で、年上男性のベッドの上にコミュニティとしての逃げ場を見出している。ハエ取り紙のように耳を掴まれるゴージャスなフックもそうだし、彼が歌っているのが普遍的なテーマであることを考えれば、彼を何かに括ってしまうことは魅力を縮小させてしまうような気もしてしまうが(トロイ・シヴァンは以前、自身やイヤーズ&イヤーズのCDがCDショップの『ゲイ』コーナーに置かれているのを見て笑ってしまったことがあると『NME』のインタヴューで明かしている)、彼がZ世代の重要なアイコンであることに何ら疑いはないし、2018年という多様性が叫ばれる時代において、『ブルーム』が先頭に立って誰かの孤独を解消する旗手になっていることは間違いない。

28位 エズラ・ファーマン『トランスアンジェリック・エクソダス』

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きっと長い道のりがったことだろう。自分が天使であることに後ろめたさを感じながら、手術で翼を切り離して人間として生きようとするトランスエンジェルたちのコミュニティの人間にとって、主流から外れて「クィアとしてアウトローに生きることの物語」を歌ったこのオルタナティヴ・ポップのアルバムに、その苦労を記録することができるようになるまでには。シカゴ出身のオルタナティヴ・ポップの工作員による、様々なバンドとのキャリアを含めて通算8作目となる本作は、トランスエンジェルとなったエズラ・ファーマンのいわば「半分ノンフィクションの自伝」のようなアルバムであり、愛する者たちを闇の政府やナチスたちが迫害している中で生き延びるための逃避行が描かれている。実に美しい物語だ。

27位 ジョン・ホプキンス『シンギュラリティー』

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イギリスのプロデューサーであるジョン・ホプキンスは、本作に収録された10分に及ぶへヴィな大作“Everything Connected”について、なんとも「まさにテクノならではの曲」と称している(打ち付けられるような曲の中盤では、脳を溶かすようなサウンドに頭蓋骨を吸われそうになる)。けれど、静かに内省するような楽曲(アンビエントの“COSM”)や、身体を預けたくなるような喜びに満ちた楽曲(アルバムの終盤を飾る落ち着いた雰囲気の“Luminous Beings”)もあるし、様々な瞬間が閉じ込められている。反復されるや否や、本能を刺激するビートに訴えかける『シンギュラリティー』には、その名前とは裏腹に、沈み込みたくなるような何層にも重なったアイディアのサウンドスケープが広がっている。

26位 マット・マルチーズ『バッド・コンテスタント』

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バークシャー・シーンのドンは今年、新たなジャンルの誕生に一役買うことになった。トム・ミッシュやレックス・オレンジ・カウンティらに代表される、「シュマルツコア」と呼ばれるキャラメルのようにスムースなジャズ・ポップのことだ。ジェイミー・カラムがクールになったようなサウンドと言えば、分かってもらえるだろうか? 上出来のデビュー作となった本作で、マット・マルチーズは完璧に近いピアノ・ポップに、反射神経の高さをうかがわせるスマートな歌詞(「地球は平らだ思っている人たちよ/けど、もしそうなら、どうして僕には君のことが見えないんだい?(“Greatest Comedian”)」)と、所々に織り交ぜられたブギウギの洪水(“Guilty”のラスト30秒で流れるファンキーなピアノを聴いたピアニストのジュールズ・ホーランドは、悔しそうに自分のスタインウェイの鍵盤を叩いたという)を融合させている。“Bad Contestant”は、カミソリの刃に巻かれたシルクのように滑らかだ。

25位 トミー・キャッシュ『¥€$』

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エストニア出身のラッパーはこの過激なアルバムで、一風変わったヴィジュアル(“Little Molly”のミュージック・ビデオでは、少女の身体にトミー・キャッシュの顔を合わせた奇妙な映像を観ることができる)の他にも見るべきところがあることを証明した。ユーロダンスのビートや、PCミュージックが手掛けるチューインガムのようなプロダクションに、MCビン・ラディンというラッパーも参加している。これは決して緻密なアルバムではないが、そもそもトミー・キャッシュは緻密な男ではない。パーカッションや気怠いベースが入った“Horse B4 Porche”はアルバムの(比較的)ソフトな側面を示していると言えるが、アルバムを象徴していると言える楽曲の“Brazil”は、その矢継ぎ早な重いリズムでより大きな賭けに出ている。“Cool 3D World”で「俺はいつだってマスターベーションしてるんだ」とラップするトミー・キャッシュだが、快感を味わっているのはむしろ私たちだ。

24位 ヤング・ファーザーズ『ココア・シュガー』

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メインストリームで受け入れられようとバンドが奮闘する時、その次はエッジの効いた実験的なサウンドを持ってくるのは通例であろうが、エディンバラ出身の3ピースにとって『ココア・シュガー』は大胆な方向転換となった。彼らにとってこれまでで最も包括的で親しみやすい作品となった本作は、様々な要素が並列に並べられたようなアルバムであり、“Lord”はそれを最も表していると言える。ピアノのアルペジオと、伝染するようなゴスペルのハーモニーに気分を高揚させられながらも、へヴィなシンセサイザーとバックに流れるドローンの音によって不吉な心地にさせられるという構造によって、落ち着きと無秩序を同時にもたらしてくれる。過去と現在の間に挟まれてしまったかのようなこの二項対立は、アルバムを通して感じられる。彼らの昔の作品のファンが聴いても、味のあるエレクトロニカからダイナミックなスポークン・ワードに至るまで、実験的な要素や革新的な要素は今でも至るところで健在だ。“See How”や“Border Girl”で感じられるような、バンドの過去と今のサウンドが混じり合って見事なハーモニーが奏でられた時にこそ、このアルバムは本領を発揮する。

23位 ソフィー『オイル・オブ・エヴリ・パールズ・アン・インサイズ』

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記憶にある限り、登場してすぐにソフィーほどの文化的インパクトを与えたプロデューサーはごくわずかだろう。メインストリームへの侵攻をミッションに掲げる、サウス・ロンドンの変わり者集団であるPCミュージックの一員として活動していたソフィーは、チャーリーXCXからマドンナ(ソフィーはあの清々しいまでに不条理な“Bitch I’m Madonna”を共作している)に至るまで、ありとあらゆる人々の作品を手掛けている。“It’s OK to Cry”のミュージック・ビデオで初めてカメラの前に姿を見せた、多才な才能の持ち主であるソフィーは今年、自身もアーティストとしての道を歩み始めることとなった。アルバムを通じて、初期の作品にあったような「一体何が何だか分からない」奇妙なソフィーの音世界を相変わらず感じさせる『オイル・オブ・エヴリ・パールズ・アン・インサイズ』は、ポップ・ミュージックとは何かを問う人智を超えた壮絶な問いかけである。

22位 デフヘヴン『オーディナリー・コラプト・ヒューマン・ラヴ』

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通算4作目となる本作で、カリフォルニアのメタル・バンドであるデフヘヴンはこれまでにないメロディーを作り上げている。プロムの会場で流しても場違いにならない、初めてのメタル・アルバムであることは間違いない。“Canary Yellow”と“Honeycomb”さえあれば、メタルがそのような決定的な場所にも適した音楽であることは証明できるだろう。ブリットポップの紋様を纏い、クラシックとも交錯し、ポスト・ロックの炸裂へと進んで行く広大で呆然となるほどの旅路が、ジョージ・クラークの妖精のようなヴォーカルに包み込まれている『オーディナリー・コラプト・ヒューマン・ラヴ』は、2018年における最も美しく清涼な作品の一枚だ。

21位 アリアナ・グランデ『スウィートナー』

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マンチェスター・アリーナ公演を襲った自爆テロ事件後に見せた慈悲深く堂々とした振る舞いによって、アリアナ・グランデはここイギリスにおいて神格化されることとなった。“No Tears Left To Cry”などの楽曲に込められた意味を否応にも考えてしまうが、テロ事件から15ヶ月後にリリースされた『スウィートナー』は、闇から抜け出すことの歓喜をそのサウンドで啓示してくれるようなアルバムだ。ファレル・ウィリアムスやマックス・マーティンの力を借り、ミレニアム世代のマライア・キャリーとも称されるその甘美なヴォーカルをトラップのビートや90年代のR&Bと融合させた本作は、ニッキー・ミナージュが参加した“The Light Is Coming”(オバマケアに抗議する右派の声がサンプリングされている)などの寄り道を挟みながら、自身のメンタルヘルスと向き合った最後の“Get Well Soon”で見事に結実している。『スウィートナー』から3ヶ月後、アリアナ・グランデは前向きな失恋ソング“Thank U, Next”をリリースして、移り気の早いポップ・ミュージックへの本能的な反応の早さを改めて示している。実に激動だった1年(元恋人のマック・ミラーの死、ピート・デヴィッドソンとの婚約破棄、PTSDとの闘い)を経験したアリアナ・グランデというポップのヒロインは「いつも通りやるだけよ」と高らかに宣言してみせた。

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