今回、今年4月にリリースされたリナ・サワヤマのデビュー・アルバム『サワヤマ』に収録の“Bad Friend”をSEKAI NO OWARIことエンド・オブ・ザ・ワールドがリミックスするというコラボレーションが実現した。5歳でロンドンに渡り、以降はブリティッシュ・ジャパニーズとして活動してきたリナ・サワヤマと2013年以降、海外展開を積極的に行ってきたエンド・オブ・ザ・ワールドとのコラボレーションは共に日本国籍を持ちながらグローバルな視点でポップ・ミュージックを発信している両者によるコラボレーションとなった。日本人というアイデンティティを持ちながら世界的マーケットで活動することについてどんなことを考えているのか、国内外に向けてエンド・オブ・ザ・ワールドとして活動するNakajinとリナ・サワヤマに対談形式で語ってもらった。
――まず今回のリミックスが実現することになった経緯を教えてもらうことはできますか?
Nakajin「リナの音楽との出会いは去年行われた『VOGUE JAPAN』のアニバーサリー・イベントで、(あの時に)初めてリナのパフォーマンスを見たんだ。すごく良かったよ。頭にすごく残っていて、それでリナ君と何らかの形ですぐにでも仕事したいと思って、彼女の事務所にリミックスのオファーをしてみようかと言う話になった。新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた時期と重なり、時間を持て余していたということで、リミックスを手掛けたいと思っていたところだったんだよね。そうしたらリナ側からも僕らと仕事したいという返事が来て。それが今回の経緯ですね」
Rina「(『VOGUE JAPAN』のイベントは)スケジュールが大変で、ほぼ日帰りで日本に行ったようなものだった。12,13時間ぐらいかけて東京に到着してすぐにトンボ帰り。(イギリスに)帰国した日が最新アルバムからのファースト・シングル“STFU!”の発売日だったから、ありえない忙しさだった。スケジュールがハードすぎるということで実現しない可能性もあったんだけど、行ったから観てもらえたわけだし、本当によかった! 実はエンド・オブ・ザ・ワールドのパフォーマンスを初めて観たのはもう何年も前になる。なぜなら母が……今は帰国しているけれどイギリス在住の頃、お正月元旦は録画しているから紅白を必ず観ないといけないという母の決まりがあって。それが我が家の習慣だった。その時に観て、何これ?と思って!。ヴィジュアル的にはスチームパンクというかサーカス風のスチームパンクというか。日本のアーティストからこういうのが出てくるのってすごく久しぶりな感じがしてかっこよかった。ワンダーランド的な雰囲気があってそれがすごく気に入った」
――元々、新作の中では“Chosen Family”という曲をNakajinさんは気に入っていたんですよね?
Nakajin「ああ、そうですね。アルバムは本当に全体的に好きで。僕が青春時代に好きだったものとすごくリンクして、でも、すごく洗練されたモダンポップスのアルバムとして素晴らしくてすごいワクワクしました。時々すごく日本的なものが入っていて、エレベーターの音のサンプリングやラジオ風に日本語で喋っているものだったり、“Akasaka Sad”とか、東京の地名が出てきたりする。日本人としての要素がすごくクールに散りばめられていて、日本のアイデンティティを使っているというのがすごく嬉しくなりました」
Rina「嬉しい。ありがとう。私は5歳の時に日本からロンドンに引っ越してそのままロンドンにずっと残ったんです。なぜかというと、元々は5年の滞在のはずがその後も私は残るべきだと両親が決断したから。最初の5年間は日本人学校に通っていたので私の全世界は日本一色だった。日本の教科書とかお弁当とか全部日本のもの、音楽もJ-POPだった。姉がいるんだけど、椎名林檎とか宇多田ヒカルを聴いていたので(その頃の)ちょっと大人っぽい系統の音楽の好みは彼女からの影響なんだよね。ほんと宇多田ヒカルが存在しなければ私はミュージシャンにならなかった。だって彼女の“Automatic”のビデオを見て音楽をやりたいって思うようになったわけだから」
Nakajin「そのへんは僕らと変わらないね。宇多田ヒカルさんが出てきたときは自分たちも中学生くらいで、若いのに自分で作詞作曲からプロデュースからやってるのが信じられないぐらいすごいなって思いました」
――今回のリミックスに対しての手応えをNakajinさん、リナ・サワヤマさんの順番で聞かせていただけますか?
Nakajin「“Bad Friend”は結構各セクションによってメロディーが雰囲気の違うグルーヴを持っていると思っていて。最初のヴァースでは三連っぽい感じがあったりとか、コーラスでは8分のグルーヴがあって、それをすごく強調できたリミックスに出来たらすごくいいなと思ってました。そういう変わった曲で、コーラスの部分はオリジナルだとヴォーカルとヴォコーダーだけになるセクションで、そこにどういうグルーヴを当てるかっていうのがすごく迷ったというか。それで、今の形が決まった時はすごく気に入って、ガッツポーズが出ました」
Rina「素晴らしかった。本当に一番気に入っている……というのは確か他にも2バージョンあるんだっけな? “Bad Friend”をリミックスしたいと言うオファーは他にもあったけど、あなたたちのリミックスが一番好き。最高の出来だと思う。曲で伝えたいことをちゃんと理解してくれていたし、三連とか私がまったく意識してないことまで気付くところがすごい。自分がもう少し音楽理論的になれたらと思うけど、あなたがちゃんと気づいてくれたことが嬉しいし、ありがとう」
Nakajin「ああ、嬉しい。僕もすごく楽しかった。楽しく作業をさせてもらいました」
――リナさん、この曲のストーリーについて改めて説明してもらってもいいですか?
Rina「もちろん。この曲は日本旅行がインスピレーションの源になってるんです。親友を含めた友達6人と大学の卒業旅行で東京に行こうってなって。そしてその旅行でその親友と仲違いしちゃって。旅行中のケンカが原因で友情を失ってしまったんです。中学から高校にかけてずっと親友だったのに。そういった内容の曲。ちょっとわかりにくいかもしれないけれど、恋愛関係の外部的背景として友情や友達を曲に入れるのが好きだということに自分で気づいたんです。スパイスガールズの『If you wanna be my lover, you gotta get with my friends(私の恋人になりたければ友達と仲良くしてもらわないとね)』的な、とにかく友達がいい、みたいな曲。純粋に友情についての曲を求めていた。健全で気持ちがあたたかくなるような良質な曲が好き。最初のヴァースでどういう背景で何が起きているのかストーリーをしっかりと打ち出したかったから東京が出てくるし、コーラスではジェットコースターが落下するときのようなヴァイブになっている。でも、純粋に自分が友達失格だと痛感したので、その想いをダイレクトに曲にしたかった」
――ここからは日本人としてのアイデンティティに関することもうかがわせてもらえますか。
Rina「私にとって日本人が海外で活躍している姿はすごく意味深いことなんです。それは日本人にとって重要なことというより、欧米のマスコミはK-POP以外はアジア人のポップスをほとんど取り上げない。だから私自身、すごく責任を負っているというか。私の家族は日本に住んでいるし、自分が日本人だということをすごく意識しているし、責任も感じる。一方で(イギリス人のアーティストでも)アメリカで25年暮らして、アルバムもレーベルもアメリカで、スタッフもすべてアメリカ人と言うアーティストも存在する中、そういう人より自分の方がよっぽどブリティッシュだと感じることもあります。彼らと私の違いが何かといえばパスポートということになる。日本国籍の私が持っているビザというのは非常に特殊で、市民権の一歩手前のようなものなんだけど、どちらかと言えば二重国籍を持てない人のためのような措置なんです。日本では、あまり知れ渡っていない事実かも知れないし、市民権やパスポート、ブレグジット等の話もあまり馴染みがないかもしけど、日本は二重国籍を認めていない。多くの国では二重国籍を認めているけれど、日本は国籍に非常に厳しい。この制度を変えるべく、過去には日本政府を相手に多くの民事訴訟が起こされてきたけれど、状況は変わっていない。そういうことに対して、議論を投げかけたいという想いは常にあります。ブレグジットのせいで二重国籍問題がこれまで以上に影響を受ける国が増えてきた。例えばドイツ。ドイツ人の友人は最近イギリス人(の伴侶)との間に子供が生まれたんです。でも、ブレグジットのせいでイギリスはEUを離脱したから、その子どもは18才になったら、ドイツ人になるのかイギリス人/ブリティッシュになることを選ぶのか決めなければならない。だから、これは日本や他のアジア諸国だけの問題ではなくなっている。今現在は日本、シンガポール、ネパールと中国がこの問題を抱えているけれど、今後はより多くの国が影響を受けるはず。なので(現状との)ズレを指摘したいんです」
Nakajin「一つ、リナに聴いてみたいなと思うことがあるんですけど、ある記事を見ていて『イギリス由来の』という考え方がすごくネガティヴになってきていて、ここ5~6年でそれがすごく狭くなっていると言っているのを見たのですが、それって具体的にどういうところで感じるてのかな?」
Rina「世界全体的にそうなっている気がする。あっち側とこっち側に分かれてしまって中間地点がほぼない。アメリカ同様、イギリスもそのようになってきていて、私のコミュニティからはすごい応援をしてもらっているけれど、それはこちら側の政治的見解の人たちだからであり、けれど今現在は世界的に極端なナショナリズムが横行していることは無視できない。私が言いたかったのは……というか、ブレグジットが決まった時は本当に打ちのめされた。その時、私はビザの関係で投票することはできなかった。EUに関する重大な国民投票なのに投票できなかったんです。ケンブリッジ大学で政治学を学んでいたのにもかかわらず投票はできない。世の中で何が起きているかちゃんと認識していたいけれど参加はできないわけ。私にとってはイギリス由来、ブリティッシュネスの概念が変わってしまうことになった。2012年、オリンピックの頃はダイバーシティを大々的に打ち出し、そのことによってロンドンに素晴らしい変化が訪れたけど、その後はブレグジットの問題に突入して私が称賛するブリティッシュらしさというものが確実に変わってしまった。ブリティッシュであることとイングリッシュであることはまったく違う。私は自分をイングリッシュとは思っていない。白人のイングランド人やウェールズ人、スコットランド人、自分がそこに属しているとは思わない。でも、多くの移民はブリティッシュであることには共感できて、私も『ブリティッシュ』と言う言葉を好んで使う。自分の事をジャパニーズ・ブリティッシュ、もしくはブリティッシュ・ジャパニーズと呼んでいる。ロンドンで育ち、ロンドンをこよなく愛し、そしてロンドンはブリティッシュだと信じていたけれど……でも実際には違う。イギリスはとても広いし、ロンドンは本当に多様性に満ちている。ロンドンに来たことはある?」
Nakajin「あるよ。最後は今年2月だった」
Rina「そう、だから本当に多様性に満ちていて、いろんな文化や主教、様々な人種がいるという、それこそ私の愛するブリティッシュらしさなんだけど、それは対極にいる人たちが思うブリティッシュらしさとは完全にかけ離れている。こういうことに焦点を当てて、人々に影響を与えられる人間であることが大切だと思う」
――エンド・オブ・ザ・ワールドはクリーン・バンディットやガブリエル・アプリンとのコラボレーションを行うなど、世界展開に積極的ですが、2013年から取り組んできて日本人アーティストの海外進出についてどのような実感を持っていますか?
Nakajin「そうですね。日本人同士でコラボレーションする時って、全部マネージャーを介してやることが多いんですけど、海外ではコラボレーションが多くてプロデューサーやソングライターとやる時にアーティスト本人が直接アーティストと話して進めちゃうってことが大事だなって思いました。まあ、今はネットで何でもつながる時代ですけれども、僕らはベースが東京にある分物理的には離れていて、その分直接やりとりすることが気持ちが伝わることだし、直接アーティストがはたらきかけるってことがすごく大事だなと思います。クリーン・バンディットの時も元々ファンで一緒に出来たらいいなと思っていましたけど、マネージャーを介して繋がって、彼らが東京でライヴをやった時に一緒にごはんに行くことができたんですよ。その後、クラブに行ったりとかして、まずはフレンドシップを固めて、そこからスタジオに一緒に入ろうって話になって。そこから帰っちゃったら、その日に作ったデモは一旦放置になっちゃったんですけど、まあなんとか形にしたかったし、一緒にやれることはすごく夢見ていたので、その後も積極的に『会おうよ』とか、彼らが新しいリリースをしたらリアクションするとか、そういうことをすごく積極的に直接やることがすごく大事だなということは実感しました」
Rina「日本では結構違うの? やっぱりマネージメントとか事務所を通してやる感じ?」
Nakajin「うん、やっぱりそう。お互いにすごく気を使って、マネージャーを通して言った方がいいですか?とかって日本人はすごく気にするから、相手を過剰に大切にしちゃうというか、だからコラボレーションみたいなものってやりにくいかもしれないよ。日本人はね」
――BTSやBLACKPINKといった韓国勢の世界的な成功はそれぞれどう見ていますか?
Rina「すごく良いことだと思う。彼らが成功している姿を欧米の人が見れば、次に出てくる同じようなルックスの人たちも成功できる訳でしょ。BTS以前は(欧米の)ポップス界ではアジア系、つまり東アジア系は一人も存在しなかった。だから。彼らの成功によって東アジアの音楽は確実に受け皿があるし、利益も出るということで(欧米の)一般の人々や業界人の視野が広がることになる。いろんなレーベルと話をしてた初期の頃を思い出す。私がやりたいのは英語の楽曲で幅広い音楽作りに取り組みたいということを理解してもらえず、すごく苦労した。でも、自分たちの曲でちゃんと勝負しているBTSとBLACKPINKの出現によって、しかも彼らの曲はほとんど韓国語で歌っているにもかかわらずしっかりヒットを飛ばしている。それが認知されることは本当に、本当に重要。バカみたいに単純な話だけれど、『なるほど、あぁいうルックス(アジア人)のあの人たちは認知できた。だから、次に彼らみたいな人たちが出てきたとしても驚きはしない』というレベルなんです。でもそれって心理的にはすごく大事なこと。BTSとは会ったことがあるし、ナムジュン(RM)にも会ったことがあるけれど、彼は本当にステキな人だった。みんな働き者で熱心。15,000人キャパのO2を数時間だったかな、そんなにもかからなかったかもしれないけれど、完全に売り切ったし、来年は90000人キャパの会場でライヴをするみたい。驚愕ものですよね。でも、西洋人にしてみれば、ああいう顔、東アジアの顔の人が成功しているのは非常に象徴的でとても重要なことだから嬉しく思う」
Nakajin「グローバルな活動の為に英語曲を書いたり、必要だと思って英語曲を作っている僕たちにとってはBTSが韓国語のアルバムで1位を取ったりしたことは驚いたというか、ちょっと嫉妬心もあるぐらい(笑)驚いちゃったんですけど。でも、多くの人が言うようにすごくSNSの使い方が上手くて、ファンと密なコミュニケーションを取っていてファンの熱量を物凄く高めているということはすごくあると思います。ちろん、それだけではここまでのヒットにはならなかったと思っていて、楽曲は結構韓国語でありながらすごく……洋楽というかウエスタン・ポップスと並んでプレイリストに入っていても全然馴染む曲だし。一つには韓国語ってすごく英語と発音が似ているって話があって、結構ラップのフローも韓国語と英語って結構近いものがあって日本語とはやっぱりまったく違う。というのも一つあると思います。韓国語もちゃんと受け止められる。でも、プロダクションをすごく一流の物を作ってるなって感じますし、ヴィジュアルとかパフォーマンスとかメンバー個々の努力、シンクロのダンスとか見るとやっぱりすごいなって思いますし、BTSだけが持つ武器だなって思いますね」
Rina「そうだよね、彼らの音楽の多くは結構ウエスタンだよね。BTSに曲提供している人の多くも……例えばチャーリーXCXが手がけた曲もあるし、アメリカのメジャーなプロデューサーの多くもBTSに曲提供しているからそういうサウンドになるのよね」
Nakajin「ちゃんとトレンドもすごく掴んでるし、ちゃんと流行っているものというか、アメリカ人とかイギリス人の心をちゃんと掴むような楽曲で、しかもみんなが好きと言いやすいようなタイプの楽曲が多い気がしますね」
――リナさんはダーティ・ヒットに、エンド・オブ・ザ・ワールドはインサニティ・レコーズに所属していますが、それぞれ所属レーベルから刺激を受けることはありますか?
Rina「29歳の時に初めてアルバム契約をしたんだけど、その前はインディペンダントでやっていて資金も全部自分でやりくりしていた。一生懸命働いて貯金したりとかね。(以前の作品は)そんなに悪くないとは思うけれど、低予算感は否めないのもわかる。なぜそうなったかというとあまりにも若く契約した女性ポップ・シンガーのひどい例をたくさん聞きすぎてきたんだと思う。自分のアーティスト性を正しく理解する前に契約しちゃって、レーベルもどうしたらいいのか持て余し、お互いに妥協できずに結局契約破棄になっちゃったりとか。子供の頃からそういう話をよく聞いていたので、慎重になっていました。このアルバムが7割方完成した段階でいろんなレーベルに聴いてもらったけど私がやりたいことを完全に理解してくれて、何一つ変更しなくて良いと言ってくれたのはダーティー・ヒットのみだった。『音のクオリティを高めるために資金を渡したい。こういうドラマーもいるよ』とだけ言ってくれたんです。というのも、その時点では生楽器を一切使ってなかったから。ドラムもピアノも生楽器は一切なし。ストリングスもなし。唯一使っていたのはエレキ・ギター。アコースティック・ギターですらサンプリング等を使っていたから。それまではすべてラップトップで作業をしていた。彼らのおかげで“Dynasty”を完成させることができた。ザ・1975のアダム(・ハン)が数曲でギターを入れてくれて、想像もしなかったような素晴らしいミュージシャンの集いのような作品になったのよ。私らしく自由にやらせてくれる。だから、インディペンデント時代は大変だったけれど、頑張って29歳までレーベル契約を待ってよかったと心から思っている。資金稼ぎのためにモデル業もやって本当に大変だったけれど、頑張ってよかった」
Nakajin「僕らもインサニティと会うまでは結構長い道のりがあったんですけど、インサニティと出会ってすごくいいなと思ったのは、僕らはベースが東京にある訳ですけど、やっぱイギリスにちゃんと僕らのチームがあるってことがまず一つ安心感というか嬉しいことで。僕らがイギリスに行ったときにちゃんとやりとりができる。初めてインサニティと会った時はものすごくあたたかく迎えてくれましたし、やっぱ現地のスタッフ、チームがあるってことはすごく意見も貴重だし、日本以外のことを知るチームから聞く意見てすごく貴重に思っています。この間出した“Over”というシングルの時も今年イギリスに行ってスタジオに入って作業したんですけど、レーベルから結構テンポをいくつにする?とかドラム・パターンをどうする?とか制作的な細かいやりとりもすることが出来て、そういうところでもちゃんとこう僕らが思い描くものっていうのに対してちゃんと意見を言ってくれるというのはすごく嬉しく思います。違うなと思ったらちゃんとノーを言ってくれるチームと言うのはすごくありがたいなと思いますね」
Rina「絶対にそう。なんかアーティスト育成みたいな感じだよね。ちゃんと育成してほしいし、世界の大スターたちはみんな素晴らしいチームに囲まれてるもの。さっきの話はA&Rのことだよね? 有能なA&R、そういう人材は不可欠よ。アーティストの性質と可能性を完全に把握して、適切なアドバイスして、アーティスト性を伸ばしてくれる。それはすごく技量が求められることだし、私は自分のA&Rが大好き。クリスって言うんですけど。この場を借りてクリスに感謝したい。大好きなんです。優秀だし、不可欠。そう言う時こそレーベルが力を発揮できる。キャリアの初期はインディペンデントで活動して、そこから自分の好みやビジュアルが見えてくる。でも、チームがいて後押ししてくれるのはすごくいい」
Nakajin「そう、なんかちゃんと意見を言ってくれるというか。やっぱ僕らが本当にやりたいことをやらせてくれるよというのではちゃんとやっぱ人に届いていて、音楽はなんぼだと思う」
――2020年は新型コロナウイルスの年になりました。このウイルスが示した最大の教訓は何だと思いますか?
Rina「私にとっての最大の教訓は「あるがままに受け入れる」ということね。なぜなら、私にとってライヴの醍醐味はツアーに出ること。ライヴ・パフォーマンスが大好きだというミュージシャンは多いし、広くは音楽業界の人たちもこの業界に入るきっかけになったのはライヴを観たり、フェスに行くのが好きだからという人は多いと思うし、でも今はそれが叶わない。私のアメリカツアーは来年の11月に延期されたし、今年はいろんなフェスに参加するつもりだった。ファースト・アルバムが発売された年と言うことで、本来なら今年は盛大に盛り上げていくつもりだった。どれも叶わなかったけれど、そのことでイラついたり悲しくなったりするよりは、もちろん少しはそういう気持ちになったけれど、あるがままに受け入れ、立ち止まっていることも受け入れ、急にできてしまった時間をどのように使うかについて考えた。本をたくさん読んだし、今はこっちのロックダウンも若干緩和されてきたので撮影も可能になってきたから、ライヴ・パフォーマンス撮影とかを始めようとしたり。だからありのままを受け入れる、そして立ち止まっていることも受け入れる、それが私にとって主な課題だった。と同時に日本でどの程度重視されているかわからないけれど、ブラック・ライヴズ・マター運動はこのロックダウン中に起きた大きな出来事だった。私も陰ながらいろいろと動いて、自分の立場を使って認知を広める活動ができないか模索していた」
Nakajin「僕一つ象徴的な話として学生の話なんですけど、学校の授業がオンラインになったりしてるじゃないですか。それでこう生徒たちも、いろんな生徒がいて、不登校だった生徒が逆に元気になって、クラスで人気者だった人が逆に鬱になったりとか、そういう話を聞いたことがあるんですけど、すごく象徴的だなと思ったんです。企業とかも多くは大打撃を受けたと思うんですけど、衛生関係とかテレワークとかネットショップとかすごく盛り上がった分野もあったと思います。こういう不測の事態で急に変わった環境で価値観ってすごく簡単に変わっちゃうんだなっていうのを思いました。しかも、全世界の人が同時で味わったわけじゃないですか。例えば東日本大震災という大きな震災が日本で起きましたけど、それぐらいの衝撃が全世界で起こったような感じというのはいまだなかったんじゃないかなって思います。同時にこうやって環境がすごく変わって、生活が変わってテクノロジーがすごく普及した。普及が加速して未来が一足先にやってきたという感じもあるんですけど、逆に失われてしまったものがすごく言われていますけれど、その中で変わらない価値と言うか、ずっと価値があるなと気づくこともできたなって思います。その最たるものは音楽のコンサートで。すごい、一番わかりやすいところだとも思うんですけど、やっぱりコロナ禍ですごいたくさんのアーティストがオンラインライブみたいなものをやっているんですけど、やっぱり生の音楽体験、同じ大きい会場にアーティストがいて、たくさんの同じファンがいてそこで大きい音を鳴らして一つになる、みたいな体験というのは代わりになるものがなかなかないんじゃないかなと思いましたね」
Rina「それにまったく同感。例えば仕事とかビジネス面で言ったら能率的と思われていたことで実は不必要なものがある。例えば仕事場への通勤が嫌いでそれがストレスだという人は多い。通勤ラッシュの電車が耐えられないとかね。でも、イギリスの友達では早く出勤したいと切望している人たちもいる。家からのリモートワークを始めたら、それが気に入ってしまった人たちもいる。そういうことにみんなが気づき始めたことにワクワクしている。つまり働き方や生き方に関して全員を総括的な規則に当てはめる必要がないということに。リモートワークとか勤務時間は柔軟に構えたいとかね。ライヴ・コンサートに関してはまったく同感。ライヴって(お客さんとの)繋がりを強く感じるじゃない? ファンとの間に感じるその繋がりってすごく重要で、人間と人間との繋がりというか。だから今は祈って、この時間を使ってみんなを楽しませられる音楽作りに専念する」
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