10位 アラニス・モリセット(7/29 GREEN STAGE)

開演時間になると、熟練のバンド・メンバーが出てくるのと共にスクリーンには1995年発表のアルバム『ジャグド・リトル・ピル』が世界で一大現象を巻き起こしていった様子が映し出される。あのアルバムの曲がどれだけカヴァーされてきたかも見せて、曲も先に聴かせてしまう。昨今のネタバレという観点でいくならば、これ以上ないくらいなのだが、それが今回のステージの醍醐味となっている。一時代を制した、多くの人が知る曲を惜しげもなく披露する、そのコンセプトが徹底されている。だから、1曲目は“All I Really Want”で、2曲目は“Hand in My Pocket”になる。そして、スクリーンには女性解放運動の映像も映し出され、アラニス・モリセットのアーティストとしての画期性が立体的に浮かび上がってくる。テイラー・ホーキンスに追悼の意を表するセクションも設けられ、“You Oughta Know”が終盤に披露される。昔の曲が多かったけれど、懐メロ感をまったく感じないライヴだった。

9位 アイドルズ(7/28 GREEN STAGE)

UKでは数々のフェスでヘッドライナーを務める存在であり、言葉が要となるアーティストでもある。そういう意味では今年の中では本国との格差を最も心配していたのだが、まったくの杞憂だった。まあ、バンドの信条から言っても、この人たちが手を抜いてくるわけなどない。1曲目の“Colossus”からフルスロットルで、後半は一気にスピードを上げて、この場を一気に制圧してしまう。“Car Crash”では練り上げられたギターのテクスチャーを見せつけ、“Mr. Motivator”では再びギアを上げてみせる。ドラムがしっかりとバンドの屋台骨となっている。“I’m Scum”では観客をしゃがませ、“Divide and Conquer”ではカオスを生み出し、“Wizz”は瞬殺で走り抜ける。最後は出世作となったセカンドからの3連発。フロントマンのジョー・タルボットは「こんなに美しい国に迎えてくれてありがとう」と言っていたが、セキュリティにまで気遣いを見せていたことも含めて、自分たちを見失わない姿勢に好感を持てた。

8位 ダニエル・シーザー(7/28 GREEN STAGE)

客観的に見て、いろんな意味でチャレンジングなステージだったかもしれない。ザ・ストロークスの前ということを考えると、そこまでの知名度ではないし、ステージに現れたのもダニエル・シーザーたった1人だった。ただ、真摯なパフォーマンスを見せたいという彼の思いは痛いほどに伝わってきた。1曲目は最新作『ネヴァー・イナフ』と同じく“Ocho Rios”だったのだが、研ぎ澄まされたサウンドの中で彼のファルセットが大自然へと広がっていく。その様子はさながら荒野を前に剣を抜いてみせる一人の武士のようだ。“Let Me Go”や“Do You Like Me?”と曲が進んでいくと、その印象はより強くなる。無駄がなく、美しい。中盤、彼自身がアコースティック・ギターを手にとって初期の楽曲を披露する時は少し感情がこぼれた気がしたが、“Please Do Not Lean”や“Unstoppable”、ファーストからの“Get You”まで、静謐さを纏った所作によるダニエル・シーザーの世界はまったくブレることはなかった。

7位 キャロライン・ポラチェック(7/29 WHITE STAGE)

1曲目の“Welcome to My Island”を終えた時点でキャロライン・ポラチェックは涙ぐんで言葉に詰まってしまう。6歳まで日本に住んでいたとのことで、チェアリフトでの来日はあったものの、自らのソロ・キャリアで日本で公演を行うということに感慨があったのだろう。そうした彼女の心境もあってか、2日目、夕刻のホワイト・ステージで展開されたライヴはどこか感動的なものとなった。2曲目の“Pretty in Possible”で洗練されたポップ・ミュージックとしての機能性を見せつけ、フラメンコに影響を受けたという“Sunset”は夕方にぴったりな雰囲気を生み出していく。最新作の曲を中心に現在進行系の自分が最高到達点であるという自信と共に“Butterfly Net”では同じ日に出演していたワイズ・ブラッドをステージに迎えてみせる。そして、何より感心させられたのは彼女という人間自身が唯一無二の表現となっていることだ。最後の“Door”まで、生でしか感じられない存在感に圧倒されている自分がいた。

6位 リゾ(7/30 GREEN STAGE)

Photo: Masanori Naruse


ボディ・ポジティヴというメッセージ性で広く知られているリゾだが、ライヴを観ると、彼女が発信しているのはそれに留まらないものであることが一発で伝わってくる。もちろん、自身を謳歌するようなピンクを基調とした衣装やメイク、ステージセットだったり、ダンサーなど、その点でもディテイルまでこだわられているのだが、彼女のライヴには体型の問題に留まらず、誰しもが楽しめるエンタテインメントを提供する意識が貫かれている。だから、突然イエスの“Heart of the Sunrise”のカヴァーが差し込まれて度肝を抜かれたりもすれば、コールドプレイの“Yellow”のカヴァーもやるし、フルートでモーツァルトを吹いたりもする。それは万人が問答無用で楽しめるものとなっていて、そこにここ数年チャートを席巻してきたヒット曲が演奏されることになる。“Juice”に“Grrrls”、カーディ・Bとの“Rumors”に“Truth Hurts”、アンコールは最新作からの“About Damn Time”、グリーン・ステージの3日間の見事なエンディングにもなっていた。

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