1035x1035-radiohead-new-album-a-moon-shaped-pool-download-stream-640x640ビヨンセの『レモネード』やドレイクの『ヴューズ』、ANOHNI(アノーニ)の『ホープレスネス』、ジェイムス・ブレイクの『ザ・カラー・イン・エニシング』など、大物による重要なアルバムが続々と登場した、この1ヶ月を経てリリースされるレディオヘッド9作目のアルバムを取り巻く動きはそれほど大袈裟ではないように思える。だが、彼らにはそれがちょうどいいだろう。トム・ヨークと彼の仲間たちは気乗りのしないロック界の救世主であり続けている。ニュー・アルバム『ア・ムーン・シェイプト・プール』は、例えば夜中にあなたの家に忍び込み、壁を不思議な青色に塗り替えてしまうほど、心奪われる作品というわけではない。

リード・シングルである“Burn The Witch”は、少し紛らわしい部分のある曲で、チェリストが熊手のように弓を巧みに操って、典型的なレディオヘッドの楽曲らしく不安に陥れてみせる。2011年のアルバム『ザ・キング・オブ・リムズ』よりも魅力的だが、『ドライヴタイム・ヒッツ17』といったようなコンピレーション・アルバムの編纂者を悩ませることもなさそうだ。このアルバムは不思議で、揺らめくような不確かさを持っている。

“Daydreaming”のミュージック・ビデオでも分かる通り、本作では困惑し、不安を感じた様子でさまようトム・ヨークの姿が見られる。素晴らしい“Glass Eyes”のエンディングでは「I feel this love runs cold(この恋は冷めたのだと感じる)」と震えながら歌っている。“Identikit”では、「Broken hearts make it rains(失恋は雨を降らす)」と寂しげなコーラスが流れる。トム・ヨークは心の内を率直に表現しないが、彼が23年来のパートナーと最近別れたことを歌っていると推測せずにはいられない。

一方では“The Numbers”のような楽曲もある。「People have the power(人間にはパワーがある)」と彼は挑戦的に歌う。「we’ll take back what is ours(俺たちのものは取り戻す)」と。以前は気候変動対策に取り組む歌を書くことを「クソだろ」とバカにしていたが、大真面目にクソではない気候変動問題に取り組む曲を書き、ファンキーなコリン・グリーンウッドのベースラインで仕上げている。ドラムを打ち鳴らす“Ful Stop”と並んで、アルバム『ア・ムーン・シェイプト・プール』の中で、もっともらしく熱狂できると言える楽曲のひとつだ。

さらに、レディオヘッドは一番おいしいところを最後まで取っておいた。“True Love Waits”は多くのファンが待ち望んでいた90年代半ばからライヴで定番の楽曲だ。ようやくレコーディングされたが、レディオヘッドは波打つピアノの音色に合わせる前に、楽曲の構造的に主要なコードをいくつか取り除いている。不気味な雰囲気を醸し出しつつ、捉えどころのない美しさを持つアルバムにはふさわしいエンディングと言える。

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