Andy Willsher/NME

Photo: Andy Willsher/NME

1996年といえば、イギリスのメジャーなバンドは大抵がコカインやパッツィ・ケンジット(リアム・ギャラガーの元恋人)、軽飛行機や高級住宅街ハムステッドの豪邸に大金をつぎ込んでいたものだが、同じ頃のレディオヘッドはかなり違うことをしていた。彼らは稼いだ大金をまったく新しいスタジオを建設するのに使い、そのスタジオに、外国製の高額で、難解かつ未来的なノイズ発生装置を集めていた。同世代のバンドたちが単にRATのペダルとBOSSのスーパー・オーバードライヴでなんとかやっていた頃、レディオヘッドは誰も聴いたことがない不可能にも思えるサウンドを追求していた。そうすることで、彼らは狂気の淵へと導かれ、そして『OKコンピューター』を創り上げた。

10年後、今度は『イン・レインボウズ』を生み出した彼らは、革新を追求するために再び自らの才能を限界まで高めている。この当時、彼らが使いたかった様々なサウンド・モジュールをコントロールするために、ジョニー・グリーンウッドがソフトウェア制作に専念するということを意味していた。彼は数週間にわたりプログラマーとして取り組んでいる。制作の方法を変えない限り、次のアルバムを制作できるかわからないとトム・ヨークに言わせるほどのこだわりようだった。

そして、彼らはそれをやってのけた。『ザ・キング・オブ・リムス』の制作で、エレクトロニック(シーケンサー類のプログラミング)と、ロックバンドであること(コード進行の作成)の間を行く独創的な第3の道――最終的には、彼ら自身の演奏をサンプリングし、それを新しい音楽としてミキシングするという方法――を見つけたのだ。

レディオヘッドはよりよいサウンドを追求する上で、“音のレンガ”に何度も頭を打ち付けることに人生の長い期間を費やしてきた。彼らは、革新とは時に華やかではないと教えてくれている。それはスイッチを押すように切り替わるものではない。イノベーター3000に乗り込み、「2017年」にダイヤルを合わせるようなことは誰もしない。何百という退屈な行き止まりをはらんだ未知の世界への、絶え間なき苦しい道のりなのだ。自傷的で神経過敏なトム・ヨークと、自制心の強いジョニー・グリーンウッドは、レディオヘッドを『パブロ・ハニー』のヒットメーカーから、ロックの歴史の創造と破壊を少なくとも3度行ったグループへと変貌させた。

彼らが音楽を前進させてきた道のりを考えると、レディオヘッドを21世紀のザ・ビートルズと形容することができるかもしれない。結局、現在成功している誰よりも、彼らはどんなサウンドが巨大なメインストリーム・バンドとして聴こえるかにはっきりと挑んできた。『ザ・キング・オブ・リムス』を見てみよう。恐らく歴史上最も待ち望まれたアルバムは、主にかすかなフラクタルのリズム・パターンと電子ノイズの透過性のうねりで構成されている。ロックンロールの世界ではザ・ストロークスが10年にわたって人気を集めたが、『OK コンピューター』と『キッド A』の子供たちが、即座に21世紀の音楽の新たな基盤を築いていった。つまり、縮小傾向にあるジャンルの範疇ではなく、アーティストの境界線を飛び超える実験主義がスタンダードとして期待されるようになったのだ。ミューズやコールドプレイ、エルボーに影響を与えた最初のロック・ヘヴィーなサウンドでは満足しないかのように、後にミニマルなエレクトロニック音楽に手を出した彼らは、フォールズやアルト・ジェイ、ジャンゴ・ジャンゴなど、たくさんのフォロワーを生み出した。レディオヘッドの探求的モダニズム精神は今や標準化しており、フューチャー・アイランズからザ・エックス・エックス、メトロノミー、ジェイムス・ブレイクを初めとして数え切れないほどのアーティストに根付いている。

しかし、レディオヘッドは、ショービズの世界とスターダムにまつわるすべての常識をその巨大な文化的重力の真下にグシャッと押し込めてしまったやり方によって、我々の時代のザ・ビートルズたり得ているのだとも言える。ザ・ビートルズにはアップル社があり、サイケデリックな映画作品、すべて自作の曲作り、ポップなコンセプト・アルバムがあり、文化の壁を越えた交流があった。レディオヘッドは初のストリーミング実行例の1つとしての記録を残している(はるか昔の2000年に『キッド A』をiBlip経由でストリーミングしている)。ライヴ・ビデオ『スコッチミスト』のウェブキャストも行ったし、2013年のPolyFaunaのような、,アートとテクノロジー、音楽の領域の隙間を開拓するスマホ・アプリ、さらに『ザ・キング・オブ・リムス』の「ニュースペーパー・エディション」なるものもあった。もちろん、『イン・レインボウ』で実施した「欲しいものに対価を払う」販売方式による音楽業界の改革や、彼ら独自のソーシャル・ネットワーク、“Just”から“House Of Cards”におよぶいくつもの脱ジャンル的なミュージック・ビデオがあり、“House Of Cards”では「64の光信号が1分間に900回360度方向に回転しながら光を放ち、すべての映像を作り出す」ことになっている。

最近では、ビヨンセからデヴィッド・ボウイに至るまで、誰もがレコード会社との機密保持契約の下に作っていた秘密のアルバムを止めている。アーティストは、トーマス・エジソンが初めてレコード針をワックスシリンダーに置いて以来、自分のレコード会社に不平不満を述べ立ててきた。だが、レディオヘッドは、すべてのゴタゴタを省略する興味深い方法を見つけることにおいて、誰よりも相当にうまくやっていると言えるだろう。カート・コバーンが水商売同然のロック業界に反抗して駄々をこねるティーンズだとしたら、レディオヘッドは、もっと大人の、賢い対応をしているということだ。レコード会社からの独立を唱えると言っても、単に兵役拒否者的な理想を掲げてヘンリー・ロリンズ隊長に付き従うのとは違う。むしろ思うままに業界のシステムを利用して、自分の思うものを作ることが彼らの目論見だ。そこには、アート+音楽+人生という包括的なコンセプトが含まれている。とはいっても、例えばデイヴィッド・バーンやブライアン・イーノみたいな路線の過激に芸術的な感じでもない。

バンドの人気の規模と、彼ら自身の栄光に対する控えめに抑えられた欲望との間にある当然の緊張感によって、レディオヘッドは常に破壊的な命題を背負ってきた。2000年、レディオヘッドは商業的なポテンシャルのピークにあった。彼らはどうこの機に乗じたのか? バンドはどんよりとしたエレクトロニックのアルバム『キッド A』からいかなるシングルのリリースも拒絶したのだ。そして、UKツアーは白い何のスポンサー・ロゴも入っていない大テントで行った。トム・ヨークはナオミ・クラインのアンチ・マーケティングの古典的著書『ブランドなんか、いらない(No Logo)』を読んでいた。

トム・ヨークは「パーソナル・アズ・ポリティカル」という信条をもっと面白く、満足できる領域へと押し広げていった。巨大化した扇動的なコマーシャリズムに懐疑的な世代にとってのある種のスタンダードを体現する存在となった。これはまさに21世紀型の政治活動と言っていい―ラッセル・ブランドの「投票するな」的ニヒリズムと、ドラマ「ポートランディア」で見かけるかもしれないDIYコミュニティの倫理みたいなものの間に位置する立場だ。彼らは、旗を振ってバリケードを叩き潰していた、我々の親の世代がどれだけ我々と違っていたかを映す鏡でもある。彼らは世界を変える「権力者」となることはしばしば、できる範囲で自分自身の小さなチェンジを達成することほどには役に立たないし、実りも少ないと悟っているのだ。

ザ・ビートルズが1960年代を体現するようになったように、トム・ヨークは我々の時代を最も明快に映し出すロック・スターである。20年前、彼は未来を見つめて嫌気がさした。彼は、怒涛のような倒錯した縁故資本主義、雪崩を打って押し寄せる「処方箋」の山、生活と社会を凝縮させ、決して一人にならないけどいつも孤独な状況に人を追いやる技術革新、こうした未来の姿を予見してその重みに押し潰されたのだ。トム・ヨークは現在、我々が生きている状況に訴え掛けるなにかを表現した。ある種の不快な不安を提示してみせた。それはミューズ(最初は誰もが単なる「レディオヘッドのコピー・バンド」として無視した)とブロック・パーティを結び付け、エヴリシング・エヴリシングをブリアルと結び付けた。レディオヘッドはさらに、ジャック・ホワイトに負けず劣らずのラッダイト(技術革新反対者)的な、埃を被ったような古いテープヘッドの楽曲も制作している。それもまた、背負い込んだあらゆる人々を投げ下ろすことでしかバランスのとれないこのバンドの、もう一つの不意打ちだったりするのだ。

そして、2016年、レディオヘッドは通算9作目となる新作『ア・ムーン・シェイプト・プール』をリリースした。

アルバムのダウンロードはこちらから。

アルバムのストリーミングはこちらから。

新作『ア・ムーン・シェイプト・プール』のトラックリストは以下の通り。

‘Burn The Witch’
‘Daydreaming’
‘Decks Dark’
‘Desert Island Disk’
‘Ful Stop’
‘Glass Eyes’
‘Identikit’
‘The Numbers’
‘Present Tense’
‘Tinker Tailor Soldier Sailor Rich Man Poor Man Beggar Man Thief’
‘True Love Waits’

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