Stuart Anning

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とても楽しく、贅沢なアルバムが完成した。トレヴァー・ホーンのニュー・アルバム『Trevor Horn Reimagines – The Eighties Featuring the Sarm Orchestra』だ。80年代屈指の売れっ子プロデューサーとして数々のヒット曲を手がけた「80年代を創った男」が、その80年代を代表するヒット曲を、豪華ゲスト・ヴォーカリストを迎え、生のフル・オーケストラでカヴァーするという企画アルバムだ。トレヴァーが手がけたフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドやグレイス・ジョーンズ、イエス、ゴドレイ&クレームといったアーティストのヒット曲を中心に、ティアーズ・フォー・フィアーズ、ブルース・スプリングスティーン、デヴィッド・ボウイ、デュラン・デュラン、a-ha、ニュー・オーダーなど、納得の選曲から意外な選曲まで、幅広く誰にでも楽しめる内容となっている。サンプリングやソフト音源では味わえない豊かでふくよかで温かみがあるサウンド、過不足ない豪奢なアレンジ、そしてロビー・ウィリアムス、シール、シンプル・マインズのジム・カー、オール・セインツといったヴォーカリストたちが個性的な歌を聴かせるのも魅力だ。

トレヴァー・ホーンと言えば70年代終わりにバグルスのメンバーとして『ラジオ・スターの悲劇』などのヒットを飛ばし、80年代に入って、イエスの大ヒット作『ロンリー・ハート』(本作にも収録)を手がけたことで一躍売れっ子プロデューサーとなった。当時最先端の音楽テクノロジーだったサンプリングを駆使したハイテックな未来的サウンドで一世を風靡し、自ら設立したZTTレコードからフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドやアート・オブ・ノイズ、プロパガンダ、シール、808ステイトといったアーティストを輩出しし、90年代以降のテクノ、エレクトロニカにも絶大な影響を及ぼした。手がけたアーティストはロッド・スチュワート、ペット・ショップ・ボーイズ、t.A.T.u.など枚挙にいとまが無く、近年はアニメ音楽の制作まで手がけるなど、その精力的な仕事ぶりには69歳になった今もいさささの衰えもない。

今回の企画は外部からの提案を受け入れる形で実現したようだが、そこには彼なりの現在の音楽シーンへの思いもあるようだ。

「55人編成のフルオーケストラと一緒にやる機会なんてそう滅多にない。最近、音楽業界もお金の余裕がない中、本当に贅沢な経験だったと思うよ。最近のポップ・ミュージックは、コンピューターなどの導入で、実際に人が演奏していない曲も多い。でも80年代の音楽はちゃんとまだ演奏していた。実際に人が演奏した音とテクノロジーによって作られたものが一緒になっていたんだ。時には荒く雑なものもあったけど、言いたいことをちゃんと伝えることができていた。まだ当時はテクノロジー自体が新しい存在だったけど、80年代前半にちゃんとコントロールできるようになって、それまでできなかったことがコントロールできるようになったんだ」

今回のアルバムの選曲についてはこう語っている。「必ずしも僕が作った曲じゃなくてもよかった。純粋に、僕が手掛けてみたかった曲を選んだ。特に歌詞のいい曲を中心に選んだんだ。歌詞が今ひとつの曲と長い時間向き合いながら作業するのも苦痛だしね。そして僕じゃなく、ゲスト・ヴォーカル陣に歌ってもらいたいと思ったんだ。何曲かは適任がいなくて、自分自身で歌ったけどね」

それでは、各曲ごとにトレヴァー自身のコメントと共に紹介していこう。

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1. EVERYBODY WANTS TO RULE THE WORLD feat. ROBBIE WILLIAMS

元テイク・ザットで、今や英国の国民的歌手ロビー・ウィリアムスが、ティアーズ・フォー・フィアーズによる1985年の全米NO.1ヒットを歌う。

「ロビーは、たった30分でボーカルを録り終えた。あっという間だったね」

2. DANCING IN THE DARK feat. GABRIELLE APLIN

英ブリストル出身のシンガー・ソングライター、ガブリエル・アプリンがブルース・スプリングスティーン1985年の全米NO.1ヒットを歌う。本作で一番意外な選曲と言えるだろう。

「歌詞がとてもダイレクトなところが好きなんだ。美しい歌詞だよね。クリスマスに独りで家にいるようなイメージだ」

3. ASHES TO ASHES feat. SEAL

トレヴァーがデビュー以来ほぼ全作プロデュースを手がけている英国モダン・ソウルの鬼才シールが、デヴィッド・ボウイ1980年の全英NO.1ヒットを歌う。

「シールがこの曲を歌いたいって希望してきたんだ」

4. GIRLS ON FILM feat. ALL SAINTS

1981年に全英5位のヒットを記録したデュラン・デュランの出世作を、英国きっての女性ヴォーカル・グループ、オール・セインツが歌う。

「デュラン・デュランではない、他の作曲家がこの曲をガールズ・バンドのために書いたらどうなっていただろうと考えた」

5. THE POWER OF LOVE feat.MATT CARDLE

フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド1984年の楽曲。トレヴァーがプロデュースを担当し記録的な大ヒットとなった曲だ。歌うのは英国のシンガー・ソングライター、マット・カードル。

「フェスで録ったライブ音源を彼のヴォーカルの青写真として敷いて編曲したんだ。またそれに合わせて歌ってもらった。そうすることによって、ライブで演奏するときと同じように曲が速くなったり遅くなったりするので、感情表現が豊かになったと思う」

6. BROTHERS IN ARMS feat. JIM KERR

ダイア・ストレイツの1985年発表の代表曲を、シンプル・マインズのジム・カーが歌う。

「八分の三拍子を四分の三拍子にしたらもっとよくなるんじゃないかと思った」

7. DIFFERENT FOR GIRLS feat. STEVE HOGARTH

英国のシンガー、ジョー・ジャクソンの1979年のヒット曲。歌うのは、英国のプログレ・バンド、マリリオンのスティーヴ・ホガース。原曲よりもさらに英国風味の増した重厚な仕上がり。こんなにいい曲だとは思わなかった、という方も多いだろう。

「ホガースの声が大好きでね。うまく歌ってくれたよ」

8. SLAVE TO THE RYTHM feat. RUMER

グレイス・ジョーンズによる1985年のヒット曲。トレヴァー・プロデュースの傑作のひとつ。歌うのはパキスタン生まれのシンガー・ソングライター、ルーマーだ。

「もし”Slave To The Rhythm”をいじるとしたら完全に違うアレンジにしたかったんだ。ちょっとジョニ・ミッチェルみたいでしょ?」

9. WHAT’S LOVE GOT TO DO WITH IT feat. TONY HADLEY

米国を代表するR&B歌手、ティナ・ターナー1984年の大ヒット。歌うのは、英国ニュー・ロマンティックス・ムーヴメントから出てきたスパンダー・バレエの伊達男、トニー・ハドリー。トニーのコブシのまわったソウルフルなヴォーカルが、大胆にアレンジされた曲調にハマっている。

「この曲を男性が歌ったらどんな曲になるんだろう?と興味があったから。トニーの歌もとても力強いよね」

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10. OWNER OF A LONELY HEART feat. TREVOR HORN

プロデューサー・トレヴァーの大出世作、イエスの1983年の全米NO.1ヒット。歌うのはトレヴァー自身だ。原曲をそのままオーケストラに置き換えたようなアレンジに仕上がっている。

「この曲は自分が作詞作曲したから、僕に歌う権利があるんじゃないかと思ってね(笑)」

11. TAKE ON ME feat. TREVOR HORN

ノルウエーのポップ・バンド、a-haの全米1位全英3位を記録した1985年の大ヒット。原曲のエレガントで上品な美しさをそのまま抽出したような仕上がりで、トレヴァーの歌も繊細。

「ストリングスがなくても充分成立するいい曲なんだ。だからストリングスを加えるならちゃんとクリエイティヴなアレンジにしないと、かえってごちゃごちゃになってしまう。そこにはずいぶんこだわった」

12. BLUE MONDAY feat. REV JIMMY WOOD

マンチェスターの雄ニュー・オーダーの1983年のヒット。全英9位、全米ダンス6位まで上昇した彼らの出世作であり、現在まで聞き継がれるダンス・クラシックでもある。歌うのはジミー・ウッドだ。

「オリジナルと正反対の歌い手を探していた。オリジナル(バーナード・サムナー)はとても軽くて男の子っぽい声だったから、もっとロックンロール的な声の持ち主に歌ってほしかったんだ」

13. CRY feat. AMIE SQUIRE

日本盤ボーナス・トラックは、ゴドレイ&クレーム1985年のアルバム『The History Mix Volume 1』からのシングル・ヒット。オリジナルのプロデュースはトレヴァーだ。歌うのは2015年からトレヴァー・ホーン・バンドのメンバーであるジェイミー・スクワイア。昨年8月にビルボード東京で収録したライブ音源である。
 
今後このアルバムをコンサートで再現する可能性もあるという。トレヴァーの職人的プロデュース手腕によって瑞々しく蘇った名曲の数々を、ぜひライブでも体験してみたいものだ。

<テキスト=小野島大>

リリース詳細

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トレヴァー・ホーン
『トレヴァー・ホーン リイマジンズ 〜 ザ・エイティーズ・フィーチャリング・ザ・サーム・オーケストラ』
2019年1月30日リリース
品番:UMAA1112-1113、CD2枚組、23曲収録
日本盤ボーナストラック1曲収録、¥3,000+税
DISC 1
1. ルール・ザ・ワールド/ティアーズ・フォー・フィアーズ – Vo. ロビー・ウィリアムズ
2. ダンシン・イン・ザ・ダーク / ブルース・スプリングスティーン - Vo. ガブリエル・アプリン
3.アッシュズ・トゥ・アッシュズ / デヴィッド・ボウイ - Vo. シール
4.ガールズ・オン・フィルム(グラビアの美少女)/ デュラン・デュラン - Vo.オール・セインツ
5.パワー・オブ・ラヴ(愛の救世主) / フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド - Vo. マット・カードル
6.ブラザーズ・イン・アームス / ダイアー・ストレイツ - Vo. ジム・カー(シンプル・マインズ)
7.ディファレント・フォー・ガールズ / ジョー・ジャクソン - Vo. スティーヴ・ホガース
8.スレイブ・トゥ・ザ・リズム / グレイス・ジョーンズ - Vo. ルーマー
9.愛の魔力 / ティナ・ターナー - Vo. トニー・ハドリー
10.ロンリー・ハート / イエス- Vo. トレヴァー・ホーン
11.テイク・オン・ミー /アーハ- Vo. トレヴァー・ホーン
12.ブルー・マンデー / ニュー・オーダー - Vo. ジミー・ウッド
13.クライ / ゴドレイ&クレーム - Vo. ジェイミー・スクワイア
(*日本盤のみのボーナストラック。2017年8月、ザ・トレヴァー・ホーン・バンドとして来日し、ビルボードライブライブ東京で披露したライブ音源を収録)

DISC 2(*インストゥルメンタルVer.のために新たにミックスした楽曲を収録)
1.ロンリー・ハート
2.ガールズ・オン・フィルム(グラビアの美少女)
3.ルール・ザ・ワールド
4.ダンシン・イン・ザ・ダーク
5.アッシュズ・トゥ・アッシュズ
6.ディファレント・フォー・ガールズ
7.スレイブ・トゥ・ザ・リズム
8.ブラザーズ・イン・アームス
9.テイク・オン・ミー
10.ブルー・マンデー

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