10位 ミツキ(7/26 RED MARQUEE)

Masanori Naruse

Photo: Masanori Naruse


この日のステージが当面の間は日本での最後の公演になることを公言しているミツキ。その後は「人間に戻る」ことを宣言しているミツキ・ミヤワキだが、まるで自身の部屋で行っているかの如く、机や椅子を使ったパフォーマンスを披露していく彼女のステージに感じるのは、これまでに培ってきたミツキというペルソナの集大成を観せるという徹底した姿勢である。歌詞で歌われている感情が言語の壁を超え、机や椅子を用いたコレオグラフィで肉体として伝わってくる様はまさに彼女のアーティストとしての真髄を見せつけられているかのようで、2013年発表のデビュー作『ラッシュ』から昨年リリースの最新作『ビー・ザ・カウボーイ』に至るまで、これまでにリリースした5枚のアルバムすべてから楽曲が披露されたセットリストを含め、この日のステージにはこれまでのミツキの集大成が詰め込まれていた。

9位 ヴィンス・ステイプルズ(7/28 WHITE STAGE)

Masanori Naruse

Photo: Masanori Naruse


初めての日本でのフル・パフォーマンスがホワイトのトリ前という状況は、2013年に出演した同砲のケンドリック・ラマーと同じシチュエーションだが、後方までオーディエンスで埋め尽くされていた今年のホワイト・ステージの光景に、フジロックフェスティバルにおけるヒップホップが広く浸透してきたことを実感する。衣装の背中部分にプリントされていたカナビスの葉に、テレビ画面を模した8つのスクリーンに代わる代わる映し出されていく、様々なジャンルの番組をパロディにした映像たち。観るものたちを惹きつけ続けていたのは他でもない、ヴィンス自身のリアルなラッパーとしての高いスキルだった。独特なリズムでパンチラインが繰り返されるその特有のラップが目の前で展開された時の力たるや凄まじく、ヒップホップにおける虚構とリアル、その両極を高いIQで体現したようなステージだった。

8位 コートニー・バーネット(7/27 WHITE STAGE)

2016年のレッド・マーキー以来となる形でフジロックフェスティバルに戻ってきてくれたコートニー・バーネット。あの時はこのベスト・アクト・ランキングで3位にランクインしたのだが、今年のステージもまさに素晴らしいものだった。デビュー・シングルである“Avant Gardener”からこの日のステージは始まったが、アンプ本来のサウンドを感じさせてくれるギター、決して声を張り上げることのないアンニュイさを含んだヴォーカル、そうして鳴らされるロックンロールは嘘偽りがまったくないもので、いつ観ても初めてその神秘に触れるような瑞々しさを湛えている。昨年リリースされた『テル・ミー・ハウ・ユー・リアリー・フィール』からの“Nameless, Faceless”が演奏される頃にはすっかりオーディエンスの心を掌握している。観客との駆け引きもすっかり板についてきて、最後はデビュー・アルバムからの“Elevator Operator”と“Pedestrian at Best”という冒頭の2曲でハイライトを生み出すことに。様々な音楽のトレンドが移り変わるなかでも、ロックンロールの魅力は常に更新され続けるということを証明してくれるステージだった。

7位 ジェイムス・ブレイク(7/28 WHITE STAGE)

Masanori Naruse

Photo: Masanori Naruse


長年のバンドメイトであるエアヘッドとべン・アシッターを引き連れ、最新作『アシューム・フォーム』のタイトル・トラック“Assume Form”からステージをスタートさせたジェイムス・ブレイク。ステージの上で音源のサウンドを高解像度で表現してみせるそのパフォーマンスは既に実証されているものだが、一瞬にしてその場を音の中に包み込んでしまう強さにはやはり、文字通り圧倒されるものがある。トラヴィス・スコットとの“Mile High”やロザリアとの“Barefoot in the Park”を初め、近年のジェイムス・ブレイクはソングライターやプロデューサーとしても積極的にコラボレーションを行っているが、やっぱり彼の音楽の根底にあるのでは純度の高い1人称のエモーションである。当初の予定よりも20分早く終演し、喉の違和感や開演前の機材トラブルがその原因だったことが後に明らかになっているが、そうした要因をもってしてもなお、やはりそのパフォーマンスは唯一無二のものだった。

6位 ケミカル・ブラザーズ(7/26 GREEN STAGE)

Masanori Naruse

Photo: Masanori Naruse


苗場での第1回開催となった1999年に初めて出演して以来、フジロックへは今回で7度目の出演となるケミカル・ブラザーズ。今年が8年ぶりの出演だという事実を思わず忘れそうになってしまうほどに、すっかり苗場の常連というイメージがついている彼らだが、ケミカル・ブラザーズの楽曲がいざライヴとして肉体化された時の威力にはやはり抗えないものがある。今回もやっぱりそうだった。今年リリースの最新作『ノー・ジオグラフィー』の楽曲でアップデートされたケミカル・ブラザーズのステージだが、“Hey Boy Hey Girl”あたりからすっかりスウィッチが入って、エレクトリックな音楽をロックとして鳴らすケミカル・ブラザーズの矜持を見せつけられていくことになる。数々のヒット曲によって大団円を生み出す頃には、フジロックフェスティバルで観るケミカル・ブラザーズはやっぱり楽しいとアイロニーなしに痛感している自分の姿があった。

5位 アメリカン・フットボール(7/27 WHITE STAGE)

Taio Konishi

Photo: Taio Konishi


ロックという音楽のジャンルや概念、言葉が矮小化されつつある近年の風潮の中で、ロックという音楽を決して矮小化することなく自身の音楽を鳴らすことを追求してきたバンド、それがアメリカン・フットボールだと思う。点滅するライトに照らされたホワイト・ステージに鉄琴の音がこだまし、今年リリースした最新作の冒頭を飾る“Silhouettes”から始まったステージは、そんな彼らの新年を感じずにはいられないステージだった。シーンが様々に移り変わり、多くのアーティストがデビューしてはブレイクし、解散していく時代の中で、時に間を空けながら彼らは北極星のように自分たちの審美眼だけを信じてきた。そして、それは時が経てば経つほど、類をみないものとなっていった。この日もデビュー作やセカンド・アルバムの楽曲も披露されたが、それは現在形としてまったく変わらない強度と美しさをもって鳴り、最新作からの“Uncomfortably Numb”や言わずと知れた“Never Meant”が披露された頃には、その偉大さにただただ頭を垂れていた。

4位 ザ・キュアー(7/28 GREEN STAGE)

Taio Konishi

Photo: Taio Konishi


「深刻な個人的な状況」のためにベーシストのサイモン・ギャラップが日本に来られなくなり、サイモン・ギャラップの息子であるエデンが代わりにベースを担当したステージだったが、まったくそうしたアクシデントを感じさせることのないものだった。ゴスを初め、ネオアコやシューゲイザーやシンセ・ポップなど、ザ・キュアーの進んできた道の後には豊穣なUKインディ・ロックのシーンが生まれることになったわけだが、結成40周年を迎えたUKが生んだシーンの徒花の存在はあまりあるものだった。“Plainsong”から始まったステージは荘厳さを湛え、その積み重ねられた完璧なギターのレイヤーが様々な機微を描き、序盤に演奏された“Lovesong”に歓喜の声を上げ、“Just Like Heaven”にステップを踏み、そして、ヒット曲満載のアンコールへ。今年のグラストンベリー・フェスティバルとまったく同じセットリストだったが、それは2019年現在で考えられる最も愛されるザ・キュアーの形だったのだと思う。

3位 トム・ヨーク(7/26 WHITE STAGE)

Taio Konishi

Photo: Taio Konishi


「コンバンハー!」と勢いよく叫んだ冒頭の挨拶が象徴していたように、ソロとして初めてフジロックに出演したトム・ヨークは非常に肩の力が抜けていて、かつてないほどに自由だった。トム・ヨークは前月にリリースされたばかりの最新作『ANIMA』に収録された“Impossible Knots”からこの日のステージをスタートさせると、アトムス・フォー・ピースの楽曲を織り交ぜながら、すっかり気心の知れたナイジェル・ゴドリッチやタリク・ヴァッリと共に、これまでにリリースしてきたソロ作品の音源をステージの上で再構築していく。そこにいたのは紛れもない現在進行系のトム・ヨークで、レディオヘッドという巨大過ぎる看板とは違うところで、自身の音楽を楽しむ姿がそこにはあった。“Default”と“Atoms for Peace”の2曲のアンコールに続いて、再びステージに上がって“Suspirium”をピアノで披露するという、思わぬ2度目のアンコールで締めくくられることとなったこの日のステージ。トム・ヨークは満足気にこちらに顔を向けていた。

2位 ジャネール・モネイ(7/26 GREEN STAGE)

Masanori Naruse

Photo: Masanori Naruse


祝祭とメッセージ、そして官能性、これらはすべて優れた音楽であれば同居できることを証明してくれたステージだった。全員が「女性」からなるパフォーマー集団を引き連れたジャネール・モネイは“Crazy, Classic, Life”で幕を開けたこの日のステージで、ジャネール・モネイは黒人や女性、セクシャリティを祝福しながら、それを完璧な形でオーディエンスに届けてみせる。楽曲毎にステージセットや衣装を変え、プリンスも認めた自身のミュージシャンシップとパフォーマンスシップを天秤に掛けていく様はまさに女帝さながらだ。中盤には観客に携帯電話を掲げるように促し、一帯を携帯電話のライトで照らされながらギタリストがプリンスの“Purple Rain”のリフを奏でるという感動的なパフォーマンスもあり、人種や性別、階級の平等を訴える力強いスピーチでそのパフォーマンスを締めくくるまで、ジャネール・モネイという刺客は日本のオーディエンスに鮮烈なインパクトを残して去って行った。

1位 シーア(7/27 GREEN STAGE)

Masanori Naruse

Photo: Masanori Naruse


2019年のフジロックフェスティバルを象徴するもの、それはやはりシーアのステージだったのではないだろうか。降り続く雨の中、“Alive”という特大のアンセムで始まった彼女のステージは正直過酷なものだった。フジロックフェスティバルは様々な雨の思い出で知られるが、あれだけの強い雨があれだけ持続した時間降り続けるというのはこれまででもそんなになかったことだと思う。そして、それによってシーアのパフォーマンスが変わることもなかった。顔のほとんどを覆い尽くすお馴染みのブロンドと黒髪のウィッグを被って登場したシーアは、煽動的なパフォーマンスを行うことはなく、ステージの後方でマディー・ジーグラーを初めとした数人のダンサーと作り上げた世界観によって映像的にパフォーマンスを見せていくことに終始した。ライヴならではの、といった形容とは無縁の形で徹底的に作り上げられた自己の世界をプレゼンテーションしていく。そんな禅問答とも言える空間をあの環境下でなお、あれだけの人が共有した、それがシーアのステージの画期性だと思う。もちろん、その土台には彼女が作ってきた優れたポップ・ミュージックがあるのだが、表面的ではない、あの場にいた人にしか分からない切迫したシーアとオーディエンスの関係性こそがあのステージを特別なものにしていた。

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