10位 スーパーオーガニズム(7/28 RED MARQUEE)

今年のフジロックも後半戦に入った頃、日本人ヴォーカリストのオロノ率いるスーパーオーガニズムは、レッドマーキーに文字通り、テントから溢れてしまう数のオーディエンスを集めていた。この人たちのバックグラウンドについては既に十分語られているので、ここでは触れないが、音源や数々の映像で感じた面白さがライヴにもきっちりと反映されていて嬉しくなる。ライヴだろうと、音源だろうと、ウェブだろうと、この人たちのアティテュードというのは360度なのだろう。しかし、オロノも観客を煽る時は切れ味鋭い掛け声をオーディエンスに投げかけ、ファットなビートとベースは身体の中心部に響いてくる。今回のフジロックでのステージは「新しい」ことも既に証明されてしまっているなかでのパフォーマンスとなったわけだが、最後の“Everybody Wants To Famous”と“Something For Your M.I.N.D.”を迎えた大歓声を挙げるまでもなく、ポップ・ミュージック/ライヴ・アクトとしての真っ当な体力で勝ちを収めてしまうのが、なんとも頼もしく思えた。

9位 N.E.R.D (7/27 GREEN STAGE)

「ここはロシアじゃないんだ」と言ってクラウドサーフィンを煽ったかと思えば、ケンドリック・ラマーの“Alright”やビヨンセとジェイ・Zの“APESHIT”といったファレル・ウィリアムスが手掛けた楽曲に、ネプチューンズが手掛けたグウェン・ステファニーの“Hollaback Girl”だって流されるし、さらにはダフト・パンクとの“Get Lucky”だって歌ってくれる。1日目のヘッドライナーを務めたN.E.R.Dのライヴは、ヒップホップ的なアティテュードにロックンロールとDJが融合した、彼らのこれまでのキャリアを総括するまさにミックステープのようなライヴだった。プロデューサーとしてのアイデンティティを随所に散りばめたステージで、ライヴ・アクトとして声を枯らしてまで観客を牽引してくれるファレルのプロフェッショナルさにはもはや脱帽である。初日のヘッドライナーというのは難しいスロットだが、ネプチューンズ、N.E.R.D、そしてファレル・ウィリアムス、そのキャリアのハイライトが存分に詰まった大満足のステージだった。

8位 スクリレックス(7/28 GREEN STAGE)

Masanori Naruse

Photo: Masanori Naruse


最後にとんでもない反則技が待ち受けていたわけだが、しかし、スクリレックスのステージはいつだって爽快な反則技に満ちている。今回もその量たるや半端じゃなかった。例の如く5分前からスタートするカウントダウンに始まり、アヴィーチーの“Levels”やエックスエックスエックステンタシオンの“Look At Me”など亡くなったアーティストへのトリビュート、隣の人と肩を組んでジャンプをするように促す演出、代名詞とも言える重低音を響かせながら、目の前のオーディエンスを盛り上げるためなら何でも投入してみせる。そして、終盤、ジャック・Uや自身の初期の作品をこれでもかと投下していき、なんと最後にステージに登場したのはX JAPANのYOSHIKIだった。ドラムセットに座ったYOSHIKIと共にギターで“Scary Monsters and Nice Sprites”を披露するという、想像の遙か先を行くコラボレーションで、その伝説的なステージは幕を下ろすことになったのだ。

7位 チューン・ヤーズ(7/27 RED MARQUEE)

メリル・ガーバスという人の声の存在感に圧倒されっぱなしの時間だった。最新作『アイ・キャン・フィール・ユー・クリープ・イントゥ・マイ・プライベート・ライフ』収録の“Look at Your Hands”から始まったステージ、長年の制作パートナーであるネイト・ブレナーのベースによるグルーヴと相俟って、フロアは初っ端から大きく揺れていくことになるのだが、チューン・ヤーズの音楽はメリル・ガーバスの声を中心に、カテゴリやジャンルといったものを次々と越境/逸脱していく。しかし、そのサウンドが実験的だけで終わることはない。彼女の声さえあれば、観客と交感できるという確信がそこにはあるのだ。フロアの温度は曲を重ねる度に上がり続け、サポート・メンバーを含めわずか3人のステージでありながら、そのサウンドの説得力たるやすさまじい。そして、最後に演奏されたのは最新作でも最後に収録されていた“Free”。徹底して他ならぬ個としてあろうとする意志を強く感じたステージだった。

6位 チャーチズ(7/29 WHITE STAGE)

3枚のフルアルバムというこれまでの彼女たちのディスコグラフィが結実したとも言えるステージだった。ホワイト・ステージのトリという大役を任されたチャーチズだが、激しいストロボの光と共に1曲目となった“Get Out”が始まるやいなやハンドクラップが一気に広がったのを見て痛感する。サポート・ドラマーによって新たにもたらされたライヴとしてのダイナミズムを含め、バンドとしてスケールアップを果たしたことがオーディエンスにも共有されているのだ。3枚のアルバムから万遍なく選ばれた選曲もそうだけれど、このバンドのキャリアには無駄がなく、辿り着くべくして、この場所に辿り着いたのだという、そんな感慨がふとよぎる。なかでも象徴的だったのはライヴの終盤だった。ファースト・アルバムからの“The Mother We Share”、セカンド・アルバムからの“Clearest Blue”、そして最後の演奏曲となった最新作からの“Never Say Die”という、すべてのアルバムからの楽曲がライヴのピークを作っていく様は、チャーチズというグループの底力を物語っていた。

5位 ナサニエル・レイトリフ・アンド・ザ・ナイト・スウェッツ(7/27 THE PALACE OF WONDER)

Tsuyoshi Ikegami

Photo: Tsuyoshi Ikegami


翌日にフィールド・オブ・ヘヴンのヘッドライナーも務めている彼らだが、ケンドリック・ラマーとの重複もあり、初日のステージでのレポートとなることをお許し願いたい。それにしても、アルバムを全米で50万枚も売ったバンドをこのスケールで観られるというのだから、贅沢と言うほかない。屋内という他とはフジロックでは珍しいシチュエーションのなか、ナサニエル・レイトリフ率いる8人組の大所帯バンドが文字通り目と鼻の先に登場すると、アメリカーナをベースにした陽気なアンサンブルによって、会場は一瞬でダンスフロアと化すことに。ナサニエルが手拍子を煽り、観客がそれに全力で応える様は、ロックバンドのギグに来てしまったのではと錯覚してしまうほどである。それこそが彼らの魅力の真髄であり、時間と比例して高まっていく観客のヴォルテージは、ラストの“S.O.B.”で当然ながら爆発にも似たピークを迎えている。クオリティはそのままに、時間と空間が濃縮されたステージが終了すると、そこには高揚感に満ちたオーディエンスの顔があった。

4位 アンダーソン・パーク(7/29 GREEN STAGE)

ライヴの実力は折り紙付きだが、それを踏まえても強烈だった。アンダーソン・パークのキャリアにとってドクター・ドレーのフックアップは確かに大きかったが、そこにばかりフォーカスすると見誤る。そのサウンドは現在のブラック・ミュージックにおいてもかなりハイブリッドなものだ。ヒップホップもR&Bもファンクも、サンプリングもリズムマシーンのビートもザ・フリー・ナショナルズによるバンド・サウンドも、そうしたものが混ざり合いながら、それを一つにするのが本名をブランドン・パーク・アンダーソンという彼に宿るグルーヴである。それは反射神経だけでできることではない。そこには彼のヴィジョンがあり、そして、それを最も直接感じられるのがライヴだ。“Come Down”から始まったステージは最初から大盛り上がりだったが、最新曲“Bubblin”あたりから自らドラムプレイを見せると、さらにヴォルテージが上がる。観客をとことんまで沸かせるフロントマンとしても死角なし。最後の“Lite Weight”まで至福の時間だった。

3位 ポスト・マローン(7/27 WHITE STAGE)

フジ「ロック」フェスティバルでポスト・マローンを観る。そこに特別な思いを抱く人たちの期待に存分に応えてくれたステージだった。エモーショナルなリリックと、その情感を昇華させたメロディで世界中のチャートを席巻している彼だが、そのパフォーマンスはまさにロック的なものだった。ステージにいるのは背中に「JAPAN」と書かれた日本仕様の服装に身を包んだポスト・マローンただ1人。「カンパーイ」とスニーカーに注いだ酒を飲むお茶目な側面も見せたりしつつも、前半から“Better Now”や“Psycho”などのヒット曲を惜しみなく披露してオーディエンスのヴォルテージを高めていくわけだが、自身の曲/メロディへの自信こそがパフォーマンスの力強さに直結している。まさにギターを持ってアコースティックのセットを披露する一幕なんかもあったが、最後は“Rockstar”、“White Iverson”、“Congratulation”というキャリアを決定づけた楽曲の3連発。そうしたヒット曲の数々に歓声と全身で応える前方のオーディエンスが印象的だった。

2位 ケンドリック・ラマー(7/28 GREEN STAGE)

Christopher Parsons for Top Dawg Entertainment

Photo: Christopher Parsons for Top Dawg Entertainment


まだ主役の登場していないグリーン・ステージで、どこからともなく「ラマー」コールが沸き起こる。その姿を待ち侘びる観客の温度の高さに嬉しくなっていると、「カンフー・ケニー」の映像が流れてついにあの男が登場する。ケンドリック・ラマーがフジロックにヘッドライナーとして立ったのだ。袖にバンドは控えているものの、広大なグリーン・ステージを1人で包み込んでしまう彼の存在感は、まさに圧巻。“DNA.”からスタートしたステージは、前作の“King Kunta”やデビュー作の“Swiming Pools(Drank)”などの代表曲が矢継ぎ早に披露されていく。“Bitch, Don’t Kill My Vibe”や“LOVE.”、本編最後の“HUMBLE.”ではシンガロングも巻き起こるという感慨深い展開もあり、台風の影響を受けた大雨の中、アンコールの“All The Stars”ではオーディエンスが惜しみなく携帯電話を取り出してグリーン・ステージを美しくライトアップしていた。

1位 ヴァンパイア・ウィークエンド(7/29 GREEN STAGE)

Tsuyoshi Ikegami

Photo: Tsuyoshi Ikegami


最初にBGMとしてかかったAC/DCの“Back In Black”も、“Cape Cod Kwassa Kwassa”に組み込む形で演奏されたザ・ビートルズの“Here Comes The Sun”のカヴァーも、そして驚きのハイムのダニエル・ハイムが参加して演奏されたシン・リジーの“The Boys Are Back In Town”のカヴァーも、すべては一つのメッセージに繋がっていた気がする。それはロックは大丈夫だということ、そしてロックが滅びるなんてないということ。なにより彼らのパフォーマンス自体がそれを物語っていた。新たに7人編成となったヴァンパイア・ウィークエンドのライヴだが、初っ端を飾った“Diane Young”も、大歓声に迎えられた“Oxford Comma”も、客席にうねりを生んだ“A-Punk”も、彼らの楽曲が持つギター・ミュージックとしての輝きはいつにも増して眩しかった。まもなくリリースされるという新作からの曲が演奏されることはなかった。けれど、この先もヴァンパイア・ウィークエンドはギター・ミュージックを牽引していってくれる、そんな確信を持たせてくれるライヴを彼らはフジの最終日に見事にやってのけたのだ。

Copyright © 2024 NME Networks Media Limited. NME is a registered trademark of NME Networks Media Limited being used under licence.

関連タグ