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マイルス・デイヴィスは生誕100年を祝して著名人10人によるコメント&プレイリストが公開されている。

100周年記念企画「Miles Davis “10 notes×10 tones”」では、大友良英、小袋成彬、菊地成孔、後藤雅洋、荘子it、柳樂光隆、挾間美帆、平野啓一郎、BIGYUKI、Yaffleの10名が「私が聴いてきたマイルス」をテーマにそれぞれ10曲ずつをセレクトしている。

コメントとプレイリストは以下の通り。

大友良英
思いついた順番に一番聴いてきたマイルスを10曲ほど連ねました。なんといっても圧倒的に好きなのは『Get Up With It』の中の「Rated X」と『Dark Magus』のA面なんです。特に「Rated X」は10代の頃から一番好きで今でもマスターピースであり続けている作品。強い影響を受けてます。それ以外だとリー・コニッツやギル・エヴァンスとやっているものはどれも好きで、とりわけ『Birth of The Cool』は全曲大好きな作品です。第二期黄金クインテットの60年代がすっぽり抜けちゃってますが、実際この辺りには疎くて、愛聴してきたのは、なぜか50年代と70年代って感じです。NHK-FM「ジャズ・トゥナイト」のテーマ曲の「’Round Midnight」はもちろん外すわけにはいかないのでラストに入れました。番組ではテーマ曲なんでフェイドアウトしてしまいますが、でもこの曲も細部まで暗記するほど聴いてきた大好きな作品です。

小袋成彬
経験を積んだ30代になってようやく、私はマイルスの音楽が腑に落ちてきた。アルバム制作中、ロンドンの地下鉄で『In A Silent Way』をふと聴いた時の衝撃は忘れられない。彼の革新的なアレンジや飽くなき探究心には、いつも感服する。ドラッグでブリブリの彼が奇妙な絵を描きながらテレビインタビューに答える姿を見て以来、いかなる状況においても自分らしくあろうとする彼の姿にも強く惹かれた。もし彼に直接出会えていたら圧倒されて終わった気もするが、そのアートに対する真摯さは今も私の創作意欲をかき立て続けている。

菊地成孔
どうせ10曲は無理なので、何らかの縛りが欲しいわけですが(それでも、よっぽどの曲球ーーたとえば「2度と絶対に聴かない10曲」「実は聴いたことがない10曲」とかーーだとしてもやはり10曲は無理です)、強引に、そもそものお題である「私が聴いてきた」を<私がアマチュア時代=純粋なリスナーだった時代に聴いてきた>と解釈しますと、私がプロデビューする84年までとなり、大体マイルスの「復帰=81年」と重なります。私が上京してサックス奏者になることを決めたのが83年ですので「ずっと地元のジャズ喫茶やFMのジャズ番組のエアチェックで聴いていたマイルス」は、その全てが「復帰前」であると同時に、今思えば、という奴ですが、マイルス復帰の、あの混乱と興奮と共に上京した感もあります。リストでは<56年のマラソン・セッションから82年の復帰第2作(実況盤2枚組)の『We Want Miles』まで>としていますが、それだってまあ、全然笑。

後藤雅洋
私は1967年、20歳でジャズ喫茶「いーぐる」を開店しました。多くのみなさんがご想像するような「ジャズ・ファン熱が嵩じての開店」ではまったく無く、「ジャズってなんだかカッコいい」という実に軽薄な動機でした。ですからマイルスの名前こそ知っていましたが、曲名は言わずもがな、アルバムに対する知識は0。ジャズに詳しい友人からジャズ喫茶に必要と思われるリストを作ってもらい、営業しながらそれを聴くうち、少しずつマイルスについての知識を身に着けて行ったのです。最初に理屈抜きに気に入ったのは『Four & More』収録の「So What (Live)」でした。なんといってもそのスピード感、ドライヴ感がいかにもジャズらしい。次いで今でも愛聴しているのは開店当時の新譜『Sorcerer』収録の「Prince Of Darkness」。その後彼はエレクトリック・ジャズと呼ばれるスタイルに進んでいくのですが、一番のお気に入りは一時休養直前に日本で録音された『Agharta』の「Prelude」~「Maiysha」ですね。

荘子it
マイルスはアコースティックなジャズ作品より先に、『Bitches Brew』や、『Get Up With It』などの電化マイルスから聴き始めました。ロックやクラブミュージックのドパガキ的な快楽に慣れた耳からするとそっちの方が刺激的で面白がりやすかったんです。

次第に初期のオーセンティックな作品も聴くようになって、特に『’Round About Midnight』をよく聴きました。有名なモンクの曲のオープニングの編曲もサイコーですが、2曲目の「Ah-Leu-Cha」には喰らいました。今でこそデジタル技術があるから、サンプリングしたフレーズをピッチを変えずに早回しにすることは当たり前になったけど、この当時の、「チャーリー・パーカーの曲をただ実際に速く演奏する」っていうアナログさが、捉え方によってはちょっと滑稽ですらあります。それでも尚独特のクールさを醸し出せているのが凄いです。「So What」もライブだと(スタジオ盤の『Kind of Blue』に収録のVer.と比較すると)ギャグスレスレみたいな速さで演奏してますよね。でもやっぱり、不思議と知的な品格があるんです。

マイルスはあるインタビューで、自身の音楽を「ジャズ」ではなく「Social Music(ソーシャル・ミュージック)」と呼びました。それは白人社会から押し付けられた固定的なジャンルに収まるものではなく、社会やその時代の空気から自然と湧き上がる音楽だということ。「人々の間で自然に生まれたブレイクダンス/白人社会が作り出したバレエ」の対比を用いながらマイルスが語った真意は、現代のヒップホップアーティストが「リアル」であることを何より大切にする姿勢とも通底しているように思います。ただ、そこで「リアル」や「ストリート」ではなく「ソーシャル」という言葉を使うところがマイルスらしい(当事者的な目線だけではない)俯瞰的な視点を感じさせます。

社会の過剰なスピードや猥雑さ、その濁流に飲み込まれることも、あるいは社会の外部へ周縁化されて切り離されることもなく、音楽に宿る知性によってそれを乗りこなしていく。生誕100年を機に、彼が残したそのしなやかな知性の在り方を、あらためて今、自分の指針として受け継いでいきたいです。

柳樂光隆
大学生のころ、学校の近くにあった国分寺のジャズ喫茶によく行っていた。そこでいつもかかっていたのがマイルスだった。よく流れていたのは1960年代末から1970年代初頭の音源。扉を開けると度々エレクトリック・マイルスのサウンドが鳴っていたので、僕にとってその時期のマイルスの音楽は自分から選んで聴くものではなく、その店で「流れているもの」だった。だから、今でもマイルスを聴くとその店の風景が脳内に立ち上がってくる。マイルスの音はその喫茶店の記憶とセットなのだ。とはいえ、徐々に自分でも聴くようになり、小西康陽が紹介していたから『Miles Ahead』を買い、ブラジル音楽にのめり込んだのがきっかけでエルメート・パスコアルが参加している『Live-Evil』を聴いた。挾間美帆の音楽に出会ってからはギル・エヴァンスとのコラボを積極的に聴き、ジョエル・ロスらの影響で『At the Plugged Nickel』を聴き込んだりもした。2020年代も半ばになっても何かに関心が出ると、そこからマイルスに繋がることが絶えない。僕にとってマイルスの音楽は「立ち戻る場所」のようなものなのかもしれない。

挾間美帆
「Summertime」
マイルスの演奏でいちばんアイコニックなものとして、このテイクの右に出るものはありません!「クール」を具現化した、マイルスの一番かっこいいところが凝縮されている演奏だと思います。

「Tutu」
たぶん、自分がマイルスを認識した一番最初の曲ではないかと思います。この衝撃的な曲の始まり方とクセになるベースラインに乗っかるハーマンミュートトランペットに、「これはなんだ!?」となった小学生ハザマでした。

「Boplicity」
2017年の東京JAZZで、オリジナルレコーディングメンバーであったリー・コニッツとの共演が叶った思い出の曲です。ステージ脇で演奏を聞きながら小躍りしていたリーに、舞台上でこの曲のソロをどうぞ吹いてと促した時に、少し戸惑った表情を見せたのちに堂々と楽しそうに演奏してくれた姿は、ずっと記憶に焼きついています。

「Jeru」
同じアルバムから2曲選出せざるを得ないくらい、このアルバムは自身が短いジャズ教育を受けた時期(マンハッタン音楽院にて二年間)にみっちり勉強したアルバムです。この「Jeru」の和音の並べ方を夜な夜な解析して、自分の作品に落とし込む勉強をしたのも、当時は気が遠くなる思いでしたが、今では良い思い出です。

「Once Upon a Summertime」
ルグラン流石の珠玉の作品が原曲なのも大きいのですが、ギル・エヴァンスとマイルス・デイビスがコラボレーションした作品の中では一番好きなテイクのひとつです。このふわっとしたリバーブも功を奏し、魔法の世界へ連れて行ってくれる曲です。

「Blue In Green」
ビル・エヴァンスとの共作(というかもしかしたらビル・エヴァンスの作曲)と言われていますが、マイルスのレパートリーのなかで、「曲」としてとても好きなので選びました。ビル・エヴァンスとの共演もそんなに長くないので貴重ですし… と、ここまで選びながら、私はマイルスのハーマンミュートトランペットの演奏に純粋に惹かれるのだな、と思いました。

「Milestones」
この曲も純粋に「曲」として大好きで選びました。この曲は正式にマイルスの曲なのかしら…?マイルスを挟んで登場する2人のサクソフォニストとのソロの対比も好きです。ぶっちぎりに明るいキャノンボールの音と、勢いあるコルトレーンのソロの間でフレーズを大事に抱きしめるように演奏するマイルスが素敵です。

「Footprints」
マイルスがいかにウェイン・ショーターを信頼し、共演を喜んでいたかがよくわかるアルバムだと思います。個人的には大好きなハービー・ハンコックのピアノの音に「これこれ」と嬉しくもなります。それから、一見ゆったりした曲に思えるこの作品に倍速のドラムを合わせようとするトニー・ウィリアムスの創造力にもびっくりします!

「My Ship」
ジャズ作曲家を名乗る以上、マイルスの作品というとどうしてもギル・エヴァンス作品で頭の中がいっぱいになってしまいます。この曲も、ギル独特の和音の組み合わせ方に感服してしまう曲です。スコアを写譜しても、自分では考えもつかないような音符の配置の仕方で参ってしまいます。時代を作り上げた2人のアイコンは、出会うべくして出会いコラボレーションを重ねたのだな、と思います。

「Spring Is Here」
まだジャズ勉強かけだしだった頃、この曲との出会いがビル・エヴァンスの演奏だっただけに、ビル・エヴァンスの演奏で有名なこの曲をギル・エヴァンスがお料理しているの?という混乱が第一印象だったこのトラック。美しい曲ですがギルの手にかかるととてもミステリアス。そこにまっすぐなマイルスの音が映える演奏だと思います。

平野啓一郎
マイルス・デイビスの何が素晴らしいのか。個々の名曲、名演は数知れずあるが、やはり、チャーリー・パーカーとの徒弟制度的な共演時代から最後はヒップ・ホップに至るまで、時代の最先端を切り拓き続けたその創造性をこそ讃えるべきだろう。マイルス個人の音楽史を辿ることは、そのままビ・バップ以降のジャズ史を辿ることである。しかし、振り返ってみると、オーソドックスなジャズ史にはどうにも収まりきれない、彼固有の音楽が聞こえてくる。フュージョンの源流として、マイルスを語ることには誰も異存があるまいが、では70年代のマイルスの音楽を、今、フュージョンと呼んで良いのかというと、躊躇するところがある。『Kind of Blue』は、モード・ジャズの決定的名盤だが、最早そのジャンルを超越して、独り屹立している観もある。ジャズそのものでありながら、ジャズを常に振り切ろうとしていたマイルスの軌跡が鮮烈に浮かび上がってくるような選曲を心懸けた。

BIGYUKI
自分にとってマイルスといえば 『In A Silent Way』。もちろん50年代の数々のピアニストとのコンボや、60年代の伝説的な Plugged Nickel のライブも大好きだけど、この長尺の楽曲が持つ独特の時間感覚と展開には、初めて聴いた時本当にぶっ飛ばされた。今回はそこを起点に、マイルスのエレクトリックな側面をメインにセレクトしてみました。

Yaffle
基本、エゴイストは嫌いです。面倒くさいし、自分が周りに迷惑をかけている自覚もない。そもそも、人様に迷惑をかけてはいけないという意識があるのかもよくわからない。そんな彼らの周囲の人々は熱狂し、狂乱し、愛し、やがて疲弊し、嫌悪し、離れていく——そんなサイクルを繰り返す運命です。けれども、そういうエゴイストたちが心身と引き換えに進めてきた進歩のおかげで、僕らはこの熟した芸術や娯楽を楽しめているのだとしたら、たとえ近くにそのような人がいたとしても感謝しなければいけない日が来るのかもしれません。前進は抵抗を生みますが、前進なき文化は死を待つのみです。ただひたすら人類の音楽を前進させ続けた偉大な音楽家に、末席から最大の敬意を払いつつ、特に企画者・制作者としての面にフォーカスして、極めて私的に選曲させていただきました。

マイルス・デイヴィスは生誕100周年を記念した日本独自企画として、『カインド・オブ・ブルー』と『アット・ニューポート1958 エクスパンデッド・エディション』 の2タイトルが7インチ紙ジャケット仕様の高音質CDで5月27日にリリースされることが決定している。

また、100周年プロジェクトの一環として、ソニーミュージックが運営するXアカウント「マイルス・デイビス生誕100周年日本公式」が立ち上げられている。

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