米エピック・レコードA&Rの幹部が、なぜザ・クラッシュと契約しようとしなかったのかをファンに向けて説明した手紙がこの度公開された。

この手紙は当時のA&R幹部だった故ブルース・ハリスによって書かれたもので、パンク・ファンであるポール・ドハーティから届いた手紙に対する返信として書かれたものだという。

ザ・クラッシュは1977年4月、CBSレコードよりイギリスでセルフ・タイトルのアルバムをリリースしたが、楽曲が「ラジオ向き」ではないことを理由にアメリカでの発売は見送られていた。結局、アルバムはエピック・レコードによって1979年7月にトラックリストを大幅に変更してアメリカでリリースされることになった。今回公開された文書を見る限り、発売をためらっていたことが分かる。

『デンジャラス・マインズ』のウェブサイトに投稿された今回の手紙の中でハリスは、「A&Rの判断には個人の好みだとか音楽ジャンルの嗜好はまったく関係ない」と記しており、彼の職務に関しては「自分が好きなレコードではなく、この会社に利益をもたらす可能性があるレコードを売り出すことである」と続けている。

ハリスはアルバムの質の高さ(歌詞の素晴らしさ、激しい音楽や熱を帯びたパフォーマンス)を認めているのにもかかわらず、「私の経験則に従って音楽業界のビジネスの観点からみると、ザ・クラッシュのアルバムが無惨な結果に終わるのは目に見えている」とコメントしている。

手紙の全文訳は以下の通り。

1977年11月29日

親愛なるポールへ

君がラジオとはどんなものか教えてくれたお礼に、僕は我々レコード会社の事情を少しだけ教えたいと思う。

残念ながら、A&Rの判断には個人の好みだとか音楽ジャンルの嗜好はまったく関係ないんだ。信じてくれないかもしれないが、私は個人的にザ・クラッシュの熱烈なファンだ。しかし、私には自分が好きなレコードではなく、この会社に利益をもたらす可能性があるレコードを売り出す責任がある。君が私のこういう見方をモラルに反するとか何とか言って片づけてしまうのは別に構わないが、私自身はCBSレコードからお金だけもらって全力で職務を全うしないことこそモラルに反すると考えている。ここに座って、ザ・クラッシュが好き、ザ・ヴァイブレーターズが好き、ザ・アドヴァーツが好き、ブロンディが好きと言うのは簡単だけど、それでは何もやり遂げたことにはならないんだよ。ザ・クラッシュのレコードをリリースすればアメリカの音楽市場やFMラジオ、マスコミの仕組みは変わると君は言うが、それは信じられないよ。私の経験則に従って音楽業界のビジネスの観点からみると、ザ・クラッシュのアルバムが無惨な結果に終わるのは目に見えているんだ。

それから重要なことだが、ザ・クラッシュのアルバムの質(素晴らしい歌詞、激しい音楽や熱を帯びたパフォーマンスであることは確か)が、レコードを生産するレベルに達していないというのは深刻な問題だ。彼らのライヴ・パフォーマンスはこのレコードに収録されているものより何倍もいいわけで、こんな粗末な音のアルバムを作った人の芸術性を疑わずにはいられないよ。彼らが紡ぎだすのはニュー・ウェイヴであり、ニュー・ウェイヴの音楽はこれまでと同じルールや他の音楽など真似しないからこそ、アルバムは意図的にお粗末な仕上がりになっている、というのは間違った評価の仕方だ。それはただの言い訳にすぎない。例えば、セックス・ピストルズのアルバムはまともなものになっていて、結果的にその音には説得力があり、バンドのパワーがみなぎっているんだからね。ザ・クラッシュはファースト・アルバムよりもいいレコードが作れると私は信じているし、それができるならアメリカの市場でも売り出すべきだ。

私はアメリカでパンク・ロックを根付かせることに深い関心を持っているが、その目的が果たせるのは最高の質の商品(例えばセックス・ピストルズのアルバム)だけだ。

失敗はレコード会社の責任ではない。ラジオに関しての君のコメントは確かに正しいが、もう一歩先まで考えを巡らせてみれば行く手を阻んでいるのはレコードの生産者ではなく、ラジオだということが分かるだろう。サイアー・レコードはニュー・ウェイヴのアルバムを多く出しているが、その中の曲がラジオで頻繁に流れていたり、枚数を売り上げたりすることはない。個人的な意見だが、アルバムのクオリティが低いことが原因の一つだと思う。その一方で、パンクの時代もそのうち訪れるだろう。その火付け役になるのは、これからセカンド・アルバムを出すトーキング・ヘッズか、もしくは少しずつ成長していきそうなデッド・ボーイズかもしれない。

私はザ・クラッシュがその分野ではセックス・ピストルズを抜きにすれば一番いいバンドだと信じているし、私は彼らのセカンド・アルバムの制作に深く関わっていた。フリートウッド・マックのような音楽をやってほしいなんて思ってない。アマチュアの演奏ではない、ザ・クラッシュらしい音楽を奏でてほしいんだよ。

興味を持ってくれたことは光栄だし、君の意見に賛成はできなかったけど、この先の方向性についてストリートからの君の意見を聞けたことは本当に嬉しかった。ザ・クラッシュの次のアルバムが納得できる仕上がりになって、うちの会社から発売できることを願っている。それから、君なら喜んでくれると思うが、コロムビア・レコードが来年ザ・ヴァイブレーターズの新しいアルバムを出すようだ。それから我々のレーベル、ブルー・スカイがデヴィッド・ヨハンセンのソロ・アルバムを、エピック・レコードはマスタースウィッチと呼ばれるイギリスの新しいグループのアルバムを発売する。ニュー・ウェイヴを永続的なムーヴメントにするためには、スタートが肝心だ。

それでは。
ブルース・ハリス

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