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やっと自分と音楽が近くなってこれたなっていう感覚はあるので、それは今後の時雨の音楽においても、
自分の音楽においても重要なターニング・ポイントにはなったなというのはありますね

──ドイツで最初に録られたソロの楽曲“tokio”を聴いても感じたんですけど、ドイツでレコーディングしたものは、TKさんだったり、凛として時雨というバンドだったりの素でダイレクトな部分がより出ている気がするんですよね。加工するのではなくて、録った音をそのままドンと出すというか、繊細だけど力強いそんな部分があると思うんです。

「日本の良さもあるのでなんでもかんでも向こうがいいというのは違うんですけど、向こうで録ると、自分がこっちで録っていて付加しているものとか、擬似的に足しているものとかが、やっぱり足しているものだったんだなという感覚は味わいました。向こうでは自然と引いていく、これいらないなとか、結果として音の作り方が変わっていってると思うんですよね。そもそも録り音が違っていて、これだったらダビングいらないなとか、ギター1本のほうがカッコいいなってなっていったり。ミックスでもコンプのかけ方とか、この録り音だったら生音でもいいかもしれないとか、リバーヴもいらないなとか、そういうちょっとした判断の積み重ねが、結果的にダイレクトに、ピュアになっていくんですよね。それは結果的にそうなってることが多くて、僕らは決してダイレクトな音を求めて向こうに行ったわけではないですし、ベルリンにいくとダイレクトになるって誰かから聞いたわけでもないですし(笑)、でも言われてみれば、“tokio”という曲もダイレクトだし、乾いていてファットなんですよね。ダイレクトな感じというのは自分でもすごく感じます」

──元々、TKさんの頭のなかには追い求めている肉体性みたいなものがあって、それが時雨でもソロでもより実体の肉体が追いついてきたというか、さらに先も見つめていると思うんですけど、より本質的なところに向かっているように感じました。

「どんどん中心に向かっていくにつれて、いろんなものが削がれていってますし、削がれれば削がれるほど、より筋肉質になるというか、それはもしかしたら、最初に言っていた生命力という部分とも通じるかもしれないんですよね。やっぱりそういう自分のなかにある生命力だったり、自分が自分自身に興奮する感じというか、そういう覚醒するところを求めて、内に入っていっている感じがしてるんで。でもそれを10年以上続けていると、自分の本当の核の部分に触れるっていうのが難しくなっていってるんです。それは、たぶん処女作とかファースト・アルバムとかって、そこから始まっているので、いわば一番生命力のある状態なんですよね。すべてが見たことのない景色で、生命力に満ち溢れていて、そこからポツンと何もない瓦礫の前に立たされてしまって、さっきまで見えていた自分の核の部分ってどこに行っちゃったんだろうって。そこからそれを求めて、自分のなかをどんどん掘っていって、そうして掘っていって、『これ、自分の核から出てきてるものだな』っていうのに辿り着くまでの時間がキャリアを重ねるほど、長くなっちゃっているんですよね(笑)。もう浅いところには既に見つけたものばかりが散らばっていて、『これはもうやったな』とか『これはもう見たことがあるな』とか、そこからどんどん掘っていくなかで、今回、そこへの近道としてベルリンを選んだというところもあったと思うんです。それは環境を移すことによって、自分自身を違った角度から、もう一回探し当てられるかもしれないなっていう期待も込めて環境を変えた部分もあったので、それは音色の部分も含めてなんですけど、結果的に今回すごくいい形で作品を作ることができました」

──なので、音楽を成立させるというよりは、いざ録ってみたら音楽が成立してしまう、そういう場所で凛として時雨は今音楽をやっているんじゃないか、そんな風に感じたんです。最新作があそこまでダイレクトで素になっていくと、もっと削ぎ落とせるものが多くなっていくんじゃないですか?

「ダイレクトになっていくと、やっと自分と音楽が近くなってこれたなっていう感覚はあるので、ちょっとずつ身に纏っているものを剥がしていくっていうことなのかなと思います。やっぱり裸になるのは怖かったりもするので、ゆっくりと身に纏っているものを剥がしていけることで──別に音楽が何かを纏っているからと言って、嘘をついていたわけではなくて──やっと裸に近付いてきたのかなって。だからこそまた違った音楽の伝え方もできますし、新しい武器を手に入れられた感じが今回の作品ではありました。もっと削ぎ落とせるし、逆に必要なものも足し易くなりますよね。それは今後の時雨の音楽においても、ソロの音楽においても重要なターニング・ポイントにはなったなと思っています」

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