僕たちって自覚がないんですよね。確かのものが欲しくてずっと作っているのに、
自分たちの音楽を実感する時って少ないんです
──そういう作られ方をしているからだと思うんですけど、凛として時雨の音楽って理性だけではなくて、生理というか、音楽の持つモンスター的な生命力がちゃんと楽曲のなかに封印されている感じがするんですよね。
「あまり僕たちはそこを意識してない部分が多すぎるので、そう言われると、不思議な感じがするんですよね。当たり前の感覚ですべての音を作ってるという感じなので。僕らはバラバラにすれば、すごくノーマルだったりするんですよね。あの音楽性と普段がなにかシンクロしているかというと、聴いている音楽も含めて、普段からあんな狂気的な部分というのはないですし(笑)。中野くんとか345とか、ソロをやっている時にさらにアブノーマルな部分にいっているかというと、そんなこともなかったりしていて、僕のソロもそうですよね。でも、それが集まった時に、僕も自分自身を覚醒させている部分というのはあると思うので。だから、自分のソロの音楽ってソロなんですけど、自分との距離がある気がしていて、時雨というところに戻った時のほうがさらに奥まで入り込んでいって、まだ違うな、まだ違うなって、自分のなかにある、ちょっともやもやっとした向こう側に行きたいところがあって。でも、その行き方がわからないから、すべての方法を試していくっていう。このメロディーじゃないな、この構成じゃないなとか、それがすごくポップな構成のほうがはまる時もありますし、結果的にプログレになっちゃうこともあるんですけど、最初にその楽曲に対してイメージした時にここに行きたいなっていうところが、ふと見える瞬間があるんです。そこに向かってひたすらに曲を作っていくと、ああいう楽曲になり、それがまた3人の特異なものになってるという。
だから、僕たちって自覚がないんですよね。特に2人に関しては僕が作っているものを具現化して、それをさらに3人でアウトプットしていくことに徹してくれてますし、僕は僕で、それをこの3人でやることに意味があると思っているんで。それが結果的にCDだったりライヴだったりとして具現化された時に、初めてその表情を現すっていう感じじゃないかと思っています。僕たちは特にその中にいる人間だったりするので、自分たちの音楽を実感する時って少ないんです。だからこそ、ずっと悩みながら作ってますし、確かなものが欲しくてずっと作っているのに、確かなものを感じるのは、例えばこうやってインタヴューしている時に、こういうふうなバンドですよね、こういうことを感じましたって話をされた時とか、それこそ手紙で感想をもらったときとか、そういう時しかないんです(笑)。ライヴでも、他のバンドのライヴの雰囲気とは全然違うと思うんですよね。ここで必ず盛り上がるとか、そういうのもあんまりないですし、でもそういう掴めてない部分が大きいからこそ、まだ続けていられるっていうのもあるんですけど」
──でも、観ている側としては凛として時雨のライヴって戦慄を感じますし、そういう凛として時雨の本質っていうのは、海外でも意外としっかり伝わるんじゃないかと思ってるんです。今年7月にJAPAN NIGHTでロンドンでライヴをやられていますけど、どうでしたか?
「海外は、5年前にもイギリスにショート・ツアーで行ったんですけど、その時はフェスに出て、あまり人がいないところでライヴをやったりとか、日によってはすごくいたりとか、まあこういうものだよね、という経験としての価値が大きかったですね。今ここでは盛り上がっているけど、この人たちにとっての特別な存在にはなれてないんだろうなっていう、それぐらいしか伝わってない感覚があったんですよね。定期的に行かないと動員も増えないっていうのは言われていて、それもすごくわかるなと思って、消費のされ方も速いでしょうし。特に日本語っていうところでの異物感というのも大きかったと思うので、そこをさらに超えて伝えるためには、まだまだ足りないものも大きいなって思ったんです。今回はJAPAN NIGHTというイベントに出させていただいて、前回と違っていたのは『サイコパス』というアニメでのタイアップがあったり、ソロのほうでも『東京喰種トーキョーグール』というのをやらせてもらったんですけど、そういうジャパン・アニメーションというカルチャーがまず向こうに根付いていて、そこに自分たちの世界を重ね合わせてコラボラーションという形で作品を出させていただいていたので、それが自分たちが思ってる以上に向こうで伝わっているんだなというのがありましたね。
向こうでアニメが流行っているというのはまた聞きでは聞いていたんですけど、曲が始まった瞬間にみんながなんとなく口ずさんでいたりとか、タイアップじゃない曲でもなんとなく知ってるという感じがあって、多分言葉の意味も分からず口ずさんでるのかもしれないですけど、なんかそれが今までとは違う感覚で。現地で取材をやった時にもやっぱり作品を知ってくれているという感じがあったので、そういう文化としての繋がり方は感じました。最初はそれに対して曲だけが一人歩きしてしまうとか、やっぱりアニメ寄りになってしまうのかなとか考えたりもしたんですけど、でも自分が音楽を聴き始めた時ってなんだろうなって思うと、なにかふとしたときにテレビで観たものだったり聴いたものだったりとか、出会いってやっぱりそういうところじゃないのかなと思っていて。そのきっかけから何を伝えられるかが重要で、実際にライヴをやってみて音楽の伝わり方として純粋なものを感じましたし、やっぱり前に行った時とはまったく違う感触でしたね。
もしかしたら今ちょっと繋がってるかもしれないなとか、こういう時雨という音楽を認知してくれていて、それは今のインターネット社会というのもあると思うんですけど、ちゃんと扉が開いたなというか、まだノックぐらいなのかもしれないですけど(笑)。台湾ではワンマンをできる状況になっていますし、日本だけでなく外へも伝えていきたいというのはあるんですよね。それはこう飛び出していきたいという感覚とは違っていて、今この日本にこういう音楽があるんだよっていうものを散りばめたい感じなんです。どこかで僕達の音楽に出会った人が、こういう音楽があるんだったらもっと聴いてみたいなと思ったりとか、なんかそのぐらいの感覚でいいんです。だから海外に拠点を移してとかって思っているわけじゃなくて、今回はその始まりとして今までにない実感がありましたね」
──だから洋楽的なもののために無理をするとか、そういうことではなくて、オリジナルなものとして成立している音楽があって、それをちゃんとした土台で観てもらった時にはちゃんと通じるんじゃないかという。
「やっぱり流行っている音楽とか、マーケットとかって、国によって全然違いますし、それこそCDと配信のパーセンテージが日本とアメリカでは逆なんて話も聞いたり、そうしたことを考えると、そのまま伝えるというのは難しいのかなと思うんですけど、でも日本でもポップな一面がありながらも、歪なものがあるバンドとして存在してるんだったら、向こうでも意外と違うところに入り込めるんじゃないかなという気もしていて(笑)」
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