9月2日にリリースした最新作『es or s』でバンドとして初の海外レコーディングを行った凛として時雨、レコーディングが行われたのは、かのベルリンのハンザ・スタジオだという。
普段から当サイトを見ている方のなかには、即座にいくつかの名作を思い浮かべた方もいるかもしれない。デヴィッド・ボウイのベルリン3部作や、イギー・ポップの『イディオット』『ラスト・フォー・ライフ』、U2の『アクトン・ベイビー』……。洋楽ファンにはその名が知られた数々の名作がこのスタジオでレコーディングされている。
けれど、凛として時雨は、そうした洋楽への思いを過剰に抱えてきたバンドではない。むしろ自らのJ-POPからの影響を昇華しながら独自のサウンドを築き上げてきた。では、今なぜ海外レコーディングなのか、どんな意識で今の音楽シーンを見ているのか。当サイトが主催するジーザス&メリー・チェイン来日公演の追加公演にSPECIAL GUESTとして出演することもあり、そんなことを聞きたくて、今回、TK(Vo&G)にインタヴューをさせてもらった。
取材場所となったのは、TKのプライベート・スタジオ。スタジオではキース・ジャレットのピアノ・ソロが流れていて、ゆっくりと時間が流れていた。
聴いている音楽とアウトプットする音楽がリンクしていない部分もありますし、
J-POPというものが根底にあるからこそ、アンダーグラウンドだけに位置してない
──今回、ジーザス&メリー・チェインの来日公演にSPECIAL GUESTとして出演してくださるということで、本当にありがとうございます。NME Japanというのはイギリス/UKの音楽メディアを翻訳して配信しているウェブサイトで、洋楽を中心に伝えているメディアなんですけど、まずは海外の音楽、UKの音楽で聴いてきたものがあれば、そこから教えていただけますか?
「元々、音楽を始める時はJ-POPのド真ん中にいる普通の少年だったんで、音楽の入口というのは父親の聴いていたフォークだったりとか、テレビから流れてくるJ-POPだったんです。けど、そこから高校生になった時にちょっとだけ洋楽を聴く友人が現れてきて。お前は日本の音楽聴いてんのか、みたいな、子供特有の言われ方をされて(笑)。でも、その頃身近で聴かれていたのはイギリスの音楽というより、アメリカの音楽のほうが多かった気がします。僕らの世代は、X JAPANだったり、LUNA SEAみたいな、ああいうヴィジュアル系の音楽と、Hi-STANDARDやTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTみたいな日本の少しディープなシーンの音楽と、そこから、さらにニルヴァーナとグリーン・デイを聴いている人もいるみたいな世代だったんですよね。僕はその時でもまだ、洋楽を自然に聴ける感じではまだなくて。ギターを始めていって、UKの音楽に出会ったのは大学ぐらい、それこそ凛として時雨を始めたぐらいでした。出会ったと言ってもオアシスとか、レディオヘッドとか、アイスランドですけどビョークとかの代表曲を初めて聴いた位の感じで。もちろん、オアシスという名前ぐらいは知っていたんですけど、あんまりアメリカとUKという区別もしてなかったですし。だから、バンド仲間と話していても、自分が洋楽と出会うのはかなり遅かったほうなんだなって思いますね。
世代としてドメスティックな音楽で盛り上がっていたというのもあると思うんですけど、もう少し上の世代の方たちと話していると、みんなUKの音楽と出会うのが早かったんだなという感じがしていて。だから、ちゃんと昔から聴いていたのは、ザ・ビートルズくらいで。ビートルズって凄くポップな要素を持ったロックだと思うんですけど、ポップスとしても聴ける音楽しか昔は入ってきてなかったんですよね。それで、バンドを始めて『プログレっぽいよね』とか、『ドリーム・シアターとかキング・クリムゾンとかが好きなんですか?』と言われるようになって、言われて初めて聴くという感じでした(笑)。別にプログレっぽい音楽をやろうとも思ってなかったですし、曲を作っていくなかで、自然と変化していって、結果としてプログレっぽくなっていったりという感覚だったんです。とはいえ言葉の問題もあって洋楽全体に対して、難しい音楽という漠然とした印象があったんですよね、だから、昔はなぜかセリーヌ・ディオンのCDをジャケ買いしたりとか、そのぐらいの普通の高校生だったんで(笑)。なので、いまだに聴いている音楽とアウトプットする音楽がリンクしていない部分もありますし、それでもやっぱりJ-POPというものが根底にあるからこそ、凛として時雨というものがそれこそアンダーグラウンドだけに位置してないというのはあるのかなと思うんです」
──日本のロックの歴史を見ると、やっぱり洋楽のバンドのスタイルだったり方法論を取り入れたりアレンジすることによって発展してきた部分もあると思うんです。でも、凛として時雨が面白いのは、聴いてきたものはJ-POPで、特定のスタイルを意識することもなかったわけですけど、いざ自分たちがアウトプットとして出すと、ああいう音楽が出来てしまうという点で、生理的な部分でオルタナティヴというか、元来オルタナティヴなバンドじゃないかと思ったんですよね。
「グランジっぽくしてみようかとか、特定のスタイルを真似してみるのは多分できると思うんですけど、そういうことをやろうとすると、『あれ、本当に自分がやりたいことって何だったけな?』というところに、完成する前に行き着いてしまって。例えば曲を作るときに、いつもコンセプトというものがないんですけど、『じゃあ、こういうのやってみようかな』って進めようとすると、どこかで無理が出てきてしまうんですよね。本当に自分の奥底から湧き上がっている音楽なのかなとか、自分を完全に真っ白にした時に生まれる音楽って本当にこれなのかな、というところに途中でぶつかってしまって。コンセプトとしてオマージュみたいなことが、あんまりうまくできなくて。そういうことを継承して、ちゃんと新しい音楽に繋げていくバンドって多いじゃないですか。それはそれですごいなと思いますし、音楽ってやっぱりそうやって繋がっていくだと思っているんで。でも、狙ってやっているわけじゃないんですけど、自分のなかでできることを突き詰めていくと、やっぱり今の形になるんです。なので、どこからも影響を受けてないんですか、って言われると、すべてから影響を受けてますという感じではありますし、日本のロックも聴いてきましたし、後になって洋楽も聴いたりしたので、様々なものからは影響を受けていると思うんですけど、それこそ周りから見ると、あんまり繋がってないんですよね。だから、どこからも影響を受けてないというよりは、全部の音楽が自分のなかで昇華されていて、濾過されてるんだとは思うんですけど、全くリンクしてない(笑)というような感じみたいですね」
──特定のスタイルの影響というのは、あんまり見受けられないバンドですよね、凛として時雨って。
「例えば、僕がJ-POPが根底にあったり、中野くんがX JAPANとかスリップノットが好きとか、そういう部分部分のパーツとしてはあるのかもしれないですけど、あんまり、時雨が好きだったら、これも好きだよねっていう紐付けとかはしづらいかもしれないですね。唯一9mm(Parabellum Bullet)は同じ世代のオルタナ・バンドとしては分類されますし、刺激し合いながら一緒にやってきましたが、そういうバンドはなかなか少なくて、基本はどこに居ても浮きます(笑)」
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