Zackery Michael

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『トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ』には、冒頭の歌詞と同じくらい率直で直接的な歌詞が所々に散りばめられている。アレックス・ターナーは“Science Fiction”の中で自身の制作過程について歌っている。「平和と愛について簡潔に主張したい。ただしさりげなくセクシーなやり方で……君が赤面するような曲を書こうとした。だけどたぶん、才気が鼻についた挙句に嫌われて、すべてが終わるような気がしてる。SFによくあるように」。アレックス・ターナーが自身の周囲を取り囲むように築き上げた月のホテルという架空の建造物の装飾がなければ、このアルバムは紛れもない告白的な自伝的作品にもなりえたことだろう。

「その装飾品のおかげで、こういう風になれたとも言えるんじゃないかな」とアレックス・ターナーは指摘すると、自分が今口にした内容にその場で笑い出すこととなった。「俺はそっちの世界に足を踏み入れたってことだよね? 俺がそっちに足を踏み入れたのは、世界はSFの物語でできてるっていうアイディアによって、この現実世界に根ざしたものを探求することができるということに興味が出てきたんだよね」

そうした枠組を使わなければ見つけられなかったようなものなのだろうか?

「不可能に近いね」とアレックス・ターナーは同意している。

そんな主題の一つが、彼自身の欠陥についてであり、決して癒えない傷のように彼が気にし続けていることについてだ。アレックス・ターナーは「説明できないことや、できれば説明しなくてもいいこと」について歌い、アルバムは次のような歌詞で幕を閉じている。「やってはならないことを僕はいくつかしてしまった。それでも、君への愛が止んだことは一度もない」。アレックス・ターナーは、愛や欲望についての楽曲よりもむしろ、後悔についての楽曲を書くことに傾倒していったのだろうか?

「意地悪な人だな!」と質問に彼は笑い出した。当然、彼には特定のことに傾倒するつもりなどないようだが、愛について歌うのは止めようと考えたらしい。「おそらく、ラスト・シャドウ・パペッツのアルバムの“Sweet Dreas, TN”で当分は最後にしとこうとかって思ったんだよね」とアレックス・ターナーは語っている。「ラヴレターでしかないわけでさ、これ以上どの程度までディテイルに入っていけるんだろうって思ったんだ。それに、友達からこうも言われてね。『少しそれを止めたらどうだい?』ってね。どちらにせよ、自分でもそういう結論に辿り着いていただろうけどさ」

SFはアレックス・ターナーに内省的な視点を与えただけでなく、現代の生活について書く余地も与えている。本作のベスト・トラックの1つである“Four Out Of Five”には、月にある大型ホテルの屋上にオープンした「情報と行動の比率」という奇妙な名前のタコス料理店が登場する。「情報と行動の比率」という言葉は、ニール・ポストマンが著した1985年の『愉しみながら死んでいく – 思考停止をもたらすテレビの恐怖』からアレックス・ターナーが拝借した言葉で、同著はファーザー・ジョン・ミスティが2017年にリリースした『ピュア・コメディ』の“Total Entertainment Forever”にも大きな影響を与えている。アレックス・ターナーはタコス料理店の名前について、嬉しい偶然だったと振り返る。ドラマーのマット・ヘルダースとのバック・ヴォーカルの録音中にタコス料理店の歌詞を歌っていた時に、偶然その言葉を思いついたのだという。

「もちろんのことながら、それは何かの名前を暗示しているんだ」とアレックス・ターナーは説明している。「それにしても、月の大型ホテルの屋上にあるタコス料理店には素晴らしすぎる名前だよね! 思うにみんなが興味を持っているのは、なぜ僕がそのフレーズに魅了されたかということだろう? あのフレーズを気に入っている理由の一つとしては、それを見れば誰もがすぐに言葉の意味するところが分かるっていうことなんだ」

「情報と行動の比率」とはニール・ポストマンによって提唱された言葉で、情報社会の到来によって情報がエンタテインメント化したことで、何が必要で何が不必要かという基準が提示されることなく情報が流入してきてしまうという状況のことである。言葉を変えれば、24時間にわたって更新され続けるニュース記事やツイッターのタイムライン、コンスタントに表示されるスマートフォンのアップデート情報に悩まされているのはあなた1人ではないということだ。

「その通りだよ」とアレックス・ターナーは語っている。「音声学的にも魅力的だと俺は思うんだ」

アレックス・ターナーはこれらの異質なアイディアたちを『トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ』に集結させると、ドラマーのマット・ヘルダース、ギタリストのジェイミー・クック、ベーシストのニック・オマリー、プロデューサーのジェームス・フォードを招集してバンドを呼び寄せている。彼らはロサンゼルスのヴォックス・スタジオを引き払い、ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズが『スケルトン・ツリー』をレコーディングしたことでも知られる、北フランスにある19世紀の邸宅兼スタジオであるラ・フレットでレコーディングを行なっている。そこでは、彼らのツアー・キーボーディストのトム・ロウリー、テーム・インパラのキャム・エイブリー、クラクソンズのジェイムス・ライトン、ミニ・マンションズのザック・ドーズとタイラー・アークフォード、ドラマーのローレン・ハンフリーが5人に加わっている。同じ部屋で演奏した彼らは、ビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』のセッションをレコーディングし、ディオンの『ボーン・トゥ・ビー・ウィズ・ユー』とレナード・コーエンの『ある女たらしの死』というアレックス・ターナーのお気に入りのアルバムで聴くことができるフィル・スペクターの「ウォール・オブ・サウンド」に耳を傾けた。「それらのレコーディング・セッションをイメージしてもらえれば、すごくエキサイティングだってことが分かるはずだよ」とアレックス・ターナーは語っている。「第一に僕がそれらのアルバムが大好きだっていうのがあって、自分のアルバムもそういうものにしたかったんだ」

一方でヴォーカルに関しては、他の場所ではアルバムにふさわしいものを録ることができないという理由で、アレックス・ターナーが1人で家でヴィンテージものの8トラックのタスカム388を使ってレコーディングしたものになっているという。

ある意味では、その手法はアルバムに適したものとなっている。『トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ』には、引きこもりのロックスターによるナレーションに聴こえるような曲が詰まっている。“One Point Perspetive”で彼はパンツ一丁で踊り回り、彼が踊りを止めるのは、いつも彼に考えていることを忘れさせる「Mr.ウィンター・ワンダーランド」という人物に気を取られた時だけだ。デヴィッド・ボウイの“Space Oddity”やエルトン・ジョンの“Rocket Man”と同様、表向きは宇宙飛行についての楽曲なのだが、名声の宿命ともいえる孤立を描写するメタファーとしても使われているのだ。

『トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ』における点と点が繋がるのは、アルバムのアイディアを私たちの置かれている状況と照らし合わせた時だ。昨今の私たちはといえば、それぞれが自分の殻の中で当惑しながら生活し、外界からスクリーンに注ぎ込まれる情報の川にも無感動になってしまっている。私たちが心の拠り所にするのは、あまりに軽率なものたちだ。「誰もがはしけ船に乗り、止めどなく垂れ流される素晴らしいテレビの川を下っている」とアレックス・ターナーは“Star Treatment”で歌っている。今では欲しいものが何だってオンデマンドで手に入る。「ボタンを押してくれたら、あとはこちらが引き受けよう」。コダックが1888年の広告で使ったスローガンは“The World’s First Ever Monster Truck Front Flip”で新たな目的が与えられており、今あなたがこの記事を読んでいるデバイスにダウンロードされている、あらゆるアプリにも当てはまるものとなっている。アレックス・ターナーが伝えたいのは、2018年において、ボタン一つで手に入れたエンタテインメント片手にそれぞれ殻に閉じこもり、ボタン一つで簡単に欲求が満たされたところで幸せになる訳ではないということに気が付いてしまった私たちが、次第に孤独なロックスターのようになりつつあるということなのだろうか?

「君が言ったことに反論する術はなさそうだな」とアレックス・ターナーはようやく口を開くと、悩ましげに言葉を繋ぐように話しだした。「反論はないな。アルバムで言っていないことと関連するようなことを言いたいんだけどさ。当然、君が言ったようなことになるんだろうね。確かにそうなんだ」

ミュージック・ビデオ

リリース詳細


Arctic Monkeys-Tranquility Base Hotel + Casino (jake-sya)(HSE-1339)

アーティスト : Arctic Monkeys(アークティック・モンキーズ)
タイトル : Tranquility Base Hotel & Casino(トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ)
レーベル : Domino / Hostess
品番 : HSE-1339
発売日: 2018/5/11(金) 世界同時発売
価格: 2,500円+税
※歌詞対訳、ライナーノーツ(妹沢奈美 / 田中宗一郎)付
1. Star Treatment
2. One Point Perspective
3. American Sports
4. Tranquility Base Hotel & Casino
5. Golden Trunks
6. Four Out Of Five
7. The World’s First Ever Monster
Truck Front Flip
8. Science Fiction
9. She Looks Like Fun
10. Batphone
11. The Ultracheese

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