Dean Chalkley / NME

Photo: Dean Chalkley / NME

カサビアンの新作『フォー・クライング・アウト・ラウド』は、原始的なギター・ロックの幸福感に満ちあふれている。このアルバムは、私たちの生きる混沌とした時代、そして彼ら自身の混沌とした時期に対するパーティー・アルバムだ。「俺たちは、自分たちの感情については曲にしてこなかった」とサージ・ピッツォーノとトム・ミーガンは『NME』に語っている。「でも、今回のアルバムはすべて俺たち自身のことを歌ったんだ」

2017年、イギリス。国は将来への不安によって分断されている。そんな中、イングランド中部のとある場所では、4人の仲間が楽しい時間を過ごそうとしていた。カサビアンの新作『フォー・クライング・アウト・ラウド』は、純粋な生への欲望に駆り立てられた、ギタリストでありソングライターであるサージ・ピッツォーノによってたった6週間で書き上げられたアルバムである。

「この手のものは一切使いたくなかったんだよね」と、サージ・ピッツォーノは「The Sergery(注:『手術室』の意の『Surgery』と自身の名前『Serge』を掛けている)」と名付けられた巨大な自宅スタジオの壁に並べられたシンセサイザーやサンプラーを演奏する身振りをした。「実はまたギターと恋に落ちたんだ。ギターこそ、俺が使いたいものだった」。美しい春のある日に、36歳になったサージ・ピッツォーノはレスター郊外の田舎にある自宅でゆったりとくつろいでいる。小規模な会場をまわる、骨の折れるようなツアーが迫りくる中で、そんなことを気にするそぶりもない。カサビアンを取り巻く状況は、もう彼らでは手に負えないのだ。

2014年に前作『48:13』をリリースしてからバンドはいくつかの高みを経験することになる。彼らにとって4度目となる1位を獲得した前作は、バンドを夢のようなロック・レイヴとなった、同年のグラストンベリー・フェスティバルでのヘッドライナーの座に導いている。その後、2016年の春にレスター・シティがプレミア・リーグで奇跡的な優勝を果たすと、カサビアンは地元であるレスターのヴィクトリア・パークで行われた盛大な祝賀会で中心的な役割を務めている。サージ・ピッツォーノは結婚も経験した。「人生で最高の1年だったよ」と彼は明言する。

それから1週間が経った頃、ロンドンのとあるホテルの一室ではサージ・ピッツォーノのバンドメイトであるトム・ミーガンが意気揚々と話をしていた。目を大きく見開き、時速160キロでまくし立てるトム・ミーガンが口を止めたのは、トーク番組「ジェレミー・カイル・ショー」で喧嘩が始まったためにテレビの音量をゼロにした時だけだった。「ジェズ(ジェレミーの愛称)は好きだよ。嫌いじゃない」。前夜に出演した英BBCの「ジュールズ倶楽部」でのパフォーマンスの興奮はまだ冷めていないようだ。「俺たちは新曲の“Ill Ray (The King)”を演奏したんだ」と彼は語る。「“Take you all fuckers and blow you away/お前らクソ野郎たちを、全員ぶっ飛ばしてやるよ!”って叫ぶのは最高の気分だね。これこそ紛れもないロックンロールのアナーキーさ」

サージ・ピッツォーノと同じく36歳であるトム・ミーガンの2016年は、サージ・ピッツォーノほど素晴らしい年ではなかった。自身の子供の母親でもあるガールフレンドと離別し、トム・ミーガンは「もやの中」に取り残された。絶望の淵から彼を戻すためには、サージ・ピッツォーノが『フォー・クライング・アウト・ラウド』のために書いた、幸福感あふれる楽曲たちが必要だったのだ。「多分、俺はこのアルバムに命を救われたんだ」とトム・ミーガンは認めている。

2017年4月18日のケンティッシュのO2フォーラムにまで話を進めよう。バンドは、彼らの人気曲の中から17曲を演奏した。一息つけたのは、アンコールまでの束の間だけである。“Comeback Kid”がうなりを上げ、“Eez-eh”が優しく解き放たれる。グラムロックを彷彿とさせる“Shoot The Runner”、そして既に根強い人気を得ている“You’re In Love With A Psycho”が演奏されると、バンドと観客は一体となった。ギミックも仕掛けも何もない。無限の力を持った人間の賛歌である。そして、それこそがカサビアンの存在意義なのだ。

サージ・ピッツォーノ

Dean Chalkley / NME

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これまでに6枚のアルバムをリリースしていますが、いまだに人々はカサビアンのことを誤解していると思いますか?

「いいや。特にファースト・アルバムを出した後の、『ラッド・ロック』ってのは笑えたよね。タンジェリン・ドリームもシルバー・アップルズも、そこにはいなかっただろ。俺たちはそういう批評は気にしないで、面白いと捉えるようにしたんだ。過小評価されることは実際悪くないんだよ。自分たちの助けになる。思いもよらない動きをとった時に、それがより効果のあるものになるんだよ。薄っぺらい奴らだと周りに思われてると、何かをやった時に『こんなこともできるなんて、知らなかったよ』ってなるわけさ」

“Put Your Life On It”は、そのような意外性がある曲のように感じられます。正統派のラヴソングですよね。

「この曲では、まさしく俺の妻について感じるままに歌ってるんだ。ある意味、丸裸にされた気分だけど、心地がいいんだよ。ジョン・レノンが、(1980年に発表した、オノ・ヨーコと楽曲を交互に収録したダブル・アルバムである)『ダブル・ファンタジー』の制作についてのインタヴューで、『僕は感じるままに歌う』と語っていてね。俺も試しにやってみたってわけさ。これまでにはなかったソングライティングのアイデアでさ、今まで書いたことがないような曲になったよ」

別離を経験したトムにとっては、2016年は苦しい年となりましたね。この「フィール・グッド」なアルバムは、トムへの贈り物にしようという意味合いもあったのですか?

「スタジオに入って、陰気くさくて痛々しいアルバムを作る、なんてことは俺には想像がつかないことなんだ。きっとつらいだろうね。『どうしたら救いになるか』とは俺は考えなかったよ。ただトムにとって『このバンドが俺の居場所だし、今回の曲は全部エキサイティングだ』って思うことが救いになったってだけじゃないかな」

1曲目の“Ill Ray (The King)”は、アルバムの方向性をはっきりと示していますね。

「もしダフト・パンクの2人がニルヴァーナのメンバーだったら、なんてことを想像させる曲だよね。ロックバンドとしてのパワーをフルスロットルで出しながらも、多幸感を誘うんだ。1992年にコヴェントリーの原っぱで開かれたレイヴにいるような気分になるしね。カサビアンを完璧に総括したような曲だよ」

非常に挑発的であるような気もするのですが……。

「そうだね、その通りだよ。まさに挑発的な曲だ。『お前のバンドの名前は何だっけ?』なんていう歌詞も含まれてるしね。これは、俺が仲のいい友人に新曲を聴かせる時に、いつも彼の耳元で『お前のバンドの名前は何だっけ?』って囁いていたことから来ていてね。毎回それがウケて大笑いしてたから、いつか使いたいなと思っていたんだ。ものすごくバカバカしくて、生意気な表現だよね。Tシャツにプリントしてもクールだろうなって思うよ」

昨今のロック・ミュージックには、あまりそういった生意気さというものがありませんよね?

「人をためらいなく挑発するっていう点で、俺はヒップホップ大好きでね。ケンドリック・ラマーが“Control”のヴァースで、『お前ら覚悟してろ』って感じに他のラッパーたちを名指しで挑発しているようにさ。そんなことはロック・ミュージックの世界では決して見られなかったことだよね。でも、俺たちはそれと同じことをやってのけたんだ。大勢のオーディエンスを前にしてステージに立ち、『お前のバンドの名前は何だっけ?』『お前、ホテルの石鹸の匂いがするぜ』なんてフレーズを歌うのは、最高に気持ちがいいね」

それはギター・ミュージック全般に向けた挑発なのでしょうか?

「みんなを挑発してるのさ。バンドだけじゃなくて、俳優とか、問題のある奴ら全員だよ。『お前のバンドの名前は何だっけ?』って俺は笑うんだ。それらは全てエンターテインメントの一部なんだよ」

トム・ミーガン

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2016年はご自身にとって大変な年だったということですが、今回のアルバムはそのような状況から抜け出す助けにはなりましたか?

「サージに言ったんだ。『もっと前にこのアルバムを作れてたらよかったのにな』ってね。俺も含めたメンバー全員が、居心地がいいと思えてるんだ」

つまり今回のアルバムは、ご自身にとって最も必要な時にもたらされたものだと?

「生まれ変わったような気分だね。アルバムを出すたびに同じことを言ってるけど、今作は最高の出来だよ。文句なしにさ。サージも同意見だと思うよ。サージには『いい曲を書いて、めちゃくちゃロックンロールなアルバムを作ろうぜ』って言っていたんだ」

そういった意欲を持つことには大きな意味があったと思います。カサビアンは常に、ギャングのような強い結束力を持っているように見えますね。

「俺たちはギャングなんだよ。結成してからもう20年になるしね。それって素晴らしいことだよ。俺とサージはずっと、ロック・バンドをやりたいと思ってたわけでね。『まあ、うまくいかなかったら別のキャリアに進めばいいさ』なんてことは考えもしなかったよ。全力も尽くさないまま、結局は大学に行って他の道に進むようなバンドもあるよね。でも、俺たちはまさしくギャングだったんだよ。そして20年経った今でもバンドは続いてて、こうしてザ・ランドマーク・ロンドンで6作目のアルバムについて『NME』に語ってるんだ」

自分たちは生き残れたんだな、と感じますか?

「同じようなレベルで今でも生き残ってるのは俺たちとアークティック・モンキーズだけだね。彼らは素晴らしいよ。カイザー・チーフスもそこに加えておこうかな。俺たちがデビューした2004年には、フランツ・フェルディナンドやレイザーライト、キングス・オブ・レオン、ザ・ホロウェイズ、パディントンズ、ザ・マッカビーズもいて、ザ・リバティーンズはちょうど解散する頃だった。めちゃくちゃいい時代だったね。22歳だった俺たちの周りには、素晴らしい音楽があふれてた。バンドのリヴァイヴァルが起きて、ロックの音楽誌もたくさんあったし、インディもロックンロールも最高にクールだった。俺たちはそんな時代をくぐり抜けてきたんだよ」

つまり今回のアルバムは、「見たかクソ野郎ども、俺たちはまだここにいるぜ、聴いてみやがれ」と世界に向かって盛大に突きつける作品であると?

「俺が言いたいことを、そっくりそのまま言ってくれたね。その通りだよ。このアルバムはすごく感情的で、同時に自叙伝みたいな作品でもある。俺たちは普段、自分たちの世界に人を入らせないんだ。自分たちのそういった感情は、他人には触れさせないようにしてる。人を食いものにしようとする略奪者について歌ったり、『科学者のジョンはLSDにハマってた』とか『白状するよ、お前が欲しい』とか歌ってるのが普段の俺たちなわけでね。自分たちの感情については曲にしてこなかった。でも、今回のアルバムはすべて俺たち自身のことを歌ったんだ。俺たちのパーソナルな人生をのぞき込める窓って感じだね。サイボーグみたいなアルバムだった(2014年発表の)『48:13』に比べると、今回のアルバムはすごく人間的だよ」

リリース詳細

Kasabian-ForCryingOutLoud
カサビアン
ニュー・アルバム『フォー・クライング・アウト・ラウド』
国内盤CD
2017年5月10日(水)発売

初回生産限定盤(2CD) 2,800円+税 SICP-5316~5317
初回仕様限定盤(1CD) 2,200円+税 SICP-5318
国内盤のみボーナス・トラック5曲収録
DISC 1
01. イル・レイ (ザ・キング)
02. ユア・イン・ラヴ・ウィズ・ア・サイコ
03. トゥエンティフォーセヴン
04. グッド・ファイト
05. ウェイステッド
06. カムバック・キッド
07. ザ・パーティー・ネヴァー・エンズ
08. アー・ユー・ルッキング・フォー・アクション?
09. オール・スルー・ザ・ナイト
10. シックスティーン・ブロックス
11. ブレス・ディス・アシッド・ハウス
12. プット・ユア・ライフ・オン・イット
13. トゥエンティーフォーセヴン(ホーム・デモ)※
14. ユア・イン・ラヴ・ウィズ・ア・サイコ(ホーム・デモ) ※
15. ウェイステッド(ホーム・デモ) ※
16. ブレス・ディス・アシッド・ハウス(ホーム・デモ) ※
17. プット・ユア・ライフ・オン・イット(ホーム・デモ) ※
※=日本盤アルバム限定ボーナス・トラック

DISC 2 :ライヴ・アット・キング・パワー・スタジアム– (初回生産限定盤/配信デラックス・エディション)
01. アンダードッグ
02. バンブルビー
03. シュート・ザ・ランナー
04. イージー
05. ファスト・フューズ
06. デイズ・アー・フォーガットゥン
07. I.D.
08. ブリティッシュ・リージョン
09. ドーベルマン/テイク・エイム
10. プット・ユア・ライフ・オン・イット
11. スタントマン
12. L.S.F.
13. スティーヴィー
14. ヴラッド・ジ・インペイラー
15. ファイア

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