Kai Z Feng

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クイッフだった髪形を変え、ベースボールキャップの下からカールを覗かせたブルーノ・マーズは、こちらが席についてもいないうちに、自身のサード・アルバムをどう思うかについて尋ねてきた。どんな音響設備を使って、どこで聴いたのか、どの曲が一番好きか、ミキシングの出来はどうかなどを彼は知りたがっていた。

その理由の一つは、この時点では『24K・マジック』を聴いた人はほとんどいなかったからだ。新作のコピーは世界に1つしかなく、それが入ったiPod touchも私が聴き終わると、すぐに彼のレコード会社本社の金庫へと戻された。しかし、彼がいくつも質問をしてきた大きな理由は、彼が完璧主義者であり、また人々を喜ばせることを果たしてきた人間だからである。最後の数週間まで細部にわたってこだわり続けたアルバムが、やっと世界中で発売されることにワクワクし、人々に愛される作品になることを願っていたのだ。

「僕はバカみたいなことを心配してしまうんだ。例えば『僕がドラゴンについて何かおかしなことを言ったら、みんなダンスフロアから下りてしまうかな?』なんてね」と彼は言う。

「自分としては、これ以上のアルバムはできないよ。こうして座って話している2016年の今現在はね。1年も経たないうちに、またここに座って『僕の次のアルバムは今までで最高さ』って言いたくないか?と訊かれたら、もちろん言いたい。でも、今はこのアルバムだ。これが僕のベストなんだ」

もちろん、このアルバムには固有の期待が積み重なっていた。なぜなら、発売前の当時、ブルーノ・マーズがフィーチャリングで参加した曲がまだ事切れる前にこのアルバムは到着することになったからだ。セカンド・アルバム『アンオーソドックス・ジュークボックス』の発売から4年が経っていたにもかかわらず、彼がそれほど長く離れていた感覚はまったくなかった。2014年11月に“Uptown Funk”がリリースされて、あのようなことが起こり、その結果、ゲスト・シンガーである彼は至る所に姿を現すことになった。2015年2月にはグラミー賞の授賞式、今年2月にはスーパーボウルのハーフタイム・ショウに2度目の出演を果たし、コールドプレイとビヨンセという2組からショウを盗んでみせた。

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最近では“Uptown Funk”の盗作疑惑で1980年代に活動していたバンド、コラージュに訴えられるという裁判沙汰も起きている。そのため、彼はこの件について話すことは許されていないが、当然のことながら、この騒動は彼の音楽に、ある程度の影響を及ぼしている。

「僕らは“24K Magic”(アルバムのタイトル曲で、リード・シングル)を、“Uptown Funk”が1位だった時に作ったんだ」と彼は語る。「だから、もしあの曲と同じようなスピリットを“24K Magic”から感じたら、そういう経緯があるからさ。“24K Magic”の制作中は、いつも“Uptown Funk”が脳裏に浮かんでいた。あの曲が“24K Magic”へと導いてくれたんだ。まさに架け橋だね」

“Uptown Funk”のスピリットは、確かに『24K・マジック』へと受け継がれている。2曲のバラード“Versace On The Floor”と“Too Good To Say Goodbye”を除いては、『24K・マジック』は徹底したパーティー・アルバムである。わずか35分で全9曲となっている。「9曲でみんなの心をつかめなければ、19曲でも無理だからね!」とブルーノ・マーズはその理由を語っている。また、このアルバムは、彼の青春を彩った音楽にも明らかに影響を受けている。すなわち1990年代のR&Bである。

その影響によって、このアルバムの曲で歌われているのはすべてセックス、セックス、そしてセックスについてである。“Chunky”では「大きな輪っかのイヤリングをした女の子を探している」と歌っている。「夜に火の隣でセックスするのが好きなんだ」と歌う“That’s What I Like”や「君のお尻を祝うべきさ」と歌う“Straight Up And Down”。また“Calling All My Lovelies(「美女を全員、呼ぼう」の意味)”や手練手管を意味する“Finesse”も同様である。

それを指摘すると、「その通りさ!」とブルーノ・マーズは笑う。「僕にとっては、音楽の95パーセントは愛についての歌だよ。だから、原始人は、みんなを火の周りに集めてセクシーな気持ちにさせるために、石を打ち続けたんだ。それとまったく同じ原理だよ。みんなをダンスフロアに集めて女の子たちを笑顔にするためなんだ」

「それが僕の子供時代で、僕が音楽に恋をした理由だよ」と彼は続ける。「そういった1990年代の曲は、僕が学校で女の子と付き合うために歌っていた曲や、女の子たちが好きだった曲、それに子供の時に踊っていた曲なんだ。ニュー・エディション、ボーイズ II メン、ブラックストリート、ミント・コンディション、ベイビーフェイス、ジャム&ルイス、テディ・ライリーとかね。どうしてこういう音楽が僕の心に響くかというと、踊る口実になったからさ。踊ることがクールだったし、楽しんだり、ど派手な服を着たりするのがカッコよかったんだ。おかげでダンスフロアで恋に落ちたり、笑ったり、ナンパしたりできたよ」

彼はまた、コラボレーターのジェイムス・フォントルロイから聞いたエピソードについて語ってくれた。「ジェイムスがグラミー賞か何かのアフター・パーティーにいた時のことだ。みんなが壁に引っ付いていて、冷めて頑なだった。女の子たちは写真を自撮りしてアップしていた。少し張り詰めた雰囲気だったんだ。でも、DJがギャップ・バンドの“Outstanding”を流すと、ジェイムスは突然今まで見たこともない光景を目にしたらしい。みんながダンスフロアに押し寄せて、男たちは女の子たちの手を握ったり、歌いかけたりしだした。僕はこのエピソードに刺激を受けたし、自分がやりたいことや、作りたい音楽っていうのを思い出すことができたんだ」

ブルーノ・マーズは、いわゆる普通のポップ・スターではないと言っていいだろう。カニエ・ウェストと同じく、ブルーノ・マーズは自身のスタートのために、他のアーティストの音楽に必死で取り組まなくてはならなかった。様々なアーティストと仕事をし、シーロー・グリーンの“F**k You”も共作している。

2010年まで、彼はB.o.B.(ビー・オー・ビー)の“Nothin’ On You”や、トラヴィー・マッコイの“Billionaire”など、いくつかの爆発的ヒット・シングルにゲスト・ヴォーカルとして参加していた。そして、そんな彼らのスリップストリームを利用して、すぐにソロ活動をスタートさせ、“Just The Way You Are”、“Grenade”、そしてデビュー・アルバム『ドゥー・ワップス&フーリガンズ』をリリースしている。その後は勢いが止まらず、“Uptown Funk”だって、単に彼が生み出し続けるメガ・ヒット曲の最新曲にすぎない。

しかし、現代ポップ・ミュージックで一大現象を巻き起こした人物として、彼が他のアーティストと異なる点は、プリンスのように様々な楽器を弾きこなす音楽家としての面と(「“Locked Out Of Heaven”でギターを弾いていたのは僕なんだ。“When I Was Your Man”でピアノを弾いていたのも僕だし、“Uptown Funk”でドラムを叩いたのは僕なんだよ」と語っている)、古風ともいえる、ジェームス・ブラウンに影響された完璧主義者としての性質(「僕がここに座っているのは彼のおかげさ」)の両方を兼ね備えていることだ。

例えば彼は、「Xファクター」で最近彼が行ったパフォーマンスに狙いを定めた非難などによって深く傷ついていた。「僕らが口パクをしたっていう記事を読んだ」と彼は語る。「あれは……そうだな、僕や僕の音楽については何だって好きなことを言ったり、ジョークを飛ばしたりしてもいいけど、僕にとってあれは、なんて言うか、かなり侮辱された気分になるよ。なぜなら、どれだけ熱心に僕らがリハーサルをするか、みんなは知らないからね。あれを見て、打ちのめされたよ。『彼らは何を見ているんだ? 何を言ってるんだ!?』ってね。あり得ないね! 僕は口パクなんてしたことない。たとえ65度の熱があったって、ステージに立って生声で歌うさ。それが僕らの信念だし、僕らの仕事だよ」

おそらくブルーノ・マーズがニュー・アルバムについて「すべてが僕」と語る理由がそこにある。スクリレックスがいくつかの楽曲を手伝った(「どうしてもスクリレックスとアルバムを作りたかったんだ。彼はコンピューターで決定的なサウンドを生み出すと僕は感じているからね」)という話も出たし、彼のスタジオからミッシー・エリオットが写真を投稿したこともあるが(「彼女はただ顔を出しに来ただけさ。つるんだだけだよ」)、最終的に作業にあたっていたのは彼と彼のバンドだけだった(「10年来の仲間たちだよ」)。これもまた、彼の楽曲が、完成までに長い時間が掛かる理由の一つだろう。

Kai Z Feng

Photo: Kai Z Feng

「僕はコンピューターなんてものの使い方さえ分からないのさ!」と、彼独特の骨の折れる制作過程を笑いながら語る。「素晴らしいものを生み出すプロデューサー陣はいるよ。でも、それぞれの曲をやりぬくのは僕の作業だ。僕は楽器に触れていないとアイデアが出ない。ギターに触れたり、ドラムマシンに触れたり、ピアノを弾いていないと、曲がわいてこないのさ。曲の中に入り込む必要があるんだ、全面的にね」

このエレクトロニックというよりオーガニックなアプローチは、このアルバムで最も素晴らしい曲の一つである“Perm”に最も顕著に表れており、この曲は2016年という時代にジェームス・ブラウンのショウを占拠してしまったというくらい素晴らしい楽曲となっている。バンドが、それも偉大なバンドが部屋で生演奏しているようなサウンドを響かせている。しかし、ブルーノ・マーズは、アルバムに収録されたすべての曲は、最もエレクトロニックな曲であれ、R&Bの恩恵を受けた曲であれ、「テスト」をパスさせなければならなかった、と主張している。

「実際に楽器を手にして、心をとらえて離さないような楽曲に仕上がっているかどうかを確認したよ。すべての曲をテストした。“24k Magic”は最も厳しかったけれど、ライヴ・ルームのテストをパスしなければならなかったし、実際パスできた。実際に演奏してみたら、すぐに何が起こったのか分かったよ」と語った。

“Perm”にある一節では「インスタグラムもツイッターも忘れろ」とリスナーに呼び掛けており、ここでも、集中力の続かない昨今の風潮に反した活動をする、古風なエンタテイナーぶりを発揮している。このような彼の姿勢はレコーディングや、よく練習を積んだライヴ・バンドを率いる時に見られる。往々にしてシングルにしか関心が寄せられないことがあるこの世界において、彼は「このアルバムを映画のようにしたかったんだ」と語る。

そして、さらに素晴らしいのは、彼のアルバムのフィジカルCD(そもそもCDとは何か覚えているだろうか?)のジャケットで、彼が誇らしげにiPhoneで見せたデザインは、まるで1990年代のアルバムのようにベーシックなフォントでトラックのタイトルが表示されているだけであった。「僕はこうしたタイトルにも懸命に取り組んだんだ。それが君たちに届けるものなんだよ!」ジャスティン・ビーバーやリアーナがそういった細かいディテールにより多くの労力を割くというのは想像しがたいことだろう。

彼はアートワークにまつわるこんな裏話もしてくれた。「気に入ってくれただろ? あれは様々なところからインスピレーションを受けたよ。オーデコロンの広告っぽくしたかったんだ。麝香のオーデコロンの広告風にね。それから、“24k Magic”のミュージック・ビデオで僕が乗っていた車があるだろ、あれはキャデラックのコンバーチブル、1995年型『アランテ』だ。1990年代は、キャデラックがランボルギーニやフェラーリなどの外国産の車に対抗する方針を模索している時期で、彼らは形状を少し変更しだした。言いにくいけど、彼らは方針を定められなかった。問題を解決できなかったんだ。でも、それでこのヴァイブが生まれた。ある種のヴァイブだ。ブートレグゆえの贅沢感とでも言えるかな。僕はそこに美しさを見いだしたんだ。あのパッケージングで登場すれば、『この車を運転している奴が着ているのは何だ? 一張羅のヤバいシルクを着ているぞ! ショートパンツも超オシャレだと思っているんだろう!』ってなる。そんな奴が運転しているのさ。そういえば、あの車、買ったんだよ。絶対に手に入れたかったんだ」

そう、彼は自分の演奏中には人々にインスタグラムやツイッターを忘れてもらいたいのだ。「ショウでは最初の曲の後にそう言うよ」と彼は述べている。「みんなに伝えようとするんだ。『カメラを下ろしてくれ!』ってね。僕が音楽をずっとやりたいと思っていた理由は、マイクを持つことに恋い焦がれて、コンサートを指揮したかったからだ。そして、その反応を見ること……それがアートだよ! 会場を感じることがアートなんだ。僕らが夢中になっているのは、観客に忘れられない夜を与えるパワーを持った時の、この言葉にできない感情だよ」

「でも、携帯電話が僕の行く手に壁を作ったんだ。『なあ、全然顔が見えないよ。君たちが笑っているのかも分からないし、撮影中に動かないように気を取られていたら踊れないじゃないか』って僕は感じてる。これっておかしな闘いだね。だって、観客には自分のショウを観にきてもらっているわけだから、文句は言えないんだ。それでも約束するよ。みんなが携帯電話を下ろしてくれたら、僕は何かを与えてあげられる」

これらはすべて古くさい信条かもしれないが、ブルーノ・マーズの前では、これが現代社会において実現していないとは言い切れないはずだ。

インタヴューが終盤に差し掛かると、彼はあるテレビ番組のために準備をしはじめた。そこで、注目を一身に浴び、カメラに囲まれながら自分自身と自分の音楽について話すことは嫌でないか尋ねてみた。回答は大変彼らしいものだった。

「僕にとっては単に……アルバムを聴いてくれって感じだね!」彼は笑顔で答える。「誤解しないでくれよ、僕や僕の音楽について話したいと人々が思ってくれるのは素晴らしいことだ。でも、僕からすれば『アルバムを聴いてくれ、そうすればすべて分かるよ』ってだけなんだ。それが僕だ。それが僕の現在地点だよ。それ以上うまく説明できるかは自分でも分からないな」

アルバムのダウンロードやストリーミングはこちらから。

リリースの詳細は以下の通り。

ブルーノ・マーズ / BRUNO MARS
タイトル:『24K・マジック』 (読み:トゥエンティフォー・カラット・マジック)
発売日:11月18日(金)
規格番号:WPCR-17559   
価格:¥1,980+税
1. 24K Magic / 24K・マジック
2. Chunky / チャンキー
3. Perm / パーマ
4. That’s What I Like / ザッツ・ホワット・アイ・ライク
5. Versace On The Floor / ヴェルサーチ・オン・ザ・フロア
6. Straight Up & Down / ストレイト・アップ・アンド・ダウン
7. Calling All My Lovelies / コ-リング・オール・マイ・ラヴリーズ
8. Finesse / フィネス
9. Too Good To Say Goodbye / トゥー・グッド・トゥ・セイ・グッバイ(さよならは言えなくて)

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