
Photo: Tom Jackson
『NME』がジャーヴィス・コッカーに会うことができた時、パルプはBBCで放送される特別番組の収録とUKアリーナ・ツアーに向けた最後のリハーサルの真っ最中だった。こうした慌ただしい動きも、あることを祝福するためだ。パルプは24年ぶりとなるアルバム『モア』で大いなる復活を果たすことになった。再び「パルプマニア」の渦中に巻き込まれるのはどんな感じなのだろうか?
「それはちょっと大袈裟過ぎると思うけどね」とジャーヴィス・コッカーは笑う。「いいことだよ。アルバムを作るというのは個人的なものを表現するということだからね。それだけで素晴らしいことだけど、レコードになるというのは、願わくばみんなに気に入ってもらって、人々の生活の一部になるということだからね」
インディを愛する人々の感情のDNAに深く刻まれたパルプの音楽はポップ・カルチャーにおいてもインディ・ディスコのダンスフロアで今日まで永遠に輝きを放っている。それは今もアクリル製の午後(“Acrylic Afternoons”)や出来損ない(“Mis-shapes”)の悲喜こもごものサウンドトラックとなっているのだ。
2001年発表の通算7作目のアルバム『ウィ・ラヴ・ライフ』の後、パルプは何のドラマもなく、活動休止に至ることになったわけだが、再結成ツアーはその後の年代において見事に喜びをもたらしてみせた。しかし、2013年にリリースされた単発のシングル“‘After You”を除けば、気乗りのしない、かつてのブリットポップのチャンピオンからフル・アルバムがリリースされるというのはあまりにも高望みのように思えた。
しかし、そこから新曲がセットリストに入ってくるようになった。「ツアーのサウンドチェックで取り組むものがあるというのはよかった。ただ、そこから聴いたこともない人たちに演奏してみると、気に入ってもらえたかどうか分かってくる。そこで自分のアティテュードが変わることになったんだよね。やってみて楽しかったし、『1曲できるんなら、どうしてもっとやってみないんだ?』という考えになっていったんだ」
新たな楽曲はツアーでファンの熱狂と共に初披露され、勢いを増していくことになった。2023年に愛されたベーシストのスティーブ・マッキーが亡くなったことは悲しい出来事だったが、それがさらに衝動を生むことになった。「彼を亡くしたことは大きな痛手だった」とジャーヴィス・コッカーは語っている。「少なからず彼が亡くなったことで死生観や人生でやりたいことについて考えることになったんだけど、それが創作の刺激になった。なぜなら、自分たちがまだそれを成し得る立場にあったからだよね」
――パルプの復帰作を作っていることは自分でも分かっていたのですか?
「頭の中ではアルバムを作ってもいいかもしれないと思っていたんだけど、それを言うことでみんなを怖がらせたくなかったんだ。ここ2枚のパルプのアルバムはすごく時間がかかったからね。主に自分の優柔不断さのせいだったんだけどね。アルバムを作るのに人生の2年間が失われることになるというストレスをみんなにかけたくなかったんだよ。だから、僕としても成長して、先に歌詞やなんかを書いて、全体のプロセスをスピードアップさせることにしたんだよ」
「それはバンドの初期、レコード契約も何もなかった頃に戻った感じだった。このアルバムを作る理由は何もなかった。誰かに頼まれたわけでもない。でも、単に『いい曲があるのに、なんでレコーディングしないんだ?』と思ったんだよ」
――長い年月を経て、そうした人たちと創作の現場に戻ってきた時、一緒にいる空間での化学反応とはどのようなものでしたか?
「やり始めてみたら驚くほどすぐにうまくいったんだ。他の人と音楽を演奏する時って、不自然に近い距離感で関係性を作らなきゃいけなかったりするけど、お互い何も言わなくていい。誰もコントロールしていない一つの有機体になる。それは素晴らしい雰囲気なんだ。一人ではできないものを生み出せるんだよ」
――“Spike Island”には「I was born to perform, it’s a calling(パフォーマンスするために生まれてきた。それは天職だ)」という一節がありますが、直近のツアーはまさにその通りだと思いました。
「もう一度そう思えるようになるまで、かなりの歳月が必要だった。90年代後半に人気を獲得した時、よく知られている通り、それを楽しめなかったんだよ。というのも、自分たちのやっていることをコントロールできていないようなところがあった。ビジネス的な状況になってしまったんだよね。つまるところ、大して手に職があるわけでもないしさ。叫び声を上げたり、指をさしたり、ステージで飛び跳ねているだけだからね。でも、ステージにいると大きな喜びが生まれるんだよ。自分と聴いてくれている人たちの間には壁がない。日々の生活では行けないところに連れて行ってくれるんだよ」
――パルプは成長していくバンドだと思いますか?
「願わくば、そう思いたいね。今回のアルバムで嬉しいのはそこなんだ。言ってみれば、ある年代の人間が作ったアルバムだということが分かるはずだ。ずっと曲を書いてきて、言っているのは同じことだ。でも、人生の違う時期に少し違った視点でそれを見ているんだよ」
「歳を取るのは後ろ向きなこともたくさんあるけど、いいことの一つは自分を理解して、そのことで悩んだり、理想の自分を演じようとしたりしないで済むことなんだよ」
――“My Sex”は『モア』でも突出した曲ですよね。30年前に書いていたかもしれない曲と較べて、セクシャリティの面でこの曲で伝えたかったのはどんなことなのでしょう?
「女性がセクシャリティについて語るのを聞いてきたことで、自分のセクシャリティに対するアティテュードも形成されていったところがあることに気づいたんだ。ヘテロセクシャルの男性として恋愛の駆け引きに臨むにあたって、男性とはどういうものかを学ぼうとしながら、自分のやっていることを女性の考えで頭では捉えるというのは、おかしな感じでね。正直、本当に混乱したよ」
――自分を「マッチョ」だと思ったことはありませんか?
「『マッチョ』という概念は自分には分からないんだよね。僕が『マッチョ』な人物ではないことはみんなに理解してもらえていると思うし、この年齢になってそうなるとも思えないしね」
――ジムには通っているんですか?
「ああ、通っているよ。今朝も行ってきた」
――筋トレか、それとも有酸素運動ですか?
「ピラティスみたいなやつだね。実際のところはね」
――パルプが若い世代の観客を再び獲得していることについてはどう思っていますか?
「自分が本当に幼い頃からポップ・ミュージックに夢中だったからかもしれないね。世界についてそこから学んできた。自分の曲を書き始めたのは、自分自身の恋愛関係を築こうとした時期と重なっていた。恋愛がラヴ・ソングみたいなものではないことに気付かされた。ポップ・ソングで描かれる愛の表現に少し騙されたような気分になった」
「それがパルプの作詞家として私が試みたものの青写真になった。ラヴ・ソングの歌詞を書くわけだけど、もっと自分の思ったことを書こうと思った。それは変わらない。それが若い世代がパルプの曲を聴く理由なんじゃないかな。思春期の時にコンセプトを思いついたからね。いまだに音楽の持つ意味を探している。娯楽に過ぎないという人もいるけど、自分にとってはずっとそれ以上のものだったんだ」
――あなたたちをはじめ、オアシスやスーパーグラス、スウェードなど、ブリットポップ・ルネッサンス・サマーとも言える様相になっています。なぜあの時代が渇望されるのだと思いますか?
「ブリットポップという言葉はずっと嫌いだったんだ。自分から進んでその言葉と結びつこうとするようなことはなかった。インディ・バンドがメインストリームのシーンに波を起こし始めたという定義がなされる前は面白い時代だった。革命が起こるかもしれないと思っていた。もし人々が再びそのような感覚を抱いているなら――自分ならではのものを作り出して、それが注目を集めるということがあるのであれば、それはいいことだよ思うよ。アティテュードが戻ってくるなら楽しみだよ。それは『ブリットポップ』なんていう言葉じゃない。ひどい言葉だよね」
――オアシスの再結成公演ではお会いできますか?
「ゲストリストに入れてくれるなら、彼らのやっていることは観たいよね」
――今回、『モア』がリリースされましたが、さらにアルバムがリリースされることはあるでしょうか? あなたが再び活動に戻ってきた中でさらにパルプのアルバムはリリースされるでしょうか?
「おそらくね。今回のアルバムはコンセプトをもうけたり、『これが最後のアルバムだ』とかって考えないようにしたんだ。昔はそういうことをいろいろ考えていた。アルバムのミックスをやって、完成した時、『今、死んでもいい。これでいいんだ』と思いたいというような、おかしなことを考えていた。それって人生の考え方としてはひどいよね。今回のアルバムではそういうことは考えなかった。中のスリーヴに『これが自分たちにできる精一杯だ』と書かれているけど、人生のどの時点でも精一杯やっているんだよ。できれば24年後ではなく、数年後に言いたいことがあればと思うよ」
リリース情報
label: Beat Records / Rough Trade Records
artist: Pulp
title: More
release date: 2025.06.06.
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14909
01. Spike Island
02. Tina
03. Grown Ups
04. Slow Jam
05. Farmers Market
06. My Sex
07. Got To Have Love
08. Background Noise
09. Partial Eclipse
10. The Hymn of the North
11. A Sunset
12. Open Strings (Bonus Track for Japan)
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