DEAN CHALKLEY/NME

Photo: DEAN CHALKLEY/NME

これまで、リチャード・アシュクロフトが幽体離脱の話やイエス・キリストの気持ちをメディアに饒舌に話すと、彼は「マッド・リチャード」というニックネームで呼ばれてきた。2007年のザ・ヴァーヴの再結成を頓挫させたと言われる彼の曖昧な態度や、2006年の昼下がりにチッペナムにあるユース・クラブに「だらしない」格好で現れ、その場にいた少年に10,000ポンドを渡そうとした挙句、自分と一緒に曲を作る機会を与えて、結局逮捕されたことがあったせいで、そのニックネームはまだ残っている。しかし、他にも大勢いる痛烈なロックンロールの真実を求める人々と同じく、リチャード・アシュクロフトは疑似スピリチュアルなロックのイカレ野郎として片づけられてしまっているだけなのだ。だからこそ、自称「明確な思考を持つ男」は、オルタナティヴな視点を持つためにあらゆるニュース記事を読み、重要な世界の出来事に関してはメディアから「餌を与えられるだけ」の語り手にはなりたくないという意志を持つことになった。そのおかげで、アルバム『ジーズ・ピープル』は現代の、とても深いリアルな問題を浮き彫りにしている。拷問を受けた夜、野蛮な暴動、亡くした友人、メディアの嘘、抑圧的な政府、世界の不寛容さ:もしかしたらこれがティンダー(※位置情報による出合い系アプリ)上でのつながりを壊さずに、文明が崩壊していく現状を表現した唯一のアルバムかもしれない。

「一時期の問題ではなく、俺らはとんでもない時代に暮らしているということについて書いているんだ」とリチャード・アシュクロフトは説明する。「非常に好戦的な戦争が引き起こされてきていて、民衆の運動もそれによって準革命的なものになってきている。(エジプトの)タハリール広場(2011年のエジプト革命の中心となった場所)がそうだよね。すべてが地球規模でスタートしてしまい、人々は分断されてしまったんだ。唐辛子スプレーや催涙ガスがあらゆるところで使われている」

「シリアやウクライナと関係あろうとなかろうと、この国の国民はバカみたいに扱われてる。俺たちはもう政治プロセスなんて信じない。『パンチとジュディ』民主主義(※首相質問での壮絶なやりとり)も信じない。左派/右派どちらのパラダイムもね。俺は活動家じゃない。これは政治的な発言ではないんだけど、ここ最近事実として世に出ている話の上っ面を引っかいてみると、俺たちは同じく操られてるってことに気付くと思う。だから、このアルバムの収録曲の最初の歌詞は『Don’t go looking for your Watergate(君にとってのウォーターゲート事件なんか探すな)』なんだ。この事件をもとに内部告発者がハリウッド映画を作ったこともあった。今じゃ、大々的に政治や企業の不正を公表しようとしたら逃げ隠れしなくちゃならない」

リチャード・アシュクロフトと世界の悲惨な様子を議論していると、アイディアという竜巻の渦の中に立っている気分になる。適当な発言を取ってみても筋が通っているのだが、それはすべて、傲慢な意識の流れが起こす、目まいのするような大混乱と共に駆け巡っているようだ。シリア、政治上の隠蔽行為、国民保健サービス、「でっち上げのニュース」、ビッグ・ファーマ(製薬会社)、ネットの釣り行為……「ラジオ・アシュクロフト」にチャンネルを合わせて問題を解いてみてはどうだろう。

「人々には多大なプレッシャーがかかっている。特に若い医師にね」と彼は語る。「問題は頂点に達している。詐欺行為が溢れかえっている。現実でないところに何かをしたって崩れ落ちるだけだ。人々はファンタジーと言われてきたであろう物事に対処している。映画の一部だった狂気が現実になったんだ。俺たちは地球の反対側で起きた地震の3秒後にはもう別の地震のニュースを聞いている。世界中の悲しみに共感しようとしなくていいんだ。ただ自分たちの民族を理解してほしい」

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