DEAN CHALKLEY/NME

Photo: DEAN CHALKLEY/NME

祈祷師のような雰囲気を持つリチャード・アシュクロフトは、1990年代を代表する最も成功したバンドの一つであるザ・ヴァーヴのフロントマンを務めていた。その後、ソロへ転向し、さらにその後は姿を消してしまった。しかし、6年に及ぶ孤独を経て彼は帰ってきた。彼は興奮している。マーク・バーモントがその姿を目撃してきた。

ロック・スターがソロになって姿を消したら、どこかの人里離れたヤクの密売小屋に立てこもっているか、高級なセレブ用リハビリ施設で衰弱しきってるか、もしくは絶滅の危機に瀕した虫を救うために世界中を旅してるかだ。リチャード・アシュクロフトのように通信手段を断絶する人はほとんどいないだろう。

「俺は4年間携帯を持っていなかった」と、“Bitter Sweet Symphony”の作曲者であり、1000万枚以上の売上を記録したザ・ヴァーヴのアルバム『アーバン・ヒムス』の歌い手であり、ロック界の永遠の謎とされる男はこう打ち明ける。「俺は携帯の奴隷になってたんだよ」と彼は話す。「なぜあのモバイル機器を使っちゃうのかって何度も考えたよ。何かしようとしていたのか、それとも無意識の行動なのかってね」

不評だった(しかしとても興味深い)ラップとロックの要素が混ざった2010年発表の4作目のソロアルバム『ユナイテッド・ネイションズ・オブ・サウンド』のツアーを止めて以来、ソロのアコースティック・ライヴは数えるほどしか行っておらず、本格的なインタヴューを受けるのも6年ぶりとなっている。しかし、リチャード・アシュクロフトはオオカミが狩りをするかのように野生から飛び出してきた。ウエスト・ロンドンにあるフォト・スタジオに到着した時、彼はまるでロビー活動から戻ってきたようだった。坊主頭にサングラスをかけ、ゴツゴツした体にスカーフを巻き、まるでようやく沈黙の誓いを破ったかのごとく、啓発された僧侶のように話し始めた。

彼は、レコーディング中にヨーゼフ・フリッツルのアイディアをもとに行った、自らを監禁状態に置くという行為からついに抜け出したのだ。昔のザ・ヴァーヴの楽曲の断片に現代的なエレクトロニックの要素を織り交ぜた素晴らしい出来栄えのニュー・アルバム『ジーズ・ピープル』を、過去6年の間に自宅の地下にあるスタジオで一気に完成させたという。その6年の間、彼は「父親になり、犬と一緒に普通らしい生活を送り、学校を走りまわっていた」そうだ。携帯電話という余計なものを排除し、彼は「新しい、けれど古いキーボード」の修理にとりかかり、新たな技術を学び、『アーバン・ヒムス』に見られる繰り返しのメロディ主義を再構築しようとした。「あらゆるスタジオが閉鎖していく中、レコード・セールスは大打撃を受けたよね。業界全体が変わりつつある。どうしたら超最高の楽曲を作ることができるか再評価しなければいけない」と彼は説明している。「だから、(アルバム収録曲の)“Out Of My Body”は、“A Song For The Lovers”や“Bitter Sweet Symphony”に似てるんだ。昔に立ち返ったんだよ。現代のテクノロジーと古いものを用いてちゃんと伝統的なスタイルの楽曲に仕上げ、これまでに聴いたことがないような作品にしたんだ」

「I feel like I’m number one again, like I’m born again.(再びナンバーワンになった気分だ、生まれ変わったかのように)」という歌詞がタイトル・トラックに出てくる。これは復帰作と言えるのだろうか?

「なんて言うか、嵐をくぐり抜けてきた後の気分に似ている。俺はそういう暗い境遇から抜け出せられなかった友人を失っているんだ」

アルバム『ユナイテッド・ネイションズ・オブ・サウンド』を酷評された時はがっかりしましたか?

「後ろ盾となるバンドがいなくなると、槍玉に挙げられる。弱いってみなされるからね。とてもダーウィン的な考えだと思うが。かつてバンドに所属していた奴がソロになると、まるで脚がおぼつかない小鹿のように思われるんだ。実際のところ、今の俺は強いんだけどね。『アーバン・ヒムス』の時代、ザ・ヴァーヴには絶対的な力みたいなのがあって、突然裸の王様になったようなものさ。そこから離れれば、たちまち餌食にされる。俺は根に持つタイプじゃないけど、ここ数年で一線を超えてきた奴らが何人かいたね」

その後どうなったんです?

「冗談めかしてこう言ったよ。『次に会った時は気を付けろよ。あんたの名前を頭に刻みこんだし、いつか見つけてやるからな』って。何年か前のライヴのレヴューの投稿で、次に俺のことをバーで見かけたら、瓶を投げてやるって脅してきた奴がいてね。そいつは運悪く、俺に見つかっちまったんだ。でも、そいつは俺みたいな奴を無駄に脅そうとすべきじゃないってことを俺に会って理解したよ。クリス・マーティンなら脅せるかもしれないけど、俺は止めとけってね。嫌悪とかネガティヴな感情は、俺にとってのエネルギー源だ。俺のことを批判する奴らには悪いけど、不満げに汗を書きながらネガティヴな記事を書いたって、俺の船の帆にとれば追い風なんだ」

音楽業界に信念はなくなったと思いますか?

「そうだな、信念などまったくない。素晴らしくて健全なイギリスのオルタナティヴ・ミュージックを作ろうとする代わりに、自分たち自身をだまくらかして、人々を裏切ってるんだ。左を向けば、サイモン・コーウェルがいて、右には俺たちみたいなものがあって、メインストリームは俺たちのカルチャーを消費してるんだよ」

しかし、オアシスと肩を並べる『アーバン・ヒムス』のモンスター級の成功は、オルタナティヴ・ミュージックを主流にするのに一役買っているのではないですか?

「俺たちはうまくやった方だ。オーディション番組のコンテストの勝者は欲しいだけのソングライターを部屋に抱えることができるんだ。でも、ノエル・ギャラガーの素晴らしい楽曲をリアムが歌うようなサウンドができるわけがないし、“Live Forever”のような曲に到達できるわけがない。(ザ・ヴァーヴ)の“Lucky Man”だってできるわけがないんだ。俺たちはそれをやってるんだよ」

現在の溢れんばかりのシンガー・ソングライターに責任は感じていますか?

「どちらかといえばニール・ヤングに非があるんじゃないかね。空っぽのアンセムを歌わなきゃならないとしたら、そんなのご免だね。今のスタジアム・ロックのほとんどは照明係が曲を作ってるみたいだ。でも、今じゃ、テクノロジーのおかげで小さなレコード会社を持つこともできるし、アートワークも自分で作れる時代なんだから若いソングライターにとっては素晴らしい時代でもある。そんな才能に任せておけば、この国には常にすごいミュージシャンがいることになるよ」

ノエル・ギャラガーが最近あなたとアルバムを作ることに興味があると話していましたが、やるつもりはありますか?

「ノエルがそんなことを言ってくれたなんて素晴らしい褒め言葉だな。将来は何が起こるかわからないからね。数年前にそんなことが起こってればと思うね。俺たちと軋轢があった奴らについても、振り返ってみて、幸運を願ってるんだ。(パルプのフロントマンである)ジャーヴィス・コッカーのラジオを聴いていても、いい感じなんだよね。彼はあの当時からカルチャーに対して旗を振ってるんだ。俺たちは止まってないんだよ」

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