『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』を作る過程で、ケンドリック・ラマーは黒人文化を代表する人物や政治的指導者、例えば彼のヒーローである2パック、マーカス・ガーベイ、ヒューイ・P・ニュートン、そしてネルソン・マンデラといった人物からも大きく影響を受けた。南アフリカのツアーでは、ネルソン・マンデラがアパルトヘイトで幽閉されていたロベン島を訪問した。こうしたすべての経験が大きく影響を及ぼしているのかもしれない。
「学校の先生は、いつもアフリカを地獄のように扱っていた」と語る。「絶対に行って欲しくないみたいなね。だけど俺はそこに行ってそこに住む美しい人々と出会った。子供たちはテントに住んでいるけれど、それでも顔には笑顔が溢れていた。そして、彼らはまったく違うもう一つの世界を持っている。それは背後にある美しい景色で、そこはまさに楽園だ。そんなこと誰も学校では教えてくれなかった。俺はそこに行ったことでまったく違った世界観を持つようになった、本当に新鮮だったんだ」
多分、この旅行がこのアルバムの個々の楽曲をもっと個性づけたのかもしれない。“i”では、Nワードをそのルーツを探ることによりプライドの資源として得ようとした。「これは、エチオピアからの直接の説明なんだ/N-E-G-U-Sの定義だ。忠誠、王、忠誠ー待てよ/N-E-G-U-Sの定義/黒人の工程、王、支配者、説明をおらわせて/歴史の本にはこんな言葉があるのにそれを隠そうとした」。伝説のコメディアンのリチャード・プライヤーはアルバムの中でも名前が挙げられているが、一度彼はケニアでの人生が変わるような経験をして、そこで彼は人々の品位や不屈の精神を間の当たりにし、二度と自分のショーの中ではNワードを利用するのを辞めると誓ったと書いている。しかし、ケンドリックは彼の現キャリアにおいてライヴなどで、Nワードを使用しないことは行き過ぎたことだと考えている。
「止めらるかどうかはわからない」と彼は語る。「止めるのに最も近いことをしているのは、アルバムの中でルーツの言葉のnegusを代わりに入れていることかもしれない。だけど、俺は心理的にNワードを止めるなんて言えない。だけど多分、いつかは止めるかも。もう振り返ると27年間、以上その言葉を使っているよ、なんてたって俺は多分1歳の時からNワードを連発していたかもしれないからね」
このとき、79分の激しい感情の浄化である『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』の経験は、まるでガイコツがいっぱいに並ぶ食器棚の中に閉じ込められ、そこから抜け出るために必死になっているようなものだ。しかし、このアルバムは単に個人の経験だけを描いたものでは終わらない。著名な評論家のロバート・クリストガウの批評では、「強く、勇敢で、効果的であり、ヒップホップをアフリカ系アメリカ人のCNNのように回復させた」と述べている。流弁に語ることで、徐々に怒りを溢れさせ、今、アメリカにいるアフリカ系のコミュニティの気分をそのまま表してみせる。“The Blacker The Berry”では、黒人の市民が『オーライ』と言っているにもかかわらず、警察に殺害されたという多くの人の怒りを買っている事件を取り上げ、警察の暴力をより一般的な見解で歌っている。「俺たちはポリスが大嫌いさ/奴らはいつでも俺たちをストリートで見れば殺そうとする」
ケンドリック・ラマーとの対話を始める前に、政治についてのインタヴューはNGだと言われていたが、それは最近変わったことだと思わざるをえなかった。スウェーデンのジャーナリストであるMats Nileskär(ケンドリック・ラマーは、Mats Nileskärが2パックをインタヴューする音声をアルバムの最後にサンプリングしている)は、これらの曲はアメリカの新興公民権運動のサウンドトラックとして利用すれば効果が倍にあがるだろうと語っている。作者が何か言いたいことがあっても当然ではないだろうか?
「政治の話はなしだ!」と、インタビューの間、今まで後ろで静かに待ち構えていたケンドリック・ラマーのマネージャーが政治の話を持ち出そうとした途端に吠えた。「ケンドリックはアルバムのプロモーションのためにここにいるんだ」
筆者は「しかし、アルバム自体が政治色が強いじゃないか!」と唾を飛ばして抗議した。「それはちょっとおかしくない…?」と。
しかし、マネージャーが「政治の話はなし!」とこれが最後の回答だとでも言わんばかりに言い放った。
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