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メジャー・サード・アルバム『上出来』を12月15日にリリースしたtricotのインタヴューをお送りする。イギリスの『NME』は2014年からtricotに注目してきており、バンドもこれまでに何度も海外ツアーを実施してきた。メジャー・ファースト・アルバム『真っ黒』の直後に新型コロナウイルスの感染拡大が始まり、活動をペースダウンせざるを得ないところもあったが、新たなアルバムを完成させて、2022年3月から4月にかけては現時点でヨーロッパ・ツアーを行う予定となっている。バンドのキャリアを振り返りながら、話を聞かせてもらった。

――メジャー・ファースト・アルバム『真っ黒』をリリースした直後に新型コロナウイルスの感染拡大が始まったわけですけど、ああした事態というのはどのように受け止めましたか?

中嶋イッキュウ「『真っ黒』を出して、ツアー中に蔓延してしまって、自粛モードに入ってしまってライヴもダメですとなったので、最後の2本だけできないという感じでツアーが終わったんですけど。急遽最終日だけ、配信で無観客でやらしてもらって。無観客で配信ライヴするということも今までなかったんで、すごい変な感じはしましたね。寂しい感じもしました。でも逆に、コロナがなかったら感じられなかったようなこととか、有り難みは、その後の自粛期間だったりとか、10年間ライヴができないということがなかったので、ライヴができるということはすごい有り難いことなんだということは感じました。お客さんがいてこそのバンドなんやな、というのを改めて感じる機会になりました」

吉田雄介「広がった経緯とか、発生理由とかは一市民としてはわからないですけど、結局ここまでなってしまった以上はその付き合い方が大事なのかなと。仮に10年先、20年先続いてしまったとしても、終わったとしても、ライヴの仕方にしても、楽曲の内容にしても付き合い方を今から考えておくのはどちらにしても大事かなと。フェスがなくなったり、ライヴが思うようにできない中で、今までと同じ曲をやってても伝わらない部分もあると思います。そういう環境の中で生まれてくる曲、インターネットを通すことで生まれる曲もあるだろうし、例えばその声も出せなくて、動けなくて、マスクしている状態で聴くライヴで生まれる曲もあるだろうし。それはまだちょっと誰も見え切れてはないと思うんですけど。tricotなりの付き合い方は大事だと僕は感じていますね。完全になくならない可能性もあるわけじゃないですか。こんなことになると誰も思ってなかったので。災害とかもそうですけど、命のこと以外にも音楽活動とか芸術に関しても備えといろんな考え方が必要だなっていう風には思いました」

――もともと軽音部で音楽をやられていたtricotですけど、聴いていた洋楽というのはありますか?

中嶋イッキュウ「私とギターのキダが同じ高校の軽音楽部に所属していたんですけど。その軽音楽部の顧問というか、先生がすごい洋楽を勧めてくる先生で。私は、JUDY AND MARYとかをやりたかったんですけど、ベン・E・キングの“Stand by Me”を全員やらないといけないっていう。そこからイーグルスとか、ザ・ビートルズとかそういうのをやると先生が喜ぶというか、私はザ・ビートルズばっかりをやるバンドを組んだりとかしてたんで。そこから、結果、ザ・ビートルズがすごい好きになって、よく聴いたりしてました」

キダ モティフォ「私もイーグルスを聴くようになって。そこから色々洋楽を知るきっかけにはなりましたね」

――2010年9月にtricotを結成されると思うんですが、その時に考えていた目指すバンド像というのはどういうものだったんですか?

中嶋イッキュウ「私は、tricotを組む1個前のバンドでも変拍子とかを結構使うバンドに所属してたんですよね。その時のメンバーが聴いていた音楽が、9mm Parabellum Bulletとか、凛として時雨とか、school food punishment っていう、それまで私が知ってたJ-POPとかじゃない、すごい謎のバンドみたいなのがかっこいいと思っていたんで。tricot組んだ時は、9mm Parabellum Bulletとかみたいに尖った形で売れて、フェスとか出たいなとぼんやり思ってました」

――2014年には『NME』で取り上げられて、翌年には米『ローリング・ストーン』誌に取り上げられたりしていますが、これはどういった経緯だったんですか?

キダ モティフォ「突然、イギリスのBBCが流してくれたみたいで、曲を。そこからヨーロッパのフェスのオファーが来たりしたのがきっかけなのかなとは思ってるんですけど」

中嶋イッキュウ「“おちゃんせんすぅす”っていう曲があるんですけど、そのミュージック・ビデオを出した時ぐらいから、その曲が向こうで流れたりし始めて。歌詞もあるようでないような曲なんで、伝わりやすかったというか。それがきっかけだったのかなと思っています」

――2014年とか、2015年の頃って結構J-POPと洋楽の距離が離れていった時期という印象があるんですけど、そういう空気はなかったですか?

中嶋イッキュウ「私は逆に、近くなってる感じがしたというか。海外の方から好かれているというか、コメント欄とかも英語がバーって書いてたりとか、アラビア語とか、ちょっと読めないような言語とか、コメントが来ているのを見て、世界が近くなったんやなと感じてました、その時は。洋楽邦楽にかかわらずですけど。どの世界からもアクセスできる、どの曲にもアクアセスできる時代になっているんだなと感じました」

――ソーシャルメディアやYouTube、ストリーミングというツールが普及したことによって、まったく障害なくアクセスできるもんね。まさにtricotはその力を受けていたという感じなんですか。

中嶋イッキュウ「感じてました。すごいなーと思ってました」

――それで海外にツアーに行くことになるわけですが、実際どんな受け止められ方だったんですか?

中嶋イッキュウ「アジア・ツアーが一番最初で、その時はすごいウェルカムというか。特にフィリピンがやばかったですよね」

ヒロミ・ヒロヒロ「確かに。みんな日本語ですごい歌ってくれて。曲も覚えてくれて。大スターみたいな歓迎でした」

中嶋イッキュウ「入りの段階から柵の向こう側でおっきいフラッグ見たいのをみんなで持って。tricot!みたいな。日本語で歌ってくれるし。向こうでファンクラブみたいなチームを作ってくれてたりして。宣伝してくれたり」

ヒロミ・ヒロヒロ「メキシコにもあるよな、ファンクラブ。なぜかメキシコはすごい熱烈で」

中嶋イッキュウ「そうですね。そういう文化なのかな、迎える時の。わからないですけど、メキシコとフィリピンは特別すごいですね。どこもあったかいし、どこも歌ってくれたりはするんですけど。熱烈というか。自分が外タレやん!と思って(笑)」

――その後、ヨーロッパにも行くようになるわけですけど、海外ツアーで記憶に残っているエピソードなんかありましたら教えていただけますか。

中嶋イッキュウ「一番はやっぱりメキシコから帰ってこられなかったやつじゃないですかね。アメリカからメキシコに入るのに車で入ったんですけど、メキシコ人の方が運転してくださってたんで、スタンプいらんってなって。国境越える時のスタンプを押さずにみんな入ってしまって。空港で順番待ちしていていよいよ帰れるぞってなった時にスタンプがないんで、乗れませんって言われて。乗る予定だった飛行機に乗れず。一夜を空港で明かして。

ヒロミ・ヒロヒロ「そこからチケット探しが……」

中嶋イッキュウ「私は翌々日ぐらいにレコーディングがあったんで、帰らないとっていうので、先に1便だけ確保して帰っちゃったんですけど。他のメンバーと当時のマネージャー4人はもう一晩、カプセルホテルで過ごして。一番辛かったと思います。体調崩してたよね」

ヒロミ・ヒロヒロ「しかも、そのタイミングで私が風邪ひいて、熱出ちゃって、カプセルホテルでずっと死んでて。マネージャーと吉田くんが色々。もしかしたら荷物だけ日本に行っちゃったかもってなって、それを探してもらったりとか。バタバタして、めっちゃみんな疲れてんのに満身創痍でやってましたね」

キダ モティフォ「あとはヨーロッパのフェスとかいくつか出させてもらって。最初演奏を始めた時は、お客さんはまばらな感じやったんですけど。始まってどんどん進んでいくに連れて、人が集まって来てくれたのが結構印象的というか」

中嶋イッキュウ「ハンガリーのヴォルト・フェスティバルで、フェスティバル側が上げている映像があるんですけど、日本のファンの方もそれを観られたりするんで。最初はほんとにまばらなんですけど、最後はいっぱいになっているのを、日本の方も感動してくれたというか」

キダ モティフォ「前情報がなくても、多分なんかやってんなーって寄って来てくれた感が良かったですね」

――2019年にメジャーレーベルと契約したわけですけど。これはバンドにとって大きな転機だったんですか。それとも進んでったらこうなったなっていうものだったのか。

中嶋イッキュウ「タイミングで、それまでもメジャー行くか行かへんか、という話し合いは定期的に出てて。その都度、行かへんことを選んだみたいな感じだったんですけど。まだやな、みたいな。でも、吉田さんがサポートとしてまず入ってくれて、海外も一回り行って、アルバムもこの4人で作った『3』っていうのを出して。そこでメンバーに入ってもらって。じゃあこのタイミングでっていう、やっと準備できたなっていう感じでした。3人だけやった時も結構長かったんで、吉田さんが入った時に、もうなんも迷いがないなって思いました」

――最近はヒット曲のルールというのが変わってきて、いわゆるサブスクリプション・サービスやオンラインでの再生回数が大きな指標となっているわけですけど、それはどのように受け止めていますか?

吉田雄介「僕らにとっては割と優位かなと。CDだけだと海外の方だと買いにくい。いわゆる、こっちで言う洋楽のCDの輸入盤を買うのって割と値段もしたりとか、手に入りにくかったとか。デジタル配信に関しては、どの国でも思い立った時に聴けるし、思い立った時に買っていただけるので。その点は、海外で活動の拠点がちょっとあるっていうバンドにとっては少し有利なのかなという感じがします。海外の方でもさらにCDが欲しいと言っていただける方が買ってくれていると思うので、昔より入りやすいのがいいなと思っている」

――中嶋さんはどうですか?

中嶋イッキュウ「いろいろと遊びができるから私は楽しいと思います。インストを全て先に出してから、歌ありを出す方法はCDだとどっちかしか買わなくなると思うんですけど。ちゃんとインストが先に配信されてるからインストから聴こうって思ってくれて、次は歌ありのほう聴いてっていう、こっちがいろいろ遊びが提供できるのは今のデジタル配信ならではなのかなっていう風に思います」

――今回、『上出来』っていうアルバムが完成したんですけど、自分たちとしては魅力はどんなところにあると思います?

中嶋イッキュウ「今回は、初めてのことでいうと、“餌にもなれない”という曲で中尾憲太郎さんにプロデュースしていただいたのがあったりして。11年くらいバンドをやっているんですけど、初めて他の人の意見が入った曲になっているので作っている時も新鮮でしたね。ヒロミさんがシンセベースを弾いているので、初めて4つの楽器以外が入っています。自分たち発信では、この変換はできひんかったなと感じます。憲太郎さんがシンセベースでやったらって言ったから、シンセベースでやったんやしって言えるっていうか。私がやりたいと思ってやったんじゃないのが逆にやりやすいというか。憲太郎さんのせいにすればいいやって思えるんで。そういう意味で何してもいいって思えるいいきっかけになりました」

――今後外部プロデュースを迎えてっていうのもあり得るんですかね。

中嶋イッキュウ「全然他にもやりたいという人はいるし、ぜひお願いしたいなと思いますね。10年、4つの楽器だけでやってきたんで、こっからなんでもできるんじゃないかなって思います」

――海外のプロデューサーとかも考えたりします?

中嶋イッキュウ「お~、いいですね。楽しそう。それこそ本当に思いも寄らないアイデアとかがありそうですね」

――苦労したこととかはありますか?

中嶋イッキュウ「時間かかったのは“いない”がタイアップだったので、何回か作り直す作業がありました。先方の要望に応えるという形で、楽器も歌も2、3回くらいはデモを撮り直して送ったりっていうやりとりがあったりしたんですけど。でも、精神的苦労はなかったですね。初めてのことだったんで楽しかったというか。そういうやりとりも踏まえ、その人が思ってるこういうのがいいなーっていうのに近づけていく作業は楽しかったです」

――じゃあほんとに外部の人が入ったもしかしたらいいのかもしれないですね。

中嶋イッキュウ「10年やってると、何がいいんやっけなってなりつつあるんで。もう一人いて、この人がこうしてほしいというのがあるとやりやすい部分はありますね。それがあったら、その次に作る曲を自由にしたくなるというか。その反動とかもあったりしたんで。いろんな経験をさせてもらうのは、いいなあとは思いました」

――ちなみにその世界だとBTSとかBLACKPINKとかK-POPが世界的な成功を収めてるじゃないですか。それは日本人アーティストとしてどのように感じてますか。

中嶋イッキュウ「私、BLACKPINK大好きなんですけど。ストイックでかっこいいなって憧れますね。どう思ってるって言われたら、ひたすら憧れてるというか。そこまで一つのことに集中して、ストイックになれるタイプでは自分はないので。あっちこっち手を出して、味変して楽しむ人生なので。幼い頃から一つのことに、音楽とダンスだけ、っていうのがすごいかっこいいし、憧れますし。ヒットする理由もわかるというか、なんの文句もないというか。ひたすらかっこいいなと思います」

――次の日本ツアー、ヨーロッパ・ツアーはどんな風に楽しんでもらいたいと思っています?

中嶋イッキュウ「『真っ黒』ツアー以来の全国ツアーで。海外でいうともっと前、2018年11月とかにイギリスを回ったのが最後だと思うんで。3年半か4年ぶりくらいになるので、自分たちも新鮮な気持ちというか。イギリスってどんなとこやっけってみたいな気持ちだと思うんですけど、行った時に。どれぐらいの寒さだったっけとか。行きまくっていた時より、もっと気づけなかったことに気づける、自分が鮮度が高まってるというか、敏感になって街も人も見られると思うんで。コロナ禍を経て、新しい価値観とかも芽生えた上で、もう一回戻っていけるのは、全国もイギリス、ヨーロッパも楽しみやし。多分お客さんの価値観も変わってるはずなんで。久しぶりにtricotに会えるというのを全身で感じたいと思いますし、こちらの音楽を全身で感じてもらいたいなと思います」

リリース情報

tricot
メジャー・サード・アルバム『上出来』
12月15日発売
配信はこちら:https://tricot.lnk.to/Jodeki
ご予約はこちら:https://tricot.lnk.to/Jodeki_CD

CD only (スマプラ対応) ¥3,500-(税別)
AL+DVD (スマプラ対応) ¥4,500-(税別)
AL+BD (スマプラ対応) ¥6,000-(税別) 初回仕様 : 三方背 BOX


– DISC1 –
1. 言い尽くすトークします間も無く
2. 暴露
3. いない
4. ティシュー
5. カヨコ
6. 餌にもなれない
7. Dogs and Ducks
8. スーパーサマー
9. いつも
10. 夜の魔物
11. ひとやすみ
12. 上出来
– DISC2 –
1. 言い尽くすトークします間も無く – Instrumental
2. 暴露 – Instrumental
3. いない – Instrumental
4. ティシュー – Instrumental
5. カヨコ – Instrumental
6. 餌にもなれない – Instrumental
7. Dogs and Ducks – Instrumental
8. スーパーサマー – Instrumental
9. いつも – Instrumental
10. 夜の魔物 – Instrumental
11. ひとやすみ – Instrumental
12. 上出来 – Instrumental


tricot 暴露 2021.6.5 at CLUB CITTA’
1. 混ぜるな危険
2. 右脳左脳
3. よそいき
4. サマーナイトタウン
5. WARP
6. なか
7. potage
8. 秘蜜
9. 炒飯
10. いない
11. 悪戯
12. おまえ
13. 庭
14. あふれる
15. 真っ黒
16. 暴露

いない Music Video
Dogs and Ducks Live Music Video カヨコ Music Video
カヨコ Behind the scene

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