30位 クルアンビン『モルデカイ』
一言で言い表せば:あたたかくてゆったりとしたメロディーを奏でるクルアンビンの心地よい卓抜した演奏は、波乱の一年の苦しみから一時的に私たちを守ってくれる。
ヒューストン出身のトリオ、クルアンビンのサード・アルバムは、遥か遠くの南アジアから南アメリカ、イランからジャマイカに至るまで様々な地域から景色を切り取ってきたような特異な音の風景を作り出している。多様なサウンドを巧みにまとめあげ、暑いテキサスの夏の夜を再現してみせた本作は大躍進と言えるアルバムで、バンドの青春に寄せた抒情詩となっている。
鍵となる楽曲:“Time (You and I)”
『NME』のレヴュー:「このトリオは、1970~1980年代以降の南アジアの音楽的革新を基軸に、インドの民族音楽、ジャマイカのダブ、コンゴのギターのシンコペーションを織り合わせながら、なおも故郷の町に強く根差したアルバムを作り上げている」
29位 ザ・ウィークエンド『アフター・アワーズ』
一言で言い表せば:エイベル・テスファイはヒット曲をもたらしたが、その裏に潜む闇にからかうような視線を投げかける。
通算4作目となるアルバムで、本名をエイベル・テスファイというザ・ウィークエンドはとうとう類い稀なことを成し遂げた。スタジアム級の楽曲と、魂を焦がすような正直さが同居したレコードを作り上げたのである。“Blinding Lights”のような耳に残る楽曲がラジオの電波を賑わせたかもしれないが、レコードに針を落として“Alone Again”のような曲を聴けば、本作がいろいろな層から成り立っているアルバムということが分かる。「自分の仮面を取り去って、他の誰かの人生を生きている」とウィークエンドはこのアルバム冒頭の“Alone Again”で歌う。その結果、本作は2020年で最も見事な複雑さをもった作品のひとつとなった。
鍵となる楽曲:“After Hours”
『NME』のレヴュー:「本作はフィーチャリングをなくして、徹底的に自分自身を映し出したレコードだ」
28位 ブロッサムズ『フーリッシュ・ラヴィング・スペーシズ』
一言で言い表せば:ブロッサムズは、私たちがもうそんなもの必要ないと思っていた時でもパーティーを持ってきてくれた。
ブロッサムズが1月にサード・アルバムを出したときは、ストックポート出身のクールなバンドが、その先に控えているフェス・シーズンに完璧なパーティー・アルバムを作り上げたように思われた。世界的なパンデミックの余波で、彼らは足止めを食ったかもしれないが、このアルバムが私たちに闇の中でも踊り続けるだけの力を与えてくれたことは否定できない。1980年代のシンセ・ポップやトーキング・ヘッズに会釈しながら、素晴らしいポップ・ミュージックの特別講義をブロッサムズは届けてくれたのだった。
鍵となる楽曲:“If You Think This Is Real Life”
『NME』のレヴュー:「ストックポートのヒーローは、デヴィッド・バーンのオーバーサイズのスーツを試着してみたようだ。似合っているかって? かなり良いよ」
27位 ヘディ・ワン『エドナ』
一言で言い表せば:“ドリルのキング”があらん限りの力を尽くして、目のくらむようなデビュー・アルバムを完成させた。
『エドナ』はヘディ・ワンにとってこれまでで最長、なおかつ最も意欲的な作品だ。トッテナム出身のヘディ・ワンは、フューチャー、マヘリア、スケプタといったスペシャル・ゲストと共に、氷のように冷たいドリルから、なめらかなR&Bまで振り幅を見せる。このアルバムは、メインストリームのラッパーの領域に足を踏み入れつつ、切なさもカッコよさも同じくらいに与えてくれる。
鍵となる楽曲:“Only You Freestyle’ feat. Drake”
『NME』のレヴュー:「ヘディ・ワンの2019年のミックステープ『ミュージック・アンド・ロード』がジャンル横断への野心をほのめかしていたとすれば、『エドナ』はその従兄弟のような作品で、より成熟して豪華になっている」
26位 ザ・クリブス『ナイト・ネットワーク』
一言で言い表せば:崖っぷちにいた2000年代のインディ・ヒーローが、ここ10年の活動で最も良いアルバムを引っ提げて帰ってきた。
ここ最近のジャーマン3兄弟は、世界各地に散らばって暮らしていた。ゲイリーがオレゴン州ポートランド、ライアンがニューヨークに住み、ロスだけがヨークシャーのウェイクフィールドの故郷に残っているという状態だったのだ。彼らはバンドとして別々の道を行こうとしているようにも見えたが、デイヴ・グロールの助言を受けて立ち直ったという。その結果、この上なく楽しくて、前向きなギターポップが誕生した。
鍵となる楽曲:“Screaming In Suburbia”
『NME』のレヴュー:「このアルバムが元気いっぱいなのには相応の理由がある。3兄弟は今、2020年代も一丸となってやっていこうと心の底から思っているのだ」
25位 ローラ・マーリング『ソング・フォー・アワ・ドーター』
一言で言い表せば:イングランド最高のフォーク・ソングライターが、通算7作目のアルバムで哀感漂う内省的な音を奏でる。
2017年発表の『センパー・フェミナ』が、古代ローマの詩人ウェルギリウスの詩を引いたタイトルの下で女性であることの意味を振り返る作品だとすれば、『ソング・フォー・アワ・ドーター』はまだ語られていない未来への希望と、そのなかで自分の道を見つけていく架空の子どもを描いたアルバムだ。はつらつとしていて大胆な本作は、これまで最も優れた彼女の作品と言えるかもしれない。
鍵となる楽曲:“Song For Our Daughter”
『NME』のレヴュー:「細部までこだわった優雅で隙のない10曲が揃う本作は間違いなく成功作だ」
24位 チャーリーXCX『ハウ・アイム・フィーリング・ナウ』
一言で言い表せば:ウォンキー・ポップのスーパースターは初の公式ロックダウン・アルバムで早くもカムバックした。
アヴァンギャルド・ポップな本作は、チャーリーXCXがカリフォルニアで自主隔離していた6週間で作曲・レコーディングされた。彼女は制作の過程全体をファンと共有してフィードバックをもらい、曲を形にしていった。その結果、本作はチャーリーXCXとプロデューサーのA.G.クックお得意の実験的な装飾が随所に施された、フックが効いていてトゲのあるアルバムとなった。要するに、ロックダウンの中で元気づけてくれる完璧な作品だ。
鍵となる楽曲:“Anthems”
『NME』のレヴュー:「パンデミック下では当たり前となった、ちくちくする不安とストレスだらけの状況で、本作は輝かしい実験的作品だ」
23位 バーナ・ボーイ『トゥワイス・アズ・トール』
一言で言い表せば:ビッグな曲によりビッグなアティテュード。
ナイジェリア出身で本名をダミニ・オグルというバーナ・ボーイの2019年の出世作『アフリカン・ジャイアント』は、ストームジーやニュー・ジャージーのヒップホップ・トリオのノーティ・バイ・ネイチャー、コールドプレイのクリス・マーティンの客演を目玉にした作品だったかもしれないが、決してバーナ・ボーイの影が薄かったわけではない。そしてここに政治的な強い主張と、ダンスフロア向きのパーティー・アンセムを調和させたアルバムが出来上がった。
鍵となる楽曲:“Monsters You Made”
『NME』のレヴュー:「本作は微量のアフロビートを含みつつ適量のダンスホールとアフロ・フュージョンをヒップホップに取り入れている」
22位 ワーキング・メンズ・クラブ『ワーキング・メンズ・クラブ』
一言で言い表せば:ウェスト・ヨークシャーのワーキング・メンズ・クラブが、見事なデビュー・アルバムで2020年最も地下のフロアを盛り上げるレイヴ音楽を投入した。
トッドモーデン出身のワーキング・メンズ・クラブは、1980年代のダークなエレクトロにヴァイブ
を合わせて、シンセの鼓動に、曲がりくねったアシッド・ハウスのサウンド、緊張感あるパンク・ファンクを加え、重苦しい空気感を作り出していく。ニュー・オーダー(特に“Valley”)やLCDサウンドシステムからの影響がちらつくが、これらを基準として混ぜ合わせることで、ベルリンのウェアハウス・パーティーに来たような、強力で風変わりな醸造酒を作り上げている。
鍵となる楽曲:“Valleys”
『NME』のレヴュー:「それ自体大変な状態にある社会を生きていく上での心の煩悶を繰り返し映し出す『ワーキング・メンズ・クラブ』は、これ以上ないほど良いタイミングで到着した注目のデビュー作だ」
21位 ロイシン・マーフィー『ロイシン・マシーン』
一言で言い表せば:ミラーボールと深夜のブギーによる何も心配のなかった時期に戻れるディスコの多幸感。
アイルランドの風変りなアウトサイダーがダンスフロアの女王の座を求めて帰ってきた。10年をかけて作られた本作は、脈打つような楽しいアンセムが揃っている。シンガロングしたくなる快楽主義的な楽曲が満載で、これを聴くと本当にクラブが恋しくなるが、それだけにまさしく必要な時に届けられたアルバムだ。『ロイシン・マシーン』は疑いなく、ロックダウン下でもホーム・パーティーを続けさせてくれるサウンドトラックなのだ。
鍵となる楽曲:“Murphy’s Law”
『NME』のレヴュー:「通算5作目のレコードで、ロイシン・マーフィーは私たちを現実逃避の旅に招待し、快楽と幻想が手を取り合うユートピア世界へ連れて行ってくれる」
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