マイ・ケミカル・ロマンスが再結成を果たした。正直に言うが、(これから記すように)再結成は二度と実現しないものだと思っていた。
筆者よりもマイ・ケミカル・ロマンスに近しい人々はいる。時間を遡れば、筆者よりも遥かに彼らに近しい人々がいることだろう。筆者はただの1人のファンに過ぎず、どういうわけかお気に入りのバンドと話をする機会を事あるごとに得て、15年余りの期間にわたって様々な音楽メディアで彼らにインタヴューすることができたというだけに過ぎない。彼らとは友人というわけでもない。確かに、私たちの仲はいいかもしれないが、マイ・ケミカル・ロマンスの4人が誰かに無愛想にしているところを想像することのほうが難しいだろう。パンク・ロック畑出身の多くの大物バンドたちはそうではないのかもしれないが、マイ・ケミカル・ロマンスに限っては例外なのだ。
彼らの友人ではないし、特別近しいわけでもない。ただ、彼らから時々メールが送られてくることはあった。正直なことを話せば、彼らからのメールを読んで、再結成が実現すると感じたことは一度もない。彼らとやり取りをしながら、過去に複雑な思いを馳せたり、つらい気持ちを抱えてしまったこともあった。筆者が最も好きだったのは、彼らが今この瞬間のことであったり、これから起きることについての話をしている時だった。そのなかにはマイキー(・ウェイ)が取り組んでいるエレクトリック・センチュリーのプロジェクトも含まれていたかもしれない。それに、フランク・アイエロは今日のアメリカにおける、最も多作で安定してワクワクさせてくれるようなソングライターの1人としての地位を確立することに成功している。
ジェラルド・ウェイの脳内では、クリエイティヴィティの大釜が常に煮えたぎっていたし、レイ・トロは友人たちのプロジェクトに際限ない熱意を注ぎ続けていた(そして、そのあり余るほどの熱意は、マイ・ケミカル・ロマンス解散後の彼自身のプロジェクトを見劣りさせてしまいかねないほどだった。レイ・トロが2016年にリリースしたデビュー・アルバム『リメンバー・ザ・ラフター』の1曲目に収録されている“Isn’t That Something”を聴いてみてほしい。スターダムから離れたマイ・ケミカル・ロマンスのメンバーによって書かれた最高の楽曲のうちには入らないと言えるだろうか?)。
しかし、今になって振り返ってみるとどうだろう? 再結成はいつ実現したっておかしくはなかった。
第一として、マイ・ケミカル・ロマンスの4人は決して険悪なムードで解散したわけではなかった。彼らはバンドの解散後もお互いの公演を訪れ、お互いの作品にゲストとして参加し合ってきたし、フランク・アイエロが今年1月に明かしたように、毎年バーベキューのために集まり、バンドの終焉後も長きにわたって付き合うことになるバンドの将来的なビジネスについて共に話し合ってきた。一緒にソーセージを焼くことができるほどの仲を維持しているバンドであれば、まだ演奏だって一緒にできるはずだ。メンバー4人のうちの2人は実際の兄弟だが、他のメンバーたちもきっと、お互いのことを兄弟のような存在だと思ってきたはずだ。
お金の話題はマイ・ケミカル・ロマンスを語る上で重要ではないだろうが、筆者は今年の夏にフェスティバルのプロモーターと話をする機会があり、チケットを購入するきっかけになるヘッドライナーに飢えているフェスティバルにマイ・ケミカル・ロマンスのようなバンドが出演する場合、その費用はいくらくらいになるのかと訊いてみたことがあった。教えてもらった金額はほとんどのバンドが断るのを躊躇するであろう数字のものであり、お金のかかる趣味を持つ4人の男たちからなるマイ・ケミカル・ロマンスのようなバンドであればなおさらだろう。WWEの選手のフィギュアの収集をしているマイキー・ウェイに、コミックブックが趣味のジェラルド・ウェイ、フランク・アイエロはタトゥーが趣味だし、レイ・トロはギターを趣味にしている。ロックンロールにおける夢物語を誰よりも知っているイアン・ブラウンはかつて、ザ・ストーン・ローゼズについて次のように語っていた。「もしも僕がどん底に落ちて、子供たちが縁石の上で暮らさなければいけないようなことになった時には、ザ・ストーン・ローゼズを再結成するよりも前に(ホームセンターの)B&Qで就職するよ」イアン・ブラウンがその後、マンチェスターのヒートン・パークのステージで元バンドメイトたちと再結成を果たすまで、そう長くはかからなかった。
再結成のタイミングは賢明だったと言えるだろう。これは決して大袈裟ではなく、マイ・ケミカル・ロマンスの2013年の解散は、バンドの演奏を観に行くには幼すぎた当時の若きファンたちに悲しみの雨を降らせるという、悲惨な結果をもたらしている。彼らが解散を発表した日の朝に、14歳にも満たなかったであろうキッズがこうツイートしていたのを覚えている。「お気に入りのバンドを一生観ることができないんだ」
それは我々が14歳の子供に望んでいるような言葉ではない。そして、マイ・ケミカル・ロマンスの不在は、彼らの遺産の価値をさらに高めることにしかならなかった。ロックのクラブに行けば、彼らの曲を耳にするし、ラジオからも彼らの曲は流れてくる。『ザ・ブラック・パレード』の10周年記念、『スウィート・リベンジ』の20周年記念、「レイ・トロが鼻をかんだ後に手を洗い忘れた日」から20周年記念……彼らは今も音楽雑誌の表紙を飾る存在だ。バンドが2014年にリリースしたベスト盤のタイトルは「死が汝を止めんことを」を意味する『メイ・デス・ネヴァー・ストップ・ユー』というものだった。マイ・ケミカル・ロマンスは死んでもなお新鮮さを失うことなく、今後彼らを観るチャンスがあるかもしれない新たなオーディエンスにとっても重要な存在であり続けた。
ただ、重要なのはここからだ。マイ・ケミカル・ロマンスの長年のファンであればこの意見に同意してもらえるだろうが、明確なヴィジョンなしにマイ・ケミカル・ロマンスが公演や新曲、ツアー(現時点では今回の再結成がどこまで拡大するのかは定かでないが)のために再結成に同意することなどあり得なかった。思い出してもらいたいのは、彼らの2013年の解散は芸術的な演出という意味合いが強かったということだ。大抵のバンドのように、今回の発表はアルバムのリリースが目的だったわけではない。ソーシャル・メディアにフーディニの画面の写真を投稿して、長いお別れの手紙に火花を放つ小鳥たちを唐突に登場させた上で、“Fake Your Death(死の偽り)”と題した大胆な遺作曲のリリースを発表するわけではないのだ。
彼らはすべてのアルバムにテーマを与えてきたバンドである。コミック・ブックの作者がフロントマンを務めるバンドとしては当然なのかもしれないが、バンドの存在を常に一つのストーリーラインと照らし合わせて続けてきたバンドがどこにいるだろうか? 彼らが(再結成してからは初となる公演が予定されている)12月20日にステージに現れて、「さあ、ヒット曲だよ。また会おうね……」なんて言うとは到底考えられない。彼らはヴィジュアルを新たにしてくるはずだし、新たな美学(アップデートされた彼らのオフィシャル・ストアは何らかのヒントになるかもしれない)や新しいアイディア(個人的には、“Helena”を聴くチャンスがあることよりもこちらのほうが気になるかもしれない)を示してくるはずだ。
マイ・ケミカル・ロマンスの再結成の何が素晴らしかったかと言えばーー彼らが現地時間10月31日にソーシャル・メディアで再結成を発表した時、筆者は今年の7月中旬に映画『キャッツ』のトレイラー映像が公開された時以来、初めてツイッターが楽しくて健全な場所であるかのように思えたのだがーーポップ・カルチャーのイベントは世界をよりよい場所だと思わせてくれる力を持っていると感じられたことだ。2008年に「自殺を助長するカルト集団」だと『デイリー・メール』紙にデマを流されたマイ・ケミカル・ロマンスだが、彼らは常にあらゆる人々を受け入れることに注力してきた。孤独な人や拒絶された人、複雑な感情を抱えた人、路頭に迷った人、不安を抱えている人、自分をダメだと思い込んでいる人、不当な扱いを受けた人、純潔でない人、怒りや恥、好奇心を抱えた人々まで。彼らのそんなメッセージは、“I’m Not Okay (I Promise)”のミュージック・ビデオにも記されている。マイ・ケミカル・ロマンスの旗のもとでは、何事もウェルカムであり、そのままであり続けることを奨励してくれるのだ。
復活を遂げたマイ・ケミカル・ロマンスは、この分断した世の中や、サイロ型の社会、そして神秘性と魔法の注入が早急に必要とされているロック・シーンに、どんな衝撃をもたらしてくれるのだろうか。マイ・ケミカル・ロマンスの解散の理由が、音楽や共に演奏してきた人たちに愛想を尽かしたことだったとは到底思えない。彼らの解散は、原動力となっていた機械の故障がその理由だったと思っている。彼らは影響力を持ったバンドを復活させ、自分たちが今、やりたいことを実現させようとしているのだ。私たちはこれから、彼らがマイ・ケミカル・ロマンスを自分たちの望む形に変貌させていくのを見ることになるのだろう。
マイ・ケミカル・ロマンスの再結成が発表されてから、まだ筆者のもとに彼らからのメールは届いていない。ただ、もし私から彼らに一通送るとすれば、『ありがとう』と送りたい。この特別なバンドのファンベースたちが夢を見始めたわけだが、チケットを入手するために売れる臓器はないかと自らの身体を見定めている彼らが12月に健全な形でロサンゼルス行きの飛行機に乗っている姿を見た時、私たちはロックンロールが数十年ぶりに輝きと創造性を取り戻したことを実感することになるのだろう。そう、彼らはまだ、復活のステージに足を踏み入れてすらいないのだから。
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