童話に登場する世にも恐ろしい怪物のように、ウルフ・アリスは無邪気を装って本来の姿を隠している。血しぶきを上げるインディ・バンドである彼らが、グランジの如く轟くような突進と共にトイレぐらいの狭いハコの壁に本性をぶちまけているのを見たことがなければ、この待望のデビュー・アルバムは、フォーキーな女性アーティストによるフェス「リリス・フェア」にいるかのような印象かもしれない。ヴォーカルのエリー・ロウゼルが「あなたの輝く目で私を見つめていて」とジョアンナ・ニューサムのようにやさしく囁く1曲目の“Turn To Dust”では、ロンドン北部出身のこのバンドはまるであの(ジュヌヴィエーヴ・)チューダーがラジオでかけているようなフォーク・ギターとカントリーのリズムによる上品なサウンドを響かせてみせる。そんな粋な策略と、ある種の音楽的な待ち伏せ、垢抜けた手口、そしてきらりと目の光るような不意打ちこそが、このアルバムを「今年のベスト・アルバム」にしている。

ウルフ・アリスは長い間沈黙を保ってきた。それが、この『マイ・ラヴ・イズ・クール』の芸術性を評価するカギだ。いつものパターンでしょと思っているファンに不意打ちを食らわし、好奇心を掻き立て、混乱させる。つまり「基本的にウルフ・アリスって、いい曲のあるシューゲイザーっぽいホールでしょ?」と思っているファンにとどめを刺して確信まで導くのだ。次第にテンポを上げていくと、一見、虫も殺さぬようなエリーの歌詞からはギラッと光る牙が現れる。チェアリフトやサマー・キャンプに、ライドの浮遊感のあるくぐもったギター・リフを足したロリポップ・キャンディのようなオルタナ・ポップソング“Bros”では、エリーが「あなたは私みたいにワイルドかしら、狼やケモノに育てられた私みたいに?」と初々しいパートナーに共犯を呼びかけてみせる。そして、“You’re A Germ”の急襲である。羊の皮を破り捨てたエリーは「ワン! ツー! スリー! フォー! ファイブ! シックス! セブン! お前が天国へなんて行けるか!」と、ピクシーズの“Tame”のように吠える。ギターをかき鳴らしながらエリーはこの曲で繰り返し「有罪ヤロー」に向けてスラッシュポップを撃ち放つ。曲はエリーが悪態をつきながら甲高く笑って締めくくられるのだが、『マイ・ラヴ・イズ・クール』に平穏が戻ってくることはない。このアルバムは、まるで虎の赤ん坊のようなものだ。愛らしいが、いつ喉元をがぶりとやられるかは分からない。

予測不可能な楽曲を制作できるバンドが求められているものの、そんなバンドは簡単に出現するものではない。そういった点において、ウルフ・アリスは2015年に最もポテンシャルを秘めたバンドだろう。想像するのは難しいが、ロイヤル・ブラッドのリリックの飛躍具合といったら、BBCのニュース番組「ニュースナイト」で、有名恋愛バラエティ番組「テイク・ミー・アウト」のセットを使うよりもすごい。ウルフ・アリスは、それと同じことを何度もできるのだ。感情の残骸をまき散らしながら、暗くてあてのない脇道に急に向きを変える。“Lisbon”では、エリーは火傷しそうなほどのギター・サウンドを放射しながら、「外に出て、窓ガラスを割りたい気分」から「暗い暗い、死よりも暗い穴」に落ちていく。ステレオラブがザ・マッカビーズをやるような芸当をエリーはさりげなくやってのけるのだ。“Silk”はアルバムの中心に据えられた、激しいサウンドが特徴の名曲だ。囁きかける過去の亡霊の群れから抜け出すすべを叫ぶエリーの声は、まるで「ポルターガイスト」のテーマ曲をメトリックがカバーしたかのよう。エリーは、ある曲ではラナ・デル・レイのように誘惑したかと思えば、次の曲では怒りをぶちまけるパンキッシュなバンシー(死を告げる妖精)や悲しげなゴシック詩人に変身する。つまり、ミレニアル世代のカレンOであり、変幻自在なウルフ・アリスの中心的存在なのだ。

アルバム収録曲は他にも、軽快なサマー・ディスコ(“Freazy”)あり、無鉄砲な四分打ちのサイケ・グランジ(“Giant Peach”)あり、迫りくるようなゴス風のエラスティカを思わせる(“Fluffy”)ありと多彩なラインナップだ。なんとドラムのジョエル・アミーがマイクを握っている“Swallowtail”では最後の20秒間、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインに突入する。このアルバムは、死後の世界に対する漠然とした不安を歌い上げる“The Wonderwhy”でしっかりと満足感をもたらしてフィナーレを迎えるまで、あなたの先入観には収まらない。一貫してカテゴライズされることに反抗しながらも、ロック直系の血脈をシンセ音が受け止める『マイ・ラヴ・イズ・クール』は、21世紀のロック・アルバムの全文化の縮図となるアルバムで、ここ10年で最も素晴らしいデビュー・アルバムといえるだろう。さあ、この攻撃を受けてみろ。(マーク・ボーモント)

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