Matt Salacuse/NME

Photo: Matt Salacuse/NME

やあ、アメリカ。そっちでは何が起こってるんだい? 現地時間11月8日にアメリカ大統領選がついに行われ、ドナルド・トランプ大統領の誕生が決定した。これに先駆けて行われたジョニー・エンサル記者によるインタヴューでは、結果を予測するかのごとく、グリーン・デイのビリー・ジョー・アームストロングが、女性の性器を触る男が自由の国のリーダーになるかもしれない理由を語っていた。

2016年9月28日、グリーン・デイはニュージャージー州セアヴィルのスターランド・ボールルームでライヴを行っていた。ビリー・ジョー・アームストロングは、ブッシュ政権を批判し、イラク戦争に抗議するため10年以上前に書いた“Holiday”を力強く歌い上げた。政策は当時から変化しているが、必ずしもより良い方へ向かってはいないだろう。曲の途中で小休止を挟み、ドラマーのトレ・クール、ベーシストのマイク・ダーントが一定のテンポで、かつ落ち着いたリズムに切り替えると、ビリー・ジョー・アームストロングはマイクをつかみ、観客席に身を乗り出した。

「みんなは最近のニュースを見てるか?」と彼は尋ねる。「アメリカ大統領選の立候補者たちについてどう思う?」観客はそれにブーイングで応える。「ニューヨーク出身の最高なドナルド・トランプ氏については?」ブーイングはさらに大きくなる。ビリー・ジョー・アームストロングは「人種差別主義なんてダメだ」と叫ぶ。「ダメなんだよ。この空間ではそんなものはいらないんだ。それを今ここで伝えたかったんだ。この空間には白人優位主義なんてないんだよ。団結するんだ。今夜ここニュージャージーでね。そして、すべてのクソ政治家どもをデタラメ呼ばわりするんだ」

観客は興奮状態に陥り、口々に賛同を叫んだ。ドナルド・トランプに対する反感と、女性蔑視や外国人排斥、あからさまな人種差別がアメリカで顕在化していることに対する嫌気から、観客は団結している。音楽が彼らを結び付け、共和党員や民主党員のように同じ疑問を投げかけた。アメリカン・ドリームに一体何が起こったのだ、と。

いまいち理解できないとしても、イギリス人もこれに共感を覚えることができる。EU離脱を決めた国民投票の結果は、イギリスを深く分断する亀裂と、我々からは遠い過去だと大半が信じていた偏見をさらけ出した。しかし、少なくとも我々は、2週間前に買った温州ミカンのような顔をした、何度も破産したことのある、病的に自己陶酔的な民衆扇動家によって統治される可能性には直面していない。

デタラメを切り裂き、筋を通すためにパンク・ロックがその実力を示すとしたら、現在の我々に必要なロックスターはビリー・ジョー・アームストロングだ。グリーン・デイは10月に、通算12作目のスタジオ・アルバム『レボリューション・レディオ』をリリースした。このバンドがこれまでリリースして来たベスト・アルバムの数々と同じく、タイトな演奏と怒りの感情に満ちている。これは、抑圧されたアメリカのアンダークラスが、国家統治とは金を稼ぎ、戦争に勝つことだけだと思っている人々全員に向けて中指を立てているサウンドだ。11月8日に自由の国の新たなリーダーを決める選挙の日が迫っていた中で、世論調査では接戦となっていることについて、一体何が起こっているのか、と彼に説明を求めた。

「ハッ!」彼は一笑すると、「そうだな、全力を尽くすけど、俺も自分自身でこの一連の最悪な事態を理解しようとしているんだ」と語る。

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インタヴューは電話で行われた。実際はインタヴューというよりも、ビリー・ジョー・アームストロングがまくしたてて、彼がぶちまけていく不信感に耳を傾けた、という感じだった。「俺はただ困惑してるね。すべてについて不安になるよ」と彼は語る。「毎朝起きて考えるんだよ、今度は何だってね。どんなバカなことを言ったんだろうって。どんなハッキングされたメールを読むことになるんだろうってさ(※)。どんな人種差別のコメントだってね。俺の曲の多くは……怒りじゃなく不安から生まれてるんだ。そして、このゲーム全体に戸惑ってるよ」

※7月にウィキリークスは民主党全国委員会の電子メール、1万9252通を公表した。その中には民主党幹部のメールも大量に含まれている。ハッキングにはロシアの諜報機関が関与しているとの見方もされている。また、ヒラリー・クリントンは公務で私用のメールサーバーを使用していた問題で、FBIに捜査されている。

彼に『レボリューション・レディオ』の制作の裏側について尋ねてみた。これはグリーン・デイ史上最も政治的と言えるアルバムで、2004年リリースのブッシュ政権をバッシングしたロック・オペラ『アメリカン・イディオット』よりも、さらにその傾向が高まっている。

「数年前、2014年の春に“Bang Bang”という曲を書いたんだ」と彼は説明した。「カリフォルニア州サンタバーバラで起きた銃乱射事件の犯人の視点でこの曲を書いた(※)。この青年は明らかに精神に異常をきたしていて、フェイスブックの犯行声明には、いかに『女の子が誰もヤらせてくれないから、皆殺しにするか』が書かれていた。この曲がすごく力強く仕上がって……『ワオ、これってグリーン・デイっぽいな』と思ったんだ」

※2014年5月、大学生のエリオット・ロジャーはカリフォルニア州で銃を乱射し、6人を射殺し、14人を負傷させた。銃による暴力についての情報を集めているウェブサイト「ガン・ヴァイオレンス・アーカイヴ」によると、アメリカでは平均で6日のうち5日は銃乱射事件が起きている。

“Bang Bang”の歌詞には「俺はセレブな殉教者になりたい」という一節がある。我々にとって、この「殉教者」という言葉はアメリカの銃マニアよりも中東の自爆テロリストの方を想起しやすい。この曲の制作中に、彼はそう思っただろうか? 「人間の本質とは俺たちがみんな持って生きているものだと思うんだ」と、ビリー・ジョー・アームストロングは考え込んだ様子で答えた。「俺はテロリズムと呼ばれているものやISISとかと、アメリカ人が持つ民兵精神や武装する権利(※)の間につながりを見いだそうとしていた。俺からしてみれば、こんなややこしいことはないよ。だって俺が思うに『どこが違うんだ?』って感じだからね」さらに、彼はこう続けている。「9.11の後、世界は変わったよ。ジョージ・ブッシュが『私たちの側につかないなら、お前はテロリストの仲間だ』って言った。それがこの国の分断の始まりさ」

※アメリカ合衆国憲法修正第2条では、国民に武器を所有する権利を認め、国家の安全のためには民兵や市民軍を組織することも認めている。アメリカ人の中には不正投票を阻止するための市民軍を組織している人もいる。そのほとんどはドナルド・トランプの支持者だが、投票所に銃を持つ人がいると、有権者への脅迫になると考えている人もいる。

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しかし、ジョージ・W・ブッシュはアメリカの問題に対しての責任を総取りすることはできない。我々はずっと避けて通ってきたが、部屋には巨大なオレンジ色の顔をしたゾウがいて、今やそのたるんだ顔を直視せざるを得ないのだ。そう、アメリカ大統領選挙の共和党候補で、今回大統領の座を射止めたドナルド・トランプである。この男はかつて、「メディアが何を書き連ねようと気にしない、若くて綺麗な女さえいればね」と語っている。彼に恥という感覚はあるのだろうか?

「トランプには思いやりがないよね」と、ビリー・ジョー・アームストロングはすかさず答えている。「彼は権力以外に共感できるものがないんだ。それが奴の欲しいものすべてで、それを手に入れるためには誰でも踏みつける。それで、そういう奴が核兵器のボタンに指を置くっていうのを考えると本当にマジで恐怖だよ」彼の知り合いにトランプ支持者はいるのだろうか? その支持者はドナルド・トランプの何に魅力を感じているのだろうか? 「オクラホマにいる俺の親族の中には、熱心なトランプ支持者がいるんだ。奴は政策すら持っていないのに、彼らがなぜ支持してるのか明確な答えなんてないんだよ。リーダーになろうとしてる奴が質問にも答えられないのに、自由の国のリーダーに誰がふさわしいかなんて考えられると思うか?」また、ドナルド・トランプはメキシコからの移民をシャットアウトするために国境に壁を築くと発言しているが、彼にその話を振った。「あのクソみたいな壁はありえないしね! あんなの実現しちゃいけないんだよ。勘弁してくれよ」

ビリー・ジョー・アームストロングは、少し悲しげに続ける。「分かるだろ、俺は大規模な政治操作だと思うんだ。君たちのおじいちゃんおばあちゃんは、『ナショナル・インクアイアー』(ゴシップ誌)やタブロイド紙から情報を仕入れてるような米FOXニュースによってハイジャックされたんだよ。『ヒラリー・クリントンはエイリアンの赤ちゃんです』なんて言うような奴らにな。嘘じゃない。宇宙から来たエイリアンだ!ってな。あいつら彼女を蹴落とすために藁にもすがる思いなんだよ」

ビリー・ジョー・アームストロングは、社会主義者で米大統領選の民主党候補者であるバーニー・サンダースの熱心な支持者だった。アメリカにおけるバーニー・サンダースの人気は、イギリスにおけるジェレミー・コービンの人気と重なる。バーニー・サンダースがヒラリー・クリントンの支持を表明したため、ビリー・ジョー・アームストロングはヒラリー・クリントンが「唯一の選択肢」と考えていたが、彼に賛成する人はほとんどいなかった。当時から、世論調査によっては、学歴のない白人男性の間では、ドナルド・トランプが76パーセントの支持を得ており、17パーセントのヒラリー・クリントンをリードしていた。

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ビリー・ジョー・アームストロングは「ドナルド・トランプを最も支持している層は、教養のない労働階級の白人だ。そこが問題なんだよ」と語っている。「見えないところでこういう白人のナショナリズムが醸造されてきた。今では(トランプが)マイノリティーを攻撃したり非難したりする風潮を作ってるから、複雑なんだよ。露骨な女性蔑視も同時に巻き起こってるしね」ビリー・ジョー・アームストロングは今年の初め、ドナルド・トランプはナチスからヒントを得ているとの考えを示しており、不動産王から政治家になったドナルド・トランプの、移民に対する姿勢について次のように語っていた。「あいつはマジでヒトラーみたいさ。類似点は彼がムスリム、メキシコ人やアフリカ系アメリカ人といったマイノリティーに対して脅しの策略を使っているところだよ。人種間戦争も起こり得るだろうね」

2014年、アメリカでいつかは起こると思われていたことが起きてしまった。アフリカ系アメリカ人の青年、マイケル・ブラウンが、白人警官のダレン・ウィルソンに射殺されたことがきっかけとなり、ミズーリ州ファーガソンで暴動が起きた。ニュースでは警官隊が武力を見せつけ、夜に市街地が燃えているといった、まるで戦争のような映像が流れていた。「テレビを見ていると、まさに軍事国家そのものだった」と、ビリー・ジョー・アームストロングは振り返っている。楽曲“Somewhere Now”では「俺は愛国者に暴動を与えた」と歌っている。では、ビリー・ジョー・アームストロングは暴動が正しい道だと考えているのだろうか? 彼はファーガソンでの暴動について、こう述べている。「もちろん、筋の通ったデモだと思うね。奴らは民衆に催涙ガスを投げてたんだ。一体、何が起きるのを期待しろって言うんだ?」

『レボリューション・レディオ』の収録曲“Outlaws”は、マリファナを吸ったりトラブルを起こしたりしていた、ビリー・ジョー・アームストロングの荒れた青春時代を思い起こさせる。44歳となった現在、彼は「ブラック・ライヴズ・マター」運動の支持者であり(※)、また野生生物のチャリティー「プロジェクト・チンプス」の支援者でもある。ビリー・ジョー・アームストロングには子供が2人おり、子供たちの未来について常に心配しているようだ。「彼らは不景気と戦争、止むことのない戦争、終わりなき戦争と付き合ってきたんだ……多くの人はまさに『くそ、まだ生きてるなんて信じられねえよ!』という感じだと思うね」

※「ブラック・ライヴズ・マター」運動は、2012年に非武装のアフリカ系アメリカ人青年トレイヴォン・マーティンが、近所の自警ヴォランティアをしていたジョージ・ジマーマンによって射殺された事件がきっかけで始まった。その後「ブラック・ライヴズ・マター」運動は拡大し、今では世界に広がりを見せている。

ビリー・ジョー・アームストロングは2012年に、自身では「臨死実験」と称する臨死体験をしている。ラスベガスで行われたフェスで、あと1分で自分たちの演奏を終わらせるように伝えられると、彼は激怒した。「俺はファッキン1988年からずっとやってきてるんだ。俺はファッキン・ジャスティン・ビーバーなんかじゃねえよ。クソ野郎どもが!」ビリー・ジョー・アームストロングはその後、48時間もせずに、長年のアルコール依存症と処方薬乱用の治療のため、リハビリ施設に入所している。

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「製薬業界ってのは、ヤクの売人の集まりだな」と、ビリー・ジョー・アームストロングは語っている。彼の向こう見ずな日々はもう過ぎ去ったようだ。電話越しの彼の声は、元気で解放的に聞こえる。彼には生きるための理由がたくさんある。そして、ニュージャージーでの公演のように、ライヴでみんなが一つになる瞬間を通して、世界をより良い方向へと変えようとしている。

しかし、人々を信じるもののために立ち上がらせるのは簡単なことではない。イギリスの有権者(特に若者)の政治への無関心は問題である。アメリカも同様に、30歳未満の投票者数が、かつてないほどに落ち込んでいる(※)。アメリカの若者が幻滅し、政治に興味をなくしている状態は、約30年前にグリーン・デイを結成した時のビリー・ジョー・アームストロングと同じである。どうすれば若者たちを、政治的なレベルで繋げることができるのだろうか?

※2014年の中間選挙で、30歳未満のアメリカ人の投票率は20パーセントに満たなかった。

ビリー・ジョー・アームストロングは、ため息をつく。「どうやって人々の心に火をつけるのかは分からない。だけど、世界の正義みたいなものを探すってことは、グリーン・デイに深く根付いてる……若い人に俺がただ言えることは『自分自身の真実を探して見つけろ』ってことだね」

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