Zackery MIchael

Photo: Zackery MIchael

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1969年7月、ニール・アームストロングとバズ・アルドリンは月面に降り立った最初の人類となった。4日前にフロリダを飛び立った2人の宇宙飛行士は、予め決められていた「トランクイリティ・ベース」と呼ばれる地点に着陸している。そこから先は周知の通り。2人は星条旗を月面に立て、周囲を飛び跳ねて回り、ニール・アームストロングは「人類にとっては大きな飛躍だ」という言葉を残した。着陸地点の名前にインスピレーションを得たアークティック・モンキーズの6作目は、これがバンド史上最も大胆な一歩であったことを差し引いても、人類の月面着陸と同等の高い成果を上げているとは言い難い。「大きな飛躍」かって? 困ったものだよ。彼らのことなど、ここからはほとんど見えないのだから。

アークティック・モンキーズは初期のアルバムで肝の据わった気取った若者に、『ハムバグ』では砂漠を彷徨う連中に、そして2013年の『AM』ではロックの神様にと、各時代を好きなように旋回してきた。とはいえ、本作は今までに耳にしたようなアークティック・モンキーズではない。あなたのお望みが大音量のフェスティバル用アンセムなのであれば、ひどくがっかりすることだろう。しかしながら、疑いなくバンド史上最も興味深いと評される作品かどのようなものかを知りたいというなら、足を止めてこちらへどうぞ。

アレックス・ターナーが最初にLAの自宅でピアノを使って楽曲を書き上げられた楽曲は、バンドとしてレコーディングするに相応しいと判断したギタリストのジェイミー・クックによってゴーサインを出されることになった。しかしながら、『トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ』は、私たちがかつて2010年の映画『サブマリン』にソロで提供したサウンドトラックで聴いたことのあるような、アレックス・ターナーのソロ・アルバムに極めて近い作品だ。実用的なコーラスが不足しているのは明白な上に、一部の曲に流れる悠長なペースは、アークティック・モンキーズの多くの楽曲とは程遠いものであるし、40分に及ぶアルバムのほとんどを占めているのは、アレックス・ターナーの囁くような歌声なのだ。「ただ僕はザ・ストロークスの一員になりたかっただけ、それが今ではこのザマだ」というオープニングの嘆きからも、彼の役割が単なる豪華絢爛な建造物の建築家に留まらないことは明らかだ。アレックス・ターナーとはコンシェルジュであり、タオル・ボーイであり、バーテンダーであり、それらを仲介するあらゆる存在なのだ。

とはいえ、それは他のメンバーの信用を落とすためのものではない。彼らは、ともすればファーザー・ジョン・ミスティによる2016年発表のセンチメンタルなアルバム『ピュア・コメディ』の精神的続編になりえた作品に肉体を与え、デヴィッド・ボウイを彷彿とさせる過剰さと雄大さを付け加えている。“One Point Perspective”には豪華なストリングスが加わり、アルバムを締め括る“The Ultracheese”はバンドという集団としての達成としてはこれまででも最善のものの一つとなっている。“Que Sera, Sera”のようだが、そこにはゴージャスなギター・ソロがあるのだ。本作ではドラムスキルがあまり活かされていないドラマーのマット・ヘルダースは、いくつかの楽曲でシンセで実験をして自身の居場所を見つけ出し、ベーシストのニック・オマリーは本作でも地道な努力で素晴らしいハーモニーと抗えないベースラインを披露している。なかでも最も親しみを感じるであろう“Four Out Of Five”では、『サック・イット・アンド・シー』の一部に見られるポップなアレンジと、ザ・ラスト・シャドウ・パペッツの最新作『エヴリシング・ユーヴ・カム・トゥ・エクスペクト』を支配する70年代の西海岸の空気が歩み寄っている。

『トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ』は、奥深くを探求するリスナーたちに報いてくれる。とりわけ、アレックス・ターナーによるこれまででも最も高密度な自己認識に満ちた歌詞の批評に興味のあるリスナーにとっては尚更だ。アレックス・ターナーは本作で、宗教(「非常用電池パックを用意、神様と週一で行っているビデオ通話での雑談に間に合うように」)やテクノロジー(「僕のVRヘッドセットは“議会乱闘”に釘付けのまま」)、そして政治(「自由主義世界のリーダーが思い出させてくれるのは、ぴちっとした金色のトランクスを履いたレスラーのこと」)について歌っている。アルバムには気の利いた皮肉も含まれていて、『ブレード・ランナー』への言及から、「エステサロン」にいる「イエス・キリスト」という空想、「でたらめばかり」に感じるような自虐的な瞬間など、なかでも気の利いた皮肉が聴けるのは少々おふざけに入った時だ。加えて、アレックス・ターナーは「それで誰に電話するつもりだい? マティーニ警察か」というフレーズを、“Star Treatment”で実用的なコーラスに落とし込んでいる。すさまじい奇跡だ。

たとえすぐには感じられなかったとしても、本作の中にはアークティック・モンキーズのDNAが確かに存在している。“Golden Trunks”には『AM』の楽曲を彷彿とさせるような剥き出しの陰気なリフが含まれているし、“Science Fiction”や“Batphone”のような楽曲には紛れもなく『ハムバグ』の雰囲気がある。シェフィールド出身の彼らは、「(フィッシュ・アンド・チップスのファストフード店を意味する)チップショップ・ロックン・ロール」から、アレックス・ターナーの言葉を借りれば、彼ら自身の『ペット・サウンズ』へと歩みを進めている。アレックス・ターナーは何年もぶらさがったままだった糸をようやく結び上げ、一本の巨大な弓を作り出したのだ。聴くものの立場によって、このアルバムはほろ苦い失望にも輝かしい前進にもなりうる。とはいえ、一体どこへ向かっているのだろうか?

『トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ』というのは、実に相応しいタイトルである。このアルバムはまさしく、夜空を眺めているような心地にさせてくれるからだ。一見すると見通しのつかないサウンドに、散らばった点と点を繋げようと初めは当惑することだろうし、それらが集結しないうちは絶望すら覚えるかもしれない。しかしながら、星座のようなショウを最後まで鑑賞し終えたとき、それがこの上なく聡明なデザインの産物であったことをようやく知ることになるのだ。

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