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  • ★★★★★★★★☆☆
  • 8/10

florence-machine-how-big-how-blue-how-beautiful-stream公平に言って、フローレンス・アンド・ザ・マシーンの3作目のリリースに向けた助走は順風満帆なものではなかった。3~4月にかけてロンドンとサンフランシスコで小規模なライヴを3本やった後、フローレンス・ウェルチにとってシーンに戻ってきてからの最初の大きなギグとなったのは、人目を引くフェスティバルの大親玉であるカリフォルニアのコーチェラという舞台だった。新作『ハウ・ビッグ、ハウ・ブルー、ハウ・ビューティフル』からの楽曲3曲を含むパフォーマンスの間、フローレンスは炎の髪を持った修道僧のようにステージから飛び降り、愛あふれるファンに向かってダッシュしてみせ、その際に足を骨折することになった。その後のロサンゼルスのエース・ホテルでのライヴやコーチェラの2週目のライヴ、「Later with… Jools Holland」でのパフォーマンスでは、28歳の彼女はスツールに腰掛け、傷ついた足は弱々しくブラブラと揺れることになった。大規模な世界ツアーに乗り出そうとする人間にとって、その姿は理想からかけ離れたものだった。

けれど、そのケガは厄介で、徹底的に痛みを伴うものであったけれど、思いがけないケガの功名だったのかもしれない。2011年の豪奢なセカンド・アルバム『セレモニアルズ』に続く新作は、これまで聴いたことのなかった、より内面的な一面を見せている。そして、フローレンスの新曲は、中足骨をくだいた後だったからこそ崇拝された、ある種親密で抑制されたパフォーマンスに完璧にフィットしていたのだ。

マムフォード&サンズとアーケイド・ファイアのプロデューサーであるマーカス・ドラヴスが、2009年のデビュー作『ラングス』とセカンド・アルバムにも参加しているポール・エプワース(アデル、コールドプレイ)とジェイムス・フォード(アークティック・モンキーズ、ハイム)からプロデューサーを受け継いだこともあり、彼ならではの派手派手しい壮大なサウンドがフルエフェクトで鳴り響くのをあなたは期待するかもしれない。しかし、3度のグラミー賞に輝いているマーカス・ドラヴスは多くの人が想像できないことを成し遂げるのに成功している――あのベルティング唱法を封印したのだ。穏やかな“Long & Lost”では、これまででフローレンスの最も繊細な一面が表現されている。ステージで着るあまりにも巨大な彼女のガウンのように浮遊感のあるサウンドが響き、フローレンスはバッキング・ヴォーカルの静かなコーラスに囲まれながら、ジャジーでありながらミニマルなメロディを編み上げていく。もしもジョン・ミルトンがその著作『失楽園』でワイン・バーを描いていたら、こんな曲が店のサウンドシステムからは流れているだろう。同様に“St. Jude”も穏やかな楽曲だ。上品なキーボードのドローン・サウンドに対して、彼女は「失敗に終わった守護聖人」であるユダに向かってメロウな頌歌を歌ってみせる。“Caught”もその控えめさが魅力的な楽曲だ。彼女はこの曲でどこか嘘をつくように次のように歌う。「落ち着いてなんかいられない/じっとなんかしてられない/私の望みに反して引き裂かれる」。そのサウンドはこれまでで最も落ち着いている。

これは何もアルバムにパンチのある楽曲がないと言ってるわけじゃない。“Third Eye”は2009年の“Dog Days Are Over”ぐらい骨太な楽曲だ。フローレンスは完全に伝道師モードに入り込んで、自己救済の導師のごとく「あなたは愛される価値がある」と大声で叫んでみせる。フローレンスは今回マーカス・ドラヴスが水についての楽曲を書くことを禁じようとしたことを明かしているが、聞き入れなかったことでポップネスを獲得することになった。“Ship to Wreck”は、手がつけられないほど舞い上がり、タイタニック級の災難で終わる酔っぱらった夜を思わせる。その活発な生命の力は重々しい“What Kind of Woman”で相殺される。アルバムの前兆となった最初のシングルであるこの曲は、ムーディなギター・リフを上手に使いながら、突如インターポール風のサウンドにかっさらわれ、「20年間続いた献身の炎を作る」原因となった忘れられない恋人へ捧げる苦々しい思いに活力を与えている。アルバムの最後を飾る“Closer”は、エプワースとの最後の作品で、まぎれもなく『スクリーマデリカ』期のプライマル・スクリームのゴスペル・サウンドの影響を受けた、光沢のあるジェファーソン・エアプレイン風のブルースを編み出すことになった。威厳ある楽曲と詩的な作品で満ち溢れている『ハウ・ビッグ、ハウ・ブルー、ハウ・ビューティフル』は、控えめでありながら喜びに溢れる彼女の帰還であり、フローレンスの折れた足が癒えた後も、末永く聴かれ続けるアルバムとなっている。(レオニー・クーパー)

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