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ブラーのベーシストであるアレックス・ジェームスは『NME』のインタヴューに応じて、オアシスやパルプの楽曲をオーケストラと共にカヴァーする「ブリットポップ・クラシカル」ツアーについて語っている。
アレックス・ジェームスは自身のビッグ・フェスティバルで初披露したこのオーケストラとの取り組みで2026年にツアーを行うことを発表している。このステージはブリットポップ時代のヒット曲を生のオーケストラと共に披露するもので、俳優のフィル・ダニエルズ、リパブリカのサフロン、リーフのゲイリー・ストリンガーといったスペシャル・ゲストが参加する。
このアイディアはビッグ・フェスティバルでヘッドライナーがキャンセルとなり、「ミニストリー・オブ・サウンド・クラシカル」が急遽ヘッドライナーになったことで、偶然生まれたものだと語っている。アレックス・ジェームスはブラーやパルプ、オアシスの存在によってブリットポップへの渇望感が高まっている時期にこのツアーを行うことができるのは思わぬタイミングだったと述べている。
「90分間、ヒット曲のみなんて他にないだろ? ABBAの『ヴォヤージ』さえ、そうとは言えない。でも『ミニストリー・オブ・サウンド・クラシカル』を観て、衝撃を受けたんだよ」とアレックス・ジェームスは語っている。
「ヒット曲で90分なんて信じられなかった。それで、連絡を取って、『ブリットポップ・ヴァージョンをやったら絶対にうまくいく』と思ったんだ」
アレックス・ジェームスは「ブリットポップはワインみたいなものなんだよ」と笑ってみせる。「みんな、『95年物だね』という感じで、4時間半のヒット曲を短くするために懸命に取り組んだんだ」
インタヴューでアレックス・ジェームスはブリットポップの定義、ライバルだったオアシスの楽曲を学んだこと、ブラーの今後について語っている。
――こんにちは。ロックンロールでの歳月を経て、クラシックの世界に入った感じはどうですか?
「ほとんどのバンドは曲を楽譜にしたりしていない。僕も楽譜は読めるけど、時間がかかる。だから、すべてを学ばなければならなかった。スタジオでの費用がかかるから、オーケストラとのリハーサルは一度しかできなかったんだけど、チューブラー・ベルやハープなんかもあって、ビビったね。美しくオーケストレーションされた“Creep”を聴いている途中だったと思うけど、自分が泣いていることに気づいた。その時に『よし、これはうまくいくかもしれない』と思ったんだ」
――レディオヘッドというのは興味深い巡り合わせだと思いますが、ブリットポップとはどのように定義して、どうそれをセットリストに落とし込んでいますか?
「自分が思ったら何でもありだね。ザ・ワナダイズも入っているし、彼らはスウェーデンだからね。最後のブラーのツアーではパール・ウィクステンと素晴らしい夜を過ごしたんだ。あまり議論していく感じのことじゃない。ライヴは何幕かに分かれていて、バンドが出てきて、60年代のソングライターによる影響を与えた名曲を演奏するんだ。ザ・キンクス、ザ・フー、ザ・ビートルズ、デヴィッド・ボウイ、T. レックス、ここまでが3分で締めくくられるんだよ」
「そして、オーケストラの照明がついて、素晴らしいクレシェンドからオーシャン・カラー・シーンの“The Riverboat Song”に入っていく。これでゲーム終了だよ。ブラーの“Song 2”とニルヴァーナの“Smells Like Teen Spirit”のマッシュアップも素晴らしいんだ。オーケストラとなんてクレイジーだよ。エラスティカとEMFの曲もいい感じなんだよね」
「すごくエネルギーのある幕、マンチェスターの幕、気持ちのいい幕があって、オーケストラが輝くのは“Creep”と“Bittersweet Symphony”だね。フィナーレに向けてシンガロングの幕があって、音量としてはバンドが40%で、観客が60%になるんだ」
――ストリングスと一番相性がいい曲はどれになりますか?
「パルプのヒット曲にはオーケストラといい感じのものがあるし、あとはオアシスだね。オアシスの曲は理解するまでに時間が必要だった。“Wonderwall”のグルーヴは天才だね。ああした作品とじっくり向き合えたことは素晴らしいことだったね」
――当時もオアシスはよく聴いていましたか? ブリットポップ対決もありましたが……?
「ああ、よく会っていたしね。あるツアーで何度も顔を合わせたんだ。よくあることでね。初めてアメリカ・ツアーをやった時はシュガーキューブスとよく会って、デーモン・アルバーンは今もアイナール・オルンとは仲がいいんだ。行った先で開いていたバーには最後まで残っていたから、あるアメリカ・ツアーではオアシスとよく会ったんだ。サンフランシスコで会ったことを覚えているよ」
「しかし、オアシスが再結成ツアーでやり遂げたことは最高だったね。圧倒されたし、世界の多くの人にたくさんの喜びをもたらしたんだ」
――昨年、オアシスの再結成公演には行かないと行っていましたが、約束は守っていますか?
「ああ、行ってないよ。でも、情報は把握しているよ。数週間前にアンディ・ベルに会ったんだけど、“Wonderwall”を絶賛したんだ。『あれは理解するまでに時間が必要だったよ』ってね。そうしたら、アンディ・ベルも『自分もベース個別の音源を取り寄せなければならなかったんだ』と言っていた。まあ、素晴らしかったよ」
――マンツーマンで指導は受けたんですか?
「それはなかったけど、ジグソーパズルみたいな感じなんだ。ああした曲に時間を費やせたことは満足だった。ベースが一つに繋げているんだ。最近は金曜日に娘をどこかに乗せていく時に最新チャートを聴くんだけど、ずっとチャートを聴いていなかったんだ。最近のチャートはハイ・ストリートみたいだよね。大きなブランドに支配されている。90年代は小さなインディペンデントのアクトがいた。リパブリカの“Ready To Go”をツアーでは演奏するんだけど、そうした中でも今も愛されている曲なんだ。最もゆっくりと広まった曲だけど、消えていないんだよね」
「ああいう曲は最初にリリースされた時以上に今のほうが愛されている。そこには強いノスタルジーの要素もあるけど、それ以上のものがある。うちの子どもが学期中にパーティーを開いた時に、誰かどうかなっていないかと思って部屋を見に行ったら、“Bittersweet Symphony”を聴いていたんだ。ブラーの直近のツアーでも驚いたのは、子どもの友達がチケットを買ってライヴに来てくれたことだった」
――ブラーの直近のツアーもオアシスの再結成公演も新しい世代の観客を惹きつけることになりました。新しい世代にはデーモン・アルバーンやリアム・ギャラガーがいないからでしょうか?
「それはあるよね。デーモン・アルバーン、リアム・ギャラガー、ノエル・ギャラガーだけじゃなく、僕らの世代にはジャーヴィス・コッカーもギャズ・クームスも、いろんな人たちがいた。それぞれ違うスタイルとジャンルによる無限の宝庫のようだった。バンドには素晴らしいものがあるんだよ。バンドがいないほうが業界にはいいのかもしれないけどね」
「ザ・ビートルズ以前の、ロックンロール前の時代に戻った感じだよ。ハリウッドの巨大スタジオがあって、ドリス・デイやジュリー・アンドリュースといった大スターが出演するんだ。巨大スタジオはかつてないほど巨大になったけれど、中規模や小規模のスタジオはもう存在しない。ブリットポップは全部、本当に小さいところから始まったんだ」
――しかし、かつては小さなインディ・バンドだったバンドが、今では歴史に刻まれていますよね。
「多くのバンドが解散して、お互いを憎み合っている。もうこの世にいない人もいる。私は何が本当に会場を沸かせるのかという観点からアプローチしている。バンドは最高だし、オーケストラはまったく新しい次元を与え、シンガーたちはコーラスのように歌う。ノエル・ギャラガーやデーモン・アルバーンの真似をする人物はいない。そうやって本物らしさを出していて、その意味ではカヴァー・バンドみたいな感じなんだ。それぞれの曲には独自の世界があるんだよね。それがうまくいっているんだ」
――“Wonderwall”をカヴァーしているということはノエル・ギャラガーにロイヤリティが支払われるということでしょうか?
「ああ、そうだね。払っているよ」
――カヴァーしたアーティストから反響はありましたか?
「トラヴィスがフェスティバルに出ていて、“The Universal”を歌ってもらえないか、お願いしてみたんだ。彼らは本当に気に入ってくれてね。まだ1公演しかやっていないけど、オリジナルのアーティストに参加してもらうのは難しいことじゃないと思う。サプライズを台無しにしたくはないけど、デーモン・アルバーンやリアム・ギャラガーは期待しないでほしいけどね」
――ブラーの楽曲を演奏することで、バンドを復帰させたいという気持ちは生まれましたか?
「さあ、どうかな。直近のツアーはよくない面がなかった初めてのツアーだった。ウォーミング・アップ公演で最新作をハマースミスで演奏したけど、20公演もやっていない。それがツアーを好きだったことを思い出させてくれる。ベースを弾くことだけが人生で唯一うまくできたことだって思い出すんだ。他のことはごまかしてるだけさ」
「僕らはラッキーだった。15年かけて技術を磨くことができた。デーモン・アルバーンがギタリストやベーシスト、ドラマーを必要としなかったら、ブラーはなかっただろうね。今はスマートフォンでできるからね。チャットGPTに『ベースラインを書いて』と言うだけだからね。騒がしい酔っ払ったキッズがバンドで騒動を起こすのにはマジカルなものがあるんだ。『ブリットポップ・クラシカル』はその精神を描こうとしているんだ」
――昨年、グレアム・コクソンと話をしたのですが、全員そろそろ「潮時が近づいている」から早く再結成した方がいいと言っていたんですが……。
「映画『スパイナル・タップ』の最新作は観た? 彼らも歳を取っているよね。ベースの上にチーズでも並べないといけないかな。ただ、演奏するのが好きで、やり過ぎない限りは続けない理由はないよね。少なくともメンバーの誰かが死ぬまで続けられたら最高だよ。 多くのバンドが解散して、最高傑作からも離れて、ヒット曲を演奏しようとしないなんて悲劇だよね。そうしたものを解決したくて、今回のことをやっているんだ。ヒット曲がここにはあるんだ」
――ブラーの最新作の2作品『ザ・マジック・ウィップ』、『ザ・バラード・オブ・ダーレン』は充実した作品でしたよね。
「初日にスタジオに入る時は怖かったよ。だって、9枚目のアルバムでお互いを嫌ってないバンドなんて考えてもいなかったからね。まともな9枚目のアルバムなんて考えてもいなかった」
「ジョニー・マーがシックのバーナード・エドワーズとナイル・ロジャースについて語る素敵な動画があるんだけどさ。聴いたら、友人だということがサウンドで分かるというんだよね。『ザ・バラード・オブ・ダーレン』はリラックスして、落ち着いていて、成熟した作品だと思うよ」
――ブラーはまたアルバムを作ると思いますか?
「このバンドは最初のリハーサルからずっと『一体どうなるんだろう?』という感じなんだ。最初のリハーサルで“She’s So High”を書いて、35年後もまだやっている。化学反応があって、なんかうまくいくんだよ。大変なのは全員を同じ部屋に集めることだけど、ひとたび集まるとすごいんだ」
――「ブリットポップ・クラシカル」とブラー以外に、何か音楽プロジェクトを始める気持ちはありますか?
「今回はたまたまで、最高の形になったんだよね。やらずにはいられないって思った。こういうものを観たがっている新しい世代がいた。ライヴを観に行くことが卒業旅行的なものになっている。ローマやヴェルサイユに行くのではなく、今の世代はグラストンベリー・フェスティバルやロスキレ・フェスティバルに行くんだ」
――「ブリットポップ・クラシカル」は毎年行われていくものになるでしょうか?
「ブラーと同じだよ。需要があって、楽しければ、やらない理由はないからね」
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