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2018年の9月に最新作『フォー・クライング・アウト・ラウド』の長きにわたるワールド・ツアーを終え、バンドとして休息期間に入ったカサビアンだが、ギタリストでソングライターのサージ・ピッツォーノがそこで止まることはなかった。本名であるセルジオ・ロレンゾ・ピッツォーノの頭文字を冠したソロ・プロジェクトであるザ・S.L.P.を始動し、初となるセルフタイトルを冠したソロ・アルバムをこの度完成させている。「すぐに退屈してしまうタイプ」だというサージ・ピッツォーノがバンドのオフの期間を利用して完成させたアルバムは、既に書き上げていたという「一方その頃……」を意味する“Meanwhile…”がコンセプトになった3曲の隙間を埋めるように作り上げた「ロード・ムービー」のようなアルバムになっている。ここに掲載するのは、9月4日に日本盤が発売される『ザ・S.L.P.』について語ったサージ・ピッツォーノのレーベル公式インタヴューだ。サージ・ピッツォーノはその中で、本作の制作過程で感じた「純粋な喜び」についてや、カサビアンとしてのソングライティングとの違いについて、そして、待望されているカサビアンの新作に本作が与えた影響についても語っている。

――まさかあなたのソロ・アルバムを聴ける日が来るとは思いませんでした。まずはあなたがソロ・アルバムを作ることになった経緯を教えてください。

「1年間オフができてね。すごくシンプルな理由なんだ。何かやりたかったし、今やらなくていつやるみたいな感じだったんだよね。手元に“Meanwhile…”という曲が3曲あって、映画音楽みたいな感じにオーケストレーションがしてあってね。その3曲でアルバムの最初と真ん中と最後を飾る姿が見えたから、じゃあその間を埋めていこうと思ったんだ。そうしたらアルバムができた。それだけの話なんだよね、実のところは」

――つまり、このソロ・プロジェクトを始める前に既に“Meanwhile…”があったということですか。

「そう、ハードディスクに入れてあったんだけど、このままいくと10年くらい日の目を見ないかも知れないなって思っていたんだ。不完全な形でもあったしね。でも、『これ使えるんじゃないか?』 と思ってさ」

――あなたはカサビアンでもすべての曲を書き、プロデュースまで含めてすべてやっていますよね。カサビアンでやってきたソングライティングから今回は意図的に距離を置き、別物にしようとしたのでしょうか。

「うーん……少しはそうだったかな。まあ、いつもより自由だったから、好き勝手にやることができたよ。思いつくままに実験してみて、流れに身を任せて様子を見てみたんだ」

――「自由」と言う言葉が出てきましたが、カサビアンは今やとてもビッグなバンドになりました。全英1位を取るようなアルバムも、ヒット・シングルも連発しています。あなたの言う「自由」というのは、音楽的な自由もさることながら、ヒット・シングルが必要だとか、全英チャートで1位を獲らなきゃいけないといったプレッシャーから自由になりたいという意味もありましたか?

「そうだね、そういう要素も含んでの『自由』だったと思うよ。いいことだったと思う。それにアーティストとしては、単に趣向を変えるだけでもためになるものだからね。アーティストとしては絶えず居場所を変え続けて、新しい地平線を見続けるというのが大切になってくるんだ。そうすることで、違う人間になれるわけでね。それってすごく大切なことだと思っていてね。ある一定のやり方や生活に慣れてしまうというのは、あまり面白いことではないからね。違う環境に身を置くことで、何かを学ぶことができるんだよ」

――このアルバムを作ることによって、普段のカサビアンという枠組みからはみ出してみようとしたわけですね。

「そう! その通りだよ。自分自身をいつもとは違う状況下に置いてみたかったんだ。時には嵐の中に自ら飛び込んでいく必要もあるからね。その嵐を抜けたときにどうなるのか、様子を見てみるんだ。嵐に近づくことすらしなかったら、それを感じることなんてできないからね」

――あなたのソロ・アルバムがリリースされると聞いて、カサビアンよりも遥かにアヴァンギャルドで、いい意味でやりたい放題な作品になることは予想していましたし、実際本作はあなたのマッド・ジーニアスっぷりが発揮された、実験的でフリーキーなアルバムになっていると思います。けれど、同時に“Nobody Else”や“((trance))”のようなメロディがきちんと際立った「ポップ」・チューンもあって、その点は嬉しい驚きでした。もちろん、巷で流通しているようなポップ・ソングとは意味合いが異なるわけですが。

「そう、その通りだよね。今回は心の赴くままに作った感じなんだけど、自分のパーソナリティのいろいろなところにスポットを当ててみたんだ。洗練されたフレンチ・ディスコみたいなアルバムにしたかったんだよ。最近はそういう感じの音をよく聴いているんだ。それもあって、アルバム作りは自分のレコード・コレクションを作っているような感じだったよ」

――アルバムを作りながら、特定のリスナー像や聴かれ方を想定したりはしていたのでしょうか?

「これは『旅 』のアルバムなんだ。俺が思い描いていたのは地下鉄に乗って仕事に行くようなシチュエーションでね。車で出かけるのでもいいけど。あとは、遠くに行く旅とかね。ロード・ムービーみたいな感覚なんだ。言ってることわかるかな?」

――“Meanwhile… in Genova”で電車に乗って、“Meanwhile… At the Welcome Break”で乗り換えて、最後に“Meanwhile… in the Silent Nowhere”で降りる、みたいなイメージでしょうか。

「そう! そうなんだよ! まさにその通りなんだ」

――その“Meanwhile…”の3曲ですが、アルバムの頭と折り返し地点と最後に登場するという構成も含めて、本作は非常にシネマティックな作品だとも感じました。

「そうだね。僕は映画的なものが大好きなんだ。ヴィジュアル的な要素が大きいものがね。そういうのに大きな影響を受けているから、僕の一部みたいなものなんだよ。だから、このアルバムにはセルフ・ポートレイトみたいな側面もあるんだ。僕自身を表しているところがあるね」

――だからかも知れませんが、1つ1つの曲はまったく違うものの、同じひとりの人、同じ1つの映画のようなまとまりを感じますね。

「そう、その通りだよ」

――“Meanwhile…”シリーズは本作に取り掛かる前に書かれたものという話でしたが、本作のソングライティングはいつ頃から始めていたのでしょうか?

「去年の9月くらいじゃなかったかな。その辺りから、ソロ作が可能なのか、本当に自分がやりたいことなのか、と考えるようになったんだ。それもあって、あのシリーズが重要だったんだよね。ただやみくもに曲を作るより、形になるものなのか様子を見てみたかったから。あれが目安みたいになったんだ。ストーリーみたいに、その合間を埋めるという感覚で作ったんだよ。6ヶ月くらいだったかな、スタジオに1日中こもって完成させたよ」

――取り掛かり始めたのは、2018年の9月に『フォー・クライング・アウト・ラウド』のツアーを終えた後からだったのでしょうか?

「9月から11月の間くらいだったかな」

――ツアーの間にもソロ・アルバムのことは考えていましたか?

「特にそうでもなかったな。最後の頃は考えていたかも知れないけどけどさ。唐突に『それって悪くないアイディアだな』と思ったんだよね」

――ツアーの後で休息を取ろうとは思わなかったのでしょうか? もちろん、あなたの勤勉なところがみんな好きなわけですが。

「1分くらいは考えたかな。1日くらい休むのもいいかなって。けど、すぐに退屈してしまうタイプなんだよね」

――何かに取り組んでいたほうが心地いいのですね。

「そうだね、そう思うよ。うん」

――ティム・カーターがあなたの右腕として活躍していますが、このティム・カーターってあの(カサビアンのサポート・メンバーの)ティムですよね?

「そう、あのティムだよ。カサビアンのエンジニアとかもしてくれている彼のことさ。すごく仲がいいんだ。それに、彼は素晴らしいミュージシャンだからね。カサビアンの過去のアルバムのいくつかにも参加してくれている。彼が参加してくれたのも嬉しいね」

――かなりのマルチインストゥルメンタリストですよね。ギターのみならず、様々な楽器にクレジットされていますが。

「そうなんだよ。すごい奴なんだ。ほとんど何でもこなしてしまうしね。何をしても驚くほど巧いんだ。それに、造詣も深くてね」

――ご自身もそうですよね。色々と担当していたみたいですが。

「そう、俺も大体どんな楽器もやるんだ。ただ、何でもやってみようと思うだけで、巧くはないけどね。本当に得意なのは、プロダクションやソングライティングなんだ。楽器に関しては『やれることをやる』っていう感じかな。得意なものはものすごく得意だけどね。どの楽器に関しても名人とまではいかないけど、何でもやるよ」

――今回の曲作りのプロセスやレコーディングの手法は、カサビアンとはまったく異なるものだったのでしょうか? 本作で顕著にうかがえるのは、ストレートにギターをかき鳴らすナンバーがほとんど入っていないということですが。

「ギターはほとんど使っていないね。使ったとしても、今までとは違う形だった。いつもよりデリケートな感触だったり、リズミカルだったり。曲の大半はピアノを使ってか、リズムやビートで組み立てたものなんだ。ループとかね。そういう風に生まれたものなんだ」

――それはカサビアンとは異なるものだったのでしょうか。

「いや、実は同じなんだ。プロセスはすごく似ていてね。今回との一番大きな違いは、層の厚さだね。今回はほとんど重ねていないから、すごく簡潔な形になっているんだ」

――重ね録りもあまりしていないと。

「そうだね。ミニマムに留めているよ」

――アルバムの中でも特に異彩を放っているのは、ダブとグライムとマントラが宇宙空間でクロスオーヴァーしたかのような、“The Wu”から“Soldiers 00018”への流れだと思います。この2曲はどのようなアイディアから生まれたものなのでしょうか。

「“Soldiers 00018”はM.I.A.にインスピレーションを得た曲なんだ。彼女は素晴らしいアーティストだと思う。あの曲はポジティヴィティと愛を打ち出した曲で、兵士たちはそのメタファーとして使われている。世の中を変えるにはどうしたらいいか、それにはヘイトじゃだめなんだ。一体感とコミュニティだけが世の中を変えることができると思っていてね。“The Wu”は、単に夜遊び的なイメージかな。自分の居場所を見つけようとしているんだ。ウータン(・クラン)は俺の音楽の道に一貫して通っている糸みたいなもので、昔から彼らの音楽が大好きなんだ。あのグルーヴはキック・ドラムがいい味を出しているよね」

――“Soldiers 00018”はポジティヴィティについての曲とのことでしたが、本作の歌詞にはテーマ、物語と呼べるものはありますか?

「俺のパーソナリティの要素が現れている感じかな。自分自身のストーリーだったり、周りの人たちのストーリーだったりという具合にね。けど、どの曲が何についてで、どの登場人物が誰のことなのか、というのはいつもリスナーに委ねているんだ。どれが俺で、どれが俺じゃないとかね。それから人々がひとつになることの必要性や願いも込めていて、それが多くの作品の根本にある。それから俺の願いとして、お互いの物語にきちんと耳を傾けていたような、そういうコミュニケーションのあり方に戻りたいという願いも込めているんだ。今じゃみんな、『F—K YOU! F—K YOU!』みたいな感じでピー音が入って終わりだしね。『君はどうしてそう思ったのか。そう思うに至るまでに何が起こったのか』みたいな話をちゃんと聴けば、それに対してどう手助けをすれば、その思いの根本まで辿り着けるのかが分かるかもしれない。そうしたら、何らかの解決策ができるんじゃないかって思うんだ」

――確かに、今はみんな「いいね」で済ませてしまいますし、人の考えの深いところまで見る機会もあまりないかもしれませんね。

「そうなんだよ! アートの深み、人間関係の深み……そういったものを短絡的に警戒してしまうことがあまりにも多くて、時間も限られているし、ほんの数語しか要らなくなってしまったんだよね。でも、それって悲しいことだと思うんだ。深いところを見過ごしてしまっているわけだからね。見過ごしてしまっていることがあまりにも多い。そんなことでは、どうにもならないわけでさ。きちんと語り合うことなしには、本当に美しいものを見ることはできないんだ。そうだろう? 例えば誰かの芸術作品を取ってみても、『ああ、この曲スマホで聞いたことあるな』と思うだけだったらそれで終わりだけど、古いレコードをちょっとしたスピーカーで20回くらい聴いたら、『こんなに言いたいことがあったのか』と気づくかも知れない。そういう気持ちを込めているんだ。

――このアルバム自体が多彩で、もっと聴きこみたいと思わせるものなのもいいですよね。

「そう、俺たちと同じでね。みんな違う顔を持っているから」

――本作の制作にあたり、インスピレーションになったアーティストやアルバムなどはありましたか? このアルバムを作っている間によく聴いていたのは?

「サウンドトラックの名盤は昔から大好きなんだ。(エンニオ・)モリコーネやジョン・バリーの作品に心酔していてね。あと最近だと、タイラー・ザ・クリエイターやマック・ミラーの大ファンなんだ。前から思っていたことだけど、彼らは表現したいものを明確に持っているよね」

――本作にはリトル・シムズが参加しています。 “Favourites”は彼女の持ち味が活かされたナンバーですね。コラボすることになったきっかけを教えていただけますか?

「若手のブリティッシュ・アーティストに活躍の場を与えたいと思った、それだけだよ。彼女は素晴らしいと思うしね。将来的には多くのアーティストとコラボして、たくさん曲を作っていきたいと思ってるよ。色々なアーティストと、色々なタイプの曲を作りたいんだ」

――“Nobody Else”もかなり新機軸の曲だと思いました。バレリアックでユーフォリック(多幸感が溢れるよう)なハウス・チューンを書くに至った経緯を教えてください。

「確かにユーフォリックだね。ユーフォリックなんだ。太陽みたいに明るいヴァイブでね。あの曲を日本でプレイしたらどんな感じになるだろうね。ああいうビートの曲だけど、すごくイギリス的な曲だと思っているんだ。あとはそうだな、屋根のない車で聴いたらどんな感じになるかなとも思う。最近はジャズのコードに興味があってさ。それまでは特に学ぼうと思ったことがなかったんだけど、そういうのを使ったらどんな感じになるかなと思ったんだ」

――近年のカサビアンのアルバムではあなたのヴォーカル・パートも増えてきましたが、それでもカサビアンの曲は基本的にトム(・ミーガン)が歌うことを想定して書かれていくものですよね。リード・シンガーとして臨んだ本作において、ご自身の声の特徴をどう曲作りに落とし込んでいったのでしょうか? また、ご自身が歌うことで曲作りに新たな可能性が見出せたりはしたのでしょうか?

「あったね。今回はすごくオープン・マインドに臨んだんだ。子供らしい心のアプローチでね」

――子供らしいというと?

「まずはやってみる、というね。完全に自由な気持ちで、トーンや特徴に関係なく、とにかく曲のエモーションに入り込もうとすることだね。それを目指していたんだ。何かを作るときの純粋な喜び。それだね。それが、僕のあらゆることに対する情熱を再燃させてくれたんだ。そういう気持ちを思い出させてもらうのは嬉しいことだ。そうだろう?」

――自分自身で歌うことに新たな可能性を見出したりはしましたか? それこそ“Nobody Else”のような曲は、トムよりもソフトな声の持ち主であるあなたが歌うことで成立したナンバーにも聞こえます。

「まさにそうだね。あの曲がカサビアンの曲になることはあり得ない。やってもうまくいかないと思う。だからと言ってお蔵入りにするのはもったいないし、存在すべき曲なんだ。存在させないなんてダメだよね」

――ちなみに、ご自身がソロ・アルバムを作ることについてトムはどのようなリアクションをしたのでしょうか?

「トムも他のメンバーも全面的に支持してくれたよ。このバンドが長くやっていられることの証明だよね。俺も彼らの味方だし、彼らも俺の味方でいてくれるんだ。そういう素晴らしい関係でいられるのは幸運だよ」

――トムの反応はいかがでしたか?

「最高だって褒めてくれたよ。彼は俺が何か別のことをやらないと気が済まないことを理解してくれているしね。長い目で見たら、それがバンドのためになるっていうことを分かってくれているのだと思う」

――ちなみに彼は「休んで」いるのでしょうか?

「今はね。でももうすぐ一緒に始動するよ。年内に一緒にスタジオに入って曲作りをするんだ」

――つまり、既にカサビアンの新作についても考えているのですね。嬉しいニュースです。

「俺のほうは曲を書き始めていて、もう既に幸せを感じているよ。今回のソロがなければ、考えられなかったようなものが生まれつつあると思う」

――最後に日本のファンにメッセージをお願いします。

「ハロー、ザ・S.L.P.のサージです。セルジオ・ロレンゾ・ピッツォーノだよ。俺がこの作品を楽しみながら作ったように、みんなもアルバムを楽しんでくれることを願っているよ。この作品は本当に旅みたいなアルバムで、みんなにも“Meanwhile…”(その間の時間)があると思うけど、これが僕の“Meanwhile…”なんだ。みんな、大好きだよ。近いうちに会おう!」

作品詳細

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The S.L.P. | ザ・S.L.P.
ファースト・アルバム『The S.L.P. | ザ・S.L.P.』
2019年9月4日(水)発売
SICP-6187
¥2,200+税
初回仕様限定両面ポスター封入
1. Meanwhile… In Genova | ミーンホワイル…イン・ジェノヴァ
2. Lockdown | ロックダウン
3. ((trance)) | ((トランス))
4. The Wu | ザ・ウー
5. Soldiers 00018 | ソルジャーズ・00018
6. Meanwhile… At The Welcome Break | ミーンホワイル…アット・ザ・ウェルカム・ブレイク
7. Nobody Else | ノーバディー・エルス
8. Favourites (featuring Little Simz) | フェイバリッツ feat. リトル・シムズ
9. Kvng Fv | カン・フー
10. Youngest Gary | ヤンゲスト・ゲアリー
11. Meanwhile… In the Silent Nowhere | ミーンホワイル…イン・ザ・サイレント・ノーウェア

※アルバムのストリーミングはこちらから。

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