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彼らが公開している動画の数々を見ていると、ザ・チェインスモーカーズでいることはさぞかし気分がいいに違いないと感じてしまう。31歳のアレックス・ポールと27歳のドリュー・タガートの日常は、とにかく楽しそうに映るのだ。2人が時間を費やしていることと言えば、ビアポン(ピンポン珠が入ったグラスのビールを飲めるというゲーム)に興じること、ゴルフカートを盗むこと、女性の胸にサインをすること、ヘア製品を試すこと、ラスベガスへ行くこと、余分にもう1曲披露すること、華々しく花火が打ち上がる中でステージから飛び降りること、ビールを飲むこと、テキーラを飲むこと、深夜にマクドナルドに注文をすること、U2のボノと交流すること、更にビールを飲むことなどなど……。

そんな中で実は、ザ・チェインスモーカーズが今までに公式サイトにアップした32個のツアー動画の中で唯一とも言えるやっていないことがある。喫煙だ。2人ともタバコが好きではないのだ。彼らは別の方法で健康を害することを好む。「『マザーバーディング』って知ってるかい?」とドリュー・タガートは尋ねてくる。「マザーバーディング」は23個目の動画のタイトルになっている、口いっぱいに含んだ酒を誰かの口に吐き出す、というものだ。ドリュー・タガートは「マジで気持ち悪い」と指摘する。「でも、ファンのみんなは一時期そればかりやってたんだぜ」

ザ・チェインスモーカーズには何百万人というファンが存在する。過去12カ月にわたってザ・チェインスモーカーズが成し遂げた成功には目を瞠るものがある。シングル“Closer”――ドリュー・タガートとゲスト・ヴォーカルのホールジーがデュエットした曲で、男女がランドローバーの上でイチャつく様子を歌っている――はビルボードのシングル・チャートで12週にわたって首位をキープし続けた。世捨人ですらこの曲は耳にしたに違いない。「クレイジーだよ。だって何もかもが光の速さで進んでいくんだ」とアレックス・ポールは語る。「グラミー賞(“Don’t Let Me Down”で最優秀ダンス・レコーディング賞を受賞)だって獲って、“Something Just Like This”(コールドプレイとコラボした彼らの最新曲)のリリック・ビデオは、YouTubeにおける24時間の再生回数で新記録を打ち立てたんだ。まだ感傷に耽る時間すら僕らにはないよ」

彼らの幸せな悩みを裏付けるように、あるYouTubeの視聴者はこのようにコメントを残している。「こいつらがうらやましい。俺はまっとうに稼いでるのに、こいつらはムカつくほど人生を謳歌してる」。しかしながら、人々にそう思わせてしまう振る舞いとは裏腹に、ザ・チェインスモーカーズは成功をつかむために相当の努力をしている。ロサンゼルスでアレックス・ポールとドリュー・タガートに電話をした際、彼らは4月7日に発売となるアルバム『メモリーズ…ドゥー・ノット・オープン』の最終チェックに追われていた。「今はマスタリング担当のエンジニアと72時間もモメてたところさ。マルチバンド・コンプレッションや他のマニアック過ぎる部分についてね。そんなの誰も気にしないだろっていうのに」とドリュー・タガートはため息まじりにこぼしている。

しかしながら、特にポップの世界では振る舞いも注目されてしまうのも事実である。そのため、ザ・チェインスモーカーズのことをスノーボードをやってて、ビールをがぶ飲みし、EDMを売り歩く男子学生だと、否定する人間も少なくない。例えば、2017年のNMEアウォーズで、ザ・チェインスモーカーズは『NME』の読者たちによって「ワースト・バンド」のカテゴリーにノミネートされている。「みんなに『出たよ、あいつら調子に乗ってんだろ』って言われるよ」とドリュー・タガートは語る。「僕はこう返すんだ。『違うよ、そういう連中をからかってんだよ』ってね」。特にアレックス・ポールは、そのあたりの違いをはっきりとさせたいようである。「この記事を読んでくれた人が、僕らのアーティストとしての深い目的と本当のキャラクターを理解してくれることを願うよ」と彼は真剣な眼差しで訴える。「要は僕らはグレーな立ち位置にいるのさ。『分かんねえけど、こいつらってクソなんじゃないの?』って思われるようなね。でも、約束するよ、僕らは偽物じゃない」

アレックス・ポールはニューヨークで育った。大学を卒業後、ニューヨーク市内を転々としながら音楽を作り、アート・ギャラリーで受付の仕事をしながら何とか食いつないでいた。一方、ドリュー・タガートは大学に通いながらインタースコープ・レコードでインターンとして働いていた。そんな2人が知り合ったのは、アレックス・ポールが「野郎のデート」と呼ぶ、共通の知人を介した紹介の場だ。「お互いにアヴィーチー、デッドマウス、デヴィッド・ゲッタ、カルヴィン・ハリスが好きで意気投合したんだ」とアレックス・ポールは語る。「僕らも彼らと同じフィールドに立ちたくてたまらなかった。僕から誘ったんだよ。『なあ、僕は明日仕事を辞めるから、これからは毎日一緒に音楽を作ってみないか』ってね。最初は何をしたらいいのか分からなくて荒削りだったけどさ。でも、そこから次第に、ペースは遅かったけど確実に小さな成果を出せるようになっていったんだ」

積み重ねていった小さな成果は、すぐに大きな成功を呼び込むことになる。2014年、ザ・チェインスモーカーズの楽曲“#SELFIE”がネット上で広まり、スマッシュ・ヒットを記録したのだ。「ジョークのつもりで作った曲なんだよ」とアレックス・ポールは説明する。“#SELFIE”は風刺的なEDMソングだ。ノリノリのダンスチューンをバックに、クラブ好きの高級住宅街に住む若い女性が中身のない話を延々とし続けるというストーリーが展開される。「成功に対する準備が整わないうちに、曲がものすごくヒットしたんだ。他に流せる曲すらない状態だったからね」とアレックス・ポールは当時を振り返る。一発屋で終わる可能性もあったアレックス・ポールとドリュー・タガートだが、2人はものの見事に持ち直し、人々を夢中にさせるニュースクール・ポップを作り上げるまでに変貌を遂げていく。そして2015年には、新進気鋭の女性アーティスト、ロゼスことエリザベス・マンセルをフィーチャーし、マイナー・キーのポップを繊細にアレンジしたシングル“Roses”をリリースすることとなる。

そこに加えられた天真爛漫なフックと、ダブステップ、トラップ、EDMやR&Bのプロダクションが相まったキャッチーな構成要素、それこそがザ・チェインスモーカーズの成功の秘訣だ――この秘訣こそ、彼らのミュージック・ビデオが30億回以上の再生回数を記録している所以である。そして2枚のシングルはアメリカで4xプラチナを獲得した。今ではザ・チェインスモーカーズはラスベガスのナイトクラブで実入りのいい3年間のレジデント契約を結び、アイドルであるデヴィッド・ゲッタらと肩を並べてプレイするまでになっている。2人はそれぞれがロサンゼルスに数百万ドルの家を購入できるほどの大金を稼ぎ、そこでガールフレンドと暮らす日々を送っている。

昨年の2016年9月に米『ビルボード』誌の表紙に選ばれたことも、ザ・チェインスモーカーズにとっては一つの節目となった。しかしながら、掲載された記事は彼らが期待していたような遊び心のある内容ではなく、2人のジョークもそれほど面白く書かれていなかった。掲載された記事にアレックス・ポールによる以下の発言がある。「成功する前から、プッシーが1番さ」。ザ・チェインスモーカーズには、アルコールとモデルとペニスの大きさで頭がいっぱいになっている、盲目的で無鉄砲なイメージが植えつけられることになる。

「そりゃ影響するさ。他人がどういう見方をするのか分からないからね――例えば彼らが額面通りに物事を受け取って、こいつはこういう人間なんだって思われるかどうかは分からないわけだし」とアレックス・ポールは言う。「これは謝罪だとか、発言の撤回とかいうことじゃないんだ。それよりも……僕はマシな人間になるとか言いたくもないしさ、それってお決まりのセリフって感じがするし。ただ、自分に正直でい続けて、全員が味方ではないんだって理解するしかないよね。前進あるのみ。決断には責任を持つ。僕らがやってることを10歳の子供が見たらどう見えるか考えることってね――彼らが僕らの音楽や馬鹿騒ぎに触れたとき、どういう影響を与えてしまうのかを考えるんだ」

アレックス・ポールは、自分の考えをはっきりと主張する人間で、気取らない態度と会話の流れをつかむ鋭い感覚を持っている。一方でドリュー・タガートは、アレックス・ポールよりも思慮深い人間である。彼は何か考えている時、会話の途中でしばしば沈黙することがある。「去年はいろいろなことを経験したよ」とドリュー・タガートは振り返る。「有名になることと向き合ったし、今まで興味も示してこなかった人たちが僕らの人生に目を向けてくれるようになった。そういうことが親しい人々との関係に影響を与えるんだ。それに、これまで親しくなかった人たちも近づいてくるようになったね」そう話すドリュー・タガートは、ザ・チェインスモーカーズの曲の大分を書いている。

最近では次第に歌うことも増えてきている。彼は自分自身や友人のピンポイントな体験、彼が言うところの「かなり細かい特定の瞬間」を曲に描写している。試しにもう一度“Closer”を聴いてみて欲しい。元恋人と再び一夜を共にしてしまった後の後悔を感じ取れるはずだ。ドリュー・タガートはニュー・アルバムの楽曲に描かれる歌詞はもっと実生活に近いものになると断言する。「素晴らしい瞬間についての曲もあるし、最悪な瞬間についての曲も、魅力的な瞬間の曲もある」とドリュー・ダガートは語る。「曲を聴いて自分のことのように感じてしまう人もいるはずだよ」

「ドリュー・タガートがドリュー・タガートについて書いてるんだ」と彼は続ける。「最高の状態でない時の自分を認めないといけない時のことを書いているんだよ。完璧にならなきゃいけないなんて、誰も感じる必要はないんだ。自分たちの間違いにきちんと向き合っていれば、みんなのロール・モデルになれるに違いないんだ」ここに、聴き手を惹きつけるザ・チェインスモーカーズの圧倒的な魅力の秘密がある。彼らが奏でるポップ・ミュージックは、マシな人間になろうと考えさせるような曲ではない。彼らの音楽は、非常識なほどの楽しみをよしとするライフスタイルと密接に結びついている。それに彼らの曲は春休みにクラミジアに感染するよりキャッチーだ。そして当然、ザ・チェインスモーカーズにも、彼ら自身のロール・モデルがいる。

経験豊富なロック・スターのアドバイスが必要になる事態に備えて、2人の携帯電話にはジャレッド・レト、ボノ、そしてクリス・マーティンの電話番号が登録されている。「未熟だと感じている自分たちについての曲を書いてるんだ……彼らはどこかのタイミングでそれを経験してる」とアレックス・ポールは語る。「でも、彼らの曲は世界中で受け入れられた。クリス・マーティンはこう言うはずだよ。『いい曲だ。でも世界はこの曲を必要としてるかい?』、それには僕はこう答えるだろうね。『必要としてないと思う。でも僕らには重要なんだ』ってね」

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ドリュー・タガートとアレックス・ポールには、世界中に変化をもたらす楽曲を書くという野望がある。差し当たり、彼らは大人気のお調子者として厳しい批判を受ける覚悟があるようだ。しかし110万人以上いる彼らのツイッターのフォロワーにとっては、ザ・チェインスモーカーズは心温まる話や啓発的な名言、毎日のインスピレーションの源でもある。「僕は気楽な人間なんだ。スーツを着て真面目にやるんだったら、ふざけていたいね」とアレックス・ポールは言う。

「とは言っても、僕らのプラットフォームをいいことに使ったり、僕らの音楽でリアルなレベルで人々と繋がれたりすることは大切だと思うんだ。例えば昨日、こういうメールをもらったんだよ。9歳の子供が病気を診断され……不治の病っていう言い方はしたくないんだけど、その子の容体はこの先もずっと深刻らしいんだ。その子の脳はあまり反応を見せず、両親は途方に暮れていてさ。そんな時、その子の両親は僕らが“Closer”をパフォーマンスしているビデオを流してみたら、初めて子供が反応を示してくれたっていうんだ。その子は車椅子で踊りまわった。それを見て両親は涙を流したって。自分たちの音楽が、そういう瞬間をもたらしたなんて信じられないよね。その子の両親にとって“Closer”という曲の意味は、デラウェアのバカな大学生が思っているそれとは大違いなんだよ」

ザ・チェインスモーカーズの音楽が持つ驚くべき力を信じようという人がいるとしたら、それは彼ら自身だろう。ここ数年の2人の成功を考えれば、彼らが何でも実現可能だと疑わないのにも合点が行くのだ。

リリース情報

Memories Album_Artwork
ザ・チェインスモーカーズ
デビュー・フル・アルバム
『メモリーズ…ドゥー・ノット・オープン』
日本盤CD(全15曲)
2017年4月7日(金)発売予定
2,200円 / SICP-5383
以下ボーナス・トラック3曲追加収録
「クローサーfeat.ホールジー」/「ドント・レット・ミー・ダウン feat.デイヤ」/「ローゼズ feat.ロゼス」

購入はこちらから。

1. The One
2. Break Up Every Night
3. Bloodstream
4. Don’t Say (feat. Emily Warren)
5. Something Just Like This (with Coldplay)
6. My Type (feat. Emily Warren)
7. It Won’t Kill Ya (feat. Louane)
8. Paris
9. Honest
10. Wake Up Alone (feat. Jhene Aiko)
11. Young
12. Last Day Alive (feat. Florida-Georgia Line)
13. Closer (feat,Halsey)
14. Don’t Let Me Down (feat. Daya)
15. Roses (feat. ROZES)

リリースの詳細は以下のサイトで御確認ください。

http://www.sonymusic.co.jp/artist/thechainsmokers/

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