現代では『効率的な』、感情を殺せる人間が勝つようになっている。
共感することは弱さだと見做され、
成功するためには締め出すべき感情だと条件付けられている
これが単純に、ペンタゴンの最新のキルボット3000についてだけの話なら、もっと分かりやすいだろう。だが、人間についても同じことが言えるのだ。ベラミーは、サイコパスについても次のような著書を読んでいる――ベストセラーとなったジョン・ロンスンの『The Psychopath Test(サイコパスを探せ!:「狂気」をめぐる冒険)』やロバート・D・ヘアの『Snakes in Suits(社内の「知的確信犯」を探し出せ)』――これらは職場のサイコパスについての著書で、100人に1人はサイコパス的な気質を呈しているとし、さらに、打ちのめされるような事実だが、そういう人間がえてして重役におさまっていると主張している。こうした人間は他者への共感が欠如しているため、必要とあればその魅力を振り撒き、またそれが最も効果的である場合には残虐性を発揮することができる。さらに、普通の人間であれば行動を抑制するようなモラル上の迷いを一切持たない。
「効率性への執着と、他者への共感を持たない人間が現代社会でどれだけ成功するかという点に、類似性を見たんだ。200年前には産業革命が労働者を破滅へ追い込んだ。現代では、特に西側やアメリカでは、『効率的な』、感情を殺せる人間が勝つようになっている。だけど、その他の大多数の人々への犠牲は計り知れないわけでさ」
その答えは、我々すべてがこの細分化され、テクノロジーに縛られた暮らしの中で失ってしまった他者への共感を、いくらかでも取り戻すことにあるとベラミーは信じている。「共感することは弱さだと見做され、成功するためには締め出すべき感情だと条件付けられている。でも、もしこの世界にどんな形にせよ希望というものがあるなら、本当は共感というのは強さなんだと、改めて認識する必要があるんだ」
クリス・ウォルステンホルムは、ベラミーこそがそういった共感を持ち合わせた人間だと考えている。「もちろん彼はそうさ。俺たちみんなそうだよ。他人に共感することができない人間には、このアルバムは作れなかったはずだ。このアルバムは、全世界がそういう共感する気持ちを排除しようとしていることに愕然とした人間が書いたものなんだ」
その小さな希望の光で世界中を照らし出すべく、ベラミーはこれまでやってきたやり方で、大音響のネオクラシック・プログレッシヴ・ロック・アルバムを作り上げたのである。
アルバムの最後を、忘れられた者たちを追悼する
宗教的な詠唱で締め括っているんだ。正義が訪れることはなく、
ロボットに殺されてしまう。そこには何か本質的に人類の悲劇があるんだよ
いかにもミューズらしい“Supermassive Black Hole”的なソフトなグラム・ロック調のオフィシャル第1弾シングル“Dead Inside”で幕を開ける『ドローンズ』は、名もないドローン・オペレーターの挫折と躍進を描いたストーリーである――彼はまず“Psycho”で『フルメタル・ジャケット』のような鬼軍曹から罵声を浴びせられしごき抜かれる。続く“Mercy”では「Men in cloaks always seem to run the show… We’re going under, hypnotised by another puppeteer(コートに身を包んだ男たちがいつも主導権を握っている…俺たちは別の黒幕に操られていく)」と完全な妄想に取り付かれていく一方、“Reapers”では思考のコントロールを巡る戦いをテロとの戦いの最前線と位置付け、「You kill by remote control/The world is on your side/You’ve got the CIA, babe(お前は遠隔操作で人を殺す/世界はお前のもの/ お前はCIAを手中に収めた)」と歌う。
我らが主人公は支配者の命令に盲目的に従うようになる。彼は“The Handler”として支配者のために働くが、やがて自意識に目覚め、“Defector”となって離脱する。そして公然と反旗を翻して“Revolt”を起こし、その結末のすべてを“Aftermath”に見るのだ。
合間にはジョン・F・ケネディの有名な演説が挿入され、この名もなき主人公が服従から反逆へと転じる瞬間にスポットライトが当てられている。演説は次のように始まっている。「For we are opposed around the world by a monolithic and ruthless conspiracy…(強大で冷酷な陰謀に私たちは晒されています…)」
「ジョン・F・ケネディはソ連の政治局、悪の組織が強大化していることについて話しているんだけど、名指しでは言っていないんだ。だから、実際の機械やテクノロジーが権力を持つとか、効率性の向上とかっていう話の流れにピッタリ一致するんだよ」
ちなみに、YouTube上で最もヒット数が多いのは、ある陰謀説論者がポストした「JFK Warned Us About The New World Order」という題名のクリップで、演説と共にJFKの様々な映像が盛り込まれている。
“Aftermath”が終わると、さらに異様な展開となっていく。“The Globalist”では、1度はドローン・オペレーターであった主人公が――とうとう抑圧者の束縛から逃れて――自分自身の国を建設し、その最高独裁者の座に着くのだ。仰々しく長々と、一風変わった曲となっている。まさに“Knights of Cydonia”の究極版とも言えるスタイルで、静かなエンニオ・モリコーネ風のヴァイオリンと口笛が2分間流れるイントロで始まり、続く6分間でクライマックスを迎えた後、最後に現実世界の実際の終焉に向けて、10からカウントダウンしていく。
世界が終わり、トーンダウンした最終曲はますますもって奇妙だ。イタリアの作曲家、ジョヴァンニ・ガブリエーリの合唱曲の調べに乗り、楽器は一切使われていない。ひたすらベラミーの声が繰り返し重なり、1人のコーラスを形成していく。悲しくスローな賛美歌で、ベラミーが繰り返すのは次の歌詞だけだ――「My mother…my father my sister my brother my son my daughter…killed by drones. Can you feel anything? Are you dead inside? Now you can kill from the safety of your home with drones. Amen(母、父、妹、弟、息子、娘、ドローンたちに殺された。何も感じないのか? 心は死んでしまったのか? 今こそ安全な家の中からドローンを使って殺せるんだ。アーメン)」
ベラミーは次のように語っている。「これは犠牲者のための哀歌なんだよ。アルバムの最後を、忘れられた者たちを追悼する宗教的な詠唱で締め括っているんだ。彼らには決して正義が訪れることはなく、ロボットに殺されてしまう。そこには何か本質的に人類の悲劇があるんだよ」
人が突然誰かとの別れを経験したら、当然物事について
深く考え込むだろうし、自分がこれまでに孤独や疎外感を感じた、
あらゆる人生の節目について思いを馳せたのは事実さ
音楽的に見ると、このアルバムはベスト・ヒット集のような印象が否めない。“Mercy”には“Starlight”を彷彿とさせるアップテンポのピアノのリフがあり、“Psycho”では“Uprising”的な派手なサウンドを聴くことができる。“Defector”はメロウなピクシーズ風のテイストがクイーンのお決まりパターンと融合している。そして“Aftermath”はこんな問いを投げかけているかのようだ。「もしピンク・フロイドがオリンピックの開会式に出演したら?」と。
しかし、『ザ・セカンド・ロウ~熱力学第二法則』のツアーの終わり頃、自分たちは物事を限界まで突き詰めたと感じたため、今度は「基本に立ち返る」必要があるとメディアに語っていたバンドにしては、ブルース・スプリングスティーンのアルバム『ネブラスカ』ほど遡っているとは言えない。レディオヘッドのアルバム『イン・レインボウズ』すらかすりもしない。
「だけど、俺たちの物差しでは基本に立ち返っているよ」と話すのはドミニク・ハワードだ。「確かに音は重ねているしたくさん鳴ってるけど、制作の始め方は今までずっとやっていた方法と全然違うんだ。3人が初めて部屋に集まって、改めてお互いを眺め回したりしてね。『ザ・セカンド・ロウ~熱力学第二法則』の時は自分たちでプロデュースもしていたから、スタジオのコントロール・ルームにいる時間が本当に長くて、バンドとしての意識を忘れていたと思う」
『ドローンズ』はその大部分が生演奏で収録された。AC/DCの『バック・イン・ブラック』を手がけたプロデューサー、マット・ラングとタッグを組み、“The Globalist”の中盤の見事な掛け合いでさえも一発録りだったという。18年前、ミューズのメンバーたちは後にデビュー・アルバム『ショウビズ』として世に送り出すことになる楽曲のほとんどをマシュー・ベラミーの祖母宅の地下室で制作していた。湿った壁と、高く積み上げられた卵の箱、そして「気味が悪くてテカテカした黒い蜘蛛」が練習しているところに無差別に下りてくるような場所だった。ミューズはその当時の精神に立ち戻り、昨年の夏はマシュー・ベラミーの随分とグレードアップした地下室に籠ったのだった。
「多分」とドミニク・ハワードは語りだした。「俺たちは『ドローンズ』を贅沢で特別な作品にしたかったんだと思う。だから、いろんな要素を盛り込んだよ。すごく実験的だし、ちょっと正気を失ってるような感じも音に反映されていると思うね」
バンドが一丸となって臨んだとはいえ、『ドローンズ』の制作過程はマシュー・ベラミーにとって決して楽なものではなかった。というのも昨年の12月、彼はついに自身の息子の母親であり、ここ数年にわたって婚約状態を続けてきたケイト・ハドソンと破局を迎えたからだ。子供をもうけた最愛の人との別れは友好的なものだった。しかしながら、マシュー・ベラミーがその後、彼の成人期においておそらく最も繊細で、赤裸々であるこの局面を、何の考えも感情も持たない殺戮マシンについて描いたアルバムに投影させたというのは、何とも皮肉なものだ。フリートウッド・マックの『噂』を彷彿させるとでも言おうか。
彼の答えは、自身の中に存在する2つの相反する顔を露呈させる。エネルギーに満ち溢れ、ロック精神を謳歌する男と、自分の殻にこもり、感情に蓋をした気弱な男。後者はちっぽけな事実の後ろに身を隠し、「確かに俺たちはいい関係を築いたし、彼女は素晴らしい人だ。でも、俺たちは友達でいたほうがいい」なんて感情を表に出すことはしたがらない。
しかし、実際それを音楽に反映させることはなかったのか? すんでのところで思い留まったというわけなのだろうか?
彼はこちらをまっすぐ見てこう言う。「そのことについては、アルバムのどの部分がそうだと具体的に言うのは難しいよ……ただ一つ言えるのは、人が突然誰かとの別れを経験したら、当然物事について深く考え込むだろうし、物事が自分の思うように行かなかった人生の節目について考えを巡らすだろうってことだね……。今回、自分がこれまでに孤独や疎外感を感じた、あらゆる人生の節目について思いを馳せたのは事実さ」
自分の人生がどのあたりからうまくいかなくなったか、考えを巡らせたことは? 田舎を散歩したりした? 「もちろん」と彼は言う。「俺は、いつも田舎に散歩に出かけるんだ。サウス・デヴォンの田舎さ……。昔は、レターボクシングに参加したりもしたね」。レターボクシングとは、与えられた手がかりを頼りに隠されたボックスを探し当てるアウトドア・ゲームで、オリエンテーリングによる宝探しのようなものだ。
それでもマシュー・ベラミーは、自分が政治的なソングライターであることを今なお否定する。「そういった意味で政治に関心があるわけじゃない。俺たちのしてきたことは全部――むしろ、その事態にまつわる感情を受けての反応なんだ」。しかしおそらく、表面上は社会政治的な側面を持つ彼の作品が彼自身の心とある感情で結びついているのだとすれば、それは孤独な人間、迷路の抜け道を探そうとしているアウトサイダーの考え方だろう。
「俺がティーンエイジャーのとき、両親が離婚したんだ。孤独を感じてなすすべもなく、生きるのに必死で……その一方で、自分の進むべき道を探さなきゃならなかった……それは俺の人生で常に最も重要なテーマだったんだ」
実際、そこにカタルシスはあった? 以前よりも幸せだと感じる?
彼は「ああ……そうなりつつある」と言って、一瞬沈黙した。彼にとっては珍しい。「間違いなくここ数カ月は、気分がかなり良くなっている。実のところ、本当にいい感じだよ……」
これは新しい夜明けであり、新たな1日の始まりだ。これで7枚のアルバムをリリースしたミューズは、あらゆるモダンポップ・バンドの中で、最も熱心で国際色豊かなファン層を獲得してきた。あなたがそんなバンドにいたら、何をするだろう? マシュー・ベラミーであれば、食肉加工場かのような醜悪で漠然とした現代の戦争にバンドを向き合わせてみせるだろう。これは新境地なのだ、ミューズにとってさえ。
From『NME』May 23 2015 Issue/Text by Gavin Haynes
リリース情報
ミューズ/ドローンズ
1. Dead Inside / デッド・インサイド
2. [Drill Sergeant] / 【ドリル・サージェント】
3. Psycho / サイコ
4. Mercy / マーシー
5. Reapers / リーパーズ
6. The Handler / ザ・ハンドラー
7. [JFK] / 【JFK】
8. Defector / ディフェクター
9. Revolt / リヴォルト
10. Aftermath / アフターマス
11. The Globalist / ザ・グローバリスト
12. Drones / ドローンズ
ミュージック・ビデオ
来日情報
FUJI ROCK FESTIVAL ‘15
7月24日(金)〜7月26日(日) 新潟県湯沢町苗場スキー場
OPEN:9:00/START:11:00
TICKET:1日券¥16,800、3日券¥39,800
http://www.fujirockfestival.com
ミューズ日本オフィシャル・サイト
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