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大勢の人間が夢中になって群がる権力構造があって、
その権力を手にするチャンスを目の前にぶら下げられたら、
人は内面的なモラルの何割かを、喜んで犠牲にするんじゃないかな

3年前、当時のガールフレンド、ケイト・ハドソンの大物コネクションによって、ミューズのフロントマン、マット・ベラミーは毎年恒例のホワイトハウス記者協会主催の夕食会に参加することになった。その席で隣り合わせになったのが、ジョージ・W・ブッシュ政権下で国務長官を務めたコリン・パウエル元陸軍大将だったのだ。

その晩は情報収集が行き届いていなかったと言えるかもしれない――主催者側としては、陰謀説にとりつかれた人物をアメリカの軍産複合体における最高実力者の一人の隣に座らせることは望ましくないと気付くべきだっただろう。

ベラミーはその時の様子を次のように語っている。「ホローポイント弾について質問したんだ。というのも、国土安全保障省は何百万ものホローポイント弾を購入していたからね。これは標的に当たると炸裂する弾丸で、ジュネーヴ条約で禁止されているはずなんだ。この弾丸の購入については陰謀説を扱うマスコミの間で広く報道されていたから、なぜそんなに大量に買うのかって訊いたのさ。まるで大規模な暴動に備えているみたいだったからね」

「そしたら彼はこう答えたんだ――恐ろしく常軌を逸していて、軍人の思考回路を覗いたゾッとする瞬間だった――『戦場で敵を撃つ時は、素早く、間違いなく殺すのが目的なんだ』ってね」。ベラミーは彼特有の病的な忍び笑いを漏らしながら締め括った。「それで終わり。あとは砂漠の戦場さ」

パウエルとはどんな人物だったのか? 役職にふさわしい、優れた人物だったのだろうか? この質問に対するベラミーの回答はこうだ。「一度会っただけでは分からないな。でも、大勢の人間が夢中になって群がる権力構造があって、その権力を手にするチャンスを目の前にぶら下げられたら、人は内面的なモラルの何割かを、喜んで犠牲にするんじゃないかな。周りからのプレッシャーもある。『ここでは皆こうやっているんだ、知らないのか?』ってさ。そしていつの間にか、人殺しの決断も朝メシ前ってわけ」

一言で言えば、これが『ドローンズ』の根底に流れる精神だ。ある意味では、ミューズの通算7作目のスタジオアルバムは、馬鹿馬鹿しいほどタイトル通りである。名前も『ドローンズ』なら、内容も徹頭徹尾ドローンズについてだ。2012年にリリースされた前作『ザ・セカンド・ロウ~熱力学第二法則』のバロック的なスタジオ多重録音のプログレッシヴ・ロックさえ――持続不可能な経済成長を熱力学第二法則になぞらえた楽曲をもってしても――どちらかと言えばコンセプトを促す刺激剤のようなものだった。対する『ドローンズ』は、聴いている人間の食道を落ちていくレーザー誘導ミサイルとでも言うべき、正真正銘のコンセプト・アルバムで、それに較べたらピンク・フロイドの『ザ・ウォール』など、まるで最近のザ・ヴァクシーンズの歌謡曲コレクションに過ぎない。

バンドが自らのアイデンティティを強く打ち出している場合、まずアルバム・ジャケットにそれが表れる。それはピンク・フロイドの『炎 あなたがここにいてほしい』の「握手する2人の男性の片方が炎に包まれている」という類稀なジャケットか、あるいはレディー・ガガの『ボーン・ディス・ウェイ』の「バイクに自分の頭がくっついている」的な滑稽なものになるかのどちらかだ。この両者の場合、アルバム・ジャケットが象徴するものをまったく気に留めていないところからすると、その中身への関心が薄いことが窺われる。

『ドローンズ』には隅から隅まで、ある種の一貫した意図が込められている。それは、ミューズの3人が共にテンマスを出発してから18年を経て、6枚のアルバムをリリースし、ベラミーが無闇に過激に振る舞うロックスターの仮面を脱ぎ捨て、数々のインタヴューから常に垣間見えていたもう一つの顔、グローバルに憂う社会的コメンテーターへと脱皮したという瞬間を記念するかのようである。

どれだけ多くの人間が殺されているかってことが本当によく分かった。
まずオバマは朝起きて髭を剃ったら、1日が始まる前に作戦司令室に座って
誰を殺すか決断を下すんだ

ザ・ロンドン・エディション・ホテルのロビーは、「カビ臭いブティックホテル」という形容が似つかわしい。古めかしいピンクとグレーの大理石がふんだんに使われたホテル内の高級レストランは、ナショナル・ギャラリー並みにヴィクトリア朝時代の老貴婦人やジョージ王朝時代の乙女たちが荷馬車にゆったり腰掛けている絵で四方の壁が埋め尽くされている一方、それを相殺するかのごとく、シルバーのSFじみた巨大な卵が階段の上にぶら下がっている。バーカウンターの中では、顎髭に黒の蝶ネクタイの男が早急に仕上げるべく、氷の彫刻の内側や外側に激しくのこぎりを突き刺している。我々が占めている一角のすぐ先にはビリヤード台があり、マット・ベラミーがドラマーのドミニク・ハワードを相手に先ほどブレイクショットを行ったところだ。時刻はまだ午前10時だが、この2人は何時間も前から活動を開始し、今しがた2ブロック先の「BBC Radio 1」でニック・グリムショウと大騒ぎをして戻ってきたところなのだ。

ハワードはビリヤード台から我々を見上げてニッと笑った。彼は典型的ロッカースタイルの黒いジャケットに白のTシャツ姿で、そのサンディ・ブロンドとカリフォルニア焼けも手伝って、過去40年間に「BBC Radio 1」の大物リストに載ったどのバンドのメンバーだと言っても通用しそうに見える。彼のスタイルは、現在住んでいるロサンゼルスをそのまま反映している。特に、席に着いて今ハマッているというココナッツウォーターをオーダーするところなどが。

「カリウムだよ」と自信に満ちた態度のハワードは話す。彼はカリウム不足なのだろうか? 「もう一杯もらおうかな……」

一方、トレードマークであるウール・カラーのレザージャケットを着たベラミーは、非常な早口で話し始める。彼は次のようにまくし立てた。「『Predator: The Secret Origins of the Drone Revolution(プレデター:ザ・シークレット・オリジンズ・オブ・ザ・ドローン・レヴォリューション)』って本を読んだんだ。いろいろなことが分かったよ、どれだけ多くの人間が殺されているかってことが本当によく分かった。まず、オバマは朝起きて髭を剃ったら、朝食をとりに階下へ行き、紅茶を飲む。そして、1日が始まる前に作戦司令室に座って、重要であると認められ、最高司令官である彼のところまで持ち上げられてきた問題について、誰を殺すか決断を下すんだ。こいつだ、あいつじゃない。殺せ、いや殺すな。それから1日の仕事に取りかかるんだ、娘たちにおはようのキスをしてさ。この『殺しの決断(kill decision)』って言葉について読み始めた時から、その考えに捉われてしまったんだ……」

インタヴューのテープを再生して驚くのは、「言ってる意味、分かるだろ」とか「えーと、言ってみれば」とかいった、言葉の咳払いと言うべき瞬間がほとんどないことだ。ベラミーの淀みなく繰り出される言葉は、集束されたワンセットの情報なのだ。

後日、ベーシストのクリス・ウォルステンホルムは次のように語っている。「彼は随分ゆっくり話すようになったんだよ。デビュー当時は、今よりもさらに早口だったんだ。海外へ行った時、イタリアでテレビ番組に出演した時なんかさ、生放送で通訳たちが追いつくのに本当に苦労してたよ。だけど、長年の間に大勢の人たちからインタヴュー後、『もう少しゆっくり話してくれませんか』って言われて、ブレーキをかけながら話すことを覚えたんだと思うな」

コンピューターに殺戮の決断を任せることにした瞬間に、
『ターミネーター2』の世界さ。それがどういう意味を持つのか、
多くの人々はまだ本当に理解していないと思うんだ

さらにベラミーのいわくありげな、待ち構えていたような笑い。1984年の映画『アマデウス』でアメリカ人の俳優トム・ハルスが演じたモーツァルトは、屁を放つスズメやロウソクの煙の渦に気違いじみた喜びを見出す人物だったが、ベラミーにも何かそんなところがある。彼はまさにロックスターのあるべき姿を地で行っている――言い換えるなら、残りの人類すべてが見ているのと同じようには現実を捉えない人間なのである。少しばかり聖域に、また少しばかり神経病理学的な領域に踏み込んでいる。

ベラミーいわく、現在はまだドローンたちはオペレーターによってコントロールされているという。オペレーターのほとんどはヴァージニア州ラングレーの広大な駐車場にいる気のいい男たちで、CIAはそこで日々、様々な作戦を統括しているのだ。特にアフガニスタン西部やパキスタン東部の人々の命を1日中ビデオ・ゲームでもてあそび、その結果がもたらした惨状に屈辱を味わい、孤立を深めている。これだけでも十分ひどい状態だが、この先、10年間ほどで起こることに較べたら、まだずっとましなのだという。今後は人工知能システムが発達し、殺戮の決断の中でもよりルーティン化したものをラングレーの男たちや大統領に代わって行っていくというのである。

我々は、相手が暴徒だと判断してトリガーを引く。だが、そこそこの知能を備えた機械にもその判断は行えるのだ――特定の方角から目の前に現れた人間の行動パターンの確率から、あるいは手に持っている武器の種類から、またあるいはその服装から。それなら、機械に判断を委ねてもいいじゃないか、と次第に自問するようになる。

「俺にとっては、それがまさに終局地点なんだ。コンピューターに殺戮の決断を任せることにした瞬間に、『ターミネーター2』の世界さ。その全体像はとても恐ろしいものだけど、それが将来的にどうなっていくのか、どういう意味を持つのか、多くの人々はまだ本当に理解していないと思うんだ」

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