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気候の非常事態が猛スピードで迫りくる中、私たちのリーダーは頭から砂の中(または化石燃料のあらゆる賄賂が存在するところ)に隠れているが、マシュー・ベラミーはロサンゼルスという破滅的状況の最前線、カオスの瀬戸際そのものという適切な場所に身を置き、焦げついた社会の灰を身をもって味わっていた。
2番目の子ラヴェラの誕生に立ち会うまでの道すがら州兵隊のトラックの横を通り過ぎたり、ブラック・ライヴズ・マターの抗議デモがロサンゼルスの街を大勢で練り歩く様子を病院の窓から眺めていたりした彼が「この子は一体どんな世界に生まれようとしているんだろう」と考えていたのは確かである。しかし、ミューズが『シミュレーション・セオリー』ツアー(サイボーグに扮したダンサーの大群の空中浮遊や、マーフという名の空気で膨らむ巨大なエイリアンが登場する内容で、1億200万ドルの総興行収入をあげた)の後にあらかじめ決まっていた休暇に入っていた中、生まれたばかりの娘を育てながらロックダウン時期を過ごしているうちに、彼はようやく第二の故郷に居心地の良さを感じるようになった。山火事が突然自宅の窓までやってきても。
「カリフォルニアに住んでいると不思議なことの1つだね」毎年夏になると市当局から定期的に連絡があり、家族で避難するように言われることについて彼はそう語る。「自然災害の瀬戸際にいると、それに慣れてしまうということなんだ。家がなくなってしまったと完全に信じ込んでいたけど、帰ってみたら焼けてしまっていたのは庭だけで、家のほんの手前で火が止まっていたことが分かったことが2回あった。いつも真夜中なんだよね。『家から離れなさい。近くで火事が起こっています。必ず避難しましょう』と音声メッセージが繰り返し流れるだけなんだ。窓を開けて外を見ると、灰の雨が降っている。雪かと思ったよ」
「リスキーな場所に住んでいると、人はリスクを厭わないようになる。カリフォルニアは夢追い人やリスクを恐れない冒険者や起業家精神に溢れた人たちでいっぱいで、そういう人たちは何かクレイジーなアイデアのために進んですべてを投げ出すんだ。会う人会う人みんなメタヴァースのアバター会社とか、何やらクレイジーなエネルギーのソリューション会社を始めようとしている。そういう気風の何かが自分にすごく合っているんだ」
もちろん、マシュー・ベラミーも社会の崩壊にただ甘んじてはいない。彼はエルンスト・スタヴロ・ブロフェルド(※『ジェームズ・ボンド』シリーズに登場する悪役)式にそれに抗おうとしているのだ。彼は(2012年発表の『ザ・セカンド・ロウ~熱力学第二法則』以来ミューズが強い関心を寄せている)エネルギー危機を解決するために、なんとも地球の中心に向かってレーザーを発射するという、マサチューセッツ工科大学の科学者たちが開発中の技術を利用することを計画している会社に投資している。
「岩を蒸発させて、中心まで行けるんだ」とマットは語り、その基本的なプロセスを説明する。発射されたミリ単位の電磁波の光線は厚さ20kmの地殻を貫通し、そこに水を入れると地熱エネルギーが発生するという。「地熱は基本的にタダで手に入るし、危険もないエネルギーなんだ。地核からの熱で燃えた水が水蒸気になってタービンを回す。炭素の排出などが一切ないんだ」。
そのようなことをして地球が爆発する映画を見たと本誌が指摘すると、マシュー・ベラミーはこう言って笑う。「ハハハ! この装置は基本的に移動させることができて、どこでも好きな場所で地熱エネルギーを発生させることができるんだ。今ある石炭工場とかで石炭を全部取り除いて、そこから直接穴を掘ればいい。そこには既にエネルギーを発生させるためのインフラがある訳だからね、元になるものが違うだけで。これで世界のエネルギー問題が文字通り解決するんだ」
気候変動から話題を変え、私たちは追加のオレンジ・ジュースを頼み、政治に革命を起こすことについて語り始める。長丁場になりそうだ。
今度はマシュー・ベラミーがサイドニアのメタ中道派である蜂起党(Uprising Party)の政党演説を行っているかのような弁舌が続く。「僕たちには新しいタイプの革命が必要だ」とマシュー・ベラミーは主張する。彼にないのは拳を叩きつける書見台だけだ。「僕たちは革命を望んでいる。それはみんな気づいていると思うんだ。でも、右派の独裁主義の狂人たちが大勢出てくるのはまっぴらだ。それは僕たちが一番望んでいないことだからね」
「そして、極左の完全な共産主義状態も望んでいない。僕たちが望んでいるのはまったく新しい何かだと思う。それが現時点で存在するとは思わないけど、新しいタイプの政治が台頭するかもしれない。僕はそれを『メタ中道主義』と呼ぼう。それはリベラルと個人にとっての自由主義(リバタリアン)的な様々な価値観の間で変動するものとなる。社会生活、なりたいジェンダーになれる状態、そういう感じのものや、土地の所有とか、自然、エネルギーの分配みたいなもっと社会主義寄りのものもね。その二極の間を行き来するものなんだよ」
「それを実現する方法があるとは思うけど、人々にそういう考え方を可能にする言語がないんだ。極左か極右かどっちかで……僕はそのどちらも支持しない。第三の道があるような気がする。僕が探しているものを説明する既存のスタンスはないんだ。僕は本質的にアンチ権威主義だ。それは自然にそうであるに過ぎない。生まれつきそうなんだ。だから、どちらかの側にあるものを見ると。『僕にそうしろとかそう生きろとか言うな』と思ってしまう。それがどこ由来でも関係ない。僕は多分抗うだろうね」
これは未来的なシンセポップ・トラック“Compliance”で取り上げられているトピックとなっている。この曲では「おかしく不条理な一連の信条を中心に成り立っているグループ」につきものの、現代の「敵か味方か」的な思想警察のメンタリティに立ち向かっている。彼はギャング・カルチャーやアメリカ共和党の「正真正銘の独裁主義」、そして極左を例に挙げている。「どちら側もあまりにお互いからかけ離れてしまって、今じゃ自分たちだけの、おかしな『こう考えてはいけない、こう言ってはいけない、こうしてはいけない』的なものを作り出してしまった。人はしばらくするとそういうものに疲労困憊してしまうんだ」
“Compliance”はある種、ミューズが何十年も行ってきた自由への闘いを描いたフューチャー・ポップだ。ただし、『fall into line, you will do as you’re told(従え、言われたとおりにしろ)』や『no more defiance, just give us your compliance(反抗はもうやめて従順になればいい)』、『fear is controlling you(恐怖が君をコントロールしている)』といったフレーズを擁するこの曲は、ザ・ストーン・ローゼズのイアン・ブラウン(※コロナ禍に関するツイートで物議を醸したことがある)やデマを流す反ワクチン派のお仲間が今日思いつきそうなフレーズのごとく警告的に聴こえることがある。俳優のローレンス・フォックス、社会評論家のトビー・ヤング、気象学者のピアース・コービン(※3人とも反ワクチン派で知られている)の「ズボンの中でおならしろ」合唱団に参加しそうな勢いである(※ピアース・コービンはマスクをすることを「ズボンの中でおならを我慢するようなもの」と発言したことがある)。「残念な偶然だよ」とワクチン接種を済ませたマスク派のマシュー・ベラミーは語る。「あの曲は2008年や2005年に書いていたっておかしくない」
トゥルーサー(※2001年の米国同時多発テロが同国政府の陰謀だと考えている人)の“はしり”を自称する彼だが、10年後の今は世の中やメディアに対する観点のバランス感覚がはるかに向上した。そんなマシュー・ベラミーは陰謀論者たちの考えがパンデミック中にあまりに広がってしまった様子に不安を感じているという。
「(80年代や90年代の人々は)メインストリームのメディアが権力層とグルになっている大規模なビジネスに過ぎないかのように感じていた」と彼は振り返る。「だから、インターネットが出回り始めると、真実かもしれないものについて語りたくてたまらないという気持ちが人々の間でものすごく強くなったんだ。2010年代初頭くらいになって、ようやく僕の中で一巡した。(オンラインには)説明責任が欠けていることが僕にとって明らかになって、『そうか、こいつらはどんなにひどいことでも言ってしまえる人たちに過ぎないんだ。最低だな』と気づいたんだ。これは言論の自由なんかじゃない。操作の自由なんだ。素性を明かさないまま嘘をつく自由だ。そういう人たちがみんな、いろんなものに反対することで、マーク・ザッカーバーグを金持ちにしているだけっていうのが馬鹿げた皮肉だよね」
人を奮起させる革命的なレトリックと、暗い政治的なカーテンを開けることを土台に成り立っているバンドであるミューズは、2022年に自ら築いた地雷原に立っている自分たちに気づいた。『ウィル・オブ・ザ・ピープル』の中で現在の状況に照らし合わせると誤解されてしまう可能性がある曲は“Compliance”だけではない。タイトル曲もその傾向が明らかであり、判事たちを投獄し、公共施設を破壊し、大切な民主主義を無用な上院と一緒に放り投げてしまおうとスローガン風に語っており、連邦議会議事堂で暴動を起こした者たちの意図やその結果を揶揄しているのが見て取れる。そして、マシュー・ベラミーは「With every second our anger increases / We’re gonna smash a nation to pieces(僕たちの怒りは秒を追うごとに増している / 僕たちは国家を粉々にしてやるんだ)」と嘲笑っているのだ。
「ポピュリストのパロディみたいなものだよ。“Uprising”のアンチテーゼに近いね」とマシュー・ベラミーは語っている。「“Uprising”ではポピュリストに近かったけど、それを真に受けていた。一方、『ウィル・オブ・ザ・ピープル』は『自分たちが馬鹿になってしまったことに僕たちは気づいているだろうか? これがどんなに愚かに聞こえたり見えたりしているか、僕たちは気づいているだろうか?』と言っているのに近い。僕の中では前からちょっとした葛藤があるんだ。直接民主制やもう少し人々が実権を持っている状態を望む気持ちがあると同時に、時には人間が狂気をはらむことだってあることに気づいてしまう。あまりに長い間、声を上げていなかったから、ポピュリズムが最終的に歪んだおかしなものになってしまって、すべてが怒りになってしまうんだ。言いたいことなんて何もないから、怒りに満ちていくんだ」
ピアノ・バラードがクイーン風のロックへと展開する“Liberation”はむしろさらに辛辣である。「you make us feel silenced / You stole the airwaves but the air belongs to us / And violence – you’ll make us turn to violence… We have plans to take you down / We intend to erase your place in history(おまえに黙らされた気がする/おまえは電波を盗んだが、空気は僕たちのもの/そして暴力……おまえは僕たちを暴力に向かわせるだろう/僕たちにはおまえを引きずり下ろす計画がある/おまえの居場所を歴史的に抹殺するつもりだ)」といった表現は、不機嫌なトランプ支持者たちに迎合した「ストップ・ザ・スティール(盗みをやめろ)」(※バイデン大統領の当選を不正選挙の結果として抗議する人々のスローガン)という曲に容易に合いそうである。そう指摘されたマットは少し恐れおののいている。
「その正反対だよ」と彼は断言する。「それどころか、あれは僕がブラック・ライヴズ・マターの抗議活動を見ていて感じたことにより傾いているんだ。あの文化がどんなことに耐えてきたかを自分が理解しているなんて主張するつもりはないけど、『intend to erase your place in history(おまえの居場所を歴史的に抹殺するつもりだ)』というのは、あの怒りの感情を表現したんだ……革命の瞬間に覚えるあの感情、とにかくぶち壊して破壊してしまいたいという気持ち。歴史そのものを変えてしまうくらいのね。人々が像を引き下ろす時のようにね。そして『you stole the airwaves but the air belongs to us(おまえは電波を盗んだが、空気は僕たちのもの)』というのは、今自分たちが生活の中で体験していることに言及していたんだ。毎朝メンタルを病んだツイートで目覚める……1人の人間によって世間話がハイジャックされるんだ」
アルバムの他の曲ではパンデミック体験のより人間的な面を掘り下げている。哀愁を帯びたピアノが煌めく“Ghosts (How Can I Move On)”は愛する者たちを失った人々に、不気味なエレクトリック・ソング“You Make Me Feel Like It’s Halloween”はロックダウン中のドメスティック・ヴァイオレンスの被害者たちに寄り添っている。しかし、このアルバムは迫り来る大変動に立ち戻らざるを得ない。「We’re at death’s door, another world war, wildfires and earthquakes I foresaw / A life in crisis, a deadly virus, tsunamis of hate are gonna drown us(僕たちは死の入り口にいる 新たな世界大戦、山火事、地震が来るのが見える/危機の中の生活、死をもたらすウイルス、憎しみの津波で僕たちは溺れ死ぬだろう)」最新の、そして最も絶望的な終末論の賛歌“We Are Fucking Fucked”でマシュー・ベラミーはそう唱えるように歌っている。この曲ではリスナーに「備蓄する」ことを勧めている。
「僕たちは長時間の停電やサイバー・アタック、食料供給の危機、エネルギー危機といった中でも生活を維持できることが本当に重要な時代に生きている」と彼は語っている。「こういうことが今起こりつつあるんだ。だけど、同時に自分たちを一つにしてくれるもの、僕たちの社会的な繋がりも見失いたくない」彼はできるだけ広範囲を見渡せるようにするためか、あるいはメタファー上の灰の薄片を舌で受け止めるかのように後ろにもたれる。「誰が何をどう発言したかなんていうツイッター上の言い争いは……50年後には人々が歴史上のこの時点を振り返って『こいつら一体何の話をしていたんだ? バスが今にも自分たちをはねようとしているのがどうして見えなかったんだ?』なんて言っているに違いないと思うよ」
リリース詳細
ミューズ
『ウィル・オブ・ザ・ピープル(ジャパン・リミテッド・エディション)』
発売日:8月26日(金)
仕様:CD+DVD/高品質Blu-spec CD2/二方背スリーヴ付ジュエル・ケース
封入特典:アルバム・タイトル・ロゴ・ステッカー
品番:SICX 30146~7
価格:¥3,500(税込)[完全生産限定盤]
『ウィル・オブ・ザ・ピープル(通常盤)』
発売日:8月26日(金)
仕様:1CD/高品質Blu-spec CD2/ソフトパック
品番:SICX 30148
価格:¥2,640(税込)
<CD>
1.ウィル・オブ・ザ・ピープル
2.コンプライアンス
3.リベレイション
4.ウォント・スタンド・ダウン
5.ゴースツ(ハウ・キャン・アイ・ムーヴ・オン)
6.ユー・メイク・ミー・フィール・ライク・イッツ・ハロウィーン
7.キル・オア・ビー・キルド
8.ヴェローナ
9.ユーフォリア
10.ウィ・アー・ファッキング・ファックト
<DVD>
●アルバム発売予告トレイラー
1. ウィル・オブ・ザ・ピープル(ミュージック・ビデオ)
2.コンプライアンス(ミュージック・ビデオ)
3. ウォント・スタンド・ダウン(ミュージック・ビデオ)
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