Jonathan Weiner

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グレート・リセット(※2020年に行われた世界経済フォーラム)のことは忘れてしまおう。あれは真実に目覚めたロシアのボットたちの戯言に過ぎない。そう、ロック界きっての予知能力を持つ黙示録の予言者によると、私たちは大転換に備えておく必要があるのだ。

「“大転換”という言葉を今は使いたいね」。朝のスタッフがきびきびと動き回るロンドン中心部のレストラン、ジ・アイヴィー。彼らのドレス・コードにSF風のボンバー・ジャケットは含まれるのか気になるところだが、隅のテーブルに席を取るマシュー・ベラミーは過去の気候による災難、エネルギーの危機、社会の不秩序、経済の崩壊などについてざっくりと語りながら、早口も光の速さへとスピードアップしていき、人類の存在というジレンマの革新に迫る。

「終わりが近づいている」。真実を機械のようにポンポンと語るミューズのメンバーはそう語る。悲痛な声で語る00年代生まれの破滅論者よりもよほど哲学的な43歳である。「何の終わりかって話だよね?人類の終わりではない。世界の終わりじゃないことも間違いない。進化の終わりでないことも間違いない。実際には正直言って人間性の終わりですらないよね? でも、何かの終わりなんだ。文明の何らかのサイクルの終わりなんだ」

ミューズの基幹システムと言えるこの人物からは奥底から思考がブクブクと泡を立てるように出てくる。蝕まれてゆくこの惑星に馳せる鋭く洞察に満ちた考えだ。思考が拡張していくような1時間において、彼はSFメタ政治を進化かつ更新させた持論を展開していった。それは1998年以来、地球に落ちてくる隕石のようにデヴォンで結成されたこのバンドが築き上げてきたものだ。こうした懸念は80年代をテーマとした2018年のメタヴァース・ファンタジー・アルバム『シミュレーション・セオリー』ではマシュー・ベラミーが脇に置いていたものだが、近くリリースされる9作目のアルバム『ウィル・オブ・ザ・ピープル』では、金切り声のようなテク・メタルの力作という形で再び取り上げられることになった。同作はパンデミック中に書かれ、離れ離れで録音されており(後にマシュー・ベラミー、ドラマーのドミニク・ハワード、ベーシストのクリス・ウォルステンホルムがアビイ・ロードで集まれるようになり、そこで完成させた)、恐怖心に満ちている。

ここでは台頭するポピュリズム、政治的操作、アメリカ連邦議会での暴動、家庭内暴力、コロナ禍、オンライン上の思想統制、気候災害についてベラミーが10曲にわたって熱弁をふるい、「ウィ・アー・ファッキング・ファックト」(僕たちはとんでもなく詰んでいる)という揺るぎない判断で締めくくる。「前作では、テーマ的にファンタジーのメタヴァースという架空の世界に入っていった」とマシュー・ベラミーは語っている。「それが気に入ったんだ。今後もまたその世界を取り上げてさらにヘンな感じにすると思う。僕たちがアバターの集団になって、メタヴァースの中に自分たちをダウンロードするような感じでね。ともあれ、次の作品では、今の世の中で実際に起こっていることをもう少し取り上げた内容にしようという考えがあったんだ。そう決めたのが2019年の終わりだった。何が起ころうとしていたかは知らなかったんだ」

私たちはその「起ころうとしていた」ことのすべてに行き着いた。今のところ、マシュー・ベラミーの思考脈路は相変わらず文明という軌道の終わりに向かって猪突猛進している。

「歴史全体を見れば、これは何度も繰り返しているサイクルに過ぎない」ほんの少し挑発しながら、彼は世界情勢の演説へと深く飛び込んでゆく。「“負債サイクル”と呼ぶ人もいるよね。信用取引とかカネとか、銀行システムの仕組みに関連している。サイクルというのは何百年単位のものもあれば、数十年単位のものもある。本質的には崩壊するピンチポイントに辿り着くものなんだ。そんなことが起こらないふりができるように、あるいは体制を維持できるように、みんなあらゆる手を尽くすけど、現状にしがみつく時間が長ければ長いほど、実際に崩壊が起こったときの状態が悪くなる。もう少し段階的な転換をすることができれば、ほんの少しだけお手柔らかな形で起こるかもしれないけどね」

「ともあれ、ものすごい大転換になるだろう。経済の崩壊・転換・再生、エネルギーの完全移行。今僕たちが取り組もうとしているのは、要はそういうものなんだ。破壊的な過渡期なんだよ」

既にあらゆるところに大変動の将来的な引き金を見ているマシュー・ベラミーは去年ワシントンD.C.で起こった連邦議会議事堂襲撃事件に言及しながらこう語る。「アメリカで2021年1月6日にああいう事件が起こって、『あれが決め手だったかもしれない。あれが引き金だったかもしれない。内戦が起こって、ドーン!僕たちはおしまいだ』というムードがしばらくあったよね。転換点だ。それから今度がバイデン政権になって、みんな『ああ、よし、またノーマルな状態に戻ったってことにみんなでしておこう』というムードが少しあった。でもそうじゃないよね?それからプーチンみたいなサイコパスが登場して、西側諸国が体現してきたものすべてが独裁体制に脅かされるようになる。暴かれ始めているんだ。僕たちが慣れ親しんできたシステムが、今目の前で、大々的に、暴力的に暴かれている」

新作のグラム・メタルなタイトル曲にはマシュー・ベラミーの考え方を総括する一節がある。「We need a revolution so long as we stay free(自由である限り、僕たちには革命が必要だ)」ビデオの中でも(ミューズ演じる)仮面を被ったポスト終末論的な暴徒の集団が邪悪な昔の世界秩序の像を引き倒し、仮面を脱ぐと、そこには自分たちが転覆させた権力者たちにそっくりな顔が露わになるのだ。「不安な時代というのはチャンスでもあるんだよね」とマシュー・ベラミーは主張する。「もしかしたら、素晴らしい新しい政治体制やよりよい社会経済構造への窓になるかもしれない。いい変化というのはあり得ると思うけど、問題なのは独裁主義者が破壊を利用できることを分かっているということなんだ」

彼が誰のことを意味しているのかは火を見るより明らかである。「(トランプは)最悪中の最悪を体現している。あの茶番を見ているとまるで別の現実に生きているような気がしたね。世界で有数の金持ちであからさまに欲深い人間が、その国の一番貧しい人たちをどうにか自分たちに投票するように仕向けることができるなんて。訳が分からないよ」

「そしてもっと大きなレベルでは、彼がしたことというのは巨大な分断を作り出して国を破壊するということだった。どのような尺度であれ、偉大な指導者というのは外部の脅威に対して自国の人々を団結させることができる人だと思う。彼がしたことはお互いを対立させることで、それで西側全体が脆弱になったから、プーチンに今やっていることを可能にさせてしまった。NATOや自由民主主義といった西側を団結させるものをまったく知らなかったことで混乱を起こさせることになったんだ」

マシュー・ベラミーはプーチンがすべての糸を引いている影の操り人形だったと言っているのだろうか。「プーチンに関しては『分断を使って、混乱を促そう』という感じじゃないかな。そして西側の解体が進めば進むほど、旧ソ連の再興という彼がずっとやりたかったことができるようになるんだ」

後編はこちらから。

https://nme-jp.com/feature/119826/

リリース詳細

Muse_Will Of The People_JK (1)
ミューズ
『ウィル・オブ・ザ・ピープル(ジャパン・リミテッド・エディション)』
発売日:8月26日(金)
仕様:CD+DVD/高品質Blu-spec CD2/二方背スリーヴ付ジュエル・ケース
封入特典:アルバム・タイトル・ロゴ・ステッカー
品番:SICX 30146~7
価格:¥3,500(税込)[完全生産限定盤]

『ウィル・オブ・ザ・ピープル(通常盤)』
発売日:8月26日(金)
仕様:1CD/高品質Blu-spec CD2/ソフトパック
品番:SICX 30148
価格:¥2,640(税込)

<CD>  
1.ウィル・オブ・ザ・ピープル  
2.コンプライアンス  
3.リベレイション  
4.ウォント・スタンド・ダウン  
5.ゴースツ(ハウ・キャン・アイ・ムーヴ・オン)  
6.ユー・メイク・ミー・フィール・ライク・イッツ・ハロウィーン  
7.キル・オア・ビー・キルド  
8.ヴェローナ  
9.ユーフォリア  
10.ウィ・アー・ファッキング・ファックト  
  
<DVD>  
●アルバム発売予告トレイラー 
1. ウィル・オブ・ザ・ピープル(ミュージック・ビデオ)   
2.コンプライアンス(ミュージック・ビデオ)  
3. ウォント・スタンド・ダウン(ミュージック・ビデオ) 

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