『ザ・ゲッタウェイ』ではアデルの『25』やザ・ブラック・キーズの『エル・カミーノ』を手掛けたデンジャー・マウスを起用していたが、リック・ルービンの復帰は「当然の選択」だったとアンソニー・キーディスは語っている。リック・ルービンの存在はバンドのタペストリーに織り込まれており、レッド・ホット・チリ・ペッパーズの最も印象的な楽曲のほぼすべてに立ち会ってきた。彼はジョン・フルシアンテが復帰した姿を見て、感情的になってしまったという。
「ジョン復帰後、初のリハーサルに招待されて、泣いてしまったんだ」とリック・ルービンはプロレスラーのクリス・ジェリコのポッドキャストで語っている。「彼らがまた一緒にやっているのを見て、心が踊ったね。というのも、長きにわたって彼らは素晴らしい音楽を作ってきたわけで、感情的な面で打たれてしまったんだよ」
残念ながら、そのマジカルなセッションは始まるやいなや中断を余儀なくされることになった。2020年の初めで、新型コロナウイルスの感染が広がっていたからだ。西海岸の自宅でレッド・ホット・チリ・ペッパーズのそれぞれのメンバーは曲を書く時間にすることにした。そのため、約1年後にマリブにあるリック・ルービンのシャングリラ・スタジオでレコーディングを始める時には100曲以上の新曲から曲を選べる状態だったという。
『アンリミテッド・ラヴ』を構成する曲には彼らのベストとも言えるものも含まれている。ソウルフルなジャムの“She’s A Lover”、ジャジーなバップの“Aquatic Mouth Dance”、ディストーションのかかったサーフ・ロック・ナンバーの“White Braids and Pillow Chair”、次第に盛り上がっていく“Veronica”はザ・ビートルズの“Happiness Is A Warm Gun”を彷彿とさせる壮大なアウトロを有している。今後のライヴの定番となるであろう“Bastards Of Light”はパワフルでポップなフックと唸るパンクが組み合わされており、アンソニー・キーディスのヴォーカルはこれまで以上のものになっている。全体的にまるで生まれ変わったようだ。
「新しいバンドのような新鮮さを感じているよ」とジョン・フルシアンテは語り、バンドとしての在り方の変化がクリエイティヴィティを育むことになったと説明している。「これまでよりもずっとエゴを減らしていて、それは全員がそうだと思う。競争ではなく、お互いにパートを出していこうとしていたし、他の人が持ち込んできたものを聴くのが楽しみだったんだ。例えば、『バイ・ザ・ウェイ』の時だったり、『母乳』の時は犠牲になる人がいて息苦しく感じる時もあった。今回はお互いを尊重していて、他の人が最高のものを持ってくるのが楽しみだったんだよね」
アンソニー・キーディスもそれに同意している。「原動力となったのは健全で生産的でクリエイティヴなものだった。俺たちの場合、時々、ちょっと競争心が強くて、衝突することもあるんだけど、今回はお互いをいい方向に持っていくものだったんだ」
6月、4人は初となるアメリカのスタジアム・ツアーを含むツアーに乗り出すことになる。これまでもスタジアムを含む巨大な会場で演奏してきて、そこにはロンドンのハイド・パークでの3公演も含まれるが、しかし、スタジアムだけというのはなかった。これはフリーのアイディアで、うまくいくとアンソニー・キーディスをなんとか説得したという。「自分たちの満たしたい感覚を満たすにはトリッキーな場所なんだよね」とアンソニー・キーディスは打ち明けている。「でも、やったことのないことをやりたかったんだ。美しいステージを作って、大きな会場でもふさわしい感覚を得られるようにしたいね」
過去からのインスピレーションとしてアンソニー・キーディスは同じ口ひげのマエストロであるフレディ・マーキュリーの名前を挙げている。脚光の中でモンスター級の観客を圧倒するクイーンの成功は他の追随を許さないものだった。両バンドは共にバックステージのパーティーでの喧嘩にまつわる逸話を残していることも共通している。2004年刊行の自伝『スカー・ティッシュ』でアンソニー・キーディスはアイス・キューブのクルーとジーザス&メリー・チェインによる酒に酔った喧嘩を目撃したことを振り返っており、フレディ・マーキュリーはパーティーで大量のコカインを出すことで有名だった。
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