Masanori Naruse

Photo: Masanori Naruse

NME Japanでは今年のフジロックフェスティバルでベスト・アクトの1〜20位を選んでみました。とはいっても、あれだけ多くのアーティストが出演するフジロックです。すべてのアーティストを観ることはできません。なので、あくまで独断で、編集部で観たいと思ったアーティストのなかから、議論を重ねて、このランキングを作成してみました。みなさんのベスト・アクトとぜひ較べてみてください。

20位 マーティン・ギャリックス(7/27 GREEN STAGE)

Louis van Baar

Photo: Louis van Baar


今年で実に23回目の開催となったフジロックフェスティバル歴史の中でも、稀に見る豪雨に見舞われることとなった土曜日。すっかりぬかるんだグリーン・ステージにはそれでも、マーティン・ギャリックスのレイヴに身を委ねようと多くのオーディエンスが集まっていた。今年5月に靭帯断裂という大怪我を負い、一時は出演に黄色信号が灯ったとも思われた彼だったが、右足にギプスこそ装着していたものの、昨年のツアーから導入した最新セット「ANIMA」で何本ものレーザーを飛ばしながら、荒天や怪我の影響など物ともしないプレイを披露していく。2013年に弱冠17歳でリリースした“Animals”でワールドクラスのDJの仲間入りを果たして以来、EDMの全盛期を第一線で牽引し続けてきたマーティン・ギャリックスだが、荒天の中、見事にグリーン・ステージにダンス・フロアを生み出すことに成功したマーティン・ギャリックスからは、もうすっかり貫禄が漂うようになっていた。

19位 アン・マリー(7/26 GREEN STAGE)

ポップ・シンガーとして初日の昼下がりにグリーン・ステージに出演する。その役割に見事に応えてみせたのが、今年のブリット・アウォーズで最優秀ブリティッシュ女性ソロ・アーティスト賞を含む4部門にノミネートされたことも記憶に新しいアン・マリーだった。ピンクのワンピースを着て登場した彼女は“Ciao Adios”からステージをスタートさせると、ステージの上を弾けるような笑顔で動き回りながら、時には“Trigger”でシンガロングを促しながら、広大な自然に負けることのない力強い歌声でオーディエンスを掌握していく。最後に投下された“Rockabye”、“2002”、“FRIENDS”のアンセム3連発が圧巻だったのは言うまでもなく、「イチ、ニ、サン、シー!」と歌詞を日本語に変えて歌ってくれた“FRIENDS”は、これから始まる3日間への期待をさらに膨らませてくれるアン・マリーからの掛け声のようだった。

18位 ジョナス・ブルー(7/27 TRIBAL CIRCUS)

Masanori Naruse

Photo: Masanori Naruse


記録的な大雨に見舞われたという事実抜きには語れない今年の土曜日。マーティン・ギャリックスやシーアのステージでまだ不完全燃焼だったオーディエンスを筆頭に、荒天というコンディションで満ち足りていなかった人々の余力をほとんど一人で受け入れていたのが、ロンドン出身のDJ/プロデューサーであるジョナス・ブルーだった。そうした事情があったとはいえ、ジョナス・ブルーのプレイがオーディエンスの踊りたいという欲求をさらに加速させていたことに疑いはなく、ビリー・アイリッシュの“bad guy”や、ジャスティン・ビーバーエド・シーランの“I Don’t Care”といった最新のヒット曲と自らの代表曲を横断させながら、観客の需要を満たしていく。ゲスト・ヴォーカルのアーロン・リヴァイがステージに登場する場面や、さらにはザ・ホワイト・ストライプスの“Seven Nation Army”という粋な選曲でシンガロングが起こるという、フジロックならではの光景も生まれるなど、ジョナス・ブルーは多くの人々の土曜日に相応しいクライマックスを提供してくれた。

17位 クルアンビン(7/28 FIELD OF HEAVEN)

Masanori Naruse

Photo: Masanori Naruse


タイのファンクにルーツを持つ彼らの音楽と日本との親和性の高さは既に証明されていたものだが、これが最終日のフィールド・オブ・ヘヴンのトリというシチュエーションには見事にハマっていた。冒頭の“August Twelve”から、サイケデリック・ロックが持つ魅力を掛け値なしに投下してくれるのだが、そこに性急さはなく、そのルックスも相まって、チルを求めるオーディエンスの欲求を思う存分に満たしてくれる。中盤に挟まれたYMOのバージョンでも知られる““Firecracker””のカヴァーを含め、ジャム・ロックの新たな快楽のツボを次々の刺激してくれるのがたまらない。その新たなスタイルに多くのオーディエンスが共通認識を持って受け入れるさまは、まさにフジロックフェスティバル、フィールド・オブ・ヘヴンならではの光景だった。

16位 ステラ・ドネリー(7/28 RED MARQUEE)

前日に降り注いでいた豪雨もすっかり上がり、晴れ間が覗いていた最終日の午後。ステラ・ドネリーを観るにはまさしく絶好のコンディションとなったが、ギタリストと共にステージに登場したステラ・ドネリーが、ギターを片手に1曲目の“Grey”をパフォーマンスした瞬間、その予感は確信に変わった。複雑なテーマをポップに歌い上げる才能の持ち主であることは既に音源でも証明されていたことだが、YouTubeで観ているというオーストラリアの父親に挨拶するなど、楽曲のその朗らかな魅力を地で行くキャラクターで、“Old Man”でバンド・メンバーが勢揃いする頃には彼女にすっかり心を掴まれることに。今年3月にリリースしたデビュー・アルバムで初めてレコーディングを共にしたバンド・メンバーと、時に笑い声を漏らしながら楽しそうにセッションするステラ・ドネリーの姿が実に印象的で、人を大切にする彼女の性格がパフォーマンスにもそのまま表れていたような晴れやかなステージだった。

15位 キング・ギザード&ザ・リザード・ウィザード(7/26 WHITE STAGE)

しかし、オーストラリアのバンドというのはどうして、オーセンティックなロックンロールをサイケデリアの中に詰め込み、それをこうも見事に昇華することができるのだろう。ツイン・ドラムによる演奏から始まった、キング・ギザード&ザ・リザード・ウィザードにとっての初来日公演となるこの日のステージ。9年におよぶキャリアの中で14枚のアルバムをリリースしている彼らだが、セットの中核を成していたのは、冒頭を飾った“Self-Immolate”を初めとした翌月にリリースを控えた来たる新作『インフェスト・ザ・ラッツ・ネスト』の楽曲だった。常に新たな楽曲を追い求めるその探究心は言わずもがな、冒頭のツイン・ドラム然り、リード・シンガーのスティー・マッケンジーが着ていたメタリカのTシャツ然り、彼らのステージには愚直なまでのロックに対する真っ直ぐな愛情が所狭しと敷き詰められていた。それらをすべてサイケデリアで歪めたようなパフォーマンスで、メタルからプログレッシヴ・ロックに至るまで、彼らなりのトリップした解釈でオマージュを捧げていたようなステージだった。

14位 ジェイソン・ムラーズ(7/28 GREEN STAGE)

Taio Konishi

Photo: Taio Konishi


「GOOD VIBES」と書かれたバックドロップをバックに、カラフルな衣装に身を包んだジェイソン・ムラーズとバンドメンバーが現れた時点で、彼のステージを観ることのできる幸福を痛感する。昨年リリースされた通算6作目となる最新作『ノウ』の1曲目である“Let’s See What the Night Can Do”から幕を開けたステージは、彼のキャリアを象徴する真摯なポップネスに溢れたものとなった。序盤で“Curbside Prophet”〜“Geek in the Pink”〜“The Remedy (I Won’t Worry)”という初期の名曲の数々をメドレーで演奏して古参ファンの気持ちをがっちりと掴み、Tシャツを観客に向かって発射するなど、遊び心もたっぷり。パフォーマーとしは既に確固とした評価を確立しているジェイソン・ムラーズだが、最近の彼はそんな自身のポップ・ミュージックをスケールの大きな形で届けることに情熱を傾けている。早くも5曲目でキャリア最大のヒット曲である“I’m Yours”が演奏された時にはビックリしたが、その後も『ラヴ・イズ・ア・フォー・レター・ワード』の楽曲を中心に、まさに人々の笑顔が広がっていくようなパフォーマンスを見せ、最後は最新作からの“Have It All”が見事にハイライトとなっていたのが、なんとも印象的なステージだった。

13位 ケイトラナダ(7/26 PLANET GROOVE)

ケイトラナダのプレイ中にバック・スクリーンに投影されていた「You’re experiencing Kaytranada remix」という文字が、すべてを物語っていたと言えるだろう。ケイトラナダ名義の音源はもちろんのこと、自身がプロデュースを手掛けたジ・インターネットの“Girl”やチャンス・ザ・ラッパーの“All Night”もかければ、リアーナの“Kiss It Better”やジャネット・ジャクソンの“If”、さらにはシャーデーの“Kiss Of Life”のリミックスなんかもかける。しかし、そのすべてがハウスやソウル、ヒップホップを独自のケミストリーで交配させたケイトラナダのサウンドとして集約され、ジャンルや時代の垣根を至極自然に超えていく。フロアを満たしていたのはまさしく、ケイトラナダが生み出す独自の快楽を謳歌するオーディエンスの熱であり、その熱はこのサウンドがどれだけ貴重な体験であるかを十分に痛感するからこそ生まれていた。

12位 デス・キャブ・フォー・キューティー(7/27 WHITE STAGE)

Taio Konishi

Photo: Taio Konishi


7年という前回の来日からの空白を埋めるかのごとく、その間にリリースされた昨年発表の最新作『サンキュー・フォー・トゥデイ』の“I Dreamt We Spoke Again”、2015年の『金継ぎ』に収録された“The Ghosts of Beverly Drive”の2曲からスタートしたこの日のステージだが、これまでのディスコグラフィを少しずつ掻い摘むようなセットを披露してくれたデス・キャブ・フォー・キューティーが証明していたのは、キャリアのどの時期も妥協することなく、インディ・ロックを追求してきたその姿勢そのものだった。豪雨の中でのステージだったが、オーディエンス側の熱量が落ちることはまったくない。ジグソーパズルのごとく見事に嵌まったアンサンブルは、デス・キャブ・フォー・キューティーがこれからもインディー・ロックの境界線を最前線で押し広げてくれることを確信させてくれるものだった。大雨の影響で当初の予定から15分の短縮を余儀なくされてしまったものの、75分という時間はこのバンドのかけがえのなさを十分に感じさせてくれる時間だった。

11位 ザ・ルミニアーズ(7/26 FIELD OF HEAVEN)

Tsuyoshi Ikegami

Photo: Tsuyoshi Ikegami


ザ・ルミニアーズをフジロックフェスティバルのフィールド・オブ・ヘヴンで観ることのできるありがたさ、その重みを心得ている人たちがこの日のステージには集まっていた。9月にリリースされる通算3作目となるニュー・アルバム『III』からの楽曲を含め、バンドのキャリアを包括するようなセットを披露したザ・ルミニアーズだが、どんな曲をパフォーマンスする時にも、純粋に歌を届けようとするその真っ直ぐな姿勢がブレることはない。長年着てきたお気に入りのシャツのように、その歌はどんな心境にもそっと寄り添ってくれる。彼らのキャリアを決定づけた代表曲“Ho Hey”は中盤に披露されて、当然のことながら大きなシンガロングに迎えられることになるのだが、ここで上がった体温は下がることなく、最後に演奏されたトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのカヴァーである“Walls”でピークを迎えることとなった。

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