アンソニー・キーディスは笑っている。あたたかく低い笑い声は豹が喉を鳴らしているようだ。笑っている理由は? 彼に1994年の『NME』のコミカルな表紙を思い出してもらったのだ。それは彼が高校から率いているバンドが照りつけるカリフォルニアの太陽の下で巨大なハーレー・ダビッドソンに跨るものだった。そこには赤い文字で次のように書かれている。「ソックス・ドラッグ&ロックンロール:レッド・ホット・チリ・ペッパーズはバイクで繰り出した」
「この撮影のことはよく覚えているよ」とアンソニー・キーディスはロサンゼルスのリハーサル・スタジオで笑っている。「デイヴ・ナヴァロがいて、美しいハリウッド・フォーエヴァー墓地から遠くないカリフォルニア州ハリウッドのサンタモニカ・ブールヴァードだった。晴れた日で、フリーは顎髭を伸ばしっぱなしにしていた。バイクに乗るのに夢中だったね。ソフティ、イージー、ジェントル&クレータスという反バイク同盟を結成したんだ」
別のZoom通話で同じ表紙をフリーに見せると、彼も面白がってくれた。でも、威勢のいいベースの魔術師の興味を惹いたのは右上の角にあった別の記事の文言だった。そこには全米ツアーを行っていた「ザ・ローリング・ストーンズが車椅子で繰り出した」の文字があった。当時、ザ・ローリング・ストーンズは50代だったが、アンソニー・キーディスとフリーは今年60歳を迎える。「ストーンズがツアーを続けているのは有り難いことだと思うね」とフリーは笑っている。「当時、彼らは年齢を重ねたバンドの先駆者だった。彼らが続けている限り、俺たちは年寄りとは思われないんだ」
1983年の結成からほぼ40年となる2022年にロサンゼルスのロックの上流階級であるレッド・ホット・チリ・ペッパーズは再び表紙を飾っている。写真を撮影したのはアカデミー賞受賞監督であり、近い友人でもあるガス・ヴァン・サントだ。先に断っておくが、今回はバイクは登場しない。4月1日にリリースされるニュー・アルバム『アンリミテッド・ラヴ』の独占取材だ。6年ぶりのアルバムであり、80年代後半から加入・脱退を繰り返してきたジョン・フルシアンテが参加したアルバムとしては2006年発表の『ステイディアム・アーケイディアム』以来となる。
メランコリックなギター・リフ、アンセムのようなコーラス、優しく歌うメロディーが満載の『アンリミテッド・ラヴ』はジョン・フルシアンテ期の名作である『カリフォルニケイション』や『バイ・ザ・ウェイ』と多くの共通点がある。ただ、グランジ風の激しい楽曲“These Are The Ways”、アコースティックのバラード“Tangelo”などはこれまでのレッド・ホット・チリ・ペッパーズからは聴けなかったものだ。そう、バンドの歴史と完全に調和しながらも、それを繰り返すことには興味などないのだ。
「ロック・ミュージックで50年前にも聴いたのと同じ昔の物語を語りたくはなかったんだ」とアンソニー・キーディスは反抗的に語る。「10000くらいの方向性をやってみて、どうなるか見てみたかったんだ。自分で限界をもうけず、正直でエモーショナルなものに触れようとしてみた。これまでには言われてないこと、少なくともこれまでにはなかった言い方で伝えられていたらと思う」
「最大の出来事はもちろん、ジョンがバンドに復帰することだった。自分たちの人生において最も記念碑的な変化だった。それで、何だってありだということになったんだ」
レッド・ホット・チリ・ペッパーズはこれまでも実験的なムードにあった。ツアー・メンバーだったジョシュ・クリングホッファーがジョン・フルシアンテの代わりに加入した2011年の『アイム・ウィズ・ユー』はそれまでの作品の継続と感じられたが、2016年発表の『ザ・ゲッタウェイ』は新境地だった。ピアノを使ったプログレッシヴな“Dreams Of A Samurai”、ディスコでダンスフロアを埋める“Go Robot”、リード・シングル“Dark Necessities”など、『NME』はレヴューで「前進する試み」であり、「彼らのサウンドが新しく楽しみな方向に向かっている」と評している。この年の夏にレディング&リーズ・フェスティバルでレッド・ホット・チリ・ペッパーズはヘッドライナーを務め、『NME』は9年ぶりの「勝利の帰還」と述べている。
18ヶ月にわたって4大陸29ヶ国でワールド・ツアーが行われ、次のアルバムの話が持ち上がった。全員が曲を書き始めたが、アンソニー・キーディスとフリーはうまく行っていないことに気づいていた。
「ゆっくりと始めたんだけど、決定的な本物の衝動というのがなかったんだ。蛇行しているに過ぎなかったんだよね」とアンソニー・キーディスは語っている。「フリーも俺もそれぞれ自分の内側に共通する感覚があったんだ。『このプロセスにジョンが加わってくれたら素晴らしいだろうな』ってね。長くかかったけど、彼は自分自身のサークルを経て、俺たちのサークルに戻ってくることしたんだ」
アンソニー・キーディスは正しかった。2019年末、人前に出ないことで知られるジョン・フルシアンテは少しずつ外に出始めていた。彼はフリーと連絡を取り、一緒にバスケットボールを観戦するところが目撃されている。しかし、彼の再登場は簡単なことではなかった。彼はここ10年を主にエレクトロニック・ミュージックを作って過ごしていた。彼はレッド・ホット・チリ・ペッパーズのメンバーである自分なりのやり方をまだ覚えていたのだろうか?
「はっきりとしてはいないところがあったと思う」とジョン・フルシアンテは自宅のミュージック・ルームからのビデオ通話で語っている。彼は折りたたみ式の丸椅子に座っていて、彼の周りにはケーブルが地を這っていて、彼のいじる多くの機材に接続されている。彼の猫であるずんぐり顔のラガマフィンであるフランシスが度々画面に登場する。ジョン・フルシアンテは4人の中で最もメディアが苦手なので、彼がリラックスしているのを見ると安心させられる。「フリーがそのアイディアを思いついたんだ。ギターを手にして腰を下ろしてみたんだけど、長いことロックの曲を書いていないと思ってね。自分にまだできるのかなと思ったよ」
その心配は無用だった。その日書いた曲は素晴らしく、5年ぶりのファースト・シングル“Black Summer”になった。シンプルで悲しげなギターのリックで幕を開け、そこにアンソニー・キーディスのやわらかい低い声が入ってくる。「The archer’s on the run / And no one stands alone behind the sun(弓の名人は逃亡中/太陽の裏側では誰もひとりじゃない)」とアンソニー・キーディスは歌って、骨太なギターによって多幸感のあるリフレインが始まる。その後のギター・ソロはジョン・フルシアンテの復帰を待ち望んでいたファンを間違いなく喜ばせるものとなっている。
もちろん、1人がレッド・ホット・チリ・ペッパーズに加入すれば、別の人物の居場所はなくなり、残念ながらバンドはジョシュ・クリングホッファーを脱退させることとなった。「ジョシュと袂を分かつのは大きな変化だった」とフリーは大きなアヴィエイター・サングラスの下で眉をひそめている。「ジョシュは10年間一緒にやってきたからね。感情的に難しかったよね。彼は素晴らしいミュージシャンというだけでなく、思慮深く献身的なチーム・プレイヤーで、集団のことを考え、やさしく知的な人物だったからね。でも、アーティスティックな面で同じ音楽的言語で話すという点ではジョンとはやりやすいんだ。部屋に入って演奏し始めたら、それを展開させていく。エキサイティングだったよ」
しかし、参加する必要のあった重要人物がもう一人いた。スーパー・プロデューサーであるリック・ルービンはカニエ・ウェストやレディー・ガガともコラボレーションしてきたが、最も継続して商業的成功を収めてきたのはレッド・ホット・チリ・ペッパーズとだった。1991年発表の『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』以降、1枚を除いて参加してきたリック・ルービンはザ・ビートルズにとってのジョージ・マーティンだった。
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