7月28日よりジョージ・ハリスンの妻であるオリヴィア・ハリスンとエリック・クラプトンによって2002年に開催されたジョージ・ハリスン追悼コンサート『コンサート・フォー・ジョージ』がTOHOシネマズ シャンテほかにて上映される。
ジョージ・ハリスンが亡くなったのは2001年11月だった。当時の年齢は58歳で、今から考えると、だいぶ若いけれど、肺ガンが主な原因だったと報じられている。当時も少なからずミュージシャンの訃報というのはあった。しかし、今のように毎月のように訃報が届くという感じではなかった。60年代に世界的なポピュラー・カルチャーとなったロックがそれだけの歳月を経たというのはやっぱり紛れもない事実で、鬼籍に入る人というのも必然的に多くなる。
それにつれて、そのミュージシャンの功績に敬意を表する追悼コンサートも多くなった。近年だと、まず自分の頭に浮かんだのはザ・ローリング・ストーンズのチャーリー・ワッツの追悼コンサートだった。2021年8月に享年80歳で亡くなったチャーリー・ワッツだが、追悼コンサートは一般公開されることはなく、ロンドンのジャズ・クラブであるロニー・スコットでその年の12月に行われた。ロニー・スコットのキャパシティは200人強というから、本当に限られた人だけが出席できたのだろう。この日、ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ロニー・ウッドは即興のジャムを行って、リズム&ブルースのスタンダードである“Shame Shame Shame”と“Down the Road Apiece”を披露したという。
もう一つ、頭に思い浮かんだのはフー・ファイターズのテイラー・ホーキンスの追悼コンサートだった。こちらはザ・ローリング・ストーンズとは打って変わって盛大なものとなった。昨年3月にコロンビアのボゴタで亡くなったことを受けて、フー・ファイターズは死後初めてのライヴとして約半年後にロンドンのウェンブリー・スタジアムとロサンゼルスのフォーラムで追悼コンサートを開催している。会場の大きさもさることながら、出演者も豪華で、リアム・ギャラガー、クイーンのブライアン・メイとロジャー・テイラー、AC/DCのブライアン・ジョンソン、メタリカのラーズ・ウルリッヒ、アラニス・モリセット、マイリー・サイラスらが出演している。
もっと昔だと、ロンドンのウェンブリー・スタジアムで1991年に行われたフレディ・マーキュリー追悼コンサートなどもあるわけだが、どれも生前のその人の人となりや人間関係があって、周りの人の思いも加わることによって然るべき形になったのだと思う。ただ、今観ても、レジェンドと呼ばれるアーティストで、ジョージ・ハリスンの追悼コンサートほど、適切なサイズの会場で、適切な出演者によって、適切な楽曲が演奏された追悼コンサートはなかなかないように思う。派手すぎず、慎ましやかで、かといって関係者だけでもなく、このコンサートは定員5000人強のロイヤル・アルバート・ホールで、亡くなった丁度1年後となる2002年11月29日に開催された。もしかすると、だから20年以上経った今も世界的に劇場上映しようということになったのかもしれない。それは純粋にコンサートの映像作品として優れたものとして成立していることの何よりの証左だろう。
劇場上映の公式サイトでは本作に寄せられた著名人のコメント(https://www.culture-ville.jp/comments)というのが公開されていて、ミュージシャンであったり、専門家の方が見どころを挙げているので、ここでは作品のディテイルを掘り下げることはしない。あまり他の方が挙げないであろう見どころとしてはエリック・クラプトンによる“Beware of Darkness”だろうか。ジョージ・ハリスンのソロ・アルバム『オール・シングス・マスト・パス』に収録されている曲だが、後年、妻のオリヴィア・ハリスンはこの曲を最も聴くのがつらかった曲だったと語っている。「悲しみには気をつけて/あなたを襲い、傷つけ、痛みを残す/そして、なにより、あなたがここにいるのはそんなもののためじゃない」という歌詞を考えると、確かにこれほどこの日にふさわしい曲はないかもしれない。
そして、最も自分が目を離せなかったのは、この追悼コンサートを主催したもう一人の人物だった。本作の中でエリック・クラプトンは次のように語っている。「僕がやりたかったのはジョージと彼の音楽への愛をみんなと分かち合うことだけだった。彼のためにもやる必要があったんだけど、なによりも自分のためだった。自分の中の悲しみをなにがしかの形で表現しなければならなかったんだ」エリック・クラプトンという人は前に出る活動を精力的に行っていくタイプの人ではない。必然性があることを粛々とやっていく。だから、新型コロナウイルスの時はワクチンに関する発言などが取り上げられることもあったのだが、自分の決めた不可欠なことしかしない人だ。
そんな人が開催した追悼コンサートは嘘がないからこそクラシックな作品になった。いろいろな人の思いが繊細に、時に愉快に積み重なって、故人を失った悲しみがあたたかく表現されていく。それは20年経った今も映像越しにヴィヴィッドに伝わってくる。「クワイエット・ビートル」と呼ばれた人を偲ぶコンサートは時の試練を受けても奥ゆかしくも饒舌な作品となっている。
上映詳細
作品名: 『コンサート・フォー・ジョージ』
上映時間: 約102分
監督:デヴィッド・リーランド
製作:レイ・クーパー、オリヴィア・ハリスン、ジョン・ケイメン
製作総指揮:オリヴィア・ハリスン、ブライアン・ロイランス
音楽監督:エリック・クラプトン
コンサート・オーディオ・プロデュース:ジェフ・リン
撮影監督:クリス・メンゲス
編集:クレア・ファーガソン
出演:エリック・クラプトン、ポール・マッカートニー、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ、ジェフ・リン、リンゴ・スター、ジョー・ブラウン、サム・ブラウン、ジュールズ・ホランド、ビリー・プレストン、レイ・クーパー、アヌーシュカ・シャンカール、ラヴィ・シャンカール、モンティ・パイソン with トム・ハンクス
制作年:2022年/制作国:アメリカ
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7月28日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかにて公開
1. オープニング 「サーブ・シャーム」
2. 「アイ・ウォント・トゥ・テル・ユー」ジェフ・リン
3. 「恋をするなら」エリック・クラプトン
4. 「タックスマン」トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ
5. 「ハンドル・ウィズ・ケア」 トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ w/ジェフ・リン&ダニー・ハリスン
6. 「想い出のフォトグラフ」 リンゴ・スター
7. 「ハニー・ドンド」リンゴ・スター
8. 「シット・オン・マイ・フェイス〜ランバージャック・ソング」モンティ・パイソン with トム・ハンクス
9. 「ヒア・カムズ・ザ・サン」ジョー・ブラウン
10. 「ホース・トゥ・ザ・ウォーター」ジュールス・ホランド&サム・ブラウン
11. 「ビウェア・オブ・ダークネス」エリック・クラプトン
12. 「イズント・イット・ア・ピティ」エリック・クラプトン&ビリー・プレストン
13. 「フォー・ユー・ブルー」 ポール・マッカートニー
14. 「サムシング」 ポール・マッカートニー&エリック・クラプトン
15. 「アルバン」指揮:アヌーシュカ・シャンカール
16. 「ジ・インナー・ライト」 ジェフ・リン&アヌーシュカ・シャンカール
17. 「マイ・スウィート・ロード」ビリー・プレストン
18. 「オール・シングス・マスト・パス」ポール・マッカートニー
19. 「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」 ポール・マッカートニー&エリック・クラプトン
20. 「夢で逢いましょう」 ジョー・ブラウン
更なる詳細は以下のサイトで御確認ください。
https://www.culture-ville.jp/concertforgeorge
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