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2020年に通算20作目の『レター・トゥ・ユー』をリリースした直後にブルース・スプリングスティーンは再びスタジオに戻ることになった。新型コロナウイルスによるロックダウンの最中で、ピート・シーガーへのオマージュだった2006年発表の『ウィ・シャル・オーヴァーカム:ザ・シーガー・セッションズ』に続いて、自分で書いていない曲をレコーディングすることにボスは惹かれていた。ブルース・スプリングスティーン、プロデューサーのロン・アニエッロ、エンジニアのロブ・レブレットはその不規則な労働時間から自らを「ザ・ナイト・シフト」と名付け、カヴァー・ソングのコンピレーションに取り組むことになったが、最終的に最初の音源はお蔵入りになることになった。しかし、2度目の挑戦でブルース・スプリングスティーンは掘り下げたい創造力に富んだテーマを見つけることになった。

「自分の声については自分の曲のために、自分のアレンジ、自分のメロディー、自分の作曲と構成に縛られる形で職業人生を送ってきた」とブルース・スプリングスティーンは『オンリー・ザ・ストロング・サヴァイヴ』に繋がることになった閃きについて語っている。「自分の声はそうした要素に対して二の次、三の次、四の次だったんだ」

自分自身に「挑戦したい」と思って、「自分の声はヤバい」という新鮮ながらも前から知っていたような確信をもってブルース・スプリングスティーンとザ・ナイト・シフトの残りのメンバーはアメリカン・ソウルの名曲に独自の解釈を加えていくことになった。そこにバッキング・ヴォーカルやEストリート・ホーンズなど、全面的なアレンジが足され、本作は「これまでで最も美しいヴォーカル・ミュージックと言えるもの」になることになった。セッションはスプリングスティーンによれば「今なお過小評価されている」という「アメリカン・ポップ・サウンドブックの中で最も美しい」15曲のコレクションを生むことになったのだ。

アルバム・タイトル曲でブルース・スプリングスティーンはソウルフルなヴィブラートと胸が詰まる歌詞を受け継ぎながら、ジェリー・バトラーのオリジナルに荒々しいアメリカーナのアレンジを施している。「Now there’s a whole lot of girls just looking for a good man like you / You ain’t never gonna meet ‘em if you give up now and say your whole life is through(たくさんの女の子がいて、おまえのようないい男を探してる/でも、彼女たちには会えないよ。いま諦めてしまい、俺の人生は終わったなんて思ってたら)」と彼は歌う。

“Soul Days”でブルース・スプリングスティーンはソウル・シンガーのサム・ムーアを起用して、ソウル・ミュージックに恋したジョニー・バーネットの物語に声とハーモニーを提供している。このトラックはアルバムに完璧に合っているように思える。その全体的なテーマだけでなく、裏道を車で流したり、古いブルージーンズを履いたりするロマンチックなアメリカの日常生活についてのリリックは、ボスが自分で書いたかのようだ。

コモドアーズが1985年にモータウンからリリースしたヒット曲“Nightshift”は元々マーヴィン・ゲイとジャッキー・ウィルソンを追悼する曲だが、それぞれの言葉が今も真実味を帯びている。「Gonna miss your sweet voice / That soulful noise on the nightshift / We all remember you, your song is coming through(おまえの心地よい声が聞きたい/あのソウルフルな声、夜の部で/みんなおまえのことは忘れないよ、おまえの歌が聞こえてくる)」こうした歌詞はそもそもブルース・スプリングスティーンがこのコンピレーションをまとめることにした理由を説明するかのようだ。

切ない“What Becomes Of The Brokenhearted”ではブルース・スプリングスティーンの歌唱力が光っているが、ジミー・ラフィンの1966発表のヒット曲を感動的なものにしているオリジナルの物語は今なお有効なものになっている。アルバムはダイアナ・ロス&シュープリームスの楽観的な“Someday We’ll Be Together”の高音で締めくくられ、アルバム全体のテーマに沿って、感傷と憧憬を生み出すタイムレスなモータウンの魔法が有り難いものに感じられる。

概してリメイクよりもオリジナルのほうが好まれるため、カヴァー・アルバムの制作は難しい側面がある。しかし、『オンリー・ザ・ストロング・サヴァイヴ』でブルース・スプリングスティーンは浅はかな再解釈を繰り返すのではなく、心から捧げた壮大な15曲でもって史上最強のソングライターとヴォーカリストを参照しながら、祝福の手段としてこれらの名曲を復活させている。本作は最も偉大な存命のアメリカ人ソングライターの一人にインスピレーションを与えたものに光を当てただけでなく、過去の偉大な作品を後世に残し、最高の音楽と物語を今後も生き永らえさせる役割を果たしている。

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