今年7月にドイツのデュッセルドルフで開幕して、世界8ヶ国を回るレディー・ガガによる「クロマティカ・ボール」が日本にやってきた。レディー・ガガの来日公演は実に8年ぶりとなる。通算6作目となるアルバム『クロマティカ』がリリースされたのが2020年5月であることを考えると、ツアーの実現に約2年を要したことになる。言うまでもなく、それは新型コロナウイルスのためで、このツアーも2度の延期に見舞われている。なので、激動する世界の中でようやく実現したのが今回の来日公演というわけだが、舞台となったベルーナドームでレディー・ガガは「アイシテマス」という言葉を何度も繰り返していた。来日アーティストにとっては挨拶代わりの方便とも言えるこの言葉だが、自分はそうした印象を受けなかった。世界希代のポップ・アーティストと極東の島国の間には固有の繋がりがあるのではないか。そんなことを感じた夜だった。
コンサートはほぼ定刻通りの18時35分に始まった。ステージのスクリーンには宇宙をイメージさせる映像が流れ、赤い惑星に黒い人影が現れると、それはフードを被ったレディー・ガガで、涙が頬を伝う。そして、ステージには近来未来的な台座のようなものに囲まれたレディー・ガガ本人が姿を現すことになる。1曲目に披露されたのは“Bad Romance”で、ここから“Just Dance”、“Poker Face”とキャリア初期のヒット曲を立て続けに披露していくことになるのだが、“Bad Romance”は台座に固定されたまま披露され、“Just Dance”では台座が取り除かれるものの、その場を動くことはなく、“Poker Face”のコーラスでやっとこの日初のガガによるダンスを観られることになる。それが束縛のメタファーかどうかは分からないが、場内はこのヒット曲3連発で一気に完全沸騰して、お祭り状態となっている。
ここからは最新作『クロマティカ』の構成を踏襲した形でライヴは展開されていく。アルバムと同じく3幕構成で、映像がまずあって導入となる“Chromatica I・II・III”がそれぞれ楽器陣によって演奏された後、最新作の楽曲が披露され、各幕の最後にはヒット曲が登場する。キャリアの長いアーティストの場合、こうした最新作のパートは勢いが落ちることもあるのだけど、「クロマティカ・ボール」に限ってはそんな印象はまったくない。最新作『クロマティカ』がダンス・ミュージックに深く傾倒したアルバムだったこともあって、第1幕は手術台に寝かされた格好で登場して、“Alice”と“Replay”を披露した後に“Monster”が演奏され、第2幕は“911”と“Sour Candy”が披露された後に“Telephone”のコール音が流れると、スタジアムは大歓声に包まれる。第3幕では金色の衣装で“Babylon”の後に披露した“Free Woman”ではスタジアム内の通路を練り歩きながらセンター・ステージへと移動する。そこで披露されたのは“Born This Way”で、LGBTQの人に捧げられたこの曲はピアノによるアコースティックとフル・バンドの両バージョンで披露される。
そこからセンター・ステージで披露されたのは、まず映画『アリー/スター誕生』の世界だった。紫のエキセントリックな衣装に身を包んだレディー・ガガがアカデミー賞の主題歌賞を獲得した“Shallow”を披露して、日本の大好きな人たちに捧げると、同じく映画のサウンドトラックから“Always Remember Us This Way”が演奏される。ピアノの弾き語りからフル・バンドへと展開された“The Edge of Glory”では歌詞に日本が取り入れられ、最後にガガは手でハートのポースを作ってみせる。その後に披露されたのは、これまでのツアーの定番だった“1000 Doves”ではなく、直近のアーリントン公演やアトランタ公演でも披露されていた『ジョアン』に収録の“Angel Down”だった。ソーシャル・メディアや銃社会で揺れるアメリカに対する願いと祈りを歌ったこの曲だが、この曲について「アメリカについて歌ったこの曲です」という紹介は異国でなければできないものだっただろう。そして「I’m a believer, it’s a trial」というコーラスを持つこの曲は日本で歌われるからこその無垢さが解放されていた。その後はシンガロングしてと呼びかけた“Fun Tonight”を挟んで、“Enigma”で再びスタジアム内の通路を通ってメイン・ステージに戻ったところで本編が終了する。
「フィナーレ」と題されたアンコールで黒をベースに豪華絢爛なジュエリーを身に纏って登場したレディー・ガガが披露したのは3曲だったのだが、最新作『クロマティカ』の楽曲と最新シングルでピークを形作ってしまう姿は清々しかった。“Stupid Love”では四分打ちにオートチューンが絡まったサウンドでスタジアムを熱狂に落とし込み、アリアナ・グランデとのコラボレーションだった“Rain On Me”ではダンサーも全員登場して、一糸乱れぬこの日最高のダンスを披露してみせる。最後に演奏されたのは映画『トップガン マーヴェリック』に提供した主題歌“Hold My Hand”で、ステージで燃え盛る炎の上をレディー・ガガは果敢に飛び越えてみせる。8年ぶりとなった来日公演は3月に36歳を迎えたレディー・ガガが期待通りのスペクタクルを見せつける形で終幕することになった。
途中でも書いたように今回の「クロマティカ・ボール」は作り込まれた幕間の映像も含めてしっかりとした構成になっていたのだが、その中で最もレディー・ガガ本人の機微を感じ取れることができたのはセンター・ステージでのパフォーマンスだった。そして、その仕草の端々や言葉の数々からは今回のツアーにおけるわずか8ヶ国のうちの一つに選ばれたこの国への愛が滲み出ていた気がする。次に彼女がまたこの国を訪れてくれるのはいつのことになるのだろうか?
セットリスト
Prelude
01. Bad Romance
02. Just Dance
03. Poker Face
ACT I
04. Alice
05. Replay
06. Monster
ACT II
07. 911
08. Sour Candy
09. Telephone
10. LoveGame
ACT III
11. Babylon
12. Free Woman
13. Born This Way
ACT IV
14. Shallow
15. Always Remember Us This Way
16. The Edge of Glory
17. Angel Down
18. Fun Tonight
19. Enigma
Finale
20. Stupid Love
21. Rain on Me
22. Hold My Hand
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