元レッド・ホット・チリ・ペッパーズのギタリストであるジョン・フルシアンテが大量の未発表音源をオンライン上で、無料で公開したが、それに合わせてジョン・フルシアンテのサイトには長文の声明が掲載されている。
今回公開されたのは、2010年5月に4トラのカセット録音でレコーディングされた6曲と、2009年から2011年にかけて自身のスタジオでエンジニアとしての成長も目的にレコーディングされた8曲、またそれぞれバラバラに録音された4曲という計18曲が公開されている。
ジョン・フルシアンテによる声明の全文訳は以下の通り。
「ファンのみなさんへ
今回、バンドキャンプとサウンドクラウドにアカウントを作って、過去の未発表曲をたくさんアップロードしたことを報告するよ。僕のフルネームはいくつかのアカウントですでに使われてしまっていたから、http://www.jfdirectlyfromjf.bandcamp.com/、もしくは http://www.soundcloud.com/jfdirectlyfromjfで登録してるんだ。
今の段階では、2010年の5月に作った4トラックのカセットレコーダーで録音した全部で6曲分19分間分の曲集をアップロードしていて、これはギター3本とドラムマシーンを使ってるんだ。ちょっと変わったアンチ・ロックスター的なギター・ソロがたくさんあって、主に使ったのはギターはモズライトとヤマハのSGで、リズムはエレクトロンのマシーンドラムを使ってる。でもある1曲にはローランドのTR707を使った。他にも707を使った曲はあるけど、それはミックスしなかったんだ。
それから、2009年から2011年の間に作った全部で37分間の音源集もアップしてるよ。これは僕のエンジニアとしての成長に合わせて、製作段階から少しずつ僕のメイン・スタジオでレコーディングした。
さらに、『セクト・イン・sgt』の20分のフル・ヴァージョンも聴くことができる。以前「トリックフィンガー」の名前でオンラインで配信していた時のヴァージョンで、最初の5分間を除いたものだ。
映画『俺たちアミーゴ』の曲である“Fight For Love”のカヴァーもある。これは、2013年11月の晴れた午後にオマー・ロドリゲス・ロペスと僕でレコーディングしたもので、他には2008年にレコーディングした“Medre”と、アルバム『エンクロージャー』に収録されている“Zone”のヴォーカルとギターのみのヴァージョンもアップしてるよ。
これらの曲はすべて無料で、バンドキャンプとサウンドクラウドからダウンロードすることもストリーミングすることもできる。“Zone”を除けばすべて、純粋に音楽を作るということを目的にした楽曲ばかりで、発売して売ることを目的にはしていない。別の言い方をすると、“Zone”は唯一アルバムに収録するために作った曲だということだ。
レーベルから音楽を発表する時には、「与える」のではなく売ることが目的とされている。アートとは「与える」ものだ。僕が友人に向けて歌を歌う時は、その行為は僕から彼女に向けて無償で行われるものだ。それが「与える」ということなんだ。もし僕が皆になにかの作品を売ったとしたら、それは「与える」とは言えなくなってしまう。
アルバムを制作しているアーティストたちは、世間にその作品を売ることによって「与えて」いると思っている。音楽に打ち込んでいて、自分のファンを愛するミュージシャンとして作品を販売することは、ファンが持つイメージや人格に沿って自分のことを積極的に売っているのと同じことなんだ。
商売という行為はもう時代遅れだと思っていて、僕が子どもの頃には音楽を作るより、お金を作るのが好きなアーティストがたくさんいた。でも、彼らの言葉は芸術的な品位を欠いていた。個人的には、音楽で商売するというのは最悪だと思う。それが普通のこととして期待されていて、認められていることは残念に思うんだ。僕が10代の頃には、アルバムを制作して商売しているアーティストをバカにするのは当たり前の行為だった。僕はそれが音楽ファンの性質の一部としてとても健全なことだと信じている。
最近では、オンラインで無料で音楽を配信するのが普通になってきているが、これは芸術的な表現というのはいつも「与える」ものであって、奪ったり売ったりするものではないということを思い出させてくれる良いきっかけになってるよね。販売は金儲けをする部分であって、芸術的表現だったり創作するという行為は「与える」部分なんだ。この2つは明確に違う性質のもので、僕の信念としては、音楽はいつも好きだから作るものであって、売るかどうかを考えて作るものではないと考えている。創作というのは生命の源であり、金儲けのように食べ物や服、家、その他、必要なものやある種の安心や他への欲望を満たすためのものとは違うんだ。
今回、この音楽を皆さんに手渡すことができてとても嬉しい。今後はこのサイトで曲をアップロードしたことをお知らせすることもあると思う。僕のこのサイトから配信する楽曲はすべて、僕のサウンドクラウドのページとリンクさせる予定だよ。
もう1つ、はっきりさせておかなければならないことがある。僕は普段自分のことが書かれている記事は読まないんだが、ある時代遅れのウェブサイトで、文脈関係を無視して僕の言葉を引用し、「僕には聴衆がいない」という言葉を見出しにしていたということがあった。これは間違った解釈で、僕に対してインタヴューを行った、音楽情報サイト「エレクトロニック・ビーツ」のすばらしいジャーナリストのせいではまったくないんだけどね。2008年に所属していたバンドを脱退してからというもの、学ぶために、そして自分が聴きたい音楽を作るために音楽を作ってきて、自分のファンの反応を気にしてはいなかった。それでも、2008年から2013年の間は曲をレコーディングするたびに、僕のバンドであるスピード・ディーラー・マムズのメンバーであるアーロン・ファンクやクリス・マクドナルド、そして他の友人たちにそれを送っていた。この時期の初め頃に、僕がそうやって曲を送る相手や演奏する相手がみんな自分の「聴衆」、言い換えれば僕の音楽が向かう先なんだということに気づいたんだ。
僕のように、音楽を作るという純粋な目的の下に音楽を作っていると、その音楽を聴いてくれて理解してくれる友人が現れることもある。逆に、拘束されて世間一般が好むような音楽にされてしまうこともあるけどね。
それで2014年1月に「聴衆」という概念を取り払おうと決めて、音楽を1つの楽曲として仕上げたり、それを友だちに送ったりするのはやめて、1度に1曲ずつ作るのではなく1度に何曲も同時に作ることにしたんだ。このことで僕の意識が開放されて、しばらくの間、いろいろな方向性を探るために、聴くこと、そしてその音楽と共に生きることを目的とした作品を純粋に作ることができるようになった。ずっとそうするわけにはいかなかったけどね。実際、その局面も過去の通過点だったんだ。『トリックフィンガー』は僕の最後のアルバムではないし、最後だと言ったこともない。例のバカげたウェブサイトには最後だと書かれていたけど。
言うまでもなく、僕には僕の音楽を聴いてくれる人たちがいる。その存在は認識しているし、彼らは彼らで自分たちの存在を分かっている。僕が「現時点では、僕には聴衆がいない」と発言した時の「聴衆」という言葉は比喩的に使ったもので、僕が作品を作っている時に頭の中に思い浮かべたり、出来上がったものを送ったり演奏したりする相手のことを指していたんだ。実際のインタヴューでは記事に書かれていなかった最初の方でこのことを明確にしていて、「2009年の時点では、聴衆のことを気にせずに音楽を作ろうとしていた。アーロンとクリスが僕の聴衆になってくれたと気づいたから」と話したんだ。だから、そのジャーナリストは「現時点では、僕には聴衆がいない」というのが一般の聴衆のことではないというのを知っていた。「エレクトロニック・ビーツ」の記事の文脈では一般の聴衆に聴かれることを想定していないアルバムの音楽について言及していて、そのことははっきりと伝えられていたと思っている。
一言で言うと、音楽を作る時、正確に言えば現時点では特定の聴衆は想定していない。そういう姿勢でいることによって、一定の自由と、成長して変化するための刺激を得ることができるんだ。これはここ27年間プロのミュージシャンである上でずっと、とても効果的な考え方であり続けている。
「人々が望むもの」を考えずに音楽を作っているにもかかわらず、まだ聴いてくれる人がいてくれることには感謝してる。アーティストはファンが期待する音楽を作るべきだと考えている一般の人たちを除けば、自分の聴きたいものなんて人間は分からないと思ってるんだ。なぜなら、1967年に一般の人たちはジミ・ヘンドリックスの音楽を「望んで」はいなかったから。あんな音楽が成り立つなんて思ってもみなかっただろう。聴く前に望むなんてことは不可能だ。『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』が発表される前に、それを「望む」ことができたと思う? それが不可能なのは、それまであんな風な音を作ったアルバムがなかったから。人気を獲得して、それを維持したいと思っているミュージシャンたちは、「世間が望むもの」を作りたいというバカげた考えを捨て切れずにいる。僕はこの仕事で良い暮らしができているから、2008年の時点で「世間が望むもの」を提供するのがミュージシャンの役目だと思っているような人たちの相手をするのは絶対にやめようと決めたんだ。今は、僕のように世間体を気にしないインディー・レーベル2社と良い関係を築けている。
メインストリームの業界用語で、聴く人が少ないアーティストのことを「ノー・オーディエンス」と言う。僕はその表現がずっと嫌いで、なぜなら一般人に比べて、普通の感覚を持っていない聴衆には存在意義がないということになるからだ。僕はもちろんそんな考え方は持っていない。みんなのことが好きだし、そのみんなが過小評価されるのを見たくはない。だから、皆が僕のやっていることに対して、活発でオープンな考え方を持って付いてきてくれるのはとても嬉しいんだよね。それに、ロック・ファンは僕がこれまでやってきたことを聴いてきた人々だけじゃないという事実に感激してるんだ。そこにいてくれるみんなに感謝を」
今回公開された音源はこちらから。
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