本日4月12日に東京国際フォーラム ホールAでブライアン・ウィルソンによる『ペット・サウンズ』50周年アニバーサリー・ジャパン・ツアーがスタートした。『ペット・サウンズ』の再現公演は今回のツアーで最後となることが発表されている。
ライヴは3部構成となっており、まず一部で『ペット・サウンズ』以外のザ・ビーチ・ボーイズのヒット曲やレア曲を披露し、二部で『ペット・サウンズ』の完全再現を行い、最後にアンコールで、再び『ペット・サウンズ』以外のヒット曲を演奏するというものになっている。
ほぼ定刻通りにゆっくりとブライアン・ウィルソンが下手から歩いてきて、「アリガトウ!」という第一声で世紀の名作が甦る公演は始まった。冒頭はコーラスワークだけのイントロで幕を開けた“Our Prayer”、そして、そのままノンストップで“Heroes and Villains”に突入していく。組曲形式のこの楽曲だけで、ブライアン・ウィルソンという人がいかに偉大なソングライターだったかという当然の事実にあらためて気づかされる。
次は、こちらも大名曲の“California Girls”で、イントロだけで客席からは驚きともとれる歓声が上がる。サウンドは全11〜12人体制のバンドによって完璧に再現されている。ポール・マーテンズを音楽監督にワンダー・ミンツなどのメンバーが参加したバンドは、もう15年以上にわたってブライアン・ウィルソンのライヴ・サウンドを支えてきているメンバーたちだ。“Dance Dance Dance”を経て、5曲目には“I Get Around”が登場してしまう。ポップ・ミュージックの世界にとどまらず、時代を彩ってきた名曲の数々が惜しげもなく披露されていく。
続く“Shut Down”と“Little Deuce Coupe”ではこの日初めてアル・ジャーディンがリード・ヴォーカルを披露してみせる。ブライアン・ウィルソンもそうだけれど、もちろん二人とも歳は重ねたわけだけれど、声の力強さはそのルックスからは驚かされるほどのものだ。そのピュアな甘さがまったく失われることのない名曲“Surfer Girl”を経て、“Don’t Worry Baby”ではアル・ジャーディンの息子のマット・ジャーディンが登場して、リード・ヴォーカルを担当して、若く伸びやかな声を披露してみせる。
再びアル・ジャーディンがリード・ヴォーカルをとった“Wake the World”や『サンフラワー』収録の“Add Some Music to Your Day”といった比較的レアな楽曲も披露されていく。“Darlin’”ではブライアン・ウィルソンの紹介を受けてキーボーディストのダリアン・サハナジャがリード・ヴォーカルを務める。そして、ブライアン・ウィルソンのソロ最新作『ノー・ピア・プレッシャー』より“One Kind of Love”が披露される。最新作から披露されたのはこの1曲のみ。ソロ・アルバムからというので数えても2曲しか演奏されていない。観客の聴きたいザ・ビーチ・ボーイズを見せるということに徹している。
そして、アル・ジャーディンとならんで、もう一人のザ・ビーチ・ボーイズのメンバーであるブロンディ・チャップリンがここで登場である。彼のリード・ヴォーカルで“Wild Honey”や、73年発表作『オランダ』からの“Funky Pretty”、“Sail On, Sailor”といって第一部が終了する。20分の休憩を経て、いよいよ『ペット・サウンズ』である。
照明がゆっくりと暗転して、あのイントロのテープが流れ出す。テイク3、テイク4とテイクを重ね、テイク5で“Wouldn’t It Be Nice”の目の前での再現がスタートする。ブライアン・ウィルソンの声は当然、年齢を感じさせるところもあるけれど、高音のパートはマット・ジャーディンが牽引する形で、あのハーモニーを形にしていく。それは続く“You Still Believe in Me”、“That’s Not Me”〜“Don’t Talk (Put Your Head on My Shoulder)”でも変わらない。あまり動くことの多くないブライアン・ウィルソンだが、“I’m Waiting for the Day”のコーラスに入るところでは指を鳴らすようにリズムをとっている。この曲の最後ではどことなく笑顔のような表情も見せている。次はインストゥルメンタルなんだと紹介した“Let’s Go Away for Awhile”を経て、アナログ盤で言えばA面の最後である“Sloop John B”に。アル・ジャーディンがリード・ヴォーカルを務め、祝祭的な音の広がりを見せてアルバムの前半が終わる。
そして、「ポール・マッカートニーも気に入ってくれてる曲なんだ。すごいだろ?」というMCから“God Only Knows”がスタートする。このアルバムを作った当時のことを考えたら、50年後に73歳のブライアン・ウィルソンがこの曲を歌っていること自体が奇跡以外の何物でもないだろう。“I Know There’s an Answer”では右手でアンサンブルを指揮してみせる。“Here Today”でのブライアンのヴォーカルは力づよいもので、その勢いは“I Just Wasn’t Made for These Times”でも変わらない。“Pet Sounds”もインストゥルメンタルの楽曲だが、複雑なアンサンブルをバンドは見事に再現していく。そして、『ペット・サウンズ』の最後の曲となる“Caroline, No”である。ブライアン・ウィルソンは2コーラスを歌って、観客に手を振ってステージを去っていく。演奏を終えたバンドもステージを去っていく。あとに残されたのはサウンドスケープだけだ。
アンコールはまず音楽監督のポール・マーテンズが一人で登場して順番にバンド・メンバーを紹介していく。ブロンディ・チャップリンの紹介では冗談でザ・ローリング・ストーンズの“Honky Tonk Women”が演奏される。そして、当然のことながら、アル・ジャーディンとブライアン・ウィルソンは満場の拍手をもって迎えられる。アンコールの1曲目は、これを聴かずには帰れない“Good Vibrations”。ブライアン・ウィルソンも手をなびかせるジェスチャーをしたりと絶好調の様子。そして、“All Summer Long”から“Help Me, Rhonda”にはノンストップでなだれ込み、会場は完全にお祭り騒ぎだ。さらに“Barbara Ann”、“Surfin’ U.S.A.”、“Fun, Fun, Fun”というベスト中のベスト・ヒットが畳み掛けられる。しかし、最後を締めくくるのはファースト・ソロ・アルバム『ブライアン・ウィルソン』に収録の“Love and Mercy”というのが素晴らしい。ブライアン・ウィルソンの伝記映画のタイトルとなった、この曲を最後に持ってくるというのが、このツアーの重みを表している。バンド全員で二度観客にお辞儀した後、ブライアン・ウィルソンは誰よりも早くステージを去っていった。
『ペット・サウンズ』50周年アニバーサリー・ジャパン・ツアーは今後、4月13日に東京国際フォーラムで、4月15日にオリックス劇場で行われる。
本日のセットリストは以下の通り。
Set 1: Greatest Hits & Rare Cuts
Our Prayer
Heroes and Villains
California Girls
Dance, Dance, Dance
I Get Around
Shut Down
Little Deuce Coupe
In My Room
Surfer Girl
Don’t Worry Baby
Wake the World
Add Some Music to Your Day
Then He Kissed Me
Darlin’
One Kind of Love
Wild Honey
Funky Pretty
Sail On, Sailor
Set 2: Pet Sounds
Wouldn’t It Be Nice
You Still Believe in Me
That’s Not Me
Don’t Talk (Put Your Head on My Shoulder)
I’m Waiting for the Day
Let’s Go Away for Awhile
Sloop John B
God Only Knows
I Know There’s an Answer
Here Today
I Just Wasn’t Made for These Times
Pet Sounds
Caroline, No
Encore:
Good Vibrations
All Summer Long
Help Me, Rhonda
Barbara Ann
Surfin’ U.S.A.
Fun, Fun, Fun
Love and Mercy
来日公演の詳細は以下の通り。
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