Photo: Andreas Neumann

ロックに限ってもライヴを収録した名作というのは数多あるけれど、まあ、破格の作品と言っていいだろう。パリの地下に広がる全長320kmの採石場に作られた、数百万体の人骨が収められた地下納骨堂、レ・カタコンブ・ドゥ・パリ。そこで昨年7月に収録されたパフォーマンスが『アライヴ・イン・ザ・カタコンブ』として映像作品と音源でリリースされている。「そんなところでロックをしようなんてバカげているだろう」とジョシュ・ホーミ自身も語っているけれど、これはクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジにとって18年来の夢だったということで、これまでどのアーティストに対してもこの場所でパフォーマンスをする許可が下りたことはなかったものの、一度限りの例外として実現することになった。

パフォーマンスはアコースティックで収録され、バンド・メンバーに加えて、3人編成のストリングス・セクションも参加しており、鎖や箸など即席のパーカッションも使われている。特異なシチュエーションにおける企画性の高いライヴとも言えるけれど、この作品が素晴らしいのはクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジというバンドの核心、本質に迫るものとなっていることだ。「俺たちは削ぎ落とされることになった。それは場所が削ぎ落とされているからだ。それゆえ音楽も削ぎ落とされ、言葉も削ぎ落とされる」とジョシュ・ホーミは語るけれど、曲が生まれることになった重い感情が剥き出しの形で記録されている。実際に訪れた現場はどんなものだったのか、キーボーディストのディーン・フェルティータに語ってもらった。

映像作品はこちらから。

https://qotsa.vhx.tv/products

――ジョシュ・ホーミは18年間、カタコンブでライヴを実現するのに取り組んできたと語っていますが、このプロジェクトの話が最初に出てきた時のことは覚えていますか?

「実は俺とマイク(※マイケル・シューマン)がバンドに加入した時がちょうど18年前なんだ。だからそれくらいの時期のことだったと思う。もしかしたら俺たちが入る前からジョシュはこのプロジェクトのことを考えていたのかもしれない。正直言って、『これをやろうぜ!』と話した具体的な日は覚えてないけれど、ここ数年で現実味が帯びてきたというか、『本当にできるかもしれない』という空気になってきたのは確かだった。だから、この数年はそれを実現するために努力してきたという感じだね」

――キャリアや年齢とともにその思いが色褪せることはなかったのでしょうか?

「全然色褪せてないよ。俺たちの要望が困難すぎるということも自覚していたし、めちゃくちゃクールでユニークな場所でライヴをやるという、アーティストにとって究極の夢みたいなものだと思っていたから。コンサート・フィルムで言えば、ピンク・フロイドの『ライヴ・アット・ポンペイ』みたいなものだよ。映像と音楽が一体になっているから、音楽をより良いものへと高めてくれる。今回のプロジェクトで俺たちの共通認識としてあったのは、このカタコンブ自体が映画の主役だということ。俺たちはその空間の一部として存在しているにすぎない。『音楽と視覚のダイナミズムを融合させたい』という思いはあったけれど、その表現もちょっと違うというか……。俺たちは、今までも普通じゃない場所でライヴしたいと思って、いろいろな場所を探してきた。例えば、何年も前にやったドイツの塩鉱でのライヴとか。でも、今回は別格だった。俺たちにとっての最高峰だったよ」

――実際にライヴのためにあの場所に足を運んでみて感じたことをそれぞれ教えていただけますか?

「かなり非現実的な一日だった。正直に言うと、俺は一日中ジョシュの体調のことが心配で、それしか考えられない状態だった。あの時、彼がどれだけ深刻な状態だったか、みんながどれくらい知っているのかは分からないけど、俺たちはツアー中だったんだ。そして、この映像を撮る2週間くらい前には公演でイタリアにいたんだけど、ジョシュの体調がおかしいから、真夜中に救急病院にジョシュを連れて行った。そこで彼は『今すぐ手術が必要だ』と言われたんだ。でも、ジョシュはそれを無視して病院を出て行った。やると決めたら、絶対に諦めないタイプなんだよ(笑)。それほど、このプロジェクトに情熱を持っていて、しかも大勢の人が関わって実現させようとしていたから、絶対に帰国しようとしなかった。だから、俺があの場所にいた時の気持ちはとにかく『ジョシュを失望させたくない』ということだった。カタコンブでライヴをやったという実感が湧いたのは、2〜3週間前に、完成した映像をスクリーンで観たときだったよ。現場にいたときの俺は正直あまり感じる余裕がなかった。その場で少し歩き回って『ここがそうなんだな』と思う瞬間はあったけど、本当の意味で感情が湧き上がってきたのは、映像を観てからだったと思う。しかも、ジョシュの容態が安定していて、友達としても安心できたからこそ、ようやく心からその体験を味わえた気がした」

――無数に並ぶ骸骨からは生と死の感触を感じたところはあったのでしょうか?

「ああ、感じたよ。あと、“永遠”という概念も。時間が止まっているような感覚だった。あそこにいると、強制的に思い知らされるんだよーー最終的に、すべてはここに行き着くということを。もし何かを感じたとすれば、自分も“永遠”という概念に繋がっているということだね。それから、永遠に残る大切な何かをするということ。つまり、自分が死んだあとも残るであろう何か。俺たちにとっては、それが音楽やアートなんだ。だって結局、俺も最終的にはそこに行き着くんだから。だからあそこで思い出したのは“創ること”や“与えること”の大切さだった」

――負の影響が頭をよぎることはありませんでしたか?

「それは全然なかった。むしろ不思議と落ち着く空間だったんだよ。さっきも言ったけど、あの日は、そもそも状況が特別すぎて、いろんな意味で奇妙な一日だったから。でも、俺には全体を通して“美しさ”があったように思えるんだよ。それに加えて、俺たちがお互いのために、特にジョシュのためにやっていたという事実があった。そのことが全体のエネルギーをポジティブなものにしてくれた。俺の中では、完全に“支え合い”という感覚だったね」

――空間として音響的にはどうだったんでしょうか? 演奏をした時の印象はどういうものでしたか?

「ちょっと難しいところはあったね。事前に3回くらいしかリハーサルしていなくて、それも全部ホテルの部屋だったんだよ。弦楽器の演奏者たちと一緒に、半円みたいな形で座って、全員の顔がちゃんと見えるような状態でアレンジを確認していたんだ。でも、実際にカタコンブに入ってみると、結局、それぞれの曲の演奏場所がバラバラに設定されていて、撮影方法やマイクの位置などの関係もあって、リハーサルでやっていたようなやりとりはできなかった。それがけっこう難しくて、ちょっとしたチャレンジだった。それに加えて、あそこは結構寒かったんだ。凍えるほどじゃないけど、ひんやりしていて湿気もあって、ずっと水がポタポタ落ちてくるんだ。そういう環境音も、自然と演奏のサウンドの一部になっていった。だから、ある意味、事前に何ヶ月も準備しなくて良かったと思っている。だって、どれだけ準備しても、あの状況に完璧に備えるなんて無理だったから。俺たちはとにかく、お互いを信じて、音に集中するしかなかった。いつも以上に耳を研ぎ澄ませていたと思う。常に視覚的な合図があるわけじゃなかったからね。

――あの暗さと限られた照明の中で、みなさんが、お互いをじっと見ていたのが印象的でした。

「あれは、今までに経験したことのないような体験だったし、たぶん今後の人生でも、もう二度とないだろうね」

――オーバーダブや編集なしの完全な一発録りですが、カタコンブでしか鳴らせない音を実現できたという手応えはありますか?

「ああ、そこが今回の一番美しいところだと思う。たしか12時間くらい地下にいたんだけど、曲を何テイクか演奏する時間はあった。でも、ジョシュの体調や他のことも考えて、なるべく最小限にしようと決めていたんだ。正直なところ、完成した映像を観て、信じられないくらい良かったと思った。ジョシュの歌は本当に素晴らしかった。歌詞に込められた感情とかニュアンスがすごく伝わってきた。俺たちは普段、大音量で演奏しているから、そういう部分はあまり体感できないんだよ。だから、今回はすごく特別だった。俺自身、クイーンズの曲を初めて聴いているような感覚すらあったよ。その日、自分の中にどんな想いがあったのかを今思い出そうとしているけど……たぶん一番強く覚えているのは、俺たちがバンドとして長い間やってきたことを、まったく新しい形で体験できたこと。そして、それがすごく自然に感じられたこと。まったく無理な感じがなかったんだよ」

――特典としてドキュメンタリー『Alive in Paris and Before』も公開されていますが、カタコンブでライヴを行った後、ジョシュ・ホーミの健康問題で残りのツアー日程を延期することにもなったわけですが、当時のバンドを巡る状況を振り返ってもらえますか?

「そのときは、本当にどうなるかわからない状態だった。ジョシュの状態が深刻だというのは分かっていたけど、実際に入院して手術して、どれくらいで回復するのかというのは誰にも分からなかった。俺たちはみんな基本的にポジティヴな性格だから、あんまり最悪のことは考えないようにしていたけど、正直、『これが最後のライヴになるかもしれない』とか、『もうツアーできないかもしれない』とか、そういう考えが頭をよぎったのは確かだった。ツアーを途中でキャンセルしなければいけなかったのは、関係者やファンたちと同じくらい、俺たちも残念に感じていたよ。でも、俺たちが一番心配していたのは、何よりもその時のジョシュの体調だった。とにかく早く帰国させて、元気になってほしかったんだ」

――カタコンブでライヴを行う準備も大変だったわけですが、通常のライヴでは想像もつかなかったこと、メンバーやスタッフが苦労したことがあれば教えて下さい。

「まず、あのライヴはほぼ完全にアコースティックだったんだ。唯一電源を使ったのは、キーボードを車のバッテリーにつないだくらい。ジェネレーターでどうにか電気を供給していたんだけど、それもなかなか大変だった。本当は完全なアコースティックでやりたかったんだけど、そこはどうしても必要な部分だった。一番大変だったのは、やっぱり準備していたことと、現地での実際のセッティングがまったく違ったということだと思う。しかも、曲によって演奏場所が変わったし、メンバー同士が近くにいられるわけでもなかったから、それも大きな課題だった。あと、どの曲を演奏するかを決めるのもけっこう議論になったよ。あの場所に合いそうな曲はたくさんあったけど、俺たちはバンドのキャリア全体を通してストーリーを語れるようなセットリストにしたかったし、『この曲がこの空間で?』と意外に思われるような選曲も入れたかった。だから、セットリストを考える作業もすごく面白かった」

――カタコンブでライヴを行ったことというのはクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジというバンドのどんな部分と深く結びついていると思いますか?

「クイーンズのどんな部分か…正直、なんて答えればいいか迷うんだけど、おそらく多くの人が『クイーンズ=ラウドでヘヴィなバンド』だと思っていると思う。でも、今回のライヴは『感情的に重い』状態を、クイーンズのヘヴィな感じはありつつも、今までのクイーンズとはまったく違う形で演奏する機会だったと思う。歌詞の重みとか、曲に込められたメッセージは、演奏の仕方が違ってもちゃんと伝わる。楽器のアレンジだっていろんな形でできるし、シンプルに削ぎ落としても、その曲の本質やアイデアにはちゃんと触れられる。つまり、曲が生まれた理由や想いなどの根本的な部分は、どんな環境でも響くんだということを今回あらためて感じたよ」

――作品内のジョシュ・ホーミの「地獄を行くなら突き進め」という言葉が印象的だったんですが、その精神性はバンドの誰もが共有しているものなのでしょうか?

「このバンドにいるには、そういうマインドを持っていないとやっていけないんじゃないかな(笑)。俺たちは基本的にブルドーザー系というか、立ちはだかるものがあったら、力づくでも突き進んでいくタイプなんだよ。それは今回すごく意味があったというか、例えば、曲が生まれる理由とは、何か重たい感情を乗り越えるためだったりすることもある。だから、自分の意思でなんとかそれを乗り越えないといけない。今回のライヴでは、ジョシュが、そういう重たい感情が詰まった曲を、実際にボロボロの身体で歌うという稀な状況だった。彼の顔を見れば分かる。目を見れば本気だとすぐに伝わってくる。あのときの彼に関しては、何ひとつ偽りがなかった。あれはまさに“リアル”だった」

――先日、2025年としては最初のライヴを行いましたが、すっかりバンドの調子は戻ってきましたか?

「ああ、そんな感じだね。俺自身ちょっとびっくりしたくらいだよ。もうほぼ1年ぶりだったんだけど、リハーサルで集まった時には、ほんの2〜3週間会っていなかったくらいの感じで、すぐに感覚が戻ってきた。ボストン公演の前は少し緊張していたけど、それもすぐに消えたし、その後の2週間は本当に素晴らしかった。中止になった公演を振り替える機会をもらえたことや、夏に新しい日程を追加できたのもすごく嬉しい。結局のところ、俺たち全員にとってこのバンドがどれだけ大切かという証明になったと思う。お互いの友情を大事にしているし、一緒にアルバムを作って、こうしてバンド活動を続けられていること自体がすごく恵まれていると思っている。俺も多くの現場を見てきたけど、こうやってメンバー同士が本当に仲が良いのは、そうそうあることじゃない。例えば、今度の休みには、俺とジョシュで旅行に行く予定なんだ。仕事以外の時間も一緒にいたいと思うんだよ(笑)」

――クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジは世界最高峰のロックンロール・バンドの一つだと考えているのですが、生成AIの台頭についてはどのように見ていますか?

「それは、まさにホットな話題だよね。俺はさっきも言ったけど、基本的にはけっこう楽観的なタイプなんだ。だから、AIにもポジティヴな側面はあると思っている。でも、アートとか音楽、つまりクリエイティヴな分野の話になると、本物の感情をAIが代わりに出すなんてことはできないと思う。結局のところ、他のものと同じで、どう使うか次第なんだ。例えば、何かの診断がすぐに正確にできるなら、それはすごく便利だし、助けになる。まあ、俺たちの誰も当分そんな場面に出くわさないことを願っているけど。でもアートの領域には踏み込んでほしくないというのが俺の考えだね」

リリース詳細


label: Matador Records
artist: Queens Of The Stone Age
title: Alive in the Catacombs
release date: 2025.06.13
https://queensofthestoneage.lnk.to/aitcalbum
Tracklist
01. Running Joke/Paper Machete
02. Kalopsia
03. Villians of Circumstance
04. Suture Up Your Future
05. I Never Came

https://qotsa.vhx.tv/products

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