ザ・フーは1971年に発表された通算5作目となるアルバム『フーズ・ネクスト』のスーパー・デラックス・エディションが9月15日にリリースされるが、同作について論じたピート・タウンゼントのテキストの日本語訳が公開されている。
“Baba O’Riley”、“Behind Blue Eyes”、“Won’t Get Fooled Again”といったザ・フーの代表曲を収録している『フーズ・ネクスト』だが、スーパー・デラックス・エディションではピート・タウンゼントがインターネットやVRの誕生を予知していたと言えるプロジェクト『ライフ・ハウス』関連の音源も含めて、CD10枚組に全トラック、リマスター音源で収録される。
今回公開されたピート・タウンゼントのテキストは以下の通り。
「1971年。『ライフ・ハウス』は二つの狙いを持ったプロジェクトだった。一つは映画の脚本を作るということ。そしてもう一つは実験的ライヴ・ミュージカルをロンドンのヤング・ヴィック・シアターで実演し、その映像を撮影して実際の映画に組み込むという計画だった。
ザ・フーの非常に力強く盛り上がるライヴと、ヒット・アルバムにもなった『トミー』の成功の後、私は大胆不敵な音楽を作るプロジェクトに取り組もうとした。それはライヴにしてもアルバムにしてもすべてを音楽で一新するものになるはずだった。さらには映画を作りたいとも思っていた。私は『ライフ・ハウス』を、気候変動と環境汚染によって衰退した国家の到来を語る、不吉な問題提起として構想した。SF小説的な舞台設定において、ご都合主義で専制的な政府が国全体でロックダウンを強行し、そこではすべての人が娯楽を提供するネットワークに接続され、慰めと食物と平穏と精神の救いを与えられている。すべての住民は自宅にいながら安全に、仮想現実を体験できるスーツを利用して、このネットワークを享受している。さまざまな人生経験を得られるプログラムが、提携の娯楽企業から提供され、配管や送電線を通じて全世帯に供給される。
音楽は、スーツを身につけた住民を統治する上で、非常に邪魔なものであることが判明する。少しずつ音楽がプログラムから取り除かれていく。政府の言いなりになることを拒む反逆者や無法者たちは、無理矢理改造したバスやワゴン車を乗り回しながら、ロックンロールを聴いている。やがてその反逆者たちが「ライフ・ハウス」と呼ばれる場所の噂を耳にするようになる。それはロンドンのどこかにあり、ライヴ音楽が演奏され、奇怪な実験が行われているという。
ストーリーに関しても、ヤング・ヴィックでライヴ音楽の実験をするという有望な計画に関しても、どちらも作曲者である私には、ある意味でその場に合わせた作品を創造するコンピューターの役割が求められた。相手にするのは選ばれた観客で、彼らにはヤング・ヴィックでのワークショップに何度か参加してもらう予定だった。私が作りたいと願っていた音楽がどのようなものか、その例を二つ挙げるなら、「ババ・オライリィ」や「無法の世界 (Won’t Get Fooled Again)」のバック・トラックに使われている電子音がそうだ。物語の中で、新しい指導者(その人物像の一部は私自身が元になり、また別の部分は、当時一緒に仕事をしていて技術的な助言をくれた人たちが元になっている)が各地でコンサートを主催し、その場にふさわしい音楽が制作され、最終的にはその音楽が政府のネットワークに送り込まれて、抑圧された住民たちが自由を取り戻せるようになる。
ちなみに、政府のネットワーク・プロジェクトでは、参加する人々の多くが次第に精神的な進歩を遂げていく。それは、人々が身動きの取れない状態に置かれたまま、常に無数の人生経験を高速で注ぎ込まれながらそれを楽しんでいることが一因となっている。ライフ・ハウスの実験が対象となる相手のもとに届き、音楽がネットワークを通じてあらゆる個人のエクスペリエンス・スーツへ秘密裏に送り込まれたとき、計り知れない精神性を持った人々が一堂に会する衝撃によって、世界規模の騒乱が巻き起こる。当のライフ・ハウス、すなわちヤング・ヴィックにおいては、参加者たちが一人残らず、より高度な世界を目指して旅立っていく。
先ほど私は自分の計画を「大胆不敵」と形容した。事実、この構想はフィクションとしても実験としても不完全であり、うまく実現はしなかった。だが、このプロジェクトからは素晴らしい音楽がいくつか生まれた。そしてそこにあったアイディアはいつまでも私の心を捉えて離さない。その理由の一つは、物語で描こうとした内容の多くが、現実のものになりつつあるように思えるからだ。」
スティーヴン・ウィルソンによるドルビーアトモス・ミックスや5.1ミックスを収録したブルーレイ・オーディオを初め、ピート・タウンゼント他による解説書(100ページ・ハードカバー・ブック)、『ライフ・ハウス』グラフィック・ノベル(172ページ・ハードカバー・ブック)、当時のポスターなどのメモラビリアもボックスセットには同梱される。日本盤(輸入国内盤仕様)には英文解説とグラフィック・ノベルの日本語訳も封入される。
『ライフ・ハウス』関連の音源は、ピート・タウンゼントによるデモ・ヴァージョン、1971年NYレコード・プラントでのセッション、1970~1972年オリンピック・スタジオでのセッション、シングル・ヴァージョンや他のセッション、そして1971年のライヴ音源(ロンドンのヤング・ヴィック・シアター、サンフランシスコのシヴィック・オーディトリアム)の完全版が初めて収録される。
スーパー・デラックス・エディションの他には、2CD、1CD、アナログ盤(限定4-LP、限定3-LP、限定カラー1-LP、1-LP)、デジタル配信の各形態でもリリースされる。
リリースの詳細は以下の通り。
ザ・フー『フーズ・ネクスト/ライフ・ハウス』
The Who / Who’s Next / Life Hous
2023年9月15日発売
スーパー・デラックス・エディション
10CD+ブルーレイ・オーディオ+ハードカバーブック2冊+メモラビリア
UICY-80340
49,500円(税込)
輸入国内盤仕様/完全生産限定盤
日本盤のみ:英文ライナー(ピート・タウンゼント他)&グラフィック・ノベル翻訳、歌詞・対訳付/SHM-CD仕様
<収録内容>
CD
DISC 1:フーズ・ネクスト(オリジナル・アルバム・リマスター)
DISC 2&3:ピート・タウンゼント・ライフ・ハウス・デモ 1970 – 1971
DISC 4:レコード・プラント、ニューヨーク・セッションズ 1971.3
DISC 5:オリンピック・サウンド・スタジオ、ロンドン・セッションズ 1970-1972
DISC 6:シングルズ&セッションズ 1970-1972
DISC 7&8:ライヴ・アット・ザ・ヤング・ヴィック、ロンドン 1971
DISC 9&10:ライヴ・アット・ザ・シヴィック・オーディトリアム、サンフランシスコ 1971
ブルーレイ・オーディオ
DISC 11:オリジナル・アルバム&ボーナス・トラック(スティーヴン・ウィルソン・ミックス各種)
ハードカバー・ブック
[1]:100ページ解説書(ピート・タウンゼント他)
[2]:172ページ『ライフ・ハウス』グラフィック・ノベル(漫画小説)
メモラビリア
1971年ポスター3枚(サンダーランドUK / デンバー・コロシアム / レインボー・シアター各公演)
1971年16ページUKツアー・プログラム
1971年20ページレインボー・シアター公演プログラム
1971年ザ・フーの印刷サイン入り写真
缶バッジ4個
2CD
UICY-16182/3
3,960円(税込)
日本盤のみ:英文ライナー(ピート・タウンゼント他)翻訳、歌詞・対訳付/SHM-CD仕様
<収録内容>
DISC 1:フーズ・ネクスト(オリジナル・アルバム・リマスター)
DISC 2:セッション、デモ、シングル、ライヴ音源(12トラック収録:未発表音源8、新リミックス4)
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