ジャスティン・ビーバーは、ホテルのスイート・ルームでスケートボードのトリックを試すこともあるかもしれないし、ガンジーと自分を較べることもあるかもしれない。しかし、彼はこれまでの悪ガキのイメージから脱皮しようとしている。トム・ハワードが、そんなイメージ回復中のポップ・スターと約2時間のインタヴューを行った。
ジャスティン・ビーバーが2012年9月から2014年12月までに起こした、笑える事件を並べてみよう。彼はアリゾナのステージ上で吐き、ドイツの税関ではペットの猿を没収され、ロンドンにあるレストランのミスター・チャウでのディナーにはガスマスクをかぶって登場し、アムステルダムにあるアンネ・フランクの博物館を訪れた際には「彼女もきっとビリーバー(ジャスティン・ビーバーのファン)になってたはずだと思うんだけどな」とゲストブックに書き残し、ブラジルの売春宿からこっそり抜け出す様子が見つかり、イビサ島ではオーランド・ブルームと揉め事を起こし、出身地であるカナダのオンタリオ州では危険運転と暴行容疑で逮捕され、ツイッターで「公式に引退」すると投稿したこともある。
現在21歳のジャスティン・ビーバーはしばらくの間、その奇行の数々で世間を大きく賑わしていた。しかし、今日、ロンドンにある五つ星ホテルのスイート・ルームに入ってきた彼は、握手をしながら笑顔で「やあ」と自己紹介をし、なぜ彼が世間の人々から誤解されているのかを『NME』に語ってくれた。
このインタヴューは、ジャスティン・ビーバー4枚目のスタジオ・アルバム、『パーパス』からの2枚目のシングルとなる“Sorry”のリリース1週間前に行われた。彼は最近インスタグラムで「“Sorry”が気に入ってもらえなかったら、自分の顔を繰り返しパンチすると思うよ」と投稿しており、どうやら自信があるようだ。「そうだね、分からないけど、僕はあの曲が本当に好きなんだ」とスクリレックスとブラッド・ダイアモンズがプロデュースした“Sorry”について、ジャスティン・ビーバーは語っている。「シンプルなメロディーなんだけど、今流行ってる音楽にはこういう感じが欠けてるよね」
これまでのレコード・セールスは約5000万枚、YouTubeではビデオ(“Baby”の総再生回数は12億回以上)の再生回数が歴代2位、2013年のツアーでは7700万ドル(約95億円)を稼いでおきながら、音楽の話になると不思議なことに自信がないようだ。2012年にリリースした前作『ビリーヴ』以来、ジャスティン・ビーバーは心ここにあらずといった状態だ。
カリフォルニア州で卵を隣人宅に投げつけ続けたことで、2014年7月に約8万ドル(約980万円)の賠償金を課されたことに加え、40時間の社会奉仕活動を命じられていたジャスティン・ビーバーだったが、数日前に社会奉仕活動をすべて終えたという。「たぶん、カリフォルニアで隣人宅に卵をぶつけて、重罪になったのは僕が初めてじゃないかな」と笑顔で語る彼は自身の行動がどれだけバカげているかを楽しんでいるようでもあった。「今も卵の件で保護観察中なんだ」
社会奉仕活動では、ロサンゼルス中南部の「スラム街」と呼ばれるような地域でコミュニティー・センターの「壁の塗装や清掃活動など」を行なった。その様子を話す彼には落ち着きがなく、テーブルの上に足をのせたり下ろしたり、シャツを脱いだり着たりしていた。姿勢を正したかと思えば、椅子にふんぞり返り、あくびをしたかと思えば、大きな茶色い瞳でまっすぐ見てくる。動揺しているのか、ゆっくりと話し始めた。
「小さい子どもたちのために、プラスチックの遊具を建てたんだ。人目につかないように作業したよ。普通なら通りでやるべきなんだけど、やらせてもらえなくてね。音楽を聴きながら塗装をやって、最高の時間だった。そこには家族が何組かいて、たくさんの人に会わなきゃいけなかった。僕に会うのを楽しみにしてる人たちさ。いい気分だったよ。だって、自分がしたバカなことの償いのためだけに、作業してるんじゃないと思えたからね」
ジャスティン・ビーバーのニュー・アルバムについて、彼のマネージャーであるスクーター・ブラウンはこう語っている。「ティーン向けのアイドルから、真実味があって曲をヒットさせられる本物のアーティストへの転換期だ。マイケル・ジャクソンやアッシャー、ジャスティン・ティンバーレイクの時のようにね。幼い頃に仕事を始めたアーティストが、すばらしいアルバムを作って大きく成長するんだ」
ジャスティン・ビーバーの復活は彼1人だけの力で成し遂げられたわけではない。『パーパス』ではスクリレックスとブラッド・ダイアモンズの他、エド・シーラン(“Love Yourself”を共作)、急成長中のホールジー(“The Feeling”で共演)、さらにはナズ(“We Are”)、トラヴィス・スコット(“No Sense”)、ビッグ・ショーン(“No Pressure”)といったラッパーたちとも共演している。
もっと掘り下げれば、ビースティ・ボーイズの『ライセンスト・トゥ・イル』、スレイヤーの『レイン・イン・ブラッド』、カニエ・ウェストの『イーザス』、エド・シーランの『x(マルティプライ)』などで知られる、伝説的なプロデューサー、リック・ルービンの名前も出てくる。ジャスティン・ビーバーは、そんなリック・ルービンについて語ってくれた。「プロデューサーとは言えないけど、そういう感じ。彼のバンドの音にはイカしたヴァイブがあったんだけど、僕の作りたい音楽とは違ったんだ。だから『大好きだけど、その音は要らないよ』と断ったんだ」
そして、忘れてはいけないのが、「嫌いなアーティスト・ナンバー1」から脱却したカニエ・ウェストの存在だろう。カニエ・ウェストはジャスティン・ビーバーが「100パーセント」信用できる人物だそうだ。「音楽業界で僕が真剣に向き合っているクリエイティブな人の中でも、心惹かれる人物だよ。彼のアドバイスはいつも、『嫌いになるわけがない良い音楽を作ること』に終始していたね。彼を退屈させたり時間を無駄にさせたりしたくなかったから、僕が『数曲聴いてもらってもいい?』なんて訊くと、『全部聴かせてくれ』って言ってくれるんだ。その言葉が忘れられない。彼が気に掛けてくれているのが分かったからね」
当時13歳だったジャスティン・ビーバーは、2007年に現在のマネージャーであるスクーター・ブラウンの手によってスターの座に躍り出た。「この業界で何百万ドルも稼ぐ子どものところには人が集まってくるんだ。何か得ようとしてる人たちがね。そして、僕はあどけない子どもだった。彼らはおいしい思いをするために、嘘をついて相手の信頼を得ようとするのさ」
デビューから6年後、ジャスティン・ビーバーは「誰に対しても、何に対しても、反抗して、普通の19歳」でいようとし始める。しかし、彼によれば、一般的な19歳とは「違う生活」を強いられていたようだ。「それは『ジャスティン・ビーバー・ブランド』のせいさ。僕は健全なポップ・スターで、すばらしい人間で、ステキなヘアスタイルをしてっていう、クソみたいなイメージを世間に持たれてた。現実的にはあり得ないようなイメージをね。それで僕がいろいろやらかしたら、『ワオ、彼をズタズタにしてやれ』ってみんなが思ったんだ。ガンジーがマリファナを巻くのは、ライアン・ゴズリングが同じことをやるのとは違うんだ。ライアン・ゴズリングなら世間は騒がないだろ?」
ジャスティン・ビーバーが内省的になると、彼の声のトーンも変化した。「自分をある一定のイメージに見えるように演じたいと思ったことはないよ。僕だって人間なんだと分かってほしいだけ。毎日を生き抜くだけでも苦労の連続さ。他の人もそうなんじゃないかな。ほら、毎日が大変だぜ、とかね。僕らはいろんなことを乗り越えなきゃいけない。楽しみにしてることもあるし、それは素晴らしいことだけど、苦労の連続なんだ」
どういう風に?
「ツアー中に寂しくなったりもする。みんなは華やかで素敵な面を見るけど、裏側は知らないだろ。こういう人生には心をズタズタにされることだってあるんだ。飛行機の中でエイミー・ワインハウスのドキュメンタリーの『エイミー』を観たけど、涙が流れたよ。メディアが彼女に何をしていたか、どんな風に扱っていたのかが分かったからね。彼女はドラッグに溺れてて、彼らはそれをジョークにしてたのさ。どん底にいる彼女を叩いて、自分を見失うまで彼女が追い込まれるのを人は面白いと思ったかもしれない。でも、それは僕に対しても起こったことなんだ。誰も僕がどう感じてたかなんて知らない。僕は何か深いところにあるものに反抗してたんだ。奴らに勝たせるわけにはいかないって気づくのに時間がかかったよ」
エイミー・ワインハウスのドキュメンタリーを観て怖いと思いましたか?
「怖いとは思わなかったけど、悲しくなった。この業界に入ったのは、単純に歌って音楽を作りたかったからなんだ。僕はまだ幼くて、セレブのブログや、彼らに一体何が起こってたかなんて読まなかった。でも、有名になったらみんなが騒ぎ出してね。まるで『なあ、こんなことに契約したつもりはないよ』って感じさ。映画の中のエイミーも有名になりたくなかったと言ってた。『ちょっと構わないでよ、ただ音楽が作りたいだけなんだから、独りにして』って感じだね」
どうやって折り合いをつけたんですか?
「そうした状況には悪影響を受けてきたよ。彼らがついてくるから、昔はどこにも行けなかった。でも今は『そうだよ、こういうこととは、もしかしたらこの先ずっと向き合っていかなきゃいけないんだ。だったら、僕が強くなるか、影響されてダメになるかだ』って思ってる。こう考えることもできたはずだよ。『僕の人生は最低だ。プライバシーなんてないし、パパラッチを見るたびにイラつくぜ』でも、それって気が滅入るだけだからね」
気が滅入ることがある?
「いつもさ。それに孤独を感じる。ホテルの部屋にいて、外にはファンが大勢いて、パパラッチがいつもついてきて、それが過熱するんだ。どこにも行けなくて、何をするにも1人になる時間がなかったら、気が滅入るもんだよ。『みんなが有名だったら誰も有名になんてなりたがらない』っていうジム・キャリーの有名な発言(ジム・キャリーが実際に言ったのは『みんなが裕福で有名になって、夢がすべて叶えばいい。その時ようやくそれが答えじゃないって気づくだろう』だ)がある。それって真実なんだよ。こんなひどいこと、誰の身にも起こってほしくないよ」
セラピストが患者をトラウマから立ち直らせるために使いそうなテクニックだが、ジャスティン・ビーバーが自分のことを憐れに思い始めた時には、前向きに考えるようにしているという。インタヴューの中で、彼はこの生活は「引き換え」に手にしたのだと納得したと語った。「この道を進むなら、僕の前には暗闇が待ってるんだ」
ジャスティン・ビーバーに対する世間のイメージは2015年の初め頃から変化してきた。それは1月にエレン・デジェネレスが司会を務めるトーク番組「エレンの部屋」で、これまでの素行の悪さを謝罪したことに始まる。3月にはコメディー番組「Comedy Central Roast」で2時間に渡ってジョークのネタにされ続けた。なかでもコメディー映画、『俺たちニュースキャスター』のロン・バーガンディに扮したウィル・フェレルは強烈だった。「みんなはミスター・ビーバーがガキだと思ってる。さて、ここでニュース速報だ。彼は男だ。一人前の男さ。ただ、9歳の子どもたちのために歌い、ゲイのフィギュア・スケーターのようなヘアスタイルをしてるだけさ」
6月までには音楽業界でも目をみはるようなイメージ回復を遂げた。ディプロとスクリレックスによるジャック・ユーのトラック“Where Are U Now”に登場したジャスティン・ビーバーはこれまでで初めて、流行に乗りながらも説得力のある存在になったのだ。そして、今、少しエレクトロ・ポップ調な“What Do You Mean?”で、彼の復活はほぼ完全なものとなった。
ただし、彼にはまだ悪ガキのイメージがつきまとうだろう。『NME』のカメラマンがプレイリストを作ってきていたが、イラつかせるようだったら音楽を消すと言ったところ、こう返ってきた。「クソッ。すでにイラついてるよ!」その後、ジャスティン・ビーバーはiPodまで歩いていき、自分のアルバムの曲を流した。
とは言っても、彼は世界が完全に自分を中心に回っているとは考えていないようだ。ホテルにある様々な家具を使って、スケートボードのトリックを見せてくれないかと尋ねると、自分のボードをつかんでトリックを見せてくれた。プラスチックのオモチャのナイフを頭につけることにも快く対応してくれている。
ホテルの外では控えめなビリーバーの一団が集まっていた。集団にジャスティン・ビーバーについて1つだけ知ることができるなら、何が知りたいかと尋ねると、「彼は大丈夫?」と満場一致の答えが返ってきた。何と言えばいいのか分からない。ジャスティン・ビーバーは魅力的な男性で、悲しそうでもあり、同時に幸せそうで、混乱しているようだった。このインタヴュー後、彼はイギリスのテレビ番組「TFI Friday」やBBCラジオ1に出演しているが、問題を起こしていない。しかし、一方で、スペインのラジオでのインタヴューを短く切り上げたり、ノルウェーの首都オスロの公演を1曲で終了したりもしている。彼が大丈夫かどうかは分からない。おそらく考えすぎないほうがいいのだろう。もしかすると、彼はうまいこと切り抜けたのかもしれない。このインタヴューの初めにこう言っていたように。「僕は生きてる。それが大事なんだよ」
ジャスティン・ビーバー
『パーパス~デラックス・エディション』
UICD-6216
定価:2,376円
1. Mark My Words
2. I’ll Show You
3. What Do You Mean?
4. Sorry
5. Love Yourself (this is the one with Ed!)
6. Company
7. No Pressure featuring Big Sean
8. No Sense featuring Travi$ Scott
9. The Feeling featuring Halsey
10. Life Is Worth Living
11. Where Are Ü Now featuring Jack Ü
12. Children
13. Purpose
14. Been You
15. Get Used To Me
16. We Are featuring Nas
17. Trust
18. All In It
19. Hit The Ground*
20. The Most*
21. Home To Mama*
* 日本盤ボーナストラック
http://www.universal-music.co.jp/justin-bieber/
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