Gavin Batty

Photo: Gavin Batty

11月に待望の来日公演が行われることを記念してNME Japanでは最新作『デルタ』リリース時の『NME』による独占ロング・インタヴューを掲載します。本国イギリスをはじめ欧米ではすっかりアリーナ・バンドとなった彼らを貴重なサイズの会場で観られる機会を前に、ぜひ彼らの歩みを感じ取ってもらえたらと思います。

マムフォード&サンズが帰ってきた。しかし、それは我々の知っている彼らの姿ではない。自らに名声を与えたフォーク・サウンドを離れ、アリーナ・ロックへと足を進めた彼らがリリースした新作『デルタ』には、R&Bに傾倒したエレクトロニックな楽曲までもが収録されている。『NME』のジョーダン・バセットは彼らにインタヴューを敢行し、4人のメンバーがそれぞれの視点から人生を塾考する上で、個々人の体験や政治、グレンフェル・タワーの悲劇などがいかに影響を与えたかについての話を聞いた。

マーカス・マムフォードがパブにある木の梁で懸垂をしている。息を切らした彼が天井に向かって自分の身体を持ち上げるたび、羽織っているコートがヒラヒラと宙を舞う。こちらも準備運動を始めたほうがいいのだろうか。マムフォード&サンズにインタヴューする際には、モハメド・アリがジョージ・フォアマン相手に奇跡的な逆転勝利を収めた1974年の試合における彼のようなスタンスで臨むのがベストだ。つまり、ひたすらに挑み続けて、相手がガードを下ろすのを待ち続けるということだ。

ワールド・クラスの巨大なバンドというのは大抵、使い古された取り留めのない発言をすることに慣れている(例えば、『自伝的』と形容されることの多いマムフォード&サンズの音楽だが、彼らはその不透明な歌詞の奥に隠された現実世界の出来事について話すのを躊躇いがちだ)。音楽と直接関係のない質問を用意していくのであれば、インタヴュアーは長い沈黙が訪れることを覚悟して向かわなければいけない。

しかし、スタミナを維持することさえできれば、後述する政治についての発言(マーカス・マムフォードはドナルド・トランプについて「下衆野郎」と話す)や宗教(「神様のことは大好きだよ」とマーカス・マムフォードは言う)についての発言、そして、右寄りな発言が物議を醸しているジョーダン・ピーターソンと共に撮った写真が彼のインスタグラムに掲載されたことに端を発する、バンドに批判が寄せられることとなった一件についての発言を引き出すことができるかもしれない。

ご存知の通り、マムフォード&サンズが何の意見を持っていないということではない。意見を引き出すまでのハードルが高いのだ。マーカス・マムフォードは次のように説明している。「バンドを始めた頃に面白いと思ったことがあってね。いざミュージシャンとしてのキャリアに乗り出した時に、写真を撮られるようになることだったり、自分の発言や自分の服装がこんなにも注目を集めることになるなんてまったく思っていなかったんだよ」

マムフォード&サンズはまさに今、大きな注目を集める時期を過ごしている。彼らは幅広いサウンドを取り入れた通算4作目となる最新作『デルタ』のプロモーション活動を行っているのだ。マムフォード&サンズは2015年にリリースした前作『ワイルダー・マインド』で自らに名声を与えたバンジョーを捨て、エレキ・ギターを主体にした広大なアリーナ・ロックへと足を進めている。彼らは今回、敏腕プロデューサーであるポール・エプワースのノース・ロンドンのスタジオに飛び込み、すべてを受け入れるという姿勢でアイディアを出し合いながら、何事も排除しないことをモットーにアルバム制作を行った。「今回について言うとさ」とマーカス・マムフォードは語り始めた。「『すべてを素晴らしいと認めよう』という話をしたんだ。それぞれのアイディアに耳を傾けて、予めサウンドを設定しないようにしたんだよ。そのほうがより探求できるからね」

マムフォード&サンズは2007年に結成して以来、しばらくの間は同じ手法で物事に取り組んできた。ノア・アンド・ザ・ホエールやローラ・マーリング、ジョニー・フリンらと共にロンドンのインディー・フォーク・シーンを盛り上げていたマムフォード&サンズは当時、アコースティックな方法で楽曲を書き、それに肉付けをするという手法を取ってきた。そんな彼らも、最近ではよりビートを主体にしたアプローチを取るようになっている。「ほとんどは実際に演奏したものなんだ」とマーカス・マムフォードは語っている。「それをスクリレックスのようにサンプリングしたという感じでね。もしくは、ビートを裁断したという感じかな。(かつてカニエ・ウェストのグッド・ミュージックと契約していた)88・キーズがカニエ・ウェストとやった時みたいにね」

結果として、幅広いサウンドを取り入れた大胆なアルバムが誕生することとなり、熟練の技が光る管弦楽のアレンジによる楽曲(“If I Say”)から、差し迫る悲運を暗示するスポークン・ワードが収録された楽曲(“Darkness Visible”)、そして(ここで息を整えて)優美なインディー・R&Bの楽曲(“Woman”)に至るまで、そのサウンドは多岐に渡っている。マーカス・マムフォードはR&Bからの影響について次のように説明している。「ジェイ・ポールをよく聴いていたんだ。僕が初めて買ったアルバムはローリン・ヒルの『ミスエデュケーション』でね。実際に(R&Bを)試したことはないにせよ、そこから受けた影響を取り入れてみたんだ。きっと聴き取ってもらえるんじゃないかな」

2009年にリリースしたフォークの傑作『サイ・ノー・モア』がデビュー・アルバムながらフィジカルで300万枚以上の売り上げを記録するなど、マムフォード&サンズはアルバムを流通させる名手だ。果たしてそんな彼らが上記のようなアプローチで作るアルバムは、どのような作品になるのだろうか。思わず好奇心がくすぐられずにはいられないその完成品は、自らのロジックに基づいてゆっくりと自己を露呈していくような、別のアルバムの曲と聴き間違ってしまうような楽曲も収録された14曲のコレクションとなっている。

私はロンドンのアート・ギャラリー「テート・モダン」の近郊にあるバーでバンドの4人のメンバーのうちの2人であるマーカス・マムフォードとウィンストン・マーシャルと会った。マムフォード&サンズはここで最新作のリード・シングル“Guiding Light”のフィール・グッドなミュージック・ビデオを撮影し、その場に居合わせた興奮したファンたちを映像に収めている。マムフォード&サンズはこの日の朝にテレビ番組「グラハム・ノートン・ショウ」の収録に臨んでおり、マーカス・マムフォードはきっと、エンタメ界の大御所であるグラハム・ノートンと対峙する前に事前の楽屋で懸垂をしていたに違いない。

ところで、私たちも準備運動をすべきなのかもしれない。マムフォード&サンズは今後3年は続くであろうワールド・ツアーに乗り出そうとしている。2013年にグラストンベリー・フェスティバルでヘッドライナーを務めている彼らには、来年のグラストンベリー・フェスティバルでヘッドライナーを務める噂も上がっていた。しかしながら、マーカス・マムフォードに当該の噂について訊いてみると、自分たちには「本当に分からない」と強く言われてしまった(結果として2019年のグラストンベリー・フェスティバルへの出演は実現していないほか、フロアを横切るようなテージ・セットを計画していたという彼らは、あまりに大掛かりなセットだったために当初想定していた日程では開催することが不可能だとして、UKでの公演を含むワールド・ツアーの日程を延期している。ツアー日程の延期はファンをガッカリさせることになったかもしれないが、マムフォード&サンズは自己啓発をやめない世界最大のバンドの1組であることを証明することとなった)。

『NME』はマーカス・マムフォードとウィンストン・マーシャルとのインタヴューの一部を動画に収めており、そこでは2009年にデビュー・シングル“Little Lion Man”をリリースした時のことを振り返る、二人のほがらかな姿を観ることができる。マーカス・マムフォードは当時、エディンバラにあった自宅の寝室で(「時には裸の状態でね」と彼は付け加えている)楽曲を書き、週末はインディー・フォーク・バンドと共に演奏していたのだという。

「当時の僕らは、ロンドンに『シーン』があったという考え方から距離を置くようにしていたんだ」とマーカス・マムフォードはローラ・マーリングやフランク・ターナーらが頻繁に出入りしていたロンドンで当時話題だったライヴハウス、ナンブッカに言及しながら語っている。「『シーン』という言葉は今も好きじゃなくてね。排他的な感じがするよ。当時について言えるのは、信じられないくらい解放的だったということだね。曲さえ持っていれば、ステージに上がって演奏するように促されていたんだ。それで、その曲がよかったらもう1曲やらせてもらえるんだよ」

“Little Lion Man”のミュージック・ビデオを観ると、マムフォード&サンズは完全に形作られたバンドのように見える。メンバーは揃いも揃って皺だらけのリネン・シャツを着て、その上からヴィンテージもののチョッキを羽織っている。「写真やビデオを撮る時にはそうなってしまうんだ」とウィンストン・マーシャルは語っている。「いつも『きちんと着飾らなきゃ』って思ってしまうんだよ。それで、後悔することになるんだけどさ。日常生活で着ているような服を着た試しがないんだ。『ツイードのスリー・ピース・スーツじゃなく、普段着ているものを着ればいいんだよ』って誰かに教えてほしかったよ。まあけど、自分で『頑張らないと』って思ってしまったんだけどさ」

2009年には世界で最もビッグなバンドの一組となったマムフォード&サンズ。彼らはなるべくしてその地位に上り詰めたように見えるかもしれないが、マーカス・マムフォードの考えは違うようだ。「“Little Lion Man”は僕らのファースト・シングルだったけど、ラジオでかかることになるなんて思ってもみなかったよ。“fuck”っていう単語を16回くらい使っているわけでさ」

その後の10年の間に、マムフォード&サンズは2度グラミー賞の栄冠に輝き(2013年には『バベル』で最優秀アルバム賞を受賞している)、タフなツアー日程も奏功してアメリカを制することにも成功しているほか、ウィンストン・マーシャルとマーカス・マムフォードはそれぞれ有名女優(前者はドラマ「グリー」で知られるディアナ・アグロンと、後者はキャリー・マリガン)と結婚し、ナンブッカを飛び出してショウビズの世界へと足を踏み入れている。また、マーカス・マムフォードとキャリー・マリガンは2人の子宝にも恵まれている。一方で、物流の事情のためにこの日は欠席となったキーボーディストのベン・ラヴェットとベーシストのテッド・ドウェインの2人は、その間に紆余曲折を経験している。ベン・ラヴェットは2015年から2016年にかけて結婚と離婚を経験し、この期間の間にはロンドンに「オミーラ」と名付けられた見事なライヴハウスを設立している。その一方で、テッド・ドウェインは2013年に脳にできた血栓を取り除くための緊急手術を受けている。現在31歳のマーカス・マムフォードによれば、『デルタ』に影響を与えているのは、そんな大人になって乗り越えてきた様々な人生経験だという。

「川の向こう岸へ渡るようなものだね。青年期というシェルターから飛び出して、人生における様々な経験が待ち受ける野生の世界へと飛び込んでいくんだ」とマーカス・マムフォードは語り、2人の子供の誕生と祖母の喪失を経験している彼は次のように続けている。「『ワイルダー・マインド』をリリースしてからというもの、僕は分娩室に2回入り、臨終にも一度立ち会った。そのどちらも、僕にとっては野生的な経験になったよ」マムフォード&サンズは『ワイルダー・マインド』をリリースした後でツアーの日数を半減させており、マーカス・マムフォードは当時について次のように説明している。「家で友人や家族の人生を体験したことで、より多くの経験を得ることができたんだ」

マムフォード&サンズは可能な限り率直に話をしてくれているようで、動画インタヴューに収められている穏やかな雰囲気は、彼らの取っ付きやすいキャラクターをよく表している。しかしながら、バンジョーやチョッキ、インディー・R&Bへの意外な傾倒の他にも、彼らに訊きたいことはたくさんある。例えば、マーカス・マムフォードを除くメンバーと共に写真を撮影したジョーダン・ピーターソンについてだ。ジョーダン・ピーターソンは以前『ニューヨーク・タイムズ』紙とのインタヴューで、家父長制は男性の能力が女性よりも「優れている」ことに基づいていると発言した人物である。このことについて訊けば、2人が口を閉ざしてしまってもおかしくはない。ここでカメラを下ろしたほうが賢明だろう。

『NME』のビデオグラファーがカメラを下ろし、現場には緊張感が張り詰めることとなった。さらに時間を拘束され、幅広い話題に質問がおよぶこととなったマーカス・マムフォードとウィンストン・マーシャルだが、2人は寛大にも自らの仕事の話題という安全地帯を離れ、個人的な話題や政治的な話題といった荒波へと足を進めてくれた。そうは言っても、彼らがこの手の質問に必ずしも乗り気でないことは2人の様子からも明らかだった。

例えば、マムフォード&サンズが2012年にバラク・オバマ前大統領のためにホワイト・ハウスでパフォーマンスしたことを指摘し、ドナルド・トランプ大統領のためにも同じことをするかと質問した時、2人は笑顔こそ浮かべていたものの、それはぎこちのない笑顔だった。

マーカス・マムフォードがしばらく経った後で口を開き、その可能性を一蹴した一方で、ウィンストン・マーシャルは回答することを拒んでいる。ウィンストン・マーシャルはドナルド・トランプについての話を聞くのはもう飽きた(「トランプにはウンザリしているんだ」と彼は語っている)とした上で、長い沈黙の後で次のように語っている。「音楽が政治的なものになってきていることに、少し苛立ちを感じているんだ。アーティストが政治的になる分には構わないんだけど、政治というのはすごく複雑なものだと思うからね。『ワイルダー・マインド』のプロモーションを行っていた3年前の時とは状況が異なるわけでさ。当時は政治のことなんて訊かれなかった。誰も政治なんて気にかけていなかったんだ。それが、今では全員が意見を持っているわけでさ。何もかもが、『これも政治で、あれも政治で』っていう状況になっているわけでね。すごく大きな変化だと思うよ」

そのような状況下で、ウィンストン・マーシャルはジョーダン・ピーターソンが公開した写真に批判が寄せられたことに驚かなかったのだろうか?

「この件に関しては、僕らの全員が異なる捉え方をしていると思う」とウィンストン・マーシャルは語っている。「この質問に対する答えで、クリック稼ぎのための記事が作られてしまうかもしれないけどさ。(写真に関して)書かれたことは何一つとして信じていないんだ。たとえ誰かが彼のことを右翼だって言ったって、僕はそれを事実だとは思わない。彼の政治観には興味がないんだ。心理学だったり、その他の仕事に興味があるんだよ」

ジョーダン・ピーターソンの心理学についてさらに訊かれると、ウィンストン・マーシャルは次のように応じている。「公平を期すために言うわけじゃないんだけどさ。彼の神話についての考え方だったり、(YouTubeで配信されている)聖書についての講義は素晴らしいと思うんだ。果たして彼が正しいのか、間違っているのかは分からないけど、僕よりも遥かに博識な人だからね。僕は彼の本だけでなく、他の本もたくさん読んでいるけど、みんなももっと幅広く読書したほうがいいと思う。何か本を読んだら、その対極の意見を持っている人を探して、その人の意見も読んでみるんだ。そうすることで、自分なりの考えが形成されていくんだよ」

宗教と言えば、批評家たちはマムフォード&サンズがアルバムをリリースするたびに、その歌詞に数多含まれている聖書への言及を解析しようと努めている。マーカス・マムフォードはそこまで信仰の探求に野心的ではないと指摘するインタヴュアーも中にはいるが、彼の両親が1991年にUKとアイルランドで福音派のヴィンヤード教会を設立していることを挙げれば、より興味を持ってもらえるだろうか。加えて、マーカス・マムフォードは現在の妻であるキャリー・マリガンと幼少期の頃に教会のキャンプで出会っている。いずれにせよ彼は今、ものすごい数の宗教関連の質問をされているに違いない。『デルタ』は宗教的なイメージで溢れているのである。

“Guiding Light”には「Even when there is no star in sight / You’ll always be my only guiding light(たとえ星が一つも見えなくても/君はこれからも僕を導いてくれる光)」という歌詞が登場するほか、ゴスペルに影響を受けた“42”では次のように歌われている。「If this is our last hope / We would see a sign(これが僕らの最後の希望なら/きっとその兆候が見られるはず)」それから、聖書に登場する「シャロンのバラ」から名付けられた“Rose of Sharon”という優美なインディR&Bの楽曲も収録されている。

マーカス・マムフォードは宗教について話すのは問題ないと前置きした上で、次のように教えてくれた。「“Guiding Light”は宗教となんら関係がないんだ。もしも誰かがそういうものを感じたのであれば、それでもいいと思っているけどね」マーカス・マムフォードは語っている。「宗教というよりもむしろ、精神的な要素がベースになっているんだ。(前作よりも)宗教的な要素は減っているにせよ。周りの人たちが結びつけたくなる気持ちも分かるし、それはそれで構わないよ」

マーカス・マムフォードは自身について敬虔なキリスト教徒ではないとしながらも「精神面での繋がりは感じている」として次のように続けている。「神様のことは大好きだよ。いい人そうだよね。僕の友人で、神様のことは大好きだけど、重荷になるからって自分のことをクリスチャンとは呼ばないっていう人がいてね。僕らの世代はレッテルを貼られることを好まないんだ。そういう識別の仕方は、僕らの親世代の特徴なんだと思う。僕らとは相入れないものかもしれないよね」

私たちは大抵、10代の頃に権威に歯向かって行くような反抗期の時期を経験しているものだが、マーカス・マムフォードは過去に両親の宗教観を拒絶したことがあるのだろうか? 「拒絶したことは一度もないよ」とマーカス・マムフォードは答えている。「両親のやり方はとてもリスペクトしているんだ。素晴らしい両親だよ。2人のことはずっと愛しているし、2人のやり方を尊敬しているよ」ところで、牧師になりたいと思ったことはあったのだろうか? 「いや、なかったと思うな。実際のところ、自分がしたいことを考えたこともなかった。バンドにいることになるなんてね、思いもしなかったよ」

マーカス・マムフォードは心を打つようなアコースティックの楽曲“Beloved”で次のように歌っている。「She says, ‘The Lord has a plan / But admits it’s pretty hard to understand(彼女は言う。『神様にはプランがある/でも、それは理解が難しいものだということを認めなければいけないわ』)」マーカス・マムフォードにこの歌詞について質問すると、「実を言うと、祖母は本当にそう言ったんだ」と彼は答え、前述の亡くなった祖母の言葉であったことを明かしている。

「人が亡くなるのを看取ったんだ」とマーカス・マムフォードは語っている。「多くの人たちが経験することだけど、僕はその時が初めてだった。人生を変えるような経験だと思う。幼少期の頃は、誰かが自分のことを守ってくれるものだと思うわけでさ。両親であれ、医者であれ、そういう人たちがね。けど、人生におけるそうした混沌とした瞬間というのは、誰にも制御できないものなんだよ。人生の始まりと終わりに訪れるそうした瞬間には、野生的な要素があるんだ。僕はそれに魅了されたんだよ。最終的に(アルバムに)書いたのは多くがそういうことについてだね」

マーカス・マムフォードは次のように続けている。「今までで一番、死について考えた一年だったね」

マーカス・マムフォードはグレンフェル・タワーの近郊にあるアパートで暮らしている。グレンフェル・タワーは2018年6月に72人が犠牲になった悲劇的な火災に見舞われているが、マーカス・マムフォードは当時、自宅の窓から燃え盛るグレンフェル・タワーを見つめていたという。「地域の人たちと一緒に降りて行ったんだ」とマーカス・マムフォードは語っている。「政府が失敗した結果だよ。交戦地帯のようだったね。灰が口の中に入ってくるんだ。あの出来事で本当に人生が変わった。グレンフェル・タワーの一件は、声を上げられないことで無力になってしまったという一例だね。こういったことが、20歳の時にパブに行くような経験よりも必然的に重要になっていくわけでさ」

彼が暮らしているアパートの構造はグレンフェル・タワーのそれとは大きく異なっているのではないかと指摘すると、マーカス・マムフォードは次のように応じている。「コミュニティの団結をさらに深めるには、こういうことが必要なんじゃないかって思ってしまうよ。とはいえ、人々が望んでいるのは何かしらの方法で社会が浄化されることじゃない。平等に耳を傾けてもらいたいだけなんだよ。それが実現できていないんだ。あの地域に住んでいる人たちは、あの場所の多様性を気に入っていると思うよ。あそこの地域には本当に多様な人たちが住んでいて、僕らはそのことについて時間をかけて考えてきたし、話し合ってもきた。グレンフェルの一件は文化に変化をもたらし、コミュニティを祝福するような遺産をもたらしてくれたんだ」

『デルタ』は闇と光の両側面を持ち合わせている。マムフォード&サンズは以前、同作について「死や憂鬱、離婚」についてのアルバムだと語っていたが、マーカス・マムフォードはこの日、口調を弱めて次のように説明している。「いくつかのヘヴィーな楽曲が入っていることは確かだけど、四人の大人たちの人生を3年かけて要約しようとすると、メロドラマっぽくなってしまうものなんだよ。同じ『D』でも、家の防湿加工(damp-proofing)のことを書くのとは違うからね」

『NME』のオフィスへと戻り、“Beloved”をもう一度聴いてみた。マーカス・マムフォードの話を聞いた後に聴くと、いささか感動的な楽曲である。とりわけ「How have I not made a note of every word you’ve ever said? …Before you leave, you must know you are beloved… Remember I was with you(どうしてあなたが言ったすべての言葉を書き留めておかなかったのだろう?……行ってしまう前に、愛されていたということを知っておいてほしい……僕が側にいたことを覚えておいて)」と歌われる歌詞なんて特にそうだ。自分がここまで感化されてしまっていることにも驚いたのだが、電話口から聞いた声にはもっと驚くことになった。「もしもし? ジョーダンかい? 僕だよ……マーカス・マムフォードさ」

マーカス・マムフォードにはどうしても話したいことがあったらしい。「君の質問のいくつかに答えられなかったと思ってね」とマーカス・マムフォードは語っている。「それについて考えていて、その答えを伝えたいと思ったんだ。まず最初に、ホワイト・ハウスでドナルド・トランプのために演奏することについて。これは面白い質問だと思ったね。今はやるつもりがないよ。個人的に下衆野郎だと思っている奴への賛同を示す、政治的な声明になってしまいそうだからね」

マーカス・マムフォードは次のように続けている。「ドナルド・トランプ政権の今、ホワイト・ハウスで演奏するというのは、オバマの時にホワイト・ハウスで演奏した時よりも政治への賛同という意味合いが強くなっていると思うんだ。異なる意味を持ってしまっているんだよ。オバマの時にホワイト・ハウスで演奏するのも政治への賛同だって言われるかもしれないけど、間違いなくそうじゃなかったと僕は思っている」

マーカス・マムフォードはカニエ・ウェストの長年のファンであることで知られているが、最近の彼については次のように語っている。「彼は最近、自分のした発言を後悔していると言っていたよね」とマーカス・マムフォードは語り、彼がドナルド・トランプと面会したことには「ガッカリした」としている。一方で、マムフォード&サンズは「今は毒された政治的な分断の一部にならないようにしている」のだといい、マーカス・マムフォードは次のように続けている。「ミュージシャンであるからには、人々を招き入れ、結びつけられるような求心力を持っていなければいけないという考え方が好きでね。僕らはバンドの内部でさえも異なる考え方をしているわけで、どうすれば合意の上で意見を一致させずにいられるかを考えているんだ」

マーカス・マムフォードはその流れでジョーダン・ピーターソンの一件についても語っている。「ピーターソンについても同じことが言えるよ。というのも、誰かと写真を撮ることがその人の政治的な信条を支持することにはならないと思うんだ。それに、バンドとして彼の政治的信条を支持するつもりがなかったのも確かなわけでさ。個人的には、彼の発言の中にも気に入らないものはたくさんあるし、その言い方も気に食わないと思っているよ。けど、これはもっと話題にすべき問題になりつつあるわけでね。人々には彼の話に耳を傾ける権利があるし、その権利は守られるべきだと強く思っている。僕らは文化として、耳を傾けるべきことに十分に向き合えていないんじゃないかと思うんだ」

カリフォルニアで生まれたマーカス・マムフォードはイギリスとアメリカの両方の市民権を有しており、過去の大統領選挙ではバラク・オバマに投票している。マーカス・マムフォードはEUへの残留を支持し(「公の場でEU離脱について議論するのは分別のある行為だとは思えなかった。議論の質の低さにはガッカリしたよ」と彼は語っている)、過去のイギリスでの選挙戦では「ありとあらゆる、3通りの方向に」投票したことがあるという。「けど、僕のところの行政は最悪なんだ。保守党には絶対に投票したくないと思っているよ」とマーカス・マムフォードは続けている。「グレンフェル・タワーの一件があって以来、自分のところの保守的な議会が好きじゃないんだ」

私が知る中でも、今日のマーカス・マムフォードは政治についてこれまでで最も率直的に話してくれているかもしれない。特に驚いたのは、ただ一緒に音楽を演奏することだけを願っている仲間たちと公の場で政治的な話をすることを余儀なくされることについて、彼がこう話してくれたことだ。「(政治のことを話すように)誘導しているという感じかな。頑張って理解しようとしているんだよ」

マーカス・マムフォードは学校や大学で出会ったメンバーで10年以上前に結成されたバンドである。10年前の友達との現在の共通点など、いくつあるだろうか? 私たちの多くは当時とは違った人間になり、異なる意見を持つようになって、古い友人たちとの共通の基盤は当時とは異なる場所に形成されることになる。マムフォード&サンズにも同じことが当てはまるはずだ。彼らはそれぞれに交友関係や家族があり、ウィンストン・マーシャルはニューヨークで暮らし、マーカス・マムフォードはイギリスのデヴォンと行き来するなど、住んでいる場所も異なっている。そんな4人が2007年に自分たちが始めたことを称えるために集まっているのだ。

『デルタ』は私たちの多くが共感できる、成熟や大人になることについてのアルバムであり、付随する責任や、友人と別々の道を歩むことを認めるための作品である。マーカス・マムフォードは世界で最もビッグなバンドの一組だが、入れ物こそ違えど、心の中は私たちと同じなのだ。彼らがこれまでにしてきた経験だって、あなたや私がしてきた経験と大きくは違わないだろう。

マーカス・マムフォードがインタヴュー中に懸垂を始めたのにも納得がいく。彼は次のように語っている。「バンドに入ったばかりの頃の僕は、責任感なんてどうだっていいって思っていたんだ。自由に好き勝手やっていたし、間違いだってたくさん犯した。責任が増えていくに連れて、生き甲斐も増えていったし、失うものも多くなっていったんだ」他のあらゆる大人たちと同じように、マーカス・マムフォードもまた、ここ最近で重い腰を上げなければならないようなイベントを経験してきたのだ。子供の誕生や人の死、鬱病、離婚……それから、家の防湿加工についても。

来日公演

11月12日(火)なんばHatch
OPEN 18:30 / START 19:30
スタンディング:¥6,800(別途1ドリンク代)

11月13日(水)豊洲PIT
OPEN 18:30 / START 19:30
スタンディング:¥6,800(別途1ドリンク代)

更なる公演の詳細は以下のサイトでご確認ください。

https://www.livenation.co.jp/artist/mumford-and-sons-tickets

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