JORDAN HUGHES/NME

Photo: JORDAN HUGHES/NME

テイラー・スウィフトの楽屋はマドンナの香りがする。それは、マドンナ専用の部屋の香りにコメントをしたテイラー・スウィフトが、ポップ・クイーンの先輩であるマドンナ本人からプレゼントされた香り付きキャンドルのおかげだ。この件に関してテイラー・スウィフトは以下のように話す。「でも、マドンナの部屋にはユーカリのミストの香りもほのかに漂ってるわ。私はアロマスチーマーを持ってなくて。すごく複雑な感じなの」

インタヴュー中、エイリアンを思わせる紫の花のディスプレイがメアリー・J・ブライジから届いた。今朝は、テイラー・スウィフトが飼っている2匹の猫がプリントされたM&M’Sチョコレートのギフトボックスも送られてきた。このことについてテイラー・スウィフトは、部屋の中を勢いよく横切りながら次のように言う。「ビックリしちゃった。友だちみんなに写真を送ったわ」。そして、ソファにドスンと座ってこう言った。「まあ……私の楽屋の雰囲気はそんな感じね!」

我々は、記録的な売り上げを記録したテイラー・スウィフトのアルバム『1989』を引っ提げた同名のワールドツアーのバックステージにいる。この日は、史上初めて全5日間が完売となったLAのステイプルズ・センターでのショウの4日目だ。そしてなによりテイラー・スウィフトはこのツアーを存分に楽しんでいた。「昨日、このことを考えていて急に思ったの。このツアーが終わってほしくないって。絶対に」と彼女は語る。「こんなふうに感じたのは初めてよ」

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『1989』ツアーの楽しみの1つに、サプライズ・ゲストの存在がある。昨晩はアラニス・モリセットが登場し、自身の失恋を題材にした彼女の1995年のヒット曲“You Oughta Know”を歌った。そしてコメディアンのエレン・デジェネレスは、テイラー・スウィフトいわく「ディスコボール・バレリーナ」の格好でキャットウォークを闊歩した。ゲストたちはもはや緊張することなく、堂々と新鮮なパフォーマンスを披露する。テイラー・スウィフトは体育座りをしながらこう話す。「私が緊張するのはテレビ番組か、観客のなかに私のことを嫌っている人がいるって分かっている時だけね。もし前列の席に、私が転んでステージから落ちればいいなんて思っている人が大勢いたら参っちゃうわ。そんなことは私のショウではあり得ないけど、アウォードの授賞式のステージか何かだったら、それもあるかも……」

テイラー・スウィフトはアウォードの授賞式のステージについて、「なんて言うか……とっぴな出来事がたくさんあったわね」と語る。他のアーティストに気まずい思いをしながらたくさんのトロフィーを持ち帰ったり、2009年のMTVビデオ・ミュージック・アウォーズでの最優秀女性ビデオ賞の受賞がビヨンセへの侮辱だとして、ステージ上でカニエ・ウェストに妨害されたりした話だ。「こういう経験をする人はそういないわ」。そして、壁の向こう側を指しながらこう言う。「もう1人、隣の部屋の人も同じような経験をしたんだけど。ベックがここにいるって知ってた?」

今夜のゲストパフォーマーであるシンガー・ソングライターのベックは、今年のグラミー賞でカニエ・ウェストから怒りの矛先を向けられた。これは被害者クラブかなにかだろうか? 「私とカニエ(・ウェスト)は今ではいい関係よ、あれから6年経って」とテイラー・スウィフトは語っている。「少し時間がかかったわね……でも、この前、私はベックにこんな話を伝えたの。グラミーの1週間後、カニエ(・ウェスト)とディナーをしていたら、彼がなにかを言いかけたまま止めてしまって訊いてきたの、『これなんていう歌? この歌、毎日でも聴きたくなる』って。それで、私は『これベックよ、『モーニング・フェイズ』っていうアルバムに入ってる曲だけど、聴いたことあるんじゃないかな……』って答えたの。そこで私たち大笑いしたわ。その後でカニエ(・ウェスト)はこう言ったの、『なんだよ、俺だってたまには間違うさ』ってね」

また、テイラー・スウィフトは今年のMTVビデオ・ミュージック・アウォーズに関して、ラッパーのニッキー・ミナージュとツイッターで舌戦を繰り広げている。ニッキー・ミナージュの“Anaconda”のミュージックビデオがノミネートされなかった件で、ニッキー・ミナージュはこのようなツイートを投稿した。「あなたのミュージック・ビデオがスリムな女性を称賛するためのものだったら、今年の最優秀ビデオ賞にノミネートされるでしょうね」。テイラー・スウィフトは、これをスーパーモデル級の女性たちが多数登場する自身のミュージック・ビデオ“Bad Blood”のへの批判だと受け取ってツイートを返し、この2日間の言い合いは特ダネ好きのメディアに餌を与えるような結果となってしまった。この騒ぎはケイティ・ペリー(ニッキー・ミナージュの味方)からエド・シーラン(テイラー・スウィフトの味方)まで様々な人間を巻き込んだものとなり、最終的にテイラー・スウィフトがニッキー・ミナージュに謝罪する形で収束している。

何とも気まずい事件ではないだろうか? テイラー・スウィフトは深くため息をつき、このように話す。「特定の人や状況を指しているわけではなくて、MTVビデオ・ミュージック・アウォーズは私を緊張させるの。理由は分からないけど」。では、あの騒ぎについては何を感じたのだろうか? 「そのことについては話したくないな」とテイラー・スウィフトは語りだした。「でも、今ではメールを送ることにしてるの。なにか意見の食い違いがあるなと思ったら、その人の事務所から電話番号を教えてもらって、メールを送るのよ。これは2015年に誰もが学ぶべき大事な教訓だからね」

テイラー・スウィフトは、その名声を奇妙な形で経験している。彼女のアルバム『1989』はミュージック・カルチャーにおける傑作であり、『スリラー』に対する新世代からの回答だ。『スリラー』のメガヒットはマイケル・ジャクソンを特異な世界に招き入れたものの、彼はほぼ間違いなく、テイラー・スウィフトより生きやすかったと思われる。と言うのも、テイラー・スウィフトはその一挙手一投足、そしてインスタグラムの投稿がリアルタイムで話題になるからだ。「毎日毎日、違うネタがニュース記事になるの。不安にくじけそうなとき、みんなが自分の失敗を待ち構えている気分になるわ。そうなったら負けね。しょっちゅうママに長電話して、自分の良いところや、大切なことだけを考えるように、自分を仕向ける必要がある。世間が自分に対して持っているイメージを崩すようなことをするのは、ものすごくリスクの高いことよ」

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さて、一般の人たちはテイラー・スウィフトをどう思っているのだろうか? 鮮やかでポップな2014年のヒットシングル“Shake It Off”の中で彼女はこう言っている。「人々は、私は遅くまで遊びまわってデートをし過ぎって言うわ」しかし、テイラー・スウィフトはその反対だ。ファンからの注視で、他のポップスターはさらに行動をエスカレートさせている――例えばマリファナを吸ったり、露出を多くしたりといったような――そのどれも、今や何の意味もなさない。テイラー・スウィフトは違う。彼女にはモデル、作家、歌手、女優など、人が羨むようなハイエンドの友人がたくさんいる。そして、いつも完璧な着こなしをしている。テイラー・スウィフトは、1時間の会話の中で一切悪態をついたりしない。彼女が売るのは完璧さで、それを維持するのは難しいのだ。マイリー・サイラスやリアーナと違い、テイラー・スウィフトはロール・モデルだ。

「完璧にしようなんて思っていないわ」と彼女は言い張る。「『オズの魔法使い』の「北の良い魔女」のようになろうなんて思わないもの。だけど、自分のできる範囲で良いことをしたいだけよ。それに私の頭が世間を驚かせるようなショッキングなことを考え付かないのよ」

最近、テイラー・スウィフトは、ビジネスの世界まで口を出し、個人としてスポティファイとアップルに対して攻撃している。彼女は、アップル・ミュージックが、トライアル期間の間、アーティストにロイヤリティを支払わないことに対して声高に異を唱えた。驚いたことに、アップルの上級副社長エディー・キューはテイラー・スウィフトに対して、すぐに謝罪をした。これはまさにデヴィッドとゴライアスの戦いだが、最初にどちらがデヴィッドでどちらがゴライアスかを決めておく必要がある。テイラー・スウィフトは典型的に背の高いケシの花で、植木ばさみはすでにそこにある。ゴシップ・サイトが彼女の友達軍団の序列を詮索し、コメディアンのララ・マリー・シェーンハルスがステージで陽気なテイラー・スウィフトを演じ、セーラム魔女裁判や「51人のビル・コスビーのすばらしい犠牲者」を紹介するパロディ・ビデオが流行っている。

彼女の行動に対して、バッシングが大きくなったとしてもテイラー・スウィフトはそれらを―“Shake It Off”のタイトルのように振り払う――「これについてはもうどうしようもないわ。だって、私は自分のやりたいように生きていてこれが私だもの」と彼女は語っている。「私が他のアーティストと一緒にステージに上がって、お金を払って見に来てくれているファンに、彼らがその夜期待した以上のものを披露することが気に入らないのであれば、仕方ないわよ」

テイラー・スウィフトは25歳にして、こうした人々の強烈な視線を上手に扱う術を得ているが、初期の成功の波から遥か遠くまで来てしまった。ペンシルヴァニアからナッシュビルまで家族と引越し、RCAレコードと14歳で契約を結び、盛況とは言えない10代のカントリー・ミュージック・ファン市場の中に飛び込んだ。「10年の間、ツアーを回って、アルバムを書いて、自分の心の告白を歌詞にしても、度々誤解を受け、一部だけをとってその部分だけを調べて大げさに書かれる。でも、私はブレないわ。これが私の生きる道だから」彼女は自身の音楽のキャリアを貫く上で、犠牲にしたものが今まであるのだろうか? そう聞くと、信じられないといったように見返して言った。「私の人生で変えたいところなんてまったくないわ!」でも、誰にも気づかれないで普通に道を歩いてみたくならないのだろうか?

「いいえ! だって、スタジアムでライヴをしたいもの」彼女は両手を伸ばして両方を計りにかけるような仕草をした。「スタジアムでライヴをするのと、道を誰にも気づかれずに歩くことなら、私はスタジアムを選ぶわ。これは取引よ。両方をいっぺんに叶えられるわけないもの。どっちかを選ばなきゃ。もし、その道が嫌なら変えればいいのよ。ただ、座って『ああ、なんでもすべて叶えられて、悪いことなんて何もなきゃいいのに』なんて、そんな風になるわけないわ」

もし、テイラー・スウィフトにダークな部分があるとしても、ステープルズセンターの周りを『NME』が8時間にわたりエスコートしていた間には表に現れなかった。最初、テイラー・スウィフトはベックとセイント・ヴィンセントとサウンドチェックを行い、セイント・ヴィンセントのギターに「フー!」と声を上げ、「もっと弾いて!」と大喜びだった。その後、ガラスケースに入った衣装がある小さなミュージアムで最初の顔合わせを行い、その際にはハイヒール、スリップドレス、危険な赤いリップといった完璧なステージ衣装に着替えていた。その途中に、テイラー・スウィフトは突然、「ジョン・レジェンドがステージに来るって聞いたの! だから、クリッシー(クリッシー・テイゲン:ジョン・レジェンドの妻)に彼が“All Of Me”を私と一緒に歌ってくれるかどうか電話したの」と彼女は、息を切らしながら話した。「彼はやってくれるって! リハなしよ! プレッシャーもないわ!」と大げさに心配した顔を作って見せた。

ライヴは、素晴らしかった。名曲も演奏された。衣装替えもあった。彼女はキャットウォークで会場内のすべての聴衆に応えた。ファンはお返しに、絶えることのない熱狂を捧げた。

あるファンは「テイラー・スウィフト命」というプラカードを掲げている。ジョン・レジェンドが出てくると、ツイッター上で#AllOfMe とつぶやかれ始めた。衣装部屋に戻ると、テイラー・スウィフトは彼女の名作『1989』での挑戦について口を開いた。このヒットに恐怖を感じる?と聞くと「あああ! どうやったら次もこんな風にヒットできるのかしら? たぶん次のアルバムでは、どこか他の分野を取り入れてみようかしら。または、すべてを変えようかな」。また、彼女がすでに書いている曲からヒントを求めると、「まさか! そんなわけないでしょ! 冗談じゃない!」とコメントした。1989ツアーは、12月まで続く。その後、彼女は「たぶん、少し休むと思うわ。ファンも私には飽き飽きかもしれないし。何をするか、よくわからないけど。そうねえ、友達と会ったり曲を作ったり。いえ、たぶん曲は書かないわ。わかんない」どうやら彼女は本当に、まだそのことについて考えたことがないようだった。

次の夜はさらに著名なゲスト(ジャスティン・ティンバーレイク、親友のセレーナ・ゴメス、友人のリサ・クドロー)が出演し、ロサンゼルスでの公演は幕を閉じた。週末にはVMAに出演し、テイラー・スウィフトはニッキー・ミナージュと共演を果たした。しかし、ニッキー・ミナージュの関心は露出の高い過激なファッションで大見出しを飾ったマイリー・サイラスに向き、またテイラー・スウィフトの新作ミュージック・ビデオは「植民地主義者のファンタジー」だと複数の記事に書かれた。テイラー・スウィフトはこれについては、「沈黙」こそが最高のコメントだとでも言うように、コメントを残していない。彼女の人生は、さながらチェスのゲームのようで、かなり疲弊するだろう。しかし、彼女はしっかりと操作している。ライヴの後、テイラー・スウィフトの父親がいたので、ライヴは楽しかったと聞いてみた。父は「もちろんさ。だけど、誰が一番楽しんでいたと思う? テイラーさ、いつもね」。父親が彼女を一番わかっているのだろう。

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