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この人ほどロックのビジネスとしての側面にこだわり続けるアーティストはなかなかいないだろう。そして、その新たなリリースがこれまた規格外の内容で話題を呼んでいる。キッスのジーン・シモンズは自身のロック生活50年を記念して、手渡しによるボックス・セット『ジーン・シモンズ:ザ・ヴォールト・エクスペリエンス』をリリースする。お値段は通常のボックス・セットが2000ドル(約22万円)。さらに、一緒にスタジオに入ってエグゼクティヴ・プロデューサーになれる「ザ・エグゼクティヴ・プロデューサーズ・エクスペリエンス(25000ドル:約270万円)」と自宅にジーン・シモンズを招くことのできる「ザ・ホーム・エクスペリエンス(50000ドル:約550万円)」なるものも用意されている。ボブ・ディランやヴァン・ヘイレン兄弟とのコラボレーションも聴くことのできる、このボックス・セットについてLOUD PARK 17での来日時にジーン・シモンズに話を聞かせてもらった。

――ではまず、最初にボックスセットについて説明していただけますか?

「ボックスセットの実物は大体3フィート(約90cm)くらいの高さがあって、重さが38ポンド(約17kg)もあるんだ。金属のコインも付いてるんだよ。中に入ってるこのコインには『ジーン・ウィー・トラスト』って書いてある。その裏面には『これでうるさすぎるっていう奴は年を食いすぎだ』ってことがラテン語で書いてあるんだ。あとジーン・シモンズのアクション・フィギュアも付いてる。あとは俺からのプレゼントってことで、ボックスそれぞれに私物のアイテムを一個ずつ入れることになってるんだ。そしてこれが曲の内容とかについて5万語で書かれた本だ。でもって買えるところは一箇所だけで、専用のウェブサイトだけなんだ。こいつは他のインターネットやソーシャル・メディアでは売らないし、店頭にも出さない。値段は2千ドルで、数千セット限定だ。そして4月にはジェット機で日本までまた来るんだよ。ファンに手渡ししたいからね。(X JAPANの)YOSHIKIもまさか新譜を家まで届けてくれるなんてことはないだろ。だから、そのシステムを変えようと思っていてね。ダウンロードとかは好きじゃないんだ。手に取れないから感触も分からないし、見ることもできないわけでね。俺の場合はちゃんとアートとして存在して欲しいと思っているのであってさ。ともかく史上最大のボックスセットだ。すべてのはじまりは、(iPhoneでスケッチを見せて)こういうスケッチで、いろいろ考えながら絵を描いたんだ。元々はそういうスケッチから始まってるっていうね。今回はライノ・エンタテインメントと組んでやっているんだけど、自分の好きなようにやらせてくれるから最高なんだ。みんなが本当に誇りを持っていてね」

――ボックス・セットをファンに手渡しするという方法を思いついたのはどういったところからだったのでしょうか?

「レコード・ショップが失われているっていうのがあるんだよ。レコード会社もそんな状況だしね。まあワーナー・ミュージックはまだ機能してるけどさ。新しいバンドがなかなかチャンスをつかめなくなってるんだ。俺には金があるわけだけど、でも自力で稼げたわけじゃない。ファンのおかげでこうして自分も夢にも思わなかったような生活が送れているわけでね。だからファンに恩返しをしたいと思ったんだ。関係性を変えたいんだよ。今こうやって会話しているみたいに、ボディーガードもいなくて、余計なことが何もない関係性に戻したいって思ったんだ。それがお恩返しになるんじゃないかって思うんだよ。だから飛行機代やホテル代も自分で払うし、セキュリティとか保険も自前でやるんだ。金は損するわけだけど、それでいいんだよ。とにかく一生に一度、誰もまだやったことないようなことをやりたかったわけでね。史上最大のこのボックスセットを直接届けるっていうさ。1月から世界中を回って配っていくわけだけど、もう早いもの勝ちだからね。値引きは絶対しないし、ダウンロードも有りえない。音楽だけってのもなしだよ。この形だけだ。ロールスロイスだってタイヤだけ売ってくれるなんてことはないわけでね。ロールスロイスはまとめてロールスロイスとして買わなきゃいけないのと理屈は同じだよ」

――先ほどホテル代もセキュリティ代も全部自前で払うというお話がありましたが、私はビジネスモデルとして非常に有効なのではないかと思いました。収支はどのような感じなのでしょうか?

「最終的にはトントンかなとは思うんだけど、最初の投資がもう何百万ドルとかかったんだ。今までの保管費用もそうだし、こういうテープとかを取っておくだけでも相当かかるからね。金の勘定はライノ・エンタテインメントに訊いてくれよ。俺じゃなくてね」

――なるほど。先ほどダウンロードはお嫌いだというお話がありましたが、ストリーミング・サービスでもキッスやあなたの作品を聴くことができます。そこからの収入には満足していますか?

「うん、大っ嫌いだよ。1回の再生で1ペニーの1万分の1しか稼げないわけでね。うちの娘も曲があるんだけど、それが1千万回とかストリーミングされてるけど、214ドル(約2万3千円)しか稼げてないんだ。だから、新人にとってはひどい話だよね。俺はもう大丈夫だけどさ。誰が悪いかっていうと結局ファンなんだ。音楽にお金を出したがらないからね。俺は平気だけど、もう新しいバンドは全然やっていけないよ」

――実はまさにそのこともお聞きしたいと思っていたのですが、もし今あなたが20歳でバンドを始めるとしたら、どうやって成功をつかもうと思いますか? ビジネスの達人でもあるあなたに、ぜひアドバイス願いたいのですが。

「もうバンド側でできることは何もないと思う。政府が新しい法律を通すしかないね。法律自体が平等じゃないんだ。スーパーに行ってミルクや卵を買って、タダで済むなんてことはないよね。お金を出さなきゃならない。払わないで出て行ったら警察につかまるわけでね。音楽も同じようにしていかなきゃダメなんだよ。音楽を持ってきてそれをコピーしてお金は払わないっていうなら、もう家ごと没収っていう。だからさ、俺たちはツアーをやればお客さんも集まるし、それでお金を稼げるから問題ないけど、新しいバンドの場合はそうはいかない。次のサザンオールスターズはどこにいるんだよ? 次のザ・イエロー・モンキーは? もうそういった連中が出てくることは叶わなくなってしまってるんだ」

――なるほど。それではボックス・セットの話に戻るんですが、今回はボブ・ディランとの共作や、ヴァン・ヘイレンやジョー・ペリーといったゲストも数多く参加されていますよね。今回の150曲の中で、思い出深いなと思う曲がいくつかあれば教えてください。

「どの曲も全部覚えているんだ。俺はドラッグもやんないし、ハイになったこともない人間だからね。酒もやらないしさ。だから、すべて記憶しているんだよ。酒を飲む奴は夕べのことも覚えていないけどね。でも、俺は夕べのこともちゃんと覚えているわけだよ! そしたらじゃあ、なんか曲名を言ってごらん。その話をしてあげるから」

――ボブ・ディランとの共作はどのようなものだったのか気になるのですが。

「そのことだったら、家に白いバンが到着したんだよ。まっさらでまだ窓のシールも剥がしてないような状態のね。そしたら彼が出てきて、運転手が彼にアコースティック・ギターを渡したんだ。俺も迎えに出て、彼は『(ボブ・ディランの声を真似て)ヘーイ、ジーン、ハーイ!』って感じで入ってきて、会えてよかったよみたいな話をしてね。それが初対面だよ。そして俺もアコースティック・ギターを手にとって、彼もアコースティック・ギターを持って弾き始めたんだよ。『どんなことやってんの?』とか『うちもツアーでさ』みたいな話をしながらね。普通の会話だよ。『お腹すいた? もうご飯食べた?』『いや食べてきたから大丈夫』とかそんな感じだよ。そうやって話しながら何か弾いてたら、『あ、今の何? 何やった?』とか『今のもう一回やってよ。ああ、いいねそれ』って感じでね。そんな風に作って行ったんだ、まる1日かけてね。それで3曲できたんだよ。これがもう25年前の話だけど、そのあと歌詞を書いてくれとかいろんな話をしてね。俺自身、今までそんなに歌詞を書いてこなかったから彼に書いて欲しかったんだけど、でも、彼は『いや、ミスター・キッス、自分で書くべきだよ』って言ってきたんだ。ボブは俺のことをミスター・キッスって呼ぶんだよ(笑)」

――ヴァン・ヘイレンとはどうだったのでしょうか?

「ヴァン・ヘイレンは当時まったく無名で、俺が見つけてきて契約させたっていう。本当にクラブでやってるような状態だったから、それをうちのプロダクション会社で契約したんだよ。まだ全然少年だったよね」

――なるほど。そういった様々な交流もなさってきたわけですが、音楽界に親友と呼べる存在はいますか?

「(間があって)ポール(・スタンレー)かな。でも、今まで会った中で一番感心させられた人は誰かって訊かれたら、この人だな。(ダライ・ラマの写真を出して)出会った中で一番印象的だった(笑)」

――キッスのキャリアといえば、初期はレーベルのカサブランカが倒産の危機にあったわけですが、キッスの巨大な成功がレーベルを救うこととなりました。なぜキッスはこれほどの成功を収めることができたのでしょうか? あなたの思う最大のポイントを教えてください。

「まず何も知らなかったのがよかったのかもしれない。経験もなかったし。でも、確信はあったんだよ。メイクをした時に、まず誰もがジョークだと思ったわけだけど、こっちは本気でやってたんだ。どうしてかわからないけど、自分たちには確信があってね。当時はMTVもなかったし、VH1もなかったし、こんなスマホもない時代で、あるのは16チャンネルのレコーディング・トラックだけだ。まだ24トラックさえなかった時代で、デジタルもなかったし、ケーブルもないし、テレビも5チャンネルしかなかった。ニューヨークですらそうだったんだ。留守番電話もまだない時代だよね。ところが最初のレコードを出した時から1年半で、気づけばスタジアムでプレイしてたわけでね。最初のレコードを出したのが1974年。それから1977年にはここでもうビートルズの記録を破って、5公演の日本武道館をやったんだ。MTVとかいわゆるモダンなメディアがまだ出てくる全然前の時代に、こういうバンドが世界的な一大現象になったというわけなんだ。ほぼ一晩にしてね。みんながキッスのメイクをして街に繰り出したりみたいなことが、まだそういうメディアがない時代に起きてたっていうのはすごく不思議なことだと思うよ。初めて日本に来た時は、ボーイング747の『キッス』と書かれた自分たちの専用飛行機でやってきたんだけどね。カメラマンとかをみんなアメリカから連れてきて、日本がどんなことになってるかってのを見てやろうと思ってね。それで飛行機の中でメイクをして、タラップを降りたんだけど、そしたら警官がダメだって言うんだよ。パスポートの写真と違うぞって言われてさ。だから、飛行機に戻ってメイクを落として、もう一回税関に行ったら、今度はOKってなったんだけどね。それでもう一回飛行機戻って、メイクをしてってことがあったんだ」

――ちなみに、キッスで今までで一番失敗してしまったと思うマーチャンダイズはありますか?

「ないよ。何もない。断ったやつはあるけどね。キッス・クラックっていうのがあったんだ。クラックていうのはドラッグのことだ。尻の割れ目の方のクラックじゃなくてね。ほんとにドラッグのクラックにキッスって名前をつけるというものだったんだけど、それは本当に断ったんだ。だからラッキーだよね。全然ダメなやつはなかったわけだからね」

――キッスは50年間ものキャリアがあるわけですけど、今まで最も壮絶だったメンバー間の喧嘩はどのようなものだったのでしょうか?

「ドラッグをめぐるやつだね。エース(・フレーリー)とピーター(・クリス)のドラッグ問題だよ」

――あなたは相当怒ったんですか?

「もちろんだよ。三度にわたり彼らを解雇しなければならなくなったわけだからね。どこでもそうなんだけど、ドラッグは大きな問題だよ。親が持っていればそれを子供が盗み、なんだかんだで誰が持ってたのかみたいな言い訳がつきまとうからね」

――昨年はデヴィッド・ボウイだったり、先日はトム・ペティだったり、偉大なアイコンが亡くなっています。あなたもまさにそのようなアイコンのひとりだと思うのですが、彼らの死についてどのようなお考えを持っていますか?

「本当に悲しいことだよ。イーグルスのグレン・フライは病気で亡くなったし、ボウイもやっぱり病気で、癌だったよね。プリンスはドラッグだった。クリス・コーネルとかリンキン・パークのチェスターも。あれはドラッグによる鬱だよね。敵はドラッグだよ。敵はドラッグなんだ。そこら辺をちゃんと若い人たちに伝えていかなくちゃね。ドラッグやアルコールがどんなに悪いものかってをさ。まだそういうものをかっこいいと思っている人たちが相変わらずいるからね。でも、それで人が死んでいるというのが現実だよ。それで家族が絶望を味わって、ファンが泣いてさ。でも、それはドラッグのせいなんだから」

――自分の亡くなる日について考えたりしますか?

「もちろんだよ。最高じゃんと思ってる。まあみんなどこかで終わるんだからね。でも、毎日、今日が最後だと思って生きていれば、幸せな人間になれると思うんだ。日々そんな風にね。今日ブッダだか、ゴッドだかわかんないけど、誰かがやって来て、あと24時間だって言われたらさ、君ならどうする?」

――分からないですね。

「難しいよな。この問いに答えられたら、生きる秘訣ってことなんじゃないのかな。俺の場合はね、できるだけ早起きして、うまいものを食べて、最初に出会った綺麗な女の子つかまえてメイク・ラヴして、できることを片っ端からやるっていうね。自分のやることだけじゃなくて、人に仕事を与えるとか、そういうことまでやって、フルに生きていれば、死ぬ時まで。誰だって死ぬんだからさ。『ああ、あれやっとくべきだった』とか何とか、そういうタラレバを残さずに死ぬことができるはずだよ。俺の墓石にはね、『ありがとう、おやすみ』って書くつもりなんだよ」

――ははは。ありがとうございました。

「ドウイタシマシテ」

12月まで申込が受け付けられる『ジーン・シモンズ:ザ・ヴォールト・エクスペリエンス』の公式サイトはこちらから。

http://www.genesimmonsvault.com/

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