海外では7月21日に、日本では7月26日にフォスター・ザ・ピープルの通算3作目となるニュー・アルバム『セイクレッド・ハーツ・クラブ』がリリースされる。今回掲載する日本のレーベルによるオフィシャル・インタヴューの中で本人も語っているように、今回の新作は前作『スーパーモデル』とは、ある種正反対とも言えるベクトルで作られたという。彼らの大ヒット曲“Pumped Up Kicks”は虐待を受けた少年による銃乱射事件を描いた曲だったが、前作から3年の間に父親のクローゼットだけでなく、いろんな点で難局を迎えるこの世界を見つめながら新作は制作された。ショーン・チミノとアイソム・イニスという2人の新メンバーを迎えるなか、フロントマンのマーク・フォスターは今回のアルバムがどうやってできたのかを詳細に語ってくれている。
――前作『スーパーモデル』では、着手する前に世界各地を旅してアメリカを客観的に眺めたことが、大きなインスピレーションになったそうですね。サード・アルバム『セイクレッド・ハーツ・クラブ』に関して、同様の立脚点と呼べるものはありますか?
「そうだな、まず『スーパーモデル』に関して言うと、当時の世界……特に僕の国において、人々が周りで起きていることに対して無関心過ぎるんじゃないかと僕は憂慮していた。まるで昏睡状態に陥っているかのようで、自分たちにとって心地いい気泡の中に閉じこもっていて。だから世の中を冷静に捉えるには、アメリカにいてはいけないと思った。それで世界中を旅して、アメリカに戻ってきて、ポリティカルなアルバムを制作したんだ。要するに、人々に『目を覚ませ』と呼びかけているアルバムをね。でも『セイクレッド・ハーツ・クラブ』については状況が違った。過去1年半ほどを振り返ってみると、世界中で本当に痛ましい事件がたくさん起きたよね。たくさんの悲劇、たくさんの政変が起きて、ナショナリズムや白人至上主義が台頭し、人種差別が悪化し、その結果、多くの人が目を覚ますことになったと思うんだ。だから、今回はアーティストとして、『スーパーモデル』の時のようなトーンで政治の話をする気にはなれなかった。むしろ人々は癒しを必要としているように感じた。それで、何か喜びに溢れていて、人々をひとつに結んで力を与えて、『それでも人生は美しい!』と伝えられるアルバムを作ろうと思ったんだ。本当にここ数年、世界中で人々は様々な試練と向き合ってきたわけだから。そんな次第で、エモーショナルな意味では前作を作った時とは全く違う出発点に立って着手したアルバムなんだよ。もはや世界を旅しなくてもよかった。どこにも行く必要はなかった。なぜって毎朝起きて、ニュースをチェックすると、必ず何かしら事件が起きていて、こちらから探すまでもなかったんだ」
――それにきっと、あなた自身も音楽に癒しや救いを求めていたはずですよね。
「うん、それは間違いないね。毎日スタジオに行って、曲を書いて音楽を作ることで気分が高揚して、元気になれた。だからこれは歓喜に満ちたアルバムなんだけど、喜びって場合によって、ひとつの武器にもなり得るよね。喜びこそが抑圧に抵抗する唯一の手段だという、切羽詰まったシチュエイションもある。そういう想いが、『セイクレッド・ハーツ・クラブ』のスピリットなんだと僕は思っているよ」
――ではそのタイトルの“Sacred Hearts Club”は、まさにあなたが言う癒しを与えてくれる場所、一種の避難所みたいなものなんでしょうか。
「まさにそうだね。僕らにとって“Sacred Hearts Club”は、はみ出し者、アウトサイダー、社会が押し付けるルールや境界線に抵抗する人たちが集まれるスペースなんだ。例えばアーティストとか詩人とか。そういう人はたいがい一匹狼で、特定のコミュニティに属していない。だから“Sacred Hearts Club”は、彼らのコミュニティになり得る、クリエイティヴなスペースを提供したいという考えに則って選んだタイトルなんだ。みんな独りじゃないんだと実感してもらえるように、願いを込めて。数の力ってヤツで、大勢いるほうが心強いからね。ほら、歴史を振り返ってみると、どの時代にもアーティストとして自分の生き方を貫いた人がいた。ハンター・S・トンプソンだったり、パティ・スミスだったり、チャールズ・ブコウスキーだったり、はたまたレオナルド・ダ・ヴィンチだったり、僕にとって彼らこそ自分が思うままに生きることを許された人たちなんだ。毎晩朝までウィスキーを飲んで過ごして、カメラを片手に砂漠に出かけて、アートを作って、睡眠など必要とせず、ルールも境界線も一切なくて、見たこと、体験したこと、すべてをスポンジのように吸収しながら生きた人たちに憧れるんだよね」
――ジャケットにはまさにその“Sacred Hearts Club”というタイトルが、バンド名のように掲げられていますよね。しかも今回は初めてメンバーの写真を使っています。フォスター・ザ・ピープルを改めてバンドとして世界に提示したいという意図があったんでしょうか?
「ああ。このアルバムを作り上げた今、バンドとしてここまで到達した今、活動を始めた時とはまったく別のバンドになったなと感じるんだ。実際の話、一人メンバーを失って、新たに二人が加わったわけだから、以前とは違うバンドなんだよ。それにここにきて、過去7年間にわたって僕らが追求してきたサウンド、目指してきたサウンドにようやく辿り着いた気がする。だから、ジャケットに僕ら自身の写真を使うのが妥当だと思った。これまでのようにイラストレーションの影に隠れるんじゃなくて、『これが僕らだ。僕らはこういうバンドなんだ』と宣言するべきだと」
――今回はヒップホップからベース・ミュージック、サイケデリック・ロックまでかつてなく幅広い影響源が聴き取れます。音楽的方向性はどのようなものを考えていたんですか?
「これは、すごく興味深いプロセスを経て完成したアルバムなんだ。たくさんの共同作業の上に成立していて、僕らの作品の中では最もコラボレーティヴな作品だね。大半の曲は、僕とアイソム(・イニス)の二人で書いたと言っていい。アイソムはリズムを核に音楽を捉える人なんだ。元々ドラマー兼プロデューサーだし、必然的に、ビートから始まって、そこから形作っていった曲が多い。“Pay The Man”もそうだし、“Loyal Like Sid And Nancy”、“Sacred Hearts Club”、”Ⅲ”……この辺はみんな、ビートとヴァイブ先行なんだ。例えば“Pay The Man”の場合は、ある日アイソムのスタジオに行ったらこのビートを聴かせてくれて、特にフォスター・ザ・ピープル用に作ったわけじゃなかったんだけど、すっかり惚れ込んでしまった。僕らは普段から『これは〇〇用』だとか、あれこれ目的を決めずにひたすら曲を作っているからね。とにかく“Pay The Man”を聴いた瞬間に、『これこそ次のフォスター・ザ・ピープルのアルバムの音だ』と確信した。『この音を目指して進化しなければ』と思ったんだ。一つの転換期になったよ。僕らがこれまで用いたことがない、新しい色の絵の具がパレットに加わったようなものだね。もちろん、ヒップホップに由来しているサウンドを、ヒップホップ・アーティストではなく一人のソングライターとして、フォスター・ザ・ピープルというバンドのサウンドに融合させる作業はトリッキーだった。でも、僕らはお互いに刺激を与え合って、新しい表現を掘り下げることができた。一度やったことを繰り返すのは退屈だからね」
――しかもこのアルバムは、フォスター・ザ・ピープルの作品の中で最もポップな曲の数々と、最もエクスペリメンタルな曲の数々を網羅していると思います。インタールードを挿んでトーンを切り替えることで、そういう多様な曲をうまく1枚に収めていますね。
「うん。実はこういう構成に至るまでに紆余曲折があった。僕らは一旦アルバムを完成させて、曲順を決めて、マスタリングして、4人でスタジオでお祝いをしていたんだ。でも、全編を聴き直してみた時、途中で僕はいてもたってもいられなくなって、音を消して、みんなにこう言った。『この期に及んでこんなことを言うのは本当に申し訳ないんだけど、アルバムはまだ完成していない』と。何かしっくりこないところがあったんだ。それで僕らは改めて全曲を見直してみて、アレンジを変えたり、曲を短くカットしたりして、“Orange Dream”と“Time To Get Closer”というふたつのインタールードを配置し、アルバムが一編のストーリーとしてスムーズに流れるように手を加えたのさ。インタールードはすごく大きな役割を果たした。それまでは全体的に少々散漫に聴こえたんだよね。何しろスタイルが大きく異なる曲を詰め込んだアルバムだからね。でも全部気に入ってる。サプライズの連続で、変化球を次々に繰り出すところが大好きなんだ。とはいえ僕らはオールドスクールなバンドだから、究極的には、A面とB面があるアナログ盤にした時にどう聴こえるかってことを考えて、曲順を決める。今回もそういうスタンスで構成したのさ」
――次に作詞のアプローチについて教えて下さい。全編に宗教やスピリチャリティにまつわる表現がちりばめられていますよね。
「うん。僕が思うに、相次いで悲劇に見舞われた時、試練が続いた時、人間って『上』に答えを求めずにはいられないんじゃないかな。すっかり追い詰められて、混乱してどうしていいのか分からなくなった時は、それしか選択肢が残されていないような気がする。少なくとも僕の場合はそうだった。それが天国なのか、宇宙なのか、神なのか、どう捉えるのかは人それぞれなんだろうけど、『上』に何らかの慰め、何らかの癒し、何らかの回答を求めた。それが歌詞に表れているんだよ。これらの曲を書いていた約2年間、どうしていいのか分からなくて途方に暮れたことが何度もあった。いろんなことが起きて、どっちの方向に進めばいいのか分からないし、この先自分を取り巻く世界に、僕の家族や友人たちの身に何が起きるのか、まったく見えなくなってしまったんだよね。そんな中で、神に答えを求めるというアングルが生まれたんだよ」
――そういうスピリチャルな趣が支配的なアルバムにおいて、唯一の例外と呼べるのが“Loyal Like Sid And Nancy”だと思うんです。政治の話を避けたという話がありましたが、この曲だけは今のアメリカの政情に触れて、怒りを露にしていますよね。
「そうだね。確かにこれは、アルバムの中で一番ダイレクトなポリティカル・ソングだと思う。現時点では、僕の一番のお気に入り曲でもある。この曲に至るまでのアルバムの流れを追ってみると、例えば“Sit Next To Me”はソフトで優しいところがあって、自分の人生に何かいいことが訪れないかと願っているような曲だよね。そして“Static Space Lover”にしても、ある意味、夢見心地のサイケデリックな世界で恋をしているっていうか、宇宙空間を漂ってみんなで踊っているかのようなノリの曲だ。でも、“Loyal Like Sid And Nancy”はまったく違う。これは闘いを挑んでいる。剣みたいな曲だね。ここには幾つかのエモーションが入り混じっていて、一つは今のアメリカの政治体制そのものに対する怒りなんだけど、それ以上に大きいのは、アメリカが難民を受け入れないことへの怒りなんだよ。アメリカはそもそも移民によって形作られた国で、人々を新世界の安全な土地に招いて、新しい希望を与えることで生まれた国だろう? なのに今の大統領は国境を閉ざして、戦火にさらされてきた人たちを拒むなんて、どうしても僕には受け入れ難いんだよね。他にもいろんなことに触れていて、『欲』や資本主義に関する曲でもある。アメリカを『New Rome(新しいローマ帝国)』と位置付けていて、かつてのローマ帝国と同様に滅びつつあると歌っているんだ。良心を欠いた資本主義は、この世で最も邪悪な政治体制になり得る。そこにはモラルもなくて、愛もなくて……。そういった様々な想いを含んだ曲だよ」
――“Static Space Lover”には女優でもあるジェナ・マローンが参加しています。あなた以外のシンガーの声を用いるのは初めてですが、どんな経緯でコラボしたんですか?
「LAにはジェナと僕に共通する友達が何人かいて、そもそもは彼らが紹介してくれたんだ。それである日、アイソムと僕が作業をしている時にジェナがスタジオにやってきた。その日は本当にマジカルな日だったんだよね。“Static Space Lover”を一気に書き上げた。彼女と一緒に何かを作るかとか、事前に何も考えていなかったんだけど、自然にそういう結果になった。まるでずっと前から知っていたかのような気分になって、以来ジェナは僕にとって、アーティスティックな同志と呼べる存在になったよ」
――最後に日本のファンにメッセージをお願いします。
「そうそう、実は最近やたら日本のことを考えていたんだ。前回の来日からもう随分長い時間が経っているから、今年の後半か、来年の初めくらいには、またそっちに行けたらいいなと願っているよ。とりあえず、新しいアルバムを気に入ってくれたらうれしいね!」
――そういえば2015年には、イジメ被害者の日本人の女の子とコラボするという素晴らしい企画がありました。外国での問題にこんなに興味を持って下さって感謝しています。
「ナナ(=宗政七枝)の話だね。あれは最高だった! 僕がこれまでに関わった中で、一番クールなプロジェクトのひとつだよ。あの子は本当にスペシャルな存在だし、しばらく話していないんだけど、大きな才能の持ち主だから、この先もっともっと音楽作りに打ち込んで欲しいね」
※インタビュアー:新谷洋子
リリース詳細
フォスター・ザ・ピープル
ニュー・アルバム
『セイクレッド・ハーツ・クラブ』
<国内盤CD>
2017年7月26日(水)発売
全12曲 2,200円+税 SICP-5429
初回仕様限定ステッカーシート封入
<デジタル配信/輸入盤CD>
2017年7月21日(金)発売
01. ペイ・ザ・マン
02. ドゥーイング・イット・フォー・ザ・マネー
03. シット・ネクスト・トゥ・ミー
04. SHC
05. アイ・ラヴ・マイ・フレンズ
06. オレンジ・ドリーム
07. スタティック・スペース・ラヴァー
08. ロータス・イーター
09. タイム・トゥ・ゲット・クローサー
10. ロイヤル・ライク・シド・アンド・ナンシー
11. ハードゥン・ザ・ペイント
12. III
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