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ボサボサの髪の隙間から明るい画面を何時間も見つめるのが得意な世代が、90年代ならではの「優美な」ギターや不機嫌なヴォーカル、そして8人家族が寝泊まりできるほど大きいエフェクター・ボードによるシューゲイザーに共感できるものを見出してきたことは驚くにあたらない。しかし、新参者はどこから聴き始めれば良いのだろうか? HOSTESS CLUB ALL-NIGHTERでのライドの来日も記念して、ここに紹介するのは90年代から続くシューゲイザー・シーンから『NME』が選んだ10枚だ。

10位 スロウダイヴ『ジャスト・フォー・ア・デイ』(1991年)

今だとクレイジーに聞こえるが、1991年にはイギリス国内のどの学生バーへ行っても、スロウダイヴが好きだと言うと笑い飛ばされたものだった。『ジャスト・フォー・ア・デイ』は、退屈で空しく、無気力なホーム・カウンティ(ロンドン周辺の諸州)の住人たちのボヤキそのもので、ゴスになるのをあまりに恐れる寝小便のガキや処女、ヴィーガンたちのためのアルバムだと考えられていた。マニック・ストリート・プリチャーズのリッチー・エドワーズがアドルフ・ヒトラーよりもスロウダイヴが嫌いだと宣言してから25年後の現在、この作品は亡霊に取り憑かれながらもその華やかさを湛えた霊安室として認識されている。ザ・キュアーやコクトー・ツインズだけでなく、チャプターハウスやライドといった時代の流行を取り入れた影響はもちろん、冷淡なインディっぽさとケルト文化の神秘主義や連なるバラッド、そして“The Sadman”のように抑制的なメロディーを融合させたアルバムとなっている。オーヴァードーズに甘く沈み込むのには完璧だ。

9位 ザ・ヴァーヴ『ア・ストーム・イン・ヘヴン』(1993年)

『アーバン・ヒムス』は単にバンドの会計士にとってのとんでもない夢物語となったが、リチャード・アシュクロフトはシンプルに「ザ・ヴァーヴ」と名付けられたスペース・ロックの巨人の舵を取り、『ア・ストーム・イン・ヘヴン』で激しいブルースの鉄球で音の大聖堂を破壊してみせている。スペクトラムな音の残響というよりはむしろ、これは銀河系の風を捕まえ、ワームホールを通して唸りを上げ、神の視点を破壊してみせる、そんな音楽である。もしもシューゲイザーが空を見上げてシャツを胸の前で破り、対向車線に向かって吠えるようなことがあるとすれば、それはこのアルバムだろう。

8位 ザ・レディオ・デプト『レッサー・マターズ』(2003年)

ナッシングやア・プレイス・トゥ・べリー・ストレンジャーズ、初期のM83、ディアハンター、ブロンド・レッドヘッドやチーターズという顔ぶれを見れば、ニューゲイズのリバイバルにはまた別のリストが必要だと分かるだろう。しかし、議論の余地はあるにせよ、リバイバルの幕開けとなったのはスウェーデンのファズ愛好家、ザ・レディオ・デプトのデビュー作『レッサー・マターズ』であり、不安定な評価が多い近年のシューゲイザー・シーンの中で評価を保つ数少ない作品となっている。彼らは大量のエフェクター・ペダルをエレクトロニカに替え、ダンス・ミュージックのようなサウンドでシューゲイザーの音像の世界を21世紀用に再転換してみせ、以前なら霊媒師のデレク・アコラにしか聴かなかったようなサウンドを実現している。

7位 ブー・ラドリーズ『エヴリシングズ・オールライト・フォーエヴァー』(1992年)

一般に広く認知されたブー・ラドリーズの名作は、あの世代を代表する名曲“Lazarus”が収録された1993年の『ジャイアント・ステップス』だろう。あの作品は90年代中盤、彼らなりのサイケ・ポップの具現化に向けた大きな転換点となり、シューゲイザーの座を守りながらダブの要素を入れることに成功している。『ジャイアント・ステップス』は「90年代のベスト・アルバム・リスト」にも名を連ねている一方で、その前作『エヴリシングズ・オールライト・フォーエヴァー』では、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの『ラヴレス』の歪んだ美しさから、ライドの『ノーホエア』の打ち寄せてる波、そして初期のティーンエイジ・ファンクラブに漂う焼け焦げたグランジ感まで、シューゲイザーの多様な景色を全編に映し出している。それらがマージーサイド州の遺伝子を生まれ持ったマーティン・カーの血液と相まったことで生まれた『エヴリシングズ・オールライト・フォーエヴァー』は、シューゲイザー・バンドがエフェクター・ボードとの隙間の中で見失うことになった、半ば忘れ去られたポップのメロディに満ちているのである。

6位 ライド『ゴーイング・ブランク・アゲイン』(1992年)

ライドは『ラヴレス』を聴いてギターの可能性を探るゲームが既に終焉を迎えたことを悟り、BBCのコメディ番組「ザ・メアリー・ホワイトハウス・エクスペリエンス」で、コメディアンのニューマン・アンド・バディールに自分たちのことを眠そうで頭の鈍い奴らと馬鹿にされたのを観たことで、どうやら湿っぽさと浮遊感を抑える必要があることに気づいたようだ。シューゲイザー・シーンの先駆者であったライドは、このセカンド・アルバムで巨大惑星にまで届く程にシンプルにヴォリュームを上げ、壮大なファンク/ロック/ポップの楽曲を書くことに傾倒している。彼ら版の“Friday I’m In Love”とも言える“Twistarella”や“Leave Them All Behind”ではシューゲイザーから壮大なメロディーの惑星へと向かっている。

5位 ライド『ノーホエア』(1990年)

言うまでもないが、ライドのデビュー・アルバムは、スコールのように降り注ぐ歪んだギター・サウンドや、ポスト・サイケデリックな世界観、前髪に覆われた聴きとりにくい朧げなヴォーカルのハーモニーで、シューゲイザー・シーンの青写真となった。慌ただしい1曲目の“Seagull”は無感情なザ・ビートルズの“Tomorrow Never Knows”を彷彿とさせ、『ノーホエア』は人々を未体験のサウンドの海へと誘い、“Polar Bear”ではデヴィッド・ボウイの“Heroes”を再解釈したサウンドで、アシッド・トリップが続くなか、空飛ぶガールフレンドについて歌っている。リリース時から世界を驚愕させた『ノーホエア』の生命力は、今日に至るまでシューゲイザーのクリシェを凌駕したものとなっている。

4位 マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン『イズント・エニシング』(1988年)

『ノーホエア』がシューゲイザーの青写真であったなら、『イズント・エニシング』はシューゲイザーのビッグバンと言えよう。ジーザス&メリー・チェイン、ザ・キュアー、コクトー・ツインズ、ソニック・ユース、スペースメン3、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ワイアーなどから受けた影響を奇怪な白熱する球体に凝縮させ、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインにとって初となるフル・アルバムを通して、ケヴィン・シールズは炸裂する音楽的プラズマの新形態には着火している。しなやかなエレクトリック・ギターの音は綺羅びやかで厄介なポップ・チューンでベンドし、パンクかつ熱狂的で、ベッドシーツの中でのたうち回るような睡眠障害を突然引き起こすことになった。そう、それは80年代のインディ・シーンにおいてパレットを壁に投げつけて「真似してみろ」と挑んでくるピカソのようだ。

3位 スロウダイヴ『スーヴラク』(1993年)

スロウダイヴが21世紀に入ってから再評価されているのは、セカンド・アルバム『スーヴラク』の余韻が続いているところが大きい。1993年当時、ブリット・ポップのファンファーレのなか冷笑されていた『スーヴラク』だが、本作は20年以上にわたって心地のいい香りのように漂い続けている。シンガーのレイチェル・ゴズウェルと別れたばかりのニール・ハルステッドが綴る寂しげな歌詞と、霞と忘我の中で迷うことのなかった“Machine Gun”のような輝かしい楽曲が相まって、今日までこの自己陶酔的なシーンを定義するものと見られている。ブライアン・イーノとのセッションは、ソングライターのニール・ハルステッドにとってダブやアンビエント、エイフェックス・ツインのアルバムを発見するインスピレーションとなり、彼に不可能を可能にすることを手助けすることとなった。霧がかったサウンドの中にもエッジを効かせることに成功したのだ。

2位 スピリチュアライズド『レイザー・ガイデッド・メロディーズ』(1992年)

シューゲイザーに対するルーツとなる影響としてスペースメン3のジェイソン・ピアースは、このムーヴメントが起きるずっと前から、太陽からのプラズマを乗りこなしていた。だからこそ、スピリチュアライズドとしてのファースト・アルバムは、シューゲイザー・シーンとはわずかな繋がりしかなかったものの、同郷のフォロワーたちにとってスタイリッシュとは何かを学ぶいい教材となったのだ。恍惚とさせるドリーム・ポップと宇宙的なロック・サウンドが奏でる、天体がワルツを踊っているかのようなサウンドは、まるでスタンリー・キューブリックがロックをかき鳴らしているかのようだ。

1位 マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン『ラヴレス』(1991年)

シューゲイザーの鑑である。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインから贈られた『イズント・エニシング』という奇怪なサウンドを理解するのに人々が葛藤していた頃、ケヴィン・シールズはそれを再び解体することに奔走していた。結果としてケヴィン・シールズは3年の月日と軍隊が組めるほどの大勢のエンジニア、19ヶ所のスタジオ、アラン・マッギーの貯金の大部分、クラーケンの致死量に及ぶ量の麻薬を費やし、心を捻じ曲げるほどの美しさと暴力性を持ち、実験的ギター・ミュージック・シーンにおいて今日まで他の追随を許さない創造性に満ちたアルバムを生み出すことに成功している。サンプリングされたフィードバックに歪んだコード進行、照りつける日差しのようなメロディに、地殻変動の如き展開や津波のように押し寄せてくる黙示録的なサウンド、『ラヴレス』はシンプルに音楽を奏でるだけでは聴こえてこないサウンドの美しさを我々に提示したのである。『ラヴレス』を2人の音楽プロデューサーに聴かせた時、ステレオが壊れていないことを知った彼らが興奮で呼吸もままならなくなったことを思い出す。『ラヴレス』はシューゲイザーを殲滅させることになった作品かもしれないが、だからこそ今日まで色褪せていないのだろう。

シューゲイザーの始祖、ライドが今夏のHOSTESS CLUB ALL-NIGHTERに出演

ファースト・アルバムでシューゲイザーの理想形を見事に体現してみせたライド、その影響をポスト・ロックに進化させたモグワイ、シューゲイザーの精神を今に伝えるシガレッツ・アフター・セックスなど、凝縮した全8組のラインナップを一挙に観ることができるHOSTESS CLUB ALL-NIGHTERが今年もサマーソニックの幕張会場で開催されます。

ライドによるコメント動画はこちらから。

公演の詳細は以下の通り。

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HOSTESS CLUB ALL-NIGHTER
出演: St.Vincent / Mogwai / Ride / The Horrors / BEAK> / Cigarettes After Sex / Blanck Mass / Matthew Herbert(DJ)
日程:2017/8/19(土)<サマーソニック2017 ミッドナイトソニック>
会場:幕張メッセ
Open/Start:22:30/23:30
チケット:
一般価格 9,500円(税込)
SUMMER SONIC・SONICMANIA購入者限定特別価格 5,000円(税込)

更なる公演の詳細は以下のサイトで御確認下さい。

http://ynos.tv/hostessclub/schedule/201708hcan/

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